真剣でオラに恋すんの?GT   作:縦横夢人

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 長かった……長かったぞぉッ!!!!(フリーザ様的な)
 あ痛!?、ごめんなさいっ!? 皆さんが言う言葉でしたね。謝るから石はぁぁ――(ゴスッ)

 いやね、途中で切って投稿しようかと思いましたがここは切ったらダメな場面だと思いまして。それに切るところもわからなったので……

 その分楽しんで(感動して)読んで下さい
 ではどうぞ


第4話

 

 

 

「フハハ! なるほど、そういうことであったか」

 

「はふぅ……。な、なんとか納得してもらえた……」

 

「ははは! なんかてぇへんだなおめぇも」

 

 何とか九鬼邸に戻ってこられた私達の前に、九鬼家次期社長候補であり私の姉≪九鬼揚羽≫が空から現れた。どうやら姉は私が誰かに誘拐されたと思っていたらしく、一緒にいた悟空をその仲間だと勘違いしたらしい。あわや一触即発という空気の中で私が姉の緩和剤となって必死に経緯を説明し、皆が集まる部屋へ通してもらうため廊下を歩く今に至る。――納得してもらうまでに30分の時を要したのは大変だった。

 ちなみに経緯と言っても自分がした体験をおいそれと話せるわけもなく、また悟空自身も説明が苦手……というか、よけいに場を混沌とさせようとしていたので“自分で飛び出したはいいが道に迷う上に転んでケガを負ってしまう。一人路頭で困っていたところを悟空と出会い懇意で家に送ってもらうことになった。なのでおんぶしてもらっているのは深い意味はない……そう決して意味はないんです!”と説明した。

 姉は何とか納得(それでもおんぶの件はしつこく聞いてきたが)したようで、九鬼家にある“恩人、または客人はもてなせ”という家訓のもと皆への説明もかねてこうして悟空を九鬼邸に通している。

 

「孫悟空とやら。早合点してわるかったな。まぁ許せ、ハッハッハ!」

 

「オラ気にしてねぇからでぇじょうぶだ。ハッハッハ!」

 

「……はぁぁあ」

 

 必死だった私をよそに二人は笑い合っている。二人ともお気楽というかマイペースというか何というか……。

 

「なかなか好感が持てる少年だな。だが妹は簡単にはやらん!! 紋が欲しくば我を倒すことだな!」

 

「ちょっ、姉上!?――」

 

「ん? まぁ闘いてぇっちゅーんなら闘うけどよ、今は紋を届けに来てんだからまた今度な!」

 

「ふっ、この我に挑むか。いいだろう! この場では貴様の言うとおりやめておいてやる。が、我が相手をするのだ。それなりの覚悟をしておくのだな!」

 

「あのっ、二人とも――」

 

「おう、楽しみだなぁ~! ここにいるやつらみんな強ぇやつばっかみてぇだし、オラワクワクすんぞ!」

 

「いい心がけだ。ふむ……どうだ? 貴様さえよければ将来九鬼で働かんか? なかなか有望そうであるからな。まぁ考えておけ少年よ。フハハハ!」

 

「話を聞いてっ――」

 

「ん~まぁ考えとくさ。それよりまだ着かねぇのか? 結構長ぇこと歩いてっけど……」

 

「フハハ、心配するな。もうすぐ着く。今主だった者達を集めているからな。あぁちなみにおんぶしたままでいいぞ。紋のケガを含め全て伝えてあるからな」

 

「~~~~ッ!!」

 

 この二人、“話を聞かず突き進む”人種だ。絶対二人だけにしておいてはいけない、とひそかに私が決意したのは秘密だ。

 

「ほら、見えてきた。あそこの部屋に皆集まっておる」

 

 そうこうしているうちに目的の場所に着いたようで、目の前には映画館やコンサート会場のように大勢の人が通れそうなほど大きく質の良い木でできた扉が私達を迎えるように存在していた。

 ここは確か――

 

「うむ、ではいくか! あぁちなみに二人とも、覚悟はしておいたほうがいいぞ?」

 

 覚悟? 怒られる覚悟だろうか?

