真剣でオラに恋すんの?GT   作:縦横夢人

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就職で忙しいので、中途半端に切ってしまいました。
森羅とエリカのキャラはこのまま行かせて下さい。何か三人共同級生みたいに思えて、だからもっとフランクに話させたいと思えました。まぁこっちの都合ですけどね。
まだ続きますよ、ごめんなさい。

ではどうぞ


第11話

 

 

 ――あやつを初めて見た時に感じたのは何だったろうか? ……あぁ思い出した。怒り……いや憎しみだったか? 今思えばあの時はまだまだ子供だったなと笑えてくるわ、フハハハ!

 

 ――紋を背負って我ら家族が集まった部屋へ来るあやつはまさに子供であった。いつも笑顔で……というか今と変わらずのん気に笑っておって楽しそうだった、ハッハッハ。うむ、その時はまだそやつのことを読めなんだから何とも言えんかった。ただ……ただッッ、背負った紋と喋る姿を見てすぐにわかった。あぁこやつムカツク、とな。こんなシリアス全快(父上以外)の場所でマイペースに話すのもそうだが、何よりあやつと話す紋の姿が今でも忘れられん。

 

 ――笑っておった。無理した顔ではなく、純粋に、楽しそうに笑っておった。紋の事情は父上から聞いていた。別段そのことに何か思うことも無く、むしろ妹ができるのが嬉しくて大歓迎であった。紋が来なかったら我は九鬼家の長男ではなく弟として見られておったからな。男としてはやはり兄と呼ばれる方が嬉しかった。それ故兄の責任として紋が早く九鬼に馴染める様に我も姉上の頑張った。こ・れ・が・まっ~~~~~~~~~た可愛くてなぁ! 初めて来た頃なんか九鬼に早く馴染めるよう表ではピシっとしながらも、我らの前ではパァっ嬉しそうに笑うのだ。うむ、あれが俗世でいうギャップ燃えというものだな!(注:間違いです) 他にも我らの後をテトテトとペンギンの様について来たり、好物のパフェや金平糖を嬉しそうに食う姿は至宝ものだ。他にもなぁ……(この後延々と続くので以下略)

 

 ――だが、母上は紋の前で笑わなかった。母上は純粋に父上を愛しているからこそ自分以外の女の血を毛嫌いしておった。その母に何とか認めてもらおうとする紋の姿は、我らでさえ痛いほど感じた。紋は母を笑わせるために――認めてもらうために、それこそ自分が笑う暇も泣く暇もなく頑張った。しかし、それが逆に九鬼としてのプレッシャーとなり紋の心を追い詰め閉ざさせてしまった。我らとしては紋には九鬼としてではなく、年頃の女の子として生きて欲しかったのに、な……。

 

 ――その紋が苦笑しながらも楽しそうに、作り物ではなく本物の笑顔で笑っておった。その時の我の気持ちは如何ともしがたい複雑だった。まぁ主にあのヤロー紋に馴れ馴れしく触れおって、しかも顔が近い近い近いっ!気安く我の妹に触るな触れるな引っ付くなぁぁぁぁあああ!!とかだったな。しかし同時にもやもやとしたしこりが残っていた。何とも言えないもどかしい気持ち。それを吐き出すようにあやつに当たっていた。醜いと自覚しながらも……な。

 

 ――あぁ、そうだ。だからこそあの事件のあの時、我らではどうしようもなかったあの状況で紋を抱えて現れ、敵の裏導にさえ笑って返すあやつを見てそれの正体がわかった。なんてことはない。それは誰もが持ちえるものであり、今の我を形作ることになったもの。

 

 ――“憧れ”だ。悪く言えば“嫉妬”だな。あやつは我らにできないことをやってのけてしまう。紋を笑顔にすることもしかり、母上と話させることもしかり、そして今度の事件もしかり、な。

 

 

 

「待たせて悪かったな。英雄、揚羽」

 

 紋をゆっくりと降ろした悟空は今の状況を理解しているのかいないのか、軽い笑顔を英雄に向ける。当の英雄は理解が追いついていないのか呆然とした瞳で悟空を見ていた。いや英雄だけではない。揚羽も、あずみも、参加者もその護衛も親衛隊も、そして今まで動揺さえしなかった切道でさえも呆然としていた。それも当然、何の前触れもなく突然悟空が現れたのだ。まるで始めから悟空がいたように時が切り取られ、張り替えられたように。

