プロローグ
「よう、リクヤ。今日、暇してるか?」
「部活に入っていない俺に、暇じゃない日があると思うか?」
放課後、親友のカラトが声をかけて来た。どうせいつもの遊びの誘いだろう。
小学校一年の頃、趣味や性格が意気投合して、入学直後から大親友に。六年連続で同じクラスになり、この江戸川第十一中学校でも二年連続で同じクラスだ。
「渡したいアプリがあるからさ。俺ん家来てくんね?どうせ最後はいつも通りに、二人でゲームやるんだし」
「別に良いけど…。……一体、何のアプリだよ?」
「まあ、来りゃ解るさ。フルダイブ苦手なお前でも、なかなか楽しめると思うぞ」
「ふーん。んじゃ、帰ったらすぐにそっち行くから。待ってろよ」
☆
「おーっす。来たぞー」
「はいよ。やっと来たか」
いくら二十一世紀の頭頃から技術がうなぎ上りに進歩したと言えども、この江戸川区にはまだ背の低い一軒家が目立つ。俺の家も、こいつの家も、昔ながらの一軒家だ。まあ、言う程不便でもないし、快適に暮らしている。
カラトはあらかじめ、机に置いてあった1mのニューロリンカー用の直結ケーブルを手に持ち、………俺の首元に装着してあるニューロリンカーに近づけて来た。
「って、うおぉぉぉいっ!何しやがる!?」
「何って…直結に決まってるだろ?」
通常、直結は恋人同士や異性同士が二人きりで会話をしたい時に行ったりする物で。直結時には、相手のニューロリンカーのファイルを好き放題に操作することが出来て、当然ウイルスなども仕込める為、直結するには高度な信頼関係が求められる。
断じて、むさい男二人がするものではない。
「ちょっ…ちょっ……直結って、おま、おま………!!かの、かのかの…かのじょとかとするんじゃ…!」
「はあ?何考えてんの?ホモかお前?…やらないかか?」
「お前がだよっ!!」
「ああ、ああうるせぇうるせぇ。アプリ渡すって言ったろ。早く刺せよ」
そう言えばそうだった。
……やれやれ、カラトがあまりにもせっかちだった物だから、勘違いしてしまったじゃないか。
「今から送るアプリ、少し重いかもしんねーけど、空き容量は大丈夫だよな?」
「俺がフルダイブ苦手なの知ってるだろ…。空き容量なんて、くれてやるくらいあるよ」
産まれた直後からニューロリンカーを装着している俺だが、フルダイブシステムには一向に慣れることが出来ない。
当然、フルダイブ専用のゲームアプリケーションなどは一切、ニューロリンカーには入れていない。
かと言って、別にゲームが嫌いという訳ではなく、良くこいつの家に来ては骨董品級の2DTVゲームをして楽しんでいる。
「了解。んじゃ送るぞ」
目の前にアプリケーションをダウンロードしますか?と書かれた仮想デスクトップが開かれる。付属して来た同意書に適当にチェックを入れ、OKを押す。
うわ……、本当に遅いなこれ………。
今時のニューロリンカーにしては珍しく、たっぷり三十秒も掛かった。
「おっ、大分凝ってるな…」
カラトのニューロリンカーが業火に包まれ、ケーブルを伝い、俺の端末に燃え移る。
炎は耐えること無く飛び火し、やがてはカラトの部屋全体を包む程に………。
もちろん、これはニューロリンカーの見せた仮想の炎であり、決して火事など起こっていない。
目の前に燃え盛る鉄板でつなぎ合わされた英文字が広がる。うん、俺バカだから読めない!
「どうやらタイトルは見れたようだな。…あとはインストールが完了すればOKだ」
「了解だ。んじゃ始めるぞ」
「おう、始めてくれ」
「……ん、完了した」
「はいよ。…今更なんだけど、インストールするのに実は適性検査とかあったりしたんだよね」
「検査?なんだそりゃ?」
「いやぁ、実はこのアプリ、産まれた頃からニューロリンカーを装着していて、その上、廃人シューティングゲーマー並みの反応速度を持ってないとインストールできなかったりするんだよ」
「ホントに今更だな…」
まあ、とにもかくにもインストールは成功したわけだし、コイツの抜けてる所は今に始まった訳ではないし、良しとするか……。
「んじゃ、用は足りたし、いつもの様にグロゲーでもやるか?」
「そうだね」
☆
……親父!!