 そう疑問を溢す前に姉上は「揚羽、参りました」といつもの高笑いを潜めた低い声で宣言するように、それでいてどこか緊張した面持ちで入室した。

 私達はただそれに着いていったが、入った瞬間に姉の言葉を|理解させられた(・・・・・・・)。

 

「――――ッ」

 

 入った部屋は九鬼の家というには少し質素的に思えるほど物というものが無く、しかし天井には豪華でいながらほどよい光で部屋を照らすシャンデリア。真紅の絨毯が広がる床には幻想的な金の模様が描かれている。

 そして――いや、一番始めに認識していたはずだ。ただ衝撃的すぎて目では認識していても頭では認識できていなかった。

 黒、黒、少しの白、そして黒。大勢の男性女性が着ている執事服やメイド服は従者の証。それが中央の道を分けるよう左右にずらりと並んでいた。誰も彼もが直立不動の無表情でピッシリ立つ様は石造のように思わせた。が、一人一人石造にはない強者(つわもの)の雰囲気を纏っている。よくよく見れば全員はわからないが見たことがある者がおり、ほとんどが従者部隊序列百位以内の者だ。つまりここに集められたのは従者部隊序列百位以内の者らしい。

 姉上はその視線の中を我間せずといった感じでズンズンと進んでいく。私達はそれに着いていくしかなく、様々な視線にさらされながら逃げるように唯一開いている前だけを見ていた。

 

 が、それも無駄な努力だったようだ。だんだんと進むごとに感じるのは“王”の威光。それと同時に見えてくる先には一人のために作られた見事な装飾のイスに座る一人の男。木でできているはずのそれが玉座に見えるのはその男がもつ雰囲気のためか。顎を支えるように肘をつき足を組む様は他の人がやれば偉そうに見えるが、男にとってはそれが普通であるように違和感が無い。服は一級品の黒いスーツを見事に着こなしている。顔は一見普通と呼べる顔だが何の感情も見えない無表情で、目から感じるのは全てを射抜き見通す氷の矢の視線だった。その目と身に纏う雰囲気から何もしていないのに胸を鷲掴みにされるイメージを自分に抱かせた。

 自分はあの人を知っている。いや、知っているはずだった(・・・・・)。

 

「ち、ち……うえ……」

 

「…………」

 

 九鬼財閥の頂点にして総帥、そして私達兄弟の父親である≪九鬼帝(みかど)≫その人だった。しかし知らない。あの人は総帥の身でありながらお気楽でマイペースな性格をし、部下にさえも軽い調子で応対する人だった。愛人の子供である私にさえ我が子のように笑顔で接してくれる人のはずだ。けど今(・)のあの人は知らない。

 それだけではなく横には九鬼家の長男にして私の兄である≪九鬼英雄(ひでお)≫従者部隊序列三位で“ミスターパーフェクト”の異名をもち、私の世話役である≪クラウディオ・ネエロ≫、話したことは少ないが先祖は吸血鬼を倒したとされるあのエイブラハム・ヴァン・ヘルシングでありあの(・)川神鉄心のライバル等の噂を山ほど聞く序列零位にして永久欠番の称号を持つ≪ヒューム・ヘルシング≫もいた。クラウディオは落ち着きのある雰囲気で立っているが、ヒュームの方は私にさえ感じられるほども強者の“気”を隠そうともせず腕を組み目を伏せていた。

 そして――

 

「……」

 

「あっ……」

 

 ――九鬼帝の正妻にして姉達の母、そして……私の義母であり新しい母となる人。≪九鬼局(つぼね)≫その人が父の横でたたずんでいた。こちらを見るその瞳には私は映されているだろうか? 思わずそう考えてしまった。

 

「九鬼揚羽、九鬼紋白並びに客人を連れて参りました」

 

「……」

 

