向日葵郷~幽香に会える夏~   作:毎日三拝

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十話

 じりじりと照りつける太陽。

 遠くを見れば空間が捩れるような歪みが出来ている。陽炎だ。

 今正に真夏日真っ只中。関係無いけれど字にして読めば中々に読み辛いな。目が痛くなる。

 そんな中を向日葵畑に咲き誇る向日葵達のために井戸から汲んだ水を今日も柄杓でばら撒く。水を掬ってはほいさ、水を掬ってはほいさ、と。

 あぁ、それにしても気になる。

 先程から俺は集中力を激しく散らされていた。

 太陽光とは別の線が俺の背に突き刺さっている。

 

「じー」

 

 明らかに不審過ぎる。

 あれで美少女でなかったら警察に通報してるくらいの不審さだ。

 

「じー」

 

 あの擬音もやばい。

 想像してみてくれよ。誰もが認める美少女が見てますよと擬音を口で表現しているんだぜ。普段とのギャップもあり過ぎて可愛すぎるだろ。

 

「じー」

「……何か用ですか、風見さん」

 

 遂に耐え切れず俺から話し掛けてしまった。

 

「じー」

「まさかの無視!?」

 

 完璧にスルーされたね。

 それでも俺を見続ける風見さん。いつも携帯している日傘差しているけどこの暑さでやられたのか。

 

「大丈夫ですか?」

「少し静かにしてもらえるかしら」

「拒絶っ!?」

 

 黙ってろよ、を頂きました。

 俺は仕方ないので水撒きに精を出す。

 丁度水が無くなった。汲みに行かなくては。

 井戸に向かおうとすると風見さんも後ろからついて来た。間隔を空けてぴったりと。もう何も言うまい。

 釣瓶を落とし、引き上げる。慣れてきたけど相変わらず重い。それに何度も上げて腕がそろそろ限界に近い。元気ハツラツしなくては。

 最後の力を振り絞っていると風見さんが急に声を上げた。

 

 

「そうよ。リナリアだわ!」

「……は? あっ!?」

 

 飛び出た意図の伝わらない言葉に呆けてしまい、折角引き上げた釣瓶を落としてしまった。

 少し休憩してからやろう。それよりも風見さんだ。

 

「そのりなりあ、って?」

 

 風見さんは胸を張って得意げに語る。

 

「最近の趣味でね。貴方に知って欲しい花を想像したの」

「へぇ。どういう花なんですかね」

「和名は姫金魚草。花の色は紅、紅紫、濃紫、黄、白色などの綺麗な混合色だわ。花言葉は……」

 

 そう呟き、なぜか外方を向く風見さん。

 気のせいか頬が朱に染まっている。

 なにその反応。気になる。

 

「と、とりあえず覚えておいて!」

「え、ええ。いいですけれど」

「じゃ、私、帰るから!!」

「あ、え、ああ、はい、さようなら」

 

 風見さんは風のように去って行った。

 この人、よく分からないけれど自滅してることが多い気がするな。

 前も自分で言って恥ずかしがってたし。サディステックな方は突然の行動に弱いっていうのは本当のようだ。

 それにしてもリナリアの花言葉って何だろうな。

 実家帰ったら調べてみよう。




リナリア

花言葉は「私の恋を知ってください」「私の恋に気づいて」「幻想」

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