アクセル・ワールド〜過疎エリアの機動戦士〜   作:豚野郎

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危険と理想

「マジも何も、事実だろうが」

「……じゃあ、まさか、俺がこのレギオンのマスター……?」

「『この』というより、『これから』だね。……改めて。おめでとう六矢君」

 

 マジか………。

 つーか、俺、よくあの二人に勝ったな……。俺のアバターってもしかして、同レベル同ポテンシャルの域を脱しているんじゃないのか?

 何が面白いのか、ハタケヤマが微笑を浮かべる。

 

「まあ、相当熱くなってたみたいだしな。あれで勝たなきゃ…………なあ?」

 

 なあ?ってなんだよ、意味深なこと言いやがって。

 熱くなってた?そりゃ熱くなるだろうよ。

 

「解ってないみたいだな。それとも覚えていないのか?……お前、すげえ恥ずかしいことを言ってたろ?」

 

 はて、恥ずかしいこととは?そこまでヤバいこと、俺、言ってたっけ?

 

「ほら、『……アンタだけは、……墜すッ!!』とか『バンシィ、ヤツに憎しみを流し込めッ!!』って。私、こらえきれなくて、隅っこでお腹抱えて大爆笑しちゃったわ」

「まあ、普通に見たらただの中二野郎だよな」

「いくらヒートアップしたって、ああはならないよな」

 

 なんだろう、この違和感。せっかく勝ったのに、中盤以降、罵倒されっぱなしな気がする………。

 見かねたサトウが仲介する。

 

「こらこら、気に食わないのは解るけど、いくらなんでも往生際が悪いよ三人とも」

 

 サトウはいつもこうやって、臨機応変に対応してくれる。良いヤツだ。この歪みに歪んだ連中からは、一ミリも感じられない神々しさを醸し出している。

 

「レギオンマスターも決まったことだし、次はレギオンの方針と名前だね」

「方針なんて簡単だろ?領土戦でがつがつ勝って、領土増やすだけだろ?」

 

 俺の答えを、カラトが咎める。

 

「馬鹿かお前。んなもん当たり前だろ。ようは、どんな潰し方をするのか。何処のレギオンから潰して行くのか。他にも———」

「私、恨み買ってPKなんかにあいたくないから、指揮って良いわよね?」

「どうぞどうぞ」

 

 カラトが何か言い返そうとしたが、ヒメジマの一睨みで口を塞いでしまう。

 

「方針としては、どうせ五人なんだから、そんな目立たった闘いはしないで、こつこつ順調に領土を増やして行けば良いんじゃないのかしら。あまり目立ちすぎると、訳の解らない恨みを買ってPKにあいかねないし。少なくとも、私は御免よ」

「はあ?それじゃあ、つまんねぇだろ。もっと片っ端から他のレギオン潰して行こうぜ!」

「はあ?何華水希。文句でもあるの?あんた、そんなんでPK食らったりして、責任とれるの?」

「なんだよ。PKくらい別に食らたって良いじゃん。そんなのに負ける俺らか?……なあ、皆?」

 

 おお、カラトが珍しくまともでかっこいいこと言っている。

 

「はあ?何かっこつけてるの?この戦力でPK集団に太刀打ちできる訳無いでしょ」

「………………」

 

 はい、一刀両断。ヒメジマと言い、幼なじみのアイと言い、なんでこう、女って強いのかな。俺には理解できん。

 

「俺もヒメジマの意見に賛成だな。あまり活発的なことは苦手だからな」

「そりゃあ、休日に一日中エロゲばっかやってたら運動不足にも成るわよ」

「まあな。良いぞ〜、ロリは。あの未成熟で華奢な手と足。地平線を彷彿とさせる小さな胸。小さくて可愛い童顔。どれを取っても最高だぜ。もはや国宝だな」

「知るか変態」

「気持ち悪い。その口を引っ込めろ」

「そんな話、話せと言ったヤツは何処にもいないわ。わかったら黙りなさい」

 