『だめだ六矢!こっちに来るな!早く逃げるんだ!!』
……やだよ!このままじゃあ親父………殺されちゃうじゃんかよぉ!!
『言うことを聞きなさい六矢!警察がもうじき来るから、早く逃げるのよ!』
……なんだよお袋まで!二人で掛かれば助けられるだろ!!早く助けなきゃ!!
『何をしてるんだ母さんッ!早く六矢を連れて逃げるんだ!!』
『六矢早く!こっちに来なさい!!』
……やだよ…!離せよお袋!俺は親父を助けるんだ!!離せって!!
『……六矢……!…ぐ……あぁああ!!』
……親父ィ!!!
……強く……!もっと強くなれたら………ッ!!
ソレガキミノノゾミカ?
☆
布団を蹴飛ばし、反射的に起き上がる。
カーテンの隙間から入る太陽の光が目を焼く。
「…なんか凄い嫌な夢を見てた気がする……」
ニューロリンカーを装着して時間を確認する。大体午前十一時半。そういえが今日は土曜日で休日か。
「大分ぐっすり寝たな…」
家の中にチャイムの音が響く。
……何時だと思っているんだ……。
未だ眠気の冴えない目をこすって玄関のドアを開ける。
「……カラトか。……一体何時だと思っているんだ?」
「十一時三十五分だ。まあ、普通に昼間だな」
「うるさい…。今日は土曜日だぞ。予定じゃ一時まで寝るつもりだった」
「すこしお前に用があってな…。……バーストリンク」
突然、雷に打たれたような音が頭の中に響き、周囲がガラス張りになったかの様に静止する。
視界が暗転し、目の前に黄金の草原が広がる。
……ああ、こりゃVRゲームだ。
目の前に一体のロボットが佇んでいる。
翼が生えていて…、こう、はばたいちゃう感じだ。
すると、唐突に、目の前のロボットがしゃべり始めた。
「よう。……誰だか解るよな?」
「おま…、カラ———」
「おっと、この世界でリアルネームを口にしちゃいけねーぜ」
「はあ?じゃあ、なんて呼べば……」
「上、見てみろよ」
うながされて視線を上にむける。
そこには青いバーと緑のバー。そして四桁の数字が並べられていた。
右の青いバーの下に、英語で何かが書いてある。
「ウイング・ゼロ………?」
「ちゃんと読めたようで安心したぜ」
「あまりバカにするなよ」
もう一つのバーに目をやる。その下はおそらく俺のネームだろう。
「…バンシィ・ノルン…」
「やっぱり、お前もか」
「何がだよ」
手のひらを見てみる。カラトと同じくロボットのような装甲だ.
真っ黒な装甲……。所々に黄色いラインが入っている。
両腕にはいかにも武器チックなアームがついている。
「普通はな?このゲームのキャラクターには、名前の頭に色に関係ある物がつくんだよ。…レットとか、ブルーとか」
「えっ?だってウイングに、バンシィって全然関係ないんじゃ……」
「全くだ」
「バグか何かか?」
「このゲームに限ってあり得ない話だ」
「そんな精密なゲームなのか」
「精密なんて物じゃないな。………このゲームには、俺とお前みたいな名前に色が無いイレギュラーなヤツが複数存在する。…そういう奴らを、俺達は機動戦士と呼んでいる」
…機動戦士。そういえば昔、その名前そっくりのアニメがあった気がする。もしかしたらそれを取ったのかもしれない。
「へえ。…で、これってどんなゲームなの?」
「対戦格闘ゲームだ。他にも俺達みたいなゲームプレイヤー、いやバーストリンカーが東京にはうじゃうじゃいる。あいにく、この江戸川区は過疎エリアと言われていて、バーストリンカーが少ない。どうだ?今からこのゲーム、ブレイン・バーストのいろはを学ぶためにアキバにでも行かないか?」
「別に構わないけど…」
今日この日、俺がこのブレイン・バーストを手に入れた日から、俺とカラト、いやウイング・ゼロとバンシィ・ノルンの過疎エリアの最強伝説は始まった。
小説初投稿です。誤字脱字、おかしい文章等、読者様の気分を害することもあるかもしれません。それでも温かい目で見守って頂ければと思います。コメントや指摘があればじゃんじゃんお願いします。
おそらく、新話を投稿するのにかなり時間がかかると思います。秋あたりからはペースアップするつもりです。