ポケットモンスターCLEAR   作:マンボー

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二十四話『vsスイクン 再会への兆候』

 

 

 現在エンジュシティでは、約一週間前に起きた地盤沈下の復興作業が行われていた。

 エンジュの各地ではその街に住まう者達、更にはアサギやコガネから助力にやって来た人々が今日も精一杯働いている。

 

 そしてそれを指揮するのはアサギシティジムリーダーのミカン。

 ここエンジュに通りかかった際に被災した彼女だったが、ようやく本調子に戻った様で、今は街を留守にしているエンジュのジムリーダーマツバの代わりを務めているのだ。

 

 このエンジュが被災したのが約一週間前、突然の地盤沈下によって街々は破壊され、エンジュシティの象徴とも言えるスズの塔は地に沈み、エンジュシティは多大な被害を受けた。

 そしてその災害が起きた日、二つの噂がこのエンジュからジョウトの全土へと見る見るうちに伝わったのである。

 

 一つはこの災害が"人災"であるという噂――理由は災害が起きた日、エンジュの各地にて黒服の怪しい人物が数人目撃されているのだ。

 ロケット団、度々暗躍する犯罪者集団がまたもや活動を始めたと小さな噂になったのである。

 そしてもう一つ、二つ目の噂、これは先の"地盤沈下人災説"よりも確証と目撃情報が数多あり、かつ実際に各地のジムリーダーも体験してるという、最早噂とは呼べなくなったもの――。

 

『ピーガガガ……』

 

 作業現場の一角に置かれたラジオ、ノイズ混じりの音声が辺りへと響く。

 

『……数日前、エンジュの焼けた塔から出現したとされる伝説のポケモン、スイクン、エンテイ、ライコウの三匹に関する続報をお送りいたします……』

 

 そのラジオ放送に、周囲の人間の作業の手の動きが鈍る。

 今は一刻も早く街の修復を行い、早く復興しなければいけない時なのだが、それでも気になる情報があれば聞き耳を立ててしまうのが人間である。

 作業効率が目に見えて悪くなりながらも、それでもラジオの電源は落とされずに情報を漏らす。

 

『伝説の三匹と呼ばれるこれらのポケモン達はジョウト各地で目撃されており、今現在はこのうちスイクンと呼ばれるポケモンがフスベ、タンバ、ヒワダのジムリーダーと戦ったという情報が入っています……ガガガ』

 

 そして、そのラジオに熱心に聞き耳を立てる人物が二人。

 背丈の低い麦藁帽を被った少年、の様な少女と、彼女の叔父に当たる釣り人風な中年男性。

 

「スイクンか……となるとやっぱりこのポケモンがオーキド博士が言ってた、クリスって子が追ってるっていう伝説のポケモンなんだよな……ならまだもう少しだけ、ここでスイクンを待ってた方が賢明かもな」

「そうみたいですね、肝心のクリスさんにはオーキド博士も連絡が取れないって言ってましたし」

 

 少女の名はイエロー、叔父の名はヒデノリ。

 このイエローと言う少女、一週間前に件の伝説の三匹を解放した少年、クリアの元旅の連れであり、今はそのクリアを探してこのジョウト、エンジュの地へ足を運んでいた。

 本来ならスオウ島で彼女が目撃した"謎の巨大鳥ポケモン"の調査の為にジョウトへと渡ったのだが、一年も音信不通だったクリアの捜索をその時までは第一目標としていた。

 ――というのも彼女の個人的理由は勿論として、件の巨大鳥ポケモンと相対した時の戦力としてもクリアは十分に戦力として期待が出来る為である。

 だが肝心のクリアの居所は相変わらず掴めない、そこで彼女等は次の策として伝説のポケモン"スイクン"の追跡に専念する事にした。

 しかしそれは必ずしも捕獲が最優先では無い、相手は仮にも伝説のポケモン、その捕獲難易度がどれだけ高いかは誰でも分かる事。

 だがそのスイクンを今は捕獲の専門家(スペシャリスト)と呼ばれるクリスという少女が追っているとの情報を、彼女等はオーキド博士から貰っていた。

 ポケモン図鑑完成の仕事を請け負っている彼女とイエロー達の利害は一致している、だから今はオーキド博士の提案通りスイクンを、クリスという少女を追おうとヒデノリが提案したのだ。