 その中で最初に声をもらしたのはもちろん――

 

「姉上、ご無事でしたか!」

 

 悟空と共に現れた、裏導によって誘拐されたはずの紋白だった。

 

「!? 紋白、無事であったか!!」

 

「おぉ紋!! ケガはないであろうな!?」

 

 続いて揚羽が紋白がいる場所へと駆け、胸に溜まった心配を晴らすように思わず抱きつき、安心したのか大きいため息を吐いた。改めて紋白の身体を見渡す。多少着物の端が破れているが、傷跡らしきものは見当たらなかった。

 

「はい、我は大丈夫です! それより兄上の方が……」

 

「なに、っ……多少痛むだけだ、この程度叫ぶまでも無い……」

 

 そんながわけあるか、と揚羽は言えなかった。今の紋の顔は目が小刻みに震えて涙腺が決壊しそうなほど不安な顔をしている。それ以上余計な心配をかけるわけにはいかないと英雄が我慢していることは揚羽もわかっていた。故に何も言うことができず、破った服の端で英雄の腕を絞めながら話を逸らそうと紋白に疑問に問う。

 

「しかし紋よ、お前は一体どうやって……」

 

「それは、まぁ、なんというか……悟空が助けてくれたのです」

 

「……悟空が?」

 

 歯切れが悪いながらもそう話した紋白の言葉に訝しみ、思わず悟空を見る。

 その悟空は英雄の前に膝を着いた。

 

「……」

 

「……悟空」

 

 笑いを潜め真剣な顔でじっと英雄の顔を見る悟空。英雄は今まで見たことのない悟空の表情と、先ほどまで死に直面していたのに静かなくらい落ち着いている自分の心に驚きながらも悟空を見つめ返した。

 五秒くらい見詰め合っていたが、唐突に悟空がいつものように、にっと笑った。

 

「うん、よくやったな英雄。おめぇ“強ぇ”な!」

 

「……!?」

 

 “強い”。こんな様でいながら強いと言われた。それを悟空から聞いて英雄が胸に抱いたのは嬉しさだった。英雄自身もわかっている。悟空が言った強いは“身体による力”のことではなく、“心の力”だ。それを憧れの――“英雄(ヒーロー)”から言われ、英雄は思わず目元から光が伝った。

 

「揚羽も無事みてぇだな」

 

「あぁ、紋が人質にとられて何も出来なかった。が、無事なら安心して反撃……といきたいところだが、未だに状況は改善されていない。未だ他の参加者達が人質として拘束されている。これからどうやってこの場を脱するか……」

 

「ん、オラが何とかすっから」

 

「そうか、ならば頼む。我は…………ん? んん!? おい悟空、ちょっと待て!!?」

 

 コロっと音が聞こえそうなほど軽くこぼした悟空の言葉に揚羽は呆然としていたが、立ち上がり前に出る悟空の姿を見て静止を呼びかける。しかし悟空は口角を上げて笑うだけで止まる気はないようだ。

 

「……悟空」

 

 悟空の背に英雄が思わず手を伸ばす。それに気付いた悟空は撃たれた右肩にポンと手を置いて英雄を見る。黒色の丸くて大きな、それでいて真珠のように曇りない眼が英雄の目に映りこんだ。

 

「へへっ、大丈夫だって!」

 

 確信も無いその言葉、それに不思議と安心している自分に英雄は驚いていた。さするその手は太陽のように暖かく、撃たれた右肩に渦巻いていた灼熱の痛みが和らいだ気がした。

 

「紋と英雄、頼む」

 

「待て悟空、おい!!」

 

 大丈夫だ、悟空はもう一度そう言って言って切道の方へと向かって行った。

 

「悟空っ!! ……っくそ、紋からも何とか言わんか!」

 

「……大丈夫です」

 

「?」

 

 揚羽がその言葉に訝しみ紋白を見る。彼女の顔には不安や恐れ等は無く、何処か安堵と呆れ、そして期待が入り混じった顔をしていた。

 

「あやつならやってくれる……そんな気がしてなりません」

 

 その言葉に揚羽は以外にもすんなりと心で納得していた。

 それは英雄も同様だった。思わず押さえていた右腕をギュッと握る。

 

 不思議と痛みは無かった。

 

 

 

「わりぃな、待たせたみたいでよ」

 

「……君、いったいどこから来ました?」

 

 驚いていた切道だがさすがというべきか、すぐさま頭を回転させて如