リクヤは一足先に大地に立ちました
ご無沙汰しております、リクヤです。カラトから例のアプリを渡されてからかれこれ一週間。渡されたあとから知った話、このブレイン・バーストというアプリケーションは持ち主の思考を一千倍まで加速させ、それと同時に日本の至る所に設置されている超高性能カメラ、ソーシャルカメラのとらえた映像をハッキングしてステージを作り上げるという、犯罪行為丸出しのヤバい格ゲーであります。
ただいま、そのやばいアプリケーションを俺は秋葉原でおもいっきり遊んでおります。
「ノルン……気をつけろ。いつ、どこからバーストリンカーが来るかわからないんだからな」
「わかってるさ。でもガイドカーソルの矢印は真っ正面だぜ?そんなに警戒しなくても……」
「この世界で敵を確認するのに最も有効なのは、ガイドカーソルではなく、何よりも己の目だ。カーソルは相手のいる方向しか示さない。…ということは、相手がどのぐらいの距離にいるのかも解らないということだ……。俺とて、人に威張れるほどバーストリンカーになってから日が深くない。十二分に用心しろ」
「……了解した」
今、行っているのは二対二のタッグバトルで、相手の名前は<グレー・ツループス>と<グレープ・シバー>だ。
ツループスは近距離よりのスタイルで、シバーの方は中距離型だと言う情報は既にこちらに伝わっている。
ステージは砂漠ステージで、目の前には穴ぼこだらけの巨大な岩(現実ではビルだった)がある。
相手は両方ともレベル4。それに比べて、バンシィ・ノルンことこの俺のレベルは1、相方のウイング・ゼロことカラトはレベル4と、合計するとこちらのレベルは3も劣っていることになる。
カラトによれば、
『大丈夫大丈夫!お前センスあるから、多少のレベル差もどうということはないぜ!』
とのこと。
まあ、このノルンには秘密兵器も隠されていることだし、今回も何とかなるだろう。
これまでの経験から、相手はレベル差を武器にして恐らく、真っ正面から突っ込んでくるだろう。
視線やや下側にあるこのガイドカーソルという方位磁石は、相手との距離が十メートルを切ると消滅する。それが狙い時だ。
「ノルン、……様子がおかしい」
「え?なんで?」
「時間が掛かり過ぎている」
「そう言えばかれこれ四分くらいこの状態だね」
「相手はレベルが三つも上で、近と中距離。ということはそれなりに距離をつめないと攻撃が通らないはず…」
改めて背筋に緊張が走る。
……もうすでに、先手を打たれた可能性が高い………!
「気をつけろ…。嫌な予感がする」
瞬間、正面の岩が爆発した。
煙の中からおびただしい数の何かがこちらを襲って来て、視線右上の体力ゲージがガリガリと減って行く。
これは……銃弾!
俺とゼロは同時に逆方向の横に飛び退く。レベルの低い俺の体力は既に三割近く削られている。
岩ビルの壊された壁から二つの陰が出てくる。
「ふーん。初見でアタシの機関銃を避けるんだ〜」
「なかなかやるね。少しはやりがいがあるかな……」
予想通り、グレープ・シバーとグレー・ツループスだ。
シバーはほっそりとした女性型。台詞の通り大口径の機関銃を右に担いでいる。
ツループスは、身体からは解りにくいが口調と声の質から見て男性型だろう。見た限りでは何も持っていないが、まさか近接型のそれもかなり純粋な青系アバターじゃあるまいし、何かしらの武器を持っていると考えていいだろう。
「ゼロ、俺はブドウ野郎をやる。片方は任せた」
「おいおい、冗談言うんじゃあねえぜ。お前はレベル1なんだぞ?経験も紙みたいに薄いし、一人でやれると思ってるのか?」
「もちろん」
「マジで言ってんのか?いいかげんにーーー」
カラトが台詞を言い終わる前にシバーが機関銃を放って来た。
あっ、なんか怒ってる…。
「だ、だだだ誰がブドウ野郎よーーーーーっ!!ハチの巣!ハ・チ・の・巣にしてやるわーーーーー!!そこを動くんじゃないわよ!!」
あれ?割とコンプレックスだったのかな?やべえやべえ、このままじゃまじでハチの巣になっちまう。
左腕に装着されたナックル状の強化外装<アームド・アーマーVR>を盾にして、横に飛び退く。ちなみに、右手には大火力のビームマグナムを持っている。
つーか弾数考えないで乱射してるだろあれ。
機関銃の取り回しが悪いのはどのゲームも同じ。このまま弾が切れるまで逃げ切れば勝機はある。
「これはやれるぞゼロ!」
「そのようだな…。よし、そいつは任せた」
「やれやれ……。グーはああなると手に負えないからね〜。まずは君を倒してからあのニュービーをやらせてもらうよ!」
シバーの右横に滑り込み、左腕のナックルウエッポンのアームド・アーマーVRで頭を叩き付ける。
上体は大きく前によろけ、無防備になる。そこから頭へビームマグナムのゼロ距離射撃。
反動で大きく腕が上がる。
シバーは砂煙を巻き起こしながら地面を大きく転がる。
シバーの体力ゲージを見る。レベル差のせいか、二割程度しか減っていない。
相手が立ち上がる。
「よくもやってくれたわね………」
右腕がない。射たれる瞬間にとっさに頭を抑えたのだろう。それならこの体力なのも頷ける。
「悪いな。痛っかただろうに」
そう、このブレインバーストにはVRゲームでは御法度の痛覚がある。もちろん、リアルに食らうほどの痛さではないが。
「でも、悲しいけどこれ、バトルなのよねん」
そんなのお構いなしにビームマグナムを連射する。さすがレベル4のバーストリンカー。すぐに横に走り、弾を避ける。
そうこうしているうちにビームマグナムの弾数が切れる。
だがこれも、計算のうち。
外れたビームマグナムは岩ビルの壁を破壊し、バンシィ・ノルンの必殺技ゲージが半分程度まで溜まる。
「この瞬間を待っていたんだ!!」
必殺技ゲージが三割近く減る。ビームマグナムを背中の<アームド・アーマーXC>にマウントし、右腕を前に出す。
右腕にマウントされていた二枚のアームが展開される。
「<アームド・アーマーBS>ッ!!」
コメント、指摘等があればよろしくお願いします