 

 ――少しだけ不満そうなイエローも渋々了承して一週間、では何故ジョウト各地を奔るスイクンを探す為エンジュの地に留まっているのか――それは現在のスイクンの"ある行動"にある。

 各地のジムリーダー、または相応の強者の前に現れては戦いを挑んで去っていく、そのスイクンの傾向から、彼女等は復興の助力も兼ねてエンジュに留まっているのである。

 アサギシティジムリーダーミカン、彼女の前にスイクンが現れるのを待っているのだ。

 

『ガガガ……なお、これは未確認情報との事ですが、伝説の三匹が現れたその日、スイクンの背にゴーグルをかけた謎の少年が乗っていたという話もあり、事実確認を急いでおります……』

 

 最後にそんな情報を伝えて、ラジオは再び元の番組へと戻る。

 クルミという名のアイドルが歌う『ラプラスに乗った少年』、その歌が辺りに流れ出し作業の手が鈍ってた人々も元の活気を取り戻していく。

 ――そんな中、イエローとヒデノリの二人は無言のまま数秒経ち、再度イエローが口を開く。

 

「ゴーグルの少年ってまさか……」

「いやいやイエロー、流石にそのクリアって少年も自分の手持ちでも無い伝説のポケモンに乗るなんて出来る訳無ぇよ!」

 

 ちなみにゴーグルの少年とは正真正銘クリアの事である。

 

「でもクリスさんって人の前にスイクンが現れた時、クリアも一緒に現れたって……」

「偶然だよそんなもんは、どこの世界にそれだけ伝説のポケモン手懐けながら捕獲しないトレーナーがいるんだ」

 

 ちなみにこの世界のクリアという少年である。

 と言っても彼は元々ポケモンの捕獲や伝説のポケモン等には特別な興味も無かった。

 一目見る、位には興味はあっても手元に置こうとは思っていない、そもそも彼にとってポケモンとは全て珍しい存在であり、また仲の良い数匹が一緒にいてくれればそれで良いと、本気でそう考えている――クリアという少年はそういう少年なのだ。

 

 

 

「ミカンさん、何か手伝える事はありませんか?」

 

 ラジオから目ぼしい新情報が流れる様子も無い様なので、イエローとヒデノリは作業指揮をとるミカンの元へとやって来た。

 彼等もこのエンジュに留まる以上、せめて自分達にも出来る復興作業が無いかと日々ミカンの元に指示を仰ぎにやって来ているのだ。

 その作業の多くはイエローのポケモン達を使った消化活動や瓦礫の撤去等、彼女等の活躍によりエンジュの再興は日に日にスピードを増していき、予定よりも早くスズの塔や焼けた塔の再建が出来ていた。

 そして今現在は破壊された街々の復元、それももう秒読みの段階である。

 

「あぁイエロー、それに叔父さんもいつもありがとうございます……そうですね、いえ今から休憩に入ろうかと思っていた所ですし、今は大丈夫ですわ」

 

 イエロー達二人にお礼の言葉を述べてから、ミカンは配られた昼食用のお結びを二つずつイエロー達に差し出した。

 元々この二人と共に昼食を取ろうと思っていたミカンである、予め二人の分の握り飯も貰っておいたのだ。

 

「ありがとうございますミカンさん、そう言えばもうそんな時間でしたね」

「全くだ、時間が経つのは早いものだな……」

 

 シミジミと呟くヒデノリだが、彼のそんな哀愁漂う台詞に一々何か言うイエローでは無い。

 彼女はマイペースにお結びを口まで運び、幸せそうにそれを食す。

 

「うふふ、美味しいですねイエロー」

「はいとっても!……そう言えばミカンさんはジムリーダーなんですよね?」

「えぇアサギシティのね、それがどうかしたのかしら?」

 

 無視された事からか、彼女達の横ではヒデノリが寂しそうに昼食とっているが、そんな事等お構いなしにイエローは続ける。

 