 母のことを考えていた私をよそに場は進んでいく。姉が参上の言葉を述べるが、父はじっとこちらを見るだけで何も返さない。やはり勝手に出て行ったことを怒っているのだろうか? 誰も彼もが父の反応を待っているが一向に反応がない。ただただ何も感じない瞳がこちらを映すだけだった。

 

「……帝様」

 

 緊張と不安で胸が張り裂けそうな思いのえ私を察したかのようなタイミングでヒュームが声をかけた。ちなみにヒューム持つは父上や私達九鬼家以外の人間にはこれほど敬語では話さない。それほどの力と功績をたてているから、というのもあるが一番の理由が「ヒュームだから」というのもある。

 その彼が話すことだから何かあるのだろうかとさらにドギマギしていると、衝撃の言葉が紡がれた。

 

「いつまで寝ているつもりですか……」

 

「……グゥ、んん? あれ、俺寝てた?」

 

 カクンと思わずこけそうになったのは何も私だけではないはずだ。周りを見れば前のめりになりながらも必死に姿勢を崩さないよう震えている従者も何人かいた。唯一の例外は姉と兄、母やヒュームが呆れており、クラウディオだけが苦笑していた。

 

「まったく、バカですか……」

 

「あぁー! バカっつった方がバカなんだぞ!」

 

「それより帝様、揚羽様と紋白様、そして例の方がいらっしゃっています」

 

「おぉ、そういや呼ぶように言っといたな。サンキュー、クラウディオ。最近忙しかったから待ってる間に思わず眠っちまった」

 

「父上、何も目を開けて眠る必要もあるまいに……」

 

「ちなみにそりゃオレの特技だ(キラン)」

 

「そんなものいりません」

 

「ヒドッ!?」

 

 会議中でも使えるんだぞ!だから~~、と言葉を続ける父に思わず呆然としてしまう。先程までの雰囲気はなんだったのか。あれほど緊張していた私が馬鹿だったではないかと溢しそうになる。

 

「あっはっは、おめぇの父ちゃんおもしれぇな!」

 

 ……面白いで済ますんだ。

 

「おい貴様!! 帝様に何て無礼なことをッ!!」

 

 悟空の軽い口調を馬鹿にしたと思ったのか従者の一人が叱咤する。しかしそれは父本人の手で慎められた。

 

「ハッハッハ! お前も面白いヤツだな、気に入った! おっと紹介がまだだったな。オレは九鬼財閥総帥にして統括者の≪九鬼帝≫だ。簡単に言やそこにいる紋白と揚羽、んでそっちにいる英雄の父親だ。まぁ気楽に帝って呼んでくれ。あ、みかどっちでもミッチーでもいいぜ」

 

「オッス、オラ悟空! 孫悟空ってんだ! オラのことも好きに呼んでいいぞ。よろしくなミッチー!」

 

「……そうか、孫悟空か」

 

 そこで帝は何故か考えるように間を空けた。それに不思議そうに見る悟空を横目に見ていると、ヒュームがわざとらしく咳払いをしだした。

 

「コホン。おい、ちゃんと名前で様付けしないと痛い目を見るぞ、おもに蹴りで」

 

「ご、悟空!! ちゃんと名前で呼ばないか!!「え~ダメか?」ダメに決まっておる!! 相手は父上……九鬼家で一番偉い方だぞ! じゃないと本当に――」

 

「いいっていいって。しかし順応力早いなお前、ますます気に入った! しかし孫悟空か……西遊記の主人公の名前と一緒ってのは珍しいな。うんじゃあそのまま悟空でいっか!」

 

「仕方ねぇな~じゃあ帝でいいか?」

 

「それもダメに決まって――」

 

「OK」

 

「いいの!?」

 

 ダメだ、もう私ではこの二人をどうにもできない。思わず頭を抱えてしまいそうになる。

 

「んで本題だが。あぁ、悟空への礼だ。紋白を無事連れ帰って来てくれてありがとな」

 

