真剣でオラに恋すんの?GT   作:縦横夢人

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あけましておめでとうございます。
この際「遅いよ!」というのはご勘弁を。
さて、最新話を更新させていただくのですが、まずは謝罪を。
大晦日に更新した話でややこしくさせてしまってすみません。感想でも頂いたようにああいうのは別のとこでやるべきでしたね。
それともう一つ。その時に二話同時更新するという話もさせてもらいましたが、作者がインフルエンザにかかってしまい、そのせいでまだ続きが書けていません。今もまだ続いているのですが、遂には一月が過ぎ二月になってしまいました。これ以上皆様を待たせるのも心苦しいのでこの一話を更新させていただきます。同時更新はまた今度頑張ってみようと思います。
では長々とさせていただきましたが最後に、
“恐竜がい~たら~、た~まの乗りし~こみた~いね~♪”




第12話

 揚羽は目の前の出来事に驚きを通り越して放心していた。いや、見惚れていたとも言えるのか……。

 彼女はこの中でも唯一マスタークラスに近く、それ故に全く見えなかった切道や護衛達と違い悟空の姿を微かにではあるが追えていた。悟空がやったことは何も難しいことでは無い。ただ一瞬で背後に回り、神経の集まる首を狙い手刀で意識を断ち切ったのだ。大の男を一発で倒したことや銃弾を掴み弾くこと、そして今のも含めても、己がもう少し修練を積めば出来るだろう。やろうと思えば数体の残像を出すことも可能だろう。。ただし、“()()使()()()の話である。

 つまり悟空は“気”を使っていなかったのだ。

 揚羽自身、彼から一般の人と何ら変わり無い“気”しか感じたことがないので何とも言えないが、今さっきの動きで“気”を使った様子が無いのだ。悟空から感じる気は最初と変わらず少量だ。……ただ違和感がある。悟空の全身(・・)から同量の気を均等に感じるのだ。

 熱を測るサーモグラフィーを思い浮かべてもらえばわかりやすいだろう。武に触れたことが無い一般人の気にはムラがあり、体温のように部分々々で色が違ってくる。手足や皮膚から身体の中心に向けて熱が高く、赤くなっているのと同じである。例外は頭や脇だが、気も同様に体のそれぞれで高低があるのだ。それを整え、身体を操ることが武の本分でもある。通常では割れない岩でも、手に気を集中させ拳を放てば割れるようになり、また脚に集中させてジャンプすれば何倍も跳べるようになる。余談だが、これは自分の体内の力故に普通の人でも修行を積めば意識してできるようになるが、気の放出は体外という自分の意識では届かない場所なので操ることが難しい。それ故にこれができる者はそれなりの実力があると見ていいだろう。

 話が逸れたがしかし、悟空の気は一般人と同じくらいの量でありながら整えられていたのだ。それはもうキレイな一色で、手足はもちろん指先にまで行き渡っており、目隠しされても認識できるほど形になっていた。

 

「ふぃ~。さーってと、あとはおめぇだけだな」

 

「……」

 

 悟空は肩を回して切道を見る。まるで準備運動が終わったかのような言い方だ。そう聞こえるのは我々の心に落ち着ける程の余裕ができたからか。

 切道は応えない。あの場を支配していた圧倒的有利な状況から一転、自分一人になってしまったのだ。いや、まだ裏道の部下達が下の階を制圧しているはずなので油断はできないが、大本を断ち切れば自体は治まるはずだ。

 

「…………はぁぁぁ……」

 

 だがしかし、切道は諦めたようにタメ息をついた。それはもう残念そうな様子がありありと顔に出ていた。これほどまでに素直な表情を出されると逆に疑わしくなってしまう。

 

「あー残念、誠に残念だ。まさか私の部下をこれほど簡単に制圧してしまうとは……」

 

 ヤレヤレと文字通りお手上げの状態で溢す切道。まぁそれも仕方ないだろう。自慢の部隊がこれほど簡単にやられれば、怒りよりもむしろ呆れや無気力感が湧いてしまう。

 