「はい、もしかしたらクリアの事を知ってるかもと思って……」

「クリア……もしかして黒いリザードンを連れたクリアの事かしら」

「ほ、本当に知ってるんですか!?」

 

 驚きの声を上げるイエローに一瞬ミカンはたじろぐ。

 イエローからしてみれば、この質問はふと思いついて、確証等無く"もしかしたら"の気持ちで質問した事柄だった。

 ジムリーダーともなれば入って来る情報量も一般人のそれとは比べ物にならないだろう、そう考えて何の気なしに質問したのだが、まさか本当に知っているとは流石にイエローも思わなかったのだろう。

 

「え、えぇ……そうね、大体数月前に私のジムに挑戦に来た少年が、黒いリザードンと、それと相手の電気技を無効化するピカチュウを連れたクリアというトレーナーだったわ……もしかして知り合いなの?」

「……はい、実はボクがジョウトに来た理由の一つが、そのクリアを探す事だったんです」

「そうだったの……でもごめんなさい、今彼がどこにいるかは私も知らないわ」

「……そうですか、すいません、ありがとうございます」

「いえこちらこそごめんなさい……そうだ、それなら彼が私のジムに挑戦に来た時の話でもどうかしら?」

「っ!……は、はい是非!」

 

 それからミカンとイエローは休憩時間の間中、ずっとクリアの事で話を盛り上げた。

 彼がエンジュのマツバを撃破してミカンの元に来た時にはバッジはまだ一個だった事。

 彼とミカンの戦闘でクリアが使ったポケモンはエースとP、ミカンのデンリュウ相手にはPで対抗し、ハガネールにはセオリー通りエースを召還し何とかクリアが勝利を納めた事。

 そして、それからまもなくは彼が各ジョウトジムを次々と破っているという噂がジムリーダー達の間で流れた事、しかしフスベでのイブキ戦を最後にクリアの噂がそこでパタリと途絶えた事。

 休憩時間終了間際まで、そんな話をしていた二人の少女達は、

 

「……知らなかった、クリアがそこまで強くなってるなんて……」

「そうねぇ、私が知る限り彼はバッジを七つは手に入れてるはずだわ、それも驚く程早くね」

 

 そう言ったミカンの言葉にあったのは若干の畏れ、各地のジムリーダーを各個撃破していった彼だが、経過時間は驚く程短い。

 移動手段を主にポケモン達に任せていたからといっても、どこかのジムで敗北した、という噂も聞かずに彼は一月余りでほぼ全てのジムを制覇した事になる。

 その事実を話したミカンに、イエローもまた息をのんだ。

 

「……だからなんだね、クリアがカントーに帰って来なかったのは」

 

 少しだけ寂しそうに言ったイエローの様子にミカンは何か気がついた様子だったが、そこは黙る事にした。

 何より今はあまり茶々をいれる様な気分じゃない、彼女自身、クリアに敗北した日の事を思い出して、多少は悔しい気分になったりもするのである。

 まぁそれもあまり気にならない程度、数分すれば気分は戻る程度にだが。

 

「でもよぉ、だとしたらそのクリアってのは、結局バッジは七つまでしか集め切れなかったって事か?」

 

 そこで無言で話だけは聞いていたヒデノリが口を開く。

 

「最終的にはどうか知りませんが、私が聞いた限りの話ではそうみたいですね、きっと今もまだ修行でもしてるんじゃないかしら」

「……クリアってば、そんなに強くなってどうしようっていうんだろう……でもレッドさんやグリーンさんだって似た様なものだけど、クリアはあまりそういう事考えてる様には見えないし」

 

 そう呟くイエローだったが、少なくともクリアにレッドやグリーンの様な強さへの渇望があるとは、イエローには思えなかったのである。

 身を守る程度には強くなろうとしていた事はイエローにだって分かった、だがそれはある程度の強さまで達してしまえば後は無理に高める必要は無い。

 更に言うと彼女から見たクリアは常にマイペースに、レッドやグリーン達が行ってる様な修行してでも手に入れる強さとは無縁の様な気がしたのだ。

 そんな彼女の呟きに、意味深な笑いを込めてミカンは、

 