 礼の言葉と同時に頭を下げる父上に悟空以外の人間が驚きに目を開く。もちろんそれには私も含まれる。普通は社長等の人の上に立つ者が頭を下げることはよほどのことがないかぎりありえない。それも九鬼という世界に渡る大企業の総帥が、だ。しかし父上は簡単に下げた。私のことを思ってかはわからない。だがこんな風に素直に感謝できる人こそが、人の上に立つに相応しいのだろうと感じた。

 

「いいって帝。オラが好きでやったことだしな」

 

「そうか、そう言ってくれると助かる。で、何か礼をさせてくれ。これはウチの家訓でな? “恩人にはもてなしを”ってやつだ。何か希望あるか?」

 

「ん~それって何でもいいんか?」

 

「ぅう゛ん、あまり調子にのるな」

 

「いいんだよヒューム、ほれ気にすんな、何でもいいぞ? 金か?おもちゃか?それとも九鬼とのつながりか? オレ的には九鬼との繋がりかな? オレは悟空が気に入ったから、できたら将来九鬼で働いて欲しいけどな。オレ直々の招待券用意してやるよ」

 

「ん~じゃあさ――」

 

 次の言葉はあの九鬼帝の予想さえ上回るものだった。

 

 

 

「紋とそこにいる紋の母ちゃんとさ、話させてやってくんねぇか?」

 

 

 

 思わず息を呑むほど威力を孕んだその言葉は、私の胸に喜怒哀楽全ての感情を抱かせた。

 

「ほぅ……?」

 

 父上は先程までのほがらかな笑顔を潜め、目を細め鋭い眼差しで悟空を見つめる。母の方に振り向けば父とは逆に目を大きく見開いて驚きを表していた。

 もちろん悟空が放った言葉に一番驚いているのは私自身だ。だが一体どういうつもりで、とういうことで驚いているのではない。いやその気持ちもあるが、その答えはもう自分自身で出ている。驚いているのは悟空が自身への礼を私のために使ってくれたことだ。

 

「んーまぁいいだろ。それが恩人への礼になるなら、な」

 

「へへっ、サンキュー帝!」

 

「つーことは俺らは邪魔者だな。よーし皆解散かいさーん!」

 

 父がパンパンと手を叩くと言葉に従って従者達はササッと流れるようにこの部屋から離れていく。

 

「……いいのか、悟空?」

 

「ん、やっぱお互い気になるなら話し合わなきゃわかんねぇだろ?」

 

「……ありがとう。なら悟空にもお願いがある」

 

 ん?と首を傾げる彼に、

 

「見届けて……くれないか?」

 

「……わかった。しっかり見届けてやっから、胸にあるもん全部伝えちまえよ」

 

「……うん」

 

 その前に予め決めていたことを伝えるため、去ろうとする父たちに慌てて叫ぶ。

 

「ま、待ってください! ……これは母上だけでなく父上にも、姉上兄上達にも聞いて欲しいことなのです」

 

「……そっか。うんわかった」

 

 どこか納得したように言って父はまた席に座る。姉も兄も元いた位置へ戻ると扉が閉まる音がする。ここにいるのは自分と父、姉、兄、それと父の護衛としてヒュームとクラウディオ。そして母と私、悟空だけとなった。

 このままではさすがにいけないと思い、悟空に降ろすよう伝える。それを聞き悟空が膝をついて私を優しく降ろそうとしてくれるが、今まで背負われていた背から離れることに思わず不安を覚える。彼の身体は子供にしながら年月をかけて鍛え上げられたように筋肉がつき硬く、だがその体に宿る暖かさは幼い頃感じた“母”のように眠りを誘う程心地よく伝わってきた。それは自分が感じただけで錯覚なのかもしれない。だが不思議なほど安心できた。そのおかげで今までぐちゃぐちゃだった心が一粒の雫を感じられるほど落ち着き、今までの母への違和感にも気付けた。そして今、母の目の前へ立つ道ができた。

