最高潮の盛り上がりを見せるセキエイ高原ポケモンリーグ会場、残すところ最後となった第七試合の直前で、突如として現れた半分に割れた仮面をつけた大量のロケット団残党員達。
彼等の登場により会場内の空気は一変、突然の出来事に人々はパニックになりかけるが、それに対処するは先程まで激闘を繰り広げていたカントー、ジョウト両陣営の各ジムリーダー達、そしてクリアだった。
ロケット団残党達を乗せたリニアが闘技場へ到達する寸前で入ったゴールドからの警告、その警告にいち早く対応したクリアに、彼に続く様にリニアへと駆け寄るはアカネやハヤトといった各ジョウトジムリーダー達。
押し寄せるロケット団残党達に大群をリニア内へと押しやる事に成功するクリア達だったが、直後リニアは無情にも固く扉を閉ざし走行する。
突然のハプニングで逃げ惑う人々、リニアに乗って会場を後にするクリア達、そして会場内に残ったゴールド、クリスの両名の前に現れる"仮面の男"。
伝説の存在ホウオウと、渦巻き島にてクリア達よりも早くルギアを捕らえる事に成功した仮面の男は、満を持してその姿を現して伝説の力を大いに振るう。
彼の目的は唯一つ、"時間の支配"――その為に必要不可欠な"ある物"を求めて仮面の男はこの会場へと侵入したのだ。
『見つけたぞ!』
会場内の一般人が逃げる際、その矛先が彼等に向かわない様に攻撃の誘導をしていたゴールドとクリスだったが、伝説の二匹の前に為す術無くホウオウの放った"炎のリング"の様な輪の中に捕えられ身動きを封じられる。
そして仮面の男は一人の老人へと手を伸ばした。
『クククク、さぁガンテツ私の為に腕を振るって貰おうか、お前の手で作るのだ……
ヒワダのボール職人ガンテツ。"ぼんぐり"という木の実から特殊なモンスターボールを作るという事で有名な人物。
その人物と彼の孫娘を捕らえた仮面の男は、そう彼へと命令するのだった。
――仮面の男、彼が求める唯一つの"時間を捕らえるモンスターボール"を手に入れる為に。
一方、リーグ会場から再度発車したリニアの中では、各ジムリーダー達とロケット団残党達との戦闘が激化していた。
何しろリニアの各車両全てにロケット団残党達がすし詰め状態でいるのだ、個々の強さは弱くても、それが数を為せば話は違ってくる。
倒しても倒してもキリが無い団員達との戦闘は、一つの車両に三、四人程の数で自然とジムリーダー達は振り分けられた様な形となり、残りの者達は急いでリニアの先頭車両――唯一暴走するリニアを静止させる可能性を持つ運転席へと移動する作戦へとシフトしていた。
それは誰かが提案した様なものでは無く、自然と彼等の自己の判断により発生したもの。それでいて現状正しい選択。
そんな状況判断の早さこそが、彼等がまたジムリーダーと呼ばれるたる所以なのかもしれない――。
「V"めざめるパワー"! から、また次を出されたら厄介だ、"でんこうせっか"で奴を止めろ!」
そんな中、唯一ジムリーダーの名の称号を持たない者、クリアもまたロケット団残党との戦いへと身を投じていた。
クリアの
これでクリアが倒した団員の数は十三、流石に立て続けにそれだけの戦闘をこなしたとなると、体力の消費も些か激しい。
肩で息をしながら、クリアは周囲の様子をザッと見渡す。
彼の他に車両に残っているメンバーは二人、突入時彼に続いてきたアカネと、キキョウのハヤト、この二人とクリアの合わせて計三人がこの最後尾車両のロケット団残党を自然と任されていた。
そして今クリアが一人倒した所で、残る敵は五人、ここまで来れば最早大した事は無い。
「ヨルノズク、"さいみんじゅつ"!」
「"メロメロ"や!」
ハヤトのヨルノズクが二人の残党員を眠らし、アカネのピィとププリンが"メロメロ"で残党員の行動を鈍化させた所で、
「P、"でんきショック"だ!」
クリアの
これで彼等がいる車両のロケット団残党は粗方制した――が、いくら倒しても先頭車両から、ジムリーダー達の猛攻を掻い潜った敵は再び後部車両へと回ってくる。