「そうね、私も一度彼に聞いた事があるわ、そしたら……」

「……そしたら?」

「『前に何度も力量不足を体感したから、もう二度とあいつ(・・・)に心配かけない為にも強くなる必要がある』……そう言ってたわ……何でも前に旅した時一緒だった子にこれ以上心配かけたくないんですって、一体誰の事かしら?」

 

 そう言ったミカンの前で、見る見るうちにイエローの顔が赤くなっていくのが分かった。

 そしてそれを見て、イエローが女の子だと知ってるミカンは微笑ましそうに笑って、彼女の叔父は面白く無さそうにそっぽを向く。

 

 

 

 そうこうしてるうちに大分時間は経っていた様である。

 街の人々から少し離れた位置で昼食をとっていた彼女等は、活動を再開していく他の人たちを見て、

 

「じゃあそろそろ作業を再開しましょ……」

 

 そう言い掛けた、言い掛けた所で彼女の言葉が止まる。

 ある一点を見つめたまま動かないミカン、その様子を怪訝に思ってイエローとヒデノリもまたその方向へ視線をずらす。

 

「っな!?」

「あれは!?」

 

 視線をずらした先、そこにいた一匹のポケモンを視界に捉えた瞬間、イエローとヒデノリは同時に驚きの声をあげる。

 透き通る様な青の体、見とれる程の美しさを持つ伝説のポケモン、そして彼女等がこのエンジュに留まった理由の最大の要因。

 ――ポケモン"スイクン"、伝説の三匹のうち一匹が今正に、彼女達の前に姿を現したのである。

 

「もしかしてあれがスイクンか!?」

「えぇそうみたいですね、もしかしたら私の前に来る日もあるかもと、そう思ってはいましたが、まさか本当に現れるとは……」

 

 驚愕するヒデノリにそう返しながらミカンは一個のスーパーボールを取り出した。

 その中に納められている一匹のポケモン、

 

「お願い! アカリちゃん!」

 

 彼女のデンリュウを外に出して応戦する体勢をとった。

 

 スイクンが各地のジムリーダーに挑んでは去っていくというのは最早有名な話。

 だからこそ、イエロー達の前に、否ミカンの前にスイクンは現れた、話通りミカンに挑む為に。

 そんなスイクンの気持ちを無碍にするミカンでも無い、からこうしてミカンはデンリュウを出してスイクンに対抗する姿勢をとった――だが、

 

「え……」

 

 思わず小さく驚きの声を漏らすミカン、それも仕方無い。

 何故なら今から襲い掛かってくると思っていた存在が、スイクンが彼女に背を向けた。

 今まで数々のジムリーダーに挑んできたスイクンがミカンに背を向けた事が、ミカンにとっては予想外の出来事だったのである。

 

 そして改めてスイクンが目を合わせた人物、麦藁帽を被った黄色の髪を持つトレーナー。

 

「……え、えぇ!?」

 

 イエローもまた驚きの声を漏らすしか無かった。

 今から目の前でジムリーダーとスイクンのバトルが始まると、緊張した面持ちでその場を眺めてたイエローに、まさかスイクンが振り向くとはその場の誰もが思わなかった事なのである。

 だが今にして思えば、イエローもまた十分な実力を持ったトレーナーだ。

 スオウ島でワタルを打ち倒したトレーナーはクリアとイエロー、更にその力でエンジュの復興にも多大な効果をもたらしている。

 本人にその気が無くて気づいていなかっただけで、スイクンに"挑戦して貰える"資格というものを既にイエローは獲得していたのである。

 

 ――といっても、スイクンが目の前のジムリーダーよりもイエローを優先した理由は、また別にあるのだが。

 

「ボク……ってこれはもしかしてチャンスなんじゃ!?……いやでもボク捕獲って苦手だし、第一クリスさんも辺りに見当たらないし!」

 