 最近気づいたこと。サトウを覗くこの四人のメンバー。人を貶す時だけ妙に息が合うんだよな……。どこまで腐ってるんだか。

 

「まあ、お前らには解らないだろうよ。人が物の価値を真に知るのは、その物に心を開いた時だからな。解るか?お前らはロリを恐れているのだ。ロリコンと言う汚いアーバンネームを付けられるのが怖くて、逃げているのだ!だがしかし、ロリコンの何処が汚いんだ!?ロリコンはタッチさえしなければ犯罪ではないのだ!!かわいらしい幼女を愛でて護り続ける紳士の嗜みなんだよ…………!!全うな性癖なんだよ解ったか!?故にロリコンは恐れるに足らず!解ったらおとなしくロリコンを受け入れろおおおおぉぉぉぉぉぉおおおお!!!」

「……俺は今、何より一番お前が怖い」

「……度し難いわね」

「まあまあ、裕雅はああやってたまにオーバーヒートするから、適当に放っておいてて良いよ。相手にしなければ勝手に黙るから」

 

 一緒に引っ越して来ただけあるな。相方の扱いに慣れている。

 サトウの言った通り、無視を決め込むとハタケヤマはすぐにおとなしくなった。

 

「さて、それじゃあ———」

「ちょっと、提案があるんだけど………」

「?何かしら佐藤君?」

「普通にレギオンやってるだけじゃつまらないからさ、他にやることを決めておこうと思うんだ」

 

 やることか?なかなか難しい問題だな……。心当たりがないこともないけど。

 

「俺、提案だけど。傭兵団ってのはどうだ?バーストポイントと引き換えに、用心棒として依頼主と共闘するんだ。………他にも同じ様なことをやっているヤツもいるしな」

「それって、<ザ・ワン>のことだよね?レベルがたったの1で、受ける依頼人もレベルの指定が1か2。アバターネームは<アクア・カレント>。レベルに似つかわしくない程の戦闘技能を持っていて、負けを知らないらしい。僕も、直で見たことは無いけど、向こうの世界じゃそれなりに有名だよ」

「それのことだ。詳細はあとで決めるとして、……どうする?退屈はしないと思うぞ」

「なかなか良い考えだね。依頼を受けることで、いろんなバースト・リンカーと知り合えるし、レベルアップの効率も良くなるもんね」

「……小和田にしてはよく考えたわね」

「……ちょっと待った」

「?なんだ、カラト?」

 

 俺の提案に何か不都合なことでもあったのだろうか?悪いことは言ってないと思うんだが……。

 

「……俺はあまり、気が進まないな」

「え?どうして?なかなか魅力的な案だと思うんだけど………」

「まあ、話は最後まで聞け。……古参リンカーなら知ってるヤツもいるだろうが、昔、同じことをしようとしたバースト・リンカー二人組が依頼を受け、無制限中立フィールドに呼び出され、二人組のうち一人が、その場で『無限EK』にあったことがあるらしいんだ」

 

 場の空気がにわかに重たくなる。

 無制限中立フィールド。それは、レベル4にまでたどり着いたバーストリンカーにだけ許される上級フィールドのことだ。

 普通、ブレイン・バーストの対戦は三〇分の制限時間が掛けられていて、フィールドはエリアごとに区切られている。勿論、それ以上を超すことは出来ない。

 だが、無制限中立フィールドにはその制限時間とエリア区画がなく、やる気さえあれば、どこにだっていける。

 ………そして、無限EK。これは、無制限中立フィールドに住む住人、エネミーを利用した凶悪な行為だ。

 その名の通り、エネミーは自分の縄張りに侵入したバーストリンカーを容赦なく襲う。

 このサイクルを利用し、エネミーのテリトリーの中に敵のリンカーを放り込むことを無限EK(エネミーキル)と呼ぶ。さすれば、エネミーに襲われたリンカーはポイントが枯渇して行き、最終的にはポイントがゼロになってしまい、加速世界での死を迎えることになる。

 この方法は大体集団で執り行われ、PK集団などが良く用いる。




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