休まる暇も無い連戦、それを予想して再度クリア等が身構えた直後だった。
「ふん、どうやら後方全ての団員達は片付いたみたいだな」
「ッ……マチス、さん? アンタ前へ進んでいったはずじゃ?」
車両間での出入り口用の扉が開き、姿を現したのはクチバジムリーダーのマチスだった。
その背後にはマツバとツクシ、それにカントー勢のカスミとカツラもいる。
それでいて敵の数はゼロ、つい先程まで湯水の様に沸いて出ていたロケット団残党達の姿は影も形も無い。
「あぁそうだ、それで前方の二車両と後方二車両を切り離してきた。そして既に、実はこの車両はセキエイに向けて逆走してるぜ」
「き、切り離したぁ!? って、しかも逆走してるって……ま、マジかよ……」
先程までは戦闘に必死で気づかなかったが、よくよく外の外観を見れば確かにリニアの進行方向は先とは逆になっていた。
それに加えて新手の敵が現れないのも今のマチスの発言で頷ける。
だが一つだけ気になる事があった、それは"力"、リニアを逆走させる程の"電力"だ。
いくらリニアを切り離したからといって、切り離された後方車両が勝手に逆そう等始めるはずも無い。むしろ取り残された後方車両は自然と速度を緩めていって停止するはずだ。
「……こんな電力、どこから」
『それは私の力によるものだ。クリアよ』
――にも関わらず、現にリニアは逆走している。
その事についてクリアがマチスに質問しようとしたその時、彼の頭に一つの声が響いたのだ。
それはかつてエンジュで聞いた声、スイクンと同じくホウオウに蘇生されたクリアと奇妙な共通点を持つ一体。
「"この声"は、ライコウか……お前マチスさんに……いや、エンテイとスイクンも、なるほどカツラさんとカスミ、それぞれのタイプのエキスパート達についたんだな」
ライコウに続く様に頭の中に響く三つの声。
それは簡単なクリアへの現状報告だった。何故彼等三匹がマチス、カツラ、カスミと共にいるのかという。
そして、これから行われる作戦、カツラ達の立てた作戦を端的に一方的に説明されたのである。
「……クリア? ライコウとか、スイクンとか……な、何を言ってるんや?」
「……あぁ、どうやらスイクンはカスミ、エンテイはカツラさん、ライコウはマチスさんをそれぞれパートナーに選んだみたいだな」
「え? えぇ!? て事は今その三匹は……」
仰天するアカネはそのまますぐにカントージムリーダー三人組へと目をやる。
それに応じる様に、または最初から出す予定だったのか、伝説の三匹が入ったスーパーボールを見せるカスミ、カツラ、マチス。
そして、今まで散々ジムリーダー達に挑戦して来たスイクン達がここにいる事は流石に予想外だったのだろう。アカネじゃないが、ハヤトやマツバ、ツクシも唖然とした表情を見せている。
――だがマツバが驚いたのは別にあった。
それは今の"伝説の三匹がこの場にいる"というインパクトに誤魔化されそうになった、ある一つの事実。
「クリア、お前今、ライコウの声を聞いたのか……?」
そう、先程クリアは確かにこう言ったのだ。
――"この声"――と、そしてそれを聞き逃すマツバでは無かった。
彼は長年虹色のポケモン"ホウオウ"を憧れ追い求めてきた人間だ、その過程でホウオウによって蘇った三匹のポケモン達の事も当然調査済み。
そのポケモン達に興味こそ無かったが、もしかしたらそこからホウオウに繋がるかも――そう考えた事もあった。
尤も今では、スイクンを追う彼の友人ミナキに情報を提供し、あわよくば彼がスイクンを捕獲出来ればそこからホウオウに繋がる可能性もあるので、伝説の三匹に関しては見逃してきたのだが、流石に今のは見逃せなかったのだろう。
更にはマツバの言葉に、アカネを始めとしたジョウトジムリーダー達や、マチスやカツラまでもがクリアに興味の視線を送っている。