「せっかく長年かけて立てた計画をこんなにあっさり、しかも子供にやられると逆にもうどーーでもよくなってしまった。逆に拍手を送りましょう。パチパチパチパチパチパチ……」

 

「いや~それほどでも~」

 

 切道の賞賛に満更でもなさそうな悟空。頭をかく姿は先程場を圧倒した者とは思えない、いつものマイペースな悟空だった。

 切道のあの表情……嘘はないようだ。揚羽自身の相手の表情を読むスキルは切道には通じないが、身体に宿る気が怒りで乱れていない。切道自身が言うように諦めたようで、これ以上事を起こす気はないようだ。自分の戦力と相手の戦力を正確に測る頭といい、期を見て決める決断力といい、諦めの良さといいさすが裏の大企業を継ぐ者と言うべきか。

 

「あ~あ、せっかく長年立てた計画がパァだ。もうどぉーーでもいいや――」

 

 しかしあぁ、これでやっと終わるようだ。長かったこの事件も、裏の危うさと己の無力さをかみ締めながら、死人も出ず無事に終わったことに安堵して、

 

 

 

「全部壊せばスッキリするだろぉ、なぁ?」

 

 

 

 切道がポツリと溢した言葉と同時、静寂を押し潰すようにガゴゥンッと重い音が響く。音の先を見れば食材や物資を運ぶ為であろう上下に動くアップスライド式のドアに、従業員用も兼ねた大型エレベーターがあった。上から何か降りてきているようで、段々と音が近くなってくる。だが余程重いのだろうか、所々でガガッと突っ掛かる音も聞こえてくる。

 やがてポーンと場に全く似合わない到着の音が鳴る。全員の視線がその先へ釘付けになる。だがしかしドアが開いてこない。一拍、二拍と静かな間が続き、誰とも知らずゴクリと喉を鳴らす。唯一知っているであろう切道は顔に手を当てたまま俯いていた。

 英雄や紋白の顔に冷や汗が流れる。だが揚羽にはその倍以上の汗が表れていた。それは揚羽だからこそわかった何か(・・)を感じたのだろう。顔を青ざめながら逃げろと叫ぼうとして、しかし口が震えて上手く言葉が出なかった。背中越しにいる英雄はそんな姉の様子を知らず、チラリと目だけで悟空を見た。そこに笑顔はなく、目を細めて体を開き、不動の構えをしていた。

 嫌な静寂が続く。しかしそれは――、

 

 ズッ――ドガァァァァンンッッッ!!!!!!

 

 エレベーターのドアと共に破られた。

 ≪ソレ≫はドアを破片を頭に煙を纏って現れた。そのスピードは悟空と同等か、ドドドと地鳴りを上げて来る様はまるでSLのようで速く重いという印象を抱かせた。そのまま揚羽達の目の前を通り過ぎ、壁に激突する。

 

 もうもうと立ち込める煙の中、隙間から見えたのは靡く白と金色の光だった。

 やがて煙が晴れていき、その姿が見えた。

 

 それは“バケモノ”であった。

 通常の人の……いやライオンの3~5倍はあろう巨大な身体。その上から覆う硬く刺々しい金色の鎧はその身体をさらに大きく、触れることさえ憚れる様な圧力を増させた。隙間から見える白い体毛とそれに隠れながらも雄々しい筋肉を備える四本の脚は、人間ではありえない軌道と速度を可能にさせるものだった。靡く白い尾も一つ振られればブゥンとムチを超えハンマーの如く人など簡単に吹き飛ばせるであろう。

 なによりも≪ソレ≫を際立たせたのは顔だった。顔を覆うその金色の兜と額に輝く一本の角は、己が頂点であるように雄々しく、全てを切り捨て、貫くだろう。さらにそれを後押しするように体毛とは違うもう一つの白、口から生えた獣特有の鋭い牙と喉を震わせて聞こえてくる唸りが空気をも震わせているようだ。

 ……そして一番と言えるのが、その兜の下から覗く鋭く細められた紅い目。目の前にある全てを引き裂く、と断言しているような縦に裂かれた血のように赤い……紅い瞳だった。

 その瞳に睨まれただけで英雄達の体は石のように固まった。唯一動けそうな揚羽にもまるで水中にいるかのように重圧と息苦しいさがその身に圧し掛かっていた。

 だがそれよりも――

 