 いざスイクンを目の前にしてテンパるイエロー。

 当然だろう、彼女がスイクンを追っていた目的には勿論、戦力確保の為にスイクンを捕獲するという目的もあったのだが、第一の目的がそのスイクンを追っているというクリスに出会う事にあったのだ。

 クリスに会って、彼女の手助けをしてクリスにスイクンを捕獲してもらう、当然そうなるとイエローもヒデノリも思っていたのだが、肝心のクリスがいない状況でのスイクンの登場なのだ、彼女が焦るのも仕方が無い。

 

「落ち着けイエロー! こうなったらお前が捕獲するしか無い!……幸いミカンちゃんもいる事だし、二人で協力すれば可能性も……ってなんだぁ!?」

 

 そうイエローに助言した瞬間、ヒデノリもまた驚きの声を漏らす。

 ミカン、イエローに続きヒデノリも驚愕の色を表情に表す、それ程までに今のスイクンの行動は三人の眼にはおかしく映ったのだろう。

 最初ミカンに挑むかと思われたスイクンはイエローに向き直り、そのままイエローに挑むかと思ったスイクンはゆっくりとした足取りでイエローへと近づいたのだ。

 そこに敵意も戦意も無く、真っ直ぐとイエローを見つめるスイクンにそんな争いの色は存在しなかった。

 

 イエローもまたそんなスイクンを見返して、

 

『お前が、クリアの言っていたトレーナーか……』

「ッ!……今の、声……もしかして君なのかい?」

 

 頭に直接語りかける様な声に、イエローは目の前のスイクンを凝視した。

 そんなイエローの問いかけに首を一度だけ縦に振るスイクン、どうやらイエローの予想は当たっていたらしい。

 どういう理屈かは知らないが、恐らくイエローの"癒す者"の能力に関係しているのか、はたまた"別の何か"か――とりあえず言える事は、今の彼女にはスイクンの"声"が聞こえているという事だ。

 ――彼等を封印から解き放った人物、イエローも良く知るトレーナー、クリアと同様に。

 

「クリアは、今……大きな脅威に立ち向かおうと……だから、忠告に……」

 

 ポツリポツリとイエローは言葉を紡ぐ。

 スイクンが彼女に直接語りかけた声を、その様子をヒデノリとミカンは唯ひたすらに見守る。

 

「……じゃあ君も、オーキド博士と同じでボクに忠告に来たんだね、クリアからそう頼まれて」

 

 再度コクリとスイクンは頷いた。

 それはクリアがスイクンに跨ってジョウトを駆け回っていた小一時間の間の話、彼はスイクンに乗りながら彼の事をスイクンに話していた。

 一年前のスオウ島での出来事、今はとある場所でとある人物に弟子入りして修行に(勝手に)励んでいる事。

 そしてイエローの事、その中で、これからジョウトを駆け回るであろうスイクンにクリアは言ったのである。

 "もしイエローに会う事があれば、彼をカントーに帰して欲しい、少なくともクリアには関わらせないで欲しい"――と、そうスイクンに頼んでいたのだ。

 今回の戦いはクリア個人と伝説の三匹の因縁の様なもの、スオウ島での戦いの様な直接イエローに関連するものでは無い。

 そしてこの戦いは、前回のスオウ島同様に、もしくはそれ以上に危険なもの、だから巻き込みたくは無いとクリアはスイクンに言っていた。

 それを今、スイクンはイエローに話した。

 オーキド博士の推測の言葉じゃない、直にスイクンが聞いたクリアの本音、それを聞いたイエローは、

 

「……そうなんだね、ありがとうスイクン、クリアの言葉をボクに届けてくれて……でも」

 

 でも――そこから言葉を繋げるイエローは意思の強い目をスイクンに向ける。

 

「ボクはクリアの力になる、そう決めたんだよスイクン」

 

 その決意の表明を聞いて、スイクンは彼女に背を向ける。

 元々スイクンには無理をしてでもイエローをカントーに帰す義理も、また彼女を説得する義理も無い、クリアの頼みで伝言は伝えるが、彼がクリアにしてやる事はそこまでなのだ。