ただ一人だけ、スイクンからクリアの事も聞いていたカスミだけは、どこか苦しそうな表情を浮かべているが。
「あぁ、それは簡単な事だよ」
そんなカスミの態度とは裏腹に、クリアは努めて明るい表情口調で言う。
何でも無い事の様に、昨日の晩御飯でも話すかの様な軽く、ただ一つだけの事実を述べる。
「俺もそこの三匹同様、ホウオウによって蘇った命だからさ、だから多分共通項が出来てるんじゃないかな」
無音だった。クリアが言葉を発した直後数秒は音の無い世界が続いた。
極力消音で走るリニアの性質も手伝って、不気味な程の静寂、そしてその静寂は不意にアカネによって破られた。
「……蘇ったって、なんやクリア……まさか自分、一回"死んでる"言うんやないやろうな……?」
「うんそうだよ、ってかそうとしか言ってねぇんだけどな……さて後どれ位で会場につくか、飛んでいくよりはリニア乗ってた方が速いんだろうけどな」
「っな……死んだって、そんな話警察の俺でも聞いた事が」
「そんなの当たり前よ、多分知ってる人は数える程もいないわ、私だってスイクンから教えて貰って初めて知ったんだから」
アカネに質問に適当に答えて、何でも無い事の様に窓の景色を眺めるクリア。
そんな彼にハヤトが口を開いた時、ハヤトの話に割り込む形でカスミが割って入る。
「でも流石に私が知ってるのはクリアがスイクン達と同じって事だけだけどね……」
「そりゃそうだよ、なんたって知ってるのはイエロー位だからな」
そう言ったクリアは少しだけ申し訳なさそうな顔をした。
過去、その時クリアは自身の死の瞬間を、
その様子を見ていたエースとVを使って、その後イエローが流した涙は今だにクリアの脳裏には焼きついている。
「だからさ、俺もついていくぜカツラさん。話ならもうエンテイ達に聞いてる」
「ッ! クリア、お前まさか作戦の事も!」
「バッチリこの通り!」
右手の親指と人差し指で円を作りながら、白い歯をチラつかせながらクリアは言う。
――言って、カツラが何かを反論する前に。
「ジムリーダーでも何でも無い普通のトレーナーの俺は連れて行けない……なんてのは無しだぜカツラさん、なんたって俺はそこの三匹同様"仮面の男"には因縁がある、それにチョウジでの借りもな、そうだろマチスさん?」
「……そうだな、言いたくねぇが確かにこいつの実力は十分だ、俺が保障するぜ」
チョウジのロケット団秘密アジトで、かつて少しだけ共に戦ったマチスはそう言ってクリアの参戦を認め、そしてカスミもまた、
「っま、どうせ言っても止まらないでしょうしね、それにスイクンの意思もある」
どこか諦めた様に言ってクリアを認める。
「……しょうがないな、確かにお前は実力も高いし、エンテイの入ったボールも私に訴えかける様に震えている……だがクリアよ、それでもお前は今回の事件とは直接的な関連は無いんだ。くれぐれも無茶はするなよ」
「今回の事件には関係無い……ねぇ」
「む、どうしたクリアよ?」
「いや、何でも無いっすよ」
そう言って、少しだけクリアが意味深な態度を見せるが今はそこに言及してる時間も惜しい――そして、そうしてカツラもまたクリアを認めた所で話は固まった。
と言っても話の筋が見えていたのは当の本人達であり、クリアとカントー勢三人を除いたジョウトの四人は全く話についていけて無いのだが。
だがそんな彼等に説明してる暇等当然無い、今は一刻も早くジムリーダー達全員が離れて手薄になり、恐らく何かしらの異変が起こってるだろうリーグ会場に急ぐ事が先決だ。
「ライコウ!」
「エンテイ!」
「スイクン!」
伝説の三匹のパートナー達はそれぞれの三匹を外に出した。
まずはライコウを持つマチスがその背に乗って、リニアの車両間の出入り口用の扉から外に飛び出し、エンテイに乗ってカツラも続く。
そしてクリアもまた、スイクンに乗るカスミの後ろに乗って、
「まっ、待ってクリア! アンタも会場に行くの!?」
「アカネ……今の話聞いてた?」