「悟空ッ!!?」

 

 紋白が思わず叫ぶ。

 ≪ソレ≫通った道は嵐の如く荒らされ、斜線上にいた悟空の姿は消えていた。あの壁の壊れ具合を見れば嫌でも考えてしまう。いくら悟空でも、不意にあれほどのモノに突撃されれば……と。

 

「ふぃ~危ねぇ危ねぇ」

 

 しかしのんきな声は≪ソレ≫の横から聞こえ来た。壁とソレ≪・・≫の頭との間には何も居らず、≪ソレ≫がこちらに振り向いた顔のその横に、悟空はぶら下がっていた。

 

「ヴオゥッ!!!」

 

「のわわっ!?」

 

 悟空に引っ付かれているのが嫌なのか、ブンブンと何度も頭を振るケモノ。その一振り一振りは風圧は凄まじく、離れている英雄達でさえ押し飛ばされそうだった。

 さすがの悟空も遂には引き剥がされてしまった

 

「っとと、すげぇなこいつ……」

 

「ッ?! 悟空、その傷は!?」

 

 ポタ、ポタと腕から伝うそれはまさしく血。その本を辿れば二の腕の辺りから垂れており、そこには皮がめくれて赤くなった傷があった。

 

「へへっ、ちょっちかすっちまった」

 

 かすっただけであの威力かッ!! 戦慄する揚羽達をよそに、≪ソレ≫はザッと四肢を伸ばして咆哮する。

 

「――――――ァアッッ!!!!!!!」

 

 雷鳴の如き咆哮。その声は全ての人間の身体を震わせ凍らせる。今度のものは揚羽も例外ではない。何故なら揚羽でさえ怯ませるそれは生物の上位種がなせる“本能”への威嚇だからだ。

 その中でも動けるのは発したモノ自身とそれの上位と認識されている者、そして我らが孫悟空だけである。

 天変地異の叫びと共にそのケモノは獲物と定めた悟空に飛び掛った。さすがに悟空でも当たればないだろう、避けることに専念していた。

 呆然と眺めていた今まで俯いていた切道が開いた口からククッと小さく溢し、次いで顔を勢いよく上げてその嗤いを爆発させた。

 

「クッ……クク……クククヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャハッハァッ!!!!!!

 

 やーちまったやっちまった~♪ 思わずボタンをポチっとなぁ!! 箱から飛び出てジャジャジャジャーン!

 どうだ? 最高だろ?」

 

「……アレ、は……アレは何だ……答えろ、切道ぃいッッ!!!」

 

 震える唇を血が出るほど噛み絞め、痛みで無理矢理動かし揚羽は切道に叫んだ。

 

「戦犬、又は軍犬は知ってるな? 戦事や軍で使われる調教された犬、それがアイツだ」

 

「そんなことは知っている!! だがあれは……ッ」

 

「そう、もちろんあれはただの戦犬じゃない」

 

 視線の先には自らが育てた自身傑作の攻撃に悟空がひたすら避ける姿。気付けば悟空は柱に追い込まれ、そこに容赦なく襲い掛かる牙。悟空はギリギリで避けたが、その牙は止まることなく柱に噛み付いた。普通ならばこのタワーを支える一柱だ、犬の牙では到底ヒビを入れることはできず、逆に牙が折れるだろう。

 しかしその牙は柱へと沈みヒビを作ったのは一瞬、メキメキという音もたてず噛み砕かれた。

 

「アレにはある因子を組み込みましてね?」

 

「因子?……つまり細胞を埋め込んだ……アヤツを実験体としたのか!? 貴様それでも人間か!!」

 

「おっと、今さら非人道的とか言わないでくださいよ~。そんなのまさにい・ま・さ・らですから。この世の中にはそういうこともいっぱいあるんですから。

 まぁでも今まで行われた凡人のようなものではなく、私の画期的なオリジナルですけど、ね?」

 

「オリジナル……だと?」

 

 未だ言葉調子の直らないまま――いや、我々と会うまでにもうすでに壊れていたのかもしれない――切道は嬉しそうに小躍りして続ける。

 

「見つけたんですよぉ! 二億五千万年前に誕生して六千五百年前の白亜紀に絶滅しながらも、未だ現代に骨が残るほどの強靭な身体を持っていた、生物の上位種にして頂点に立つモノ――」

 

「……まさかッ!?!!?」

 

 ソレに気付いた揚羽が驚きの表情で振る返る。そこにはニヤっと頬が裂けんばかりの表情で切道が嗤っていた。

 

「そう!