 それにスイクンは見た、イエローの意思の強い瞳を。

 彼が数日前に会った少女と同じ様な目、その少女が落としたピアスを今もまだ持つスイクンは、その目に確かな安心を導き出して、そして彼女等に背を向けて駆け去っていく。

 

 再び、自分を扱うトレーナー探しの旅へと戻っていくのだ。

 

 

 

 そしてそれはスイクンが走り去った直後だった。

 ヒデノリのポケギアに、クリスがアサギに向かっているという情報が届いたのは。

 

 

 

 

 

 

 

 

 所変わって、そこはジョウト地方のとある村。

 街と呼べる程の規模も無いその村に、三人の男達がいた。

 

「……それで、行くのか? 渦巻く海の島へ」

「あぁ勿論だ、行ってその図鑑所有者のガキ共、こいつの話じゃゴールドとシルバーだっけか? に聞かなきゃならねぇ事があんだよ、俺とこいつにはな」

 

 一人はマツバ、エンジュシティジムリーダーでゴーストタイプのエキスパートと呼ばれる男。

 一人はマチス、クチバシティジムリーダーで電気タイプのエキスパートと呼ばれる男。

 そしてもう一人、先程マチスが"こいつ"と呼んだ少年。

 

「……渦、って事は渦巻き島かな……ったく、嫌な予感しかしない!……ってイテテ!」

 

 痛々しげに体中に包帯を巻いて床に伏せた少年は、痛む体を無理矢理起こそうとしてうめき声をあげる。

 

「全く、鍛え方が足んねーんだよテメェは!"じばく"程度でそれだけのダメージ負いやがって!」

「当たり所も問題があると思いますぜ旦那!……つーか俺もまさか一週間も寝込むとは思わなかったな」

「一体何があったのか気になるが……話したくないというのなら俺も深くは聞かない……だがお前がそこまでやられるとは流石に俺も驚いたぞ」

「安心してくれマツバさん、俺が一番驚いてるから」

 

 かつて公式のジム戦で彼と戦った事のあるマツバは心底そう思いながら呟く。

 彼のピカチュウとイーブイにしてやられた事のあるマツバは彼の強さを知っていた、だからまさか彼がここまでの負傷を負って彼の元に来るとは思ってもいなかったのである。

 

「……じゃあ俺もそろそろエンジュに戻るぜ、"クリア"、お前今日までは絶対安静だからな、明日までは辛抱するんだぞ」

「リョーカイっす……俺もこれ以上無理はしたくねぇからね……」

 

 青い顔でそう返した少年、クリアは村から出て行くマツバを見送って再び療養に集中する。

 

「本当こちとらさっさとその渦巻き島って所に行きてぇってのに、テメェの所為でまさか一週間もこんな村に足止め食らうとはよぉ」

「む、そう言うならテメェ一人でさっさと行けばいいんじゃねぇのかマチスさん?」

「……っか! 俺は借りはきちんと返す性分なんだ、せめて明日までは待っててやるよ」

「借りって……この怪我は半分は俺の所為もあるよな……?」

 

 マチスの言う借りとは別にクリアに対する借りでは無く、彼の"あるポケモン"に対する借りなのだが、クリアは当然その事には気づかない。

 勿論マチスも必要以上の事は喋らないので、その話はそこで終わりとなる。

 

 

 

 そして翌日には彼等は渦巻き島へ向かう事になるのだ。

 またその日アサギにてようやく出会えたイエローとクリスもまた偶然、次の日にはその付近を通りかかる事になり。

 結果として――クリアとイエローの両者は、図らずして今から十数時間後、急接近する事となる。

 

 




酷いタイトル詐欺な気がするな今回――。
本当は真面目にスイクンと戦わせようと思ったのですが、どう頑張ってもスイクンがイエローについていってしまったので伝言係になって貰いました。

だから今回はオーキド博士の推測の言葉では無く、スイクンからのクリアの言葉を聞いて前回の決意を本物にするという話にしました。
――というか今回はイエロー回だったのに書きづらかった……なんかミカンちゃんの口調が今一分からなくて……。


今回は"じばく"って一週間もクリアは療養していたのですが――この事を知ったら、イエローはどう思うのだろうか――。

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