「き、聞いてたに決まってるやないか!馬鹿にしてるんか!?」
「そんなつもりは無いけどさ……で、何? 手短によろしく頼む」
「なんやその適当な返しは……じゃなくて、行くなら行くでええけど、だけど絶対に死ぬんやないで! 約束や!」
そう言ったアカネは少しだけ目が潤んでいた。
恐らく直前にクリアの死の話を聞いたから、いくら今彼が生きてると言っても、かつてクリアが死んだ事に変わりは無く、スイクン等と意思疎通が出来るという証拠まである。
"死"というある意味現実から一番遠くて、実は身近な存在を感じ取る事が出来た、出来たしまったのだ。
そして直後に当の本人が今一番危険度が高い場所へと赴こうとしているのである、彼女が心配して、ちょっとだけ感傷的になるのも無理は無いだろう。
「なんだよアカネ、心配してくれるのか?」
そんなアカネの様子には気づかず、呑気にゴーグルをかけるクリア。
そしてクリアがゴーグルをかけ終える頃を見計らって、カスミの合図でスイクンもまた足に力を入れた。
先に出て行ったライコウとエンテイにもすぐに追いつけるだろう、そして三匹と四人は再度会場へと足を踏み入れるのだ。
「……当たり前や、アホ」
その寸前で、微かにアカネから発せられた確かな一言。それはどこか切なさそうに、少しだけ顔を赤く染めて俯き様に放たれた一言。
直後スイクンは走り出し、あっという間にリニアから遠ざかる。その様子を見つめるアカネ、そしてマツバにツクシとハヤト。
離れていくクリア達を眺める事しかこの四人には出来なかった。
何もしなくてもライコウが残した莫大な電力がリニアを会場まで運ぶ、だからこそ、何も出来ずただ待つ事しか出来なかったのである。
「クリア、アンタまさか……」
「……いやいやカスミさん!? 貴女はちょっと勘違いをしてらっしゃる! 別に俺はアカネとは何でも無いからね!?」
「……」
「いやそんなジーっと見られても無いものは無いんだからさ!」
「はぁ……まぁそういう事にしておくわ、それに今のもイエローには報告しないであげる」
「え? 何でそこでイエローが出てくるの?」
「……はぁ~!」
更に深く、意味深にため息を吐くが当然クリアは何の事だか分からずキョトンとしている。
だがそれも仕方無い、クリアはイエローの性別の事は知らないし、なんせ彼女と話したのも約一年も前なのだ。
確かについ最近彼女と顔を合わせる機会は多かったが、その時イエローの意識は無く、当然そんな状態なのだからクリアとイエローは会ってないも同義である。
だからこそ、クリアにカスミのため息の訳とか、何故アカネの照れた様な態度からイエローの話題が出てくるのかとか、クリアには理解出来なくて仕方は無いのだ。
「まぁいいわよ……でもイエローも災難ね、よりにもよってこんな奴なんかを……まぁ本人に自覚が無いってのもねぇ……」
「むっ、こんな奴とはなんだこんな奴とは! ってかだからどうしてこのタイミングでイエローが……」
「あ、見えてきたわよ会場」
「おい無視すんな!」
気づけばいつの間にか先に飛び出していたライコウとエンテイと足並み揃えて走っていた。
右を見ればカツラが、左を見ればマチスがいる状態で、彼等はとうとうリーグ会場へと再度戻って来たのである。
瓦礫塗れの、半壊した会場、そして暴れまわる二匹の伝説のポケモン、ルギアとホウオウ。
そんな最悪の状況に一瞬唖然とし、すぐに四人は気を取り直して対峙すべき悪へと目を向ける。
ガンテツから"時間を捕えるモンスターボール"を作る為の巻物を、ボール作りの秘伝が画かれた巻物を強奪しボール作りに勤しむ、"デリバード"に乗った仮面をつけた人物。
"仮面の男"――マスク・オブ・アイスへと目を向けるのだった。
『ラジ……お聞きの、っな……大変、で……』
雑音交じりのノイズだらけのラジオが室内に木霊する。
そこはコガネ近辺に存在する一つの民家、育て屋を経営する二人の老夫婦が住んでいる家。
そして今そこにいるのは、育て屋老夫婦に加えて二名の人物、一見少年の様な麦藁帽を被った少女と、釣り人風なその叔父。
彼等は今の今までラジオでポケモンリーグの生放送を聞いていた。
開幕セレモニー第一弾で急遽クリアが出てきた時はイエローは勿論、その他三人も大いに驚いて、だけどどこか可笑しそうに笑ったりして。
イエローもイエローで、更に強くなっているクリアの活躍が自分の事の様に嬉しくて、放送が終わったらすぐに彼に会いに行こうと思っていた。
――だが、
『……会場に、仮面を半分つけ……ガガ……ロケット団残党、達、が乗り込んで……』
第七試合よりも先んじて行われた主将戦。異変はその試合が終了した直後にあった。
突然放送が乱れ、会場の混乱の様子だけ伝わってきたかと思うと、次に流れてきた放送はノイズ混じりの雑な状況説明だった。
端々にしか言葉は伝わって来ないが、今会場で何か大きな異変が起こってるという事は確認出来る。
「おぉぉぉ、どういう事じゃ! ミカン、ミカンはどうなったんじゃあぁぁぁ!」
「お、落ち着けばーさん!」
「クリアは!? ねぇクリアはどうなったの!?」
「お、お前も落ち着けイエロー!」
壊れんばかりの勢いでラジオを左右に振る婆さんと、それに加担せずともラジオに向かって必死に言うイエロー。
それで何かが変わる訳でも無いのでそんな二人の女性陣を諌める男性陣も苦労する。
――というか彼女等が心配する二人共、片方はジムリーダーでもう片方もジムリーダーレベルはあるであろう実力のトレーナーだ。言う程心配する必要も無いのだが。
「それにしても、ロケット団残党員って言ってましたよね……クリアの事が心配だし、ボクちょっと会場まで見に行ってみようかな」
「何っ!? 止めとけイエロー!何も自分から火の粉に飛び込む事は無ぇ、ここは警察とかに任せてだなぁ……」
「イエローよ、ミカンの事も頼んだぞ!」
「ば、婆さんも言ってないで!」
そしてとうとう立ち上がったイエローを何とか止めようとするヒデノリ。
婆さんは婆さんでそんなイエローを行かせようとして、そんな婆さんを止める爺さん。
こんな状況じゃなきゃコントの様な状況だが、だけど矢張り今は"こんな状況"である。ふざけている場合じゃなく、真面目に危険地に飛び込もうとするイエローを止めないとならない。
そう考えてヒデノリもどうにかイエローの進行を止めようと彼女の腕を引っ張るが、不意にイエローがその動きを止める。
動きを止めたイエローはそこからピクリともせずただ一点を見つめ、ようやく諦めたか、とヒデノリが思った時、
「おじさん、リーグ会場に現れたロケット団って……」
「ん……ど、どうしたイエロー?」
「きっとあんな感じなんでしょうね?」
そう言ってイエローが指差した方向には複数人の人影があった。
黒い団服を着て、胸には大きくRの文字、そしてその顔には半分に割れた仮面。
正真正銘の、リーグ会場に乗り込んだロケット団残党員そのもの、正確にはその仲間達である。
「あぁそうだな……ってえぇぇぇ!? なんで会場に乱入した奴等がこんな所に!?」
「おじさん! とにかく今はお爺さんとお婆さんを守らないと! ピカ、チュチュ……!」
呼んですぐにイエローは気づく。
ピカとチュチュ、二匹のポケモン達が庇う様に持った一つのタマゴに。
そのタマゴを気にして戦えないでいる二匹に。
「……よし、ピカとチュチュはタマゴを守るんだ! おじさんはドドすけを使ってお爺さんとお婆さんを逃がしてください! ここはボクが……」
「わ、分かった!」
その様子を見て即座にイエローはそう判断を下す。
まずは非戦闘員の人達と、タマゴを守る二匹のピカチュウを逃がす。そんなイエローの決断通りに、ヒデノリはドドすけに乗りお爺さんとお婆さんを連れてすぐに走り出し、ピカとチュチュもまた、タマゴを持って風船をいくつも体に巻きつける事によって体を浮かせ、空中に退避する。
それを見てまずは安心したイエローはすぐに残りの手持ち、オムすけ、ピーすけ、ラッちゃんを出す。
――が、元々戦うのが苦手なイエローだ。感情が高ぶった時等ならば彼女のポケモン達も力を発揮出来るのだが、通常時では些か戦力不足な点は確か。
出したポケモン達にフォローして貰う形でイエローは何とか逃げ延びようと試みる。
「わっ、な、何を……まさか……!」
いきなりナイフで衝かれ、間一髪帽子をかする形でそれを避けるイエロー。
そして障子に背を預けるが、後ろから伸びた手に気づき彼女はすぐにその手から回避し、そしてすぐに育て屋から飛び出した。
ポケモン達はボールに仕舞って、追って来る残党員達から、ウバメの森方面に向かって逃げる。
「まさか、ボクの帽子を狙ってる……!?」
そう言った彼女の帽子、正確にはそこに付けられた飾り。
かつてブルーによって飾られた、麦藁帽につけられた羽の外飾が剥がれ、その中にあった物は――虹色と銀色に輝く二つの羽は顔を覗かせて。
そして彼女は今だ追って来る追っ手を巻く為、ウバメの森へと入っていく。
その頃、リーグ会場では――、
「……おいテメェ、なんでテメェがその"デリバード"を持ってやがる……!」
とうとう対峙した仮面の男、それに対するクリアと伝説の三匹、そしてそのパートナーとなるジムリーダー達。
彼等の登場で半壊したリーグ会場内は安堵の空気に包まれていた。
いくらルギアとホウオウを従えているとは言え、今さっきまで二人の図鑑所有者に無双していたとは言え、仮面の男は一人だ。
対して此方はジムリーダー級のトレーナーが四人に、伝説のポケモンが三匹。
勝てる――この光景を近くで見ていた理事は確かにそう思っていた。
――だが、
『……』
「ダンマリかよ、あぁいいぜ……だったら、っ……答えてやる!」
一瞬だけ躊躇して、顔を背けて、再度クリアは仮面の男を見る。
今から言う事は、探偵でも何でも無いクリアの根拠も無い推理だ。証拠なんてあるはずも無く、それは今から確かめなければならないもの。
だがしかし、リニアに乗った時から彼はある一人の人物を、誰にも気づかれない様に探していた。
彼が最も長く付き合い、戦ったジムリーダーを、それでいて絶対に勝てなかった相手を。
リニアに乗って、一人だけ姿が見えなかった相手、チョウジジムジムリーダーを。
「"
そしてクリアは仮面の男、彼が乗る一匹のデリバードを指差す。
「アンタが乗ったそのデリバード! 他の奴には分からなくても俺には分かる、そのデリバードが誰のポケモンなのかを! ずっとそいつと戦ってきた俺なら!……アンタ程の奴が、そう簡単にポケモンを盗まれたりなんかしない、なぁそうだろ……」
最後の最後、その部分だけ少しだけ弱気な声を発して、悲しげな声を出した彼に答える様に、仮面の男は自身のマスクに手を掛けた。
そこにあるのはクリアへの敬意か、もしくは最早ここまで来れば正体等バレても問題は無いという余裕の表れか。
どちらにしろ、今、白昼の下その素顔が明かされる。
「……師匠……!」
「ふん、クリアよ、大人しくしていれば痛い目見ずに済んだものを!」
悲痛な声を出すクリアに、これまでの演技、仮面を全て捨て去った男は答えた。
仮面の下の素顔をさらけ出して、いつもの気弱でそれでいて優しそうな頃の面影等微塵も感じさせない険しい表情をしたヤナギ。
そして彼はその弟子を自称していた少年もろとも粉砕する覚悟で、ルギアとホウオウに命令を下す。
まるで"決別の意"の様なその攻撃を合図に、仮面の男との本当の"最終決戦"が今始まる――。
「ルギア、"エアロブラスト"! ホウオウ、"せいなるほのお"!」
実は昨日の時点で書き上げたのだけど、どこか納得がいかなくて一度消していたり――。
でもこれでようやく最終決戦、ジョウト編も終わりが近いです。でも多分まだ後四話以上はかかりそうな気がします。
はぁ、次の投稿はいつ出来るのか……そして挿絵とかいう作者には無縁の長物!絵心なんて皆無なんですよねコレが。