 

 

 

 ――“恐竜”だ」

 

 

 

 そこには破壊の音を景色に、静寂が世界を満たしていた。

 誰も言葉にならない、いや何も考えられないと言った表情で切道を見ていた。

 

「しかもただの恐竜じゃない、未だ誰も発見していない未知の恐竜だ!……いや、恐竜と呼べるかは怪しいかな?」

 

 揚羽でさえも声にならず瞳を震わし、切道を見ているだけだった。それに気付いているのかいないのか、自分の世界に入った切道は一人自慢するように語る。

 

「そいつはな? 身体の一部はいくつか欠損していたが、骨だけじゃなく身も残っていたんだっ! それもいくつかはまだ新しいまま、まさに奇跡だったよ!

 何よりも驚嘆したのがその姿! 弱肉強食であるジュラ紀や白亜紀でも恐竜相手に引けを取らず生き残っていたであろう、狼型の新種! ダイアウルフの始祖だろうか?いいやそんな生易しい存在ではない、調べれば調べるほどそのすごさがわかる! 恐竜に負けない皮膚や牙、爪等の外的能力はもちろんそれを自由自在に扱える筋肉や五感等の内的能力も既存の物と比べるのがおこがましいほどさぁ!!

 いやー研究者をかじっているオレでもその異常性が理解できますよ、うん。もしかしたら恐竜時代の歴史を覆すかもしれない発見だ」

 

 ――だからこそ面白い

 

「ボクは≪Dinosaur The “Я”ebairth≫計画、通称“|Я≪リバース≫”計画を立て始動した。

 そしてオレはそいつに狼の頂点にして竜に相応しい“王”を文字をつけた≪王狼(オウロウ)≫と名付け、子孫であり血統と身体のポテンシャルが高い数体を選び、そこに王狼の因子を組み込んで薬で増強し、そしてそしてもう一つの研究成果である“気”をも組み入れ完成されたのが……あれだ!」

 

 切道が指す先には逃げ回る悟空を追う狼。一つ駆ければ風を裂き、二つ駆ければ地を砕き、三つ駆ければ天が轟く。嵐のようなその姿は神話の戦狼“フェンリル”のようだ。

 

「アレはオレ以外の命令は聞かない。作り出して調教した“親”であるオレ以外は、な」

 

 “親”

 その言葉が一番胸に深く突き刺さったのは紋白だった。“親”……とりわけ“母”という言葉を彼女はよく知っている。いやよく調べたから、と言うべきだろうか。自分も母――局に認めてもらうために。

 だからこそ先ほどから≪オウロウ≫に感じていた違和感……いや何故か痛いほど胸に響くその声は自分のよく知っているものだった。そしてその瞳の奥にあるモノも……。

 故に、

 

「違うッッ!!!」

 

「あ?」

 

 叫ぶ。死の恐怖を乗り越えてでもそれを否定しなければならなかった。

 

「“親”とは……“家族”とはッッッ!! そのような縛って、従わせて、服従させるものではないッ!!

 ……決して、ないッ」

 

 最後は搾り出すように言った言葉。それは紋白だからこそ言える言葉だった。

 

「……へー、で?それで? よそはよそ、ウチはウチってやつさ。そっちだってそういうのあるでしょう?