 その勇気を与えてくれた背から降りると自分はまた孤独に戻るのではないか。不安な考えが湧きながらもそれに首を振って降りた。

 改めて覚悟を決め一歩進めようとするが、震えて動かない足に自分が情けなく思う。やはり自分一人ではなにもできないのか。

 

「ほれっ!」

 

 ポンっ

 

「!」

 

 突然背を押され、勢いで一歩と言わず二、三歩も進む。振り向けば悟空が押した状態で笑っていた。それに「あっ」と言葉がもれる。自分で頼んでおいて今さら彼が見守ってくれていることに気付くとは、何と情けない。しかし同時に笑いがこみ上げるほど馬鹿馬鹿しく感じた。なんだ、たった一歩が、いやそれを飛ばして二歩三歩といけるのがこんなに簡単だったなんて。

 

“ありがとう”

 

 口には出さず笑顔で答えて母の前に立つ。足の痛みはいつの間にかひいていた。

 

「……」

 

「……」

 

 お互い何も話さないまま時が過ぎる。悟空以外は皆無表情で事の成り行きを見守っているが、姉と兄はどこかハラハラしているように思える。

 こんなに近くで顔を合わせたのは初めて会った時以来だろうか。私はあれ以来こうやって直接見ることはせずに遠くで窺っていた気がする。今思うと自分に呆れてしまう。当たり前ではないか。知りたい本人の中身(心)を見ずに外側(顔)を見て何がわかるのだ。

 しかし今は目の前で直接見ることができる。後ろに太陽が輝いているみたいに背が暖かく、母の顔がはっきり見える。母の瞳の奥にある思いを探ろうとするが、こちらを見下ろしている筈の目は何故か私を見ずに違う所を映している気がする。

 かまうものか。それならば自分で進みその読めない扉(心)を開くのみ。

 

「母上よ」

 

「――!」

 

 一言。ただ発しただけの言葉に母が反応する。ハハ、おかしいな。いつもの立場が逆転したようではないか。

 

「正妻の母上(義母)が我が母上(実母)を嫌うのはわかっています。私は未熟な身でありますがそのような複雑なものも薄々ではありますが感じています」

 

「……」

 

 ――そうだ、わかっている。正しいのはあっちで悪いのはこっちだ。他人に聞いても普通こちらを非難するものだ

 

「そう、私は未熟です。勉学も、武術も、功績も未熟。九鬼という名には未だ片足も届いていないほど相応しいとは思えない」

 

 ――瞳の奥にある扉は(心)は揺るぎも見えず、氷のように冷たくて重く感じる

 

「それに私は妾の子。九鬼家にとっては不利益にしかならないでしょう……」

 

「……」

 

 ――どうすれば開くのか。どうすれば届くのか。彼の背に頭を埋めながら必死に考えた。走っても走っても背中しか見えずたどり着かない。ならどうすればいいのか?

 

 

 

『ってかむずけぇこと考えすぎだぞおめぇは』

 

 

 

 ――そう

 

「だからこそ“我(・)”は宣言する!!!!」

 

「――っ!」

 

『子供ん時はやりたいことやりゃあいい。んでいっぺぇ心配かけていいんだ』

 

 ――悟空に言われて気付いた。私はつい母を目で追いかけて見ている。

 

「この九鬼という名に相応しい者になることを!!」

 

『親ってぇのはどんなやつでも子供はでぇじなもんさ。必ずどっかで見てる』

 

 ――私は母を見つけることができる。逆を言えば“母は必ず私が見える場所にいる”

 

「たとえ“今”がどんなに駄目なものでも、“未来”でその名に恥じぬ者になることを!!」

 

『けど甘やかせすぎちまうのは駄目だ。子供が自分でやり始めるってのが肝心だし、それに無闇に手助け出してもいけねぇ。自分を作るでぇじな作業……ちゅうやつだっけかな? まぁ本当に手が必要な時に貸してやる。それまでは自分一人で成長させるべきなんだよ』