 まっ、そんなことはどうでもいいじゃん」

 

 その言葉に切道がどう思ったかはわからない。だがそれでも変わらず余裕を持って皮肉で返す。

 

「現実は残酷なんですから」

 

 いつの間にか破壊音は止み、一人と一匹は向かい合っていた。片方は身体の数箇所に掠り傷を作りながら、もう片方は鼻息荒く目の前の獲物を見ていた。いや、その焦点は所々でブレており、正気と狂気の狭間にいるのがわかる。これだけを聞けばどちらが危険かわからないが、どちらも危険だと断言できる。  

 フゥッ、フゥッ、フゥと過呼吸のように繰り返す王狼を見て悟空は何を思うか。しかし紋白だけは祈るように願った。悟空を無事を。そして――あのモノに救済を。

 

「……はぁ~~~~っ」

 

 果たして祈りは届いたか。

 悟空は唐突にタメ息を溢した。

 ガリガリと頭を掻く。特徴的なくせっ毛が雑草のようにガサガサと揺れる。

 それは諦めからか?NOだ。面倒くさいからか?NOだ。

 

「――あんま傷つけたくねぇんだけどなぁ」

 

 ポツリと小さく呟かれた言葉。それを聞き取れた人間はいない。そう、目の前にいる獣以外は……。

 

 

 

 ブワッと空気が変わる。極寒の寒さから、段々と暖かい熱さへと。中心にいるのもちろん悟空。だがそれだけだ、ただ空気が変わっただけではあの王狼には勝てない。切道は絶対の自信を王狼に持っていた。

 しかし揚羽や英雄、そして紋白の心は不思議と安心していた。

 

 同時に不思議なことが起こった。

 ……震えている。あの王狼が傍目にもわかるほど震えているのだ。その目は見開かれ、何処か畏怖の思いで悟空を見ているようだった。

 

 

 

 ――意識だけの暗い世界。王狼が見ていたのはただの一人の少年ではない。その瞳には地球のに存在する上位種である自身――恐竜でさえも超えるものが映っていた。

 自身の四、五倍はあろう巨大な体躯。その大きさからくるであろう巨腕巨脚、そして雄々しい尾。毛むくじゃらな茶色の体毛はそれだけで威圧感を増させる。そして突き出た口に牙はまるで己を大きくしたようなものだ。

 その姿は猿鬼。通常ではありえないそれが目の前の小さな少年から出で立つ姿。その全身から溢れ出る威圧感に自身は気圧されていた。

 そしてなにより己と同じ、それでいて全てが紅い瞳。見つめられたその瞳からは、理性をなくした狂気だけが思い浮かばされた。

 この瞬間、この世界の地球の上位種・恐竜が宇宙の戦士、サイヤ人に敗北した瞬間だった。

 身体が負けを認め、力が抜ける。弱肉強食の世界で生きた彼だからこそ、その身を勝利者に捧げるのだ。例えそれが、以前のように無理矢理従わされた理不尽相手でも……。

 猿鬼がこちらに手を伸ばす。その巨腕で押し潰すのか、はたまた掴み上げられその口に入れられるのか。恐怖から目を逸らそうとするが、不思議と相手の目に引き込まれた。

 

 しかしその手は優しく頭に置かれていた。――気付く。その紅い瞳の奥に、やさしい光が見えていた。そのまま撫でられる。硬い豆が残る手はごつく、撫で方も少し雑だったがこんな風に撫でられたのは初めてだった。

 だんだんと身体の内にあった痛みが和らいでいく。暖かい。まるでいつも見上げ憧れていた、あの青空に咲く太陽のようだ。目を閉じれば草原に立つ自分、心地よい風、そしてお互いの首に顔を埋め、擦り付けあう似た顔の|映像≪ビジョン≫。知らないはずなのに知っている。だが疑問さえ湧かず、むしろ懐かしい気がして知らず涙を流す。

 

 同時に上から光が注がれる。撫でられながらも片目を開けば、そこには長い、長い体を持つ緑の龍が存在していた。こちらを見るその瞳はまるで子を見守る母のように優しかった。

 遂にはこちらを包むように龍は旋回し、光が大きく空へ立ち上る。

 

 意識が途絶えていくのを感じながら最後に見たのは、光を放つ龍でもなければ照らされた金色の猿鬼でもなく、ただただ己より小さい、しかし大きい少年だった。

 

 

 




ポケモ……ん゛ん、ペットゲットだぜ!

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