 

 ――そうだ、いつも見守ってくれていた。自分勝手な妄想かもしれない。妾の子を監視していると言うのかもしれない。だがそれでもいい

 

「たとえ誰かに嫌われても、“その者さえ振り向かせる”ことを!! 九鬼家末子にして九鬼揚羽と九鬼英雄の妹、そして九鬼帝と九鬼局の“娘(・)”であるこの≪九鬼紋白≫がここに宣言する!!」

 

 ――扉が開かないなら、開けさせればいいのだ。向こうから来てもらえるように、見てくれるように。ならばこそ自分はただ前に向かって突っ走る。今度は母が私の背を目で追いかけてもらえるように

 

 そこで一度言葉を止め、いつも懐に入れていたある物を取り出す。刀より小さく、ナイフより大きく、そして命の次に大事なそれを目の前に突き出す。

 

「――ッ」

 

「そりゃ確か……」

 

 同時にもれ出る二つの声。

 

 私が手にしているそれは、母が形見として残してくれた赤と白の鈴緒が結ばれた一本の白い小刀だった。一見ただの棒に見えるが、素人でもわかるほどの雰囲気を纏っている。シンプルでいて繊細に、そして極限まで突き詰めただろうそれは、木の材質も作った職人も纏う空気さえも普通の小刀とは別格だった。

 

「これは九鬼の血を継ぐ者の証と、その覚悟です」

 

 儀礼用に作られたのではないかと思うほどに神聖さをもつそれを右手で抜く。しかし抜き放たれた刃は光で見えないほど反射する。一瞬の閃光のあとに感じるのは龍の咆哮。棟(刃とは逆の部分)の側面に白く彫られた龍の光沢が印象的な小刀だった。

 それを迷いなく額に当てる。

 

「ッ!? まッ――」

 

 母上が私がしようとしていることに気付き手を伸ばしてくるが、それよりも早くに左から刃を斬り上げた。それほど力を要れなかった小刀は、しかし音もなく額に綺麗な一本線を描いた。母の手が驚き止まるが構わず刃を返し、始めの傷に対して縦に引いた。

 

 刃を鞘に収め驚きに目を開き固まっている母にさらに一歩近付き、瞳を覗く。

 

 ――フフ、こんな母上は初めて見た

 

 初めて見えた母の心。それに嬉しく思いながらも、一番大事な言葉を告げる。

 

“ありがとう”

 

「――あっ」

 

「これからもよろしくお願いします」

 

 見守ってください、とはさすがに言えないのでそれだけを言い反応を待つ。周りは以前静かだがおそらく驚いているのだろう。だがおそらく一人、もしくは二人だけは違うのかもしれないが、おそらく二人とも笑っているのだろう。それがわかるほど私の心は生まれ変わったように澄んでいた。いや実際に生まれ変わったのだ。≪くき紋白≫という不安定なものから≪九鬼紋白≫という九鬼家の一人として。

 

「……」

 

 もらした言葉を手で隠していた母上はしばらく口をもごもごとしていたがその目は今私を、私の瞳と繋がっていた。

 

「……そう」

 

 ふいに母上はそう呟き、出入り口に向かう。

 届かなかった。確かにこれは一方的な宣言で自分勝手なものだ。だけどそれでいい。いつか必ず届けて――

 

「頑張りなさい、“|紋白(・・)”」

 

「ッ!!」

 

 はじかれたように振り替えるも、母上は変わらず歩いていた。聞き間違いかと疑う自分に、いいや違うと嬉しく思う自分がその疑いを散らせた。

 そして何故かこの時、姉上と兄上が言っていたことが思い浮かんだ。

 

『母上は、照れているだけだからな』

 

 落ちる雫を見せないよう頭を下げる。

 最後まで貫き通そうと目に力を入れながら、その背を見送った。 

 

 

 




 一応次の話書いたら黒バス頑張ろうと思います
 同時更新は意外と大変だった(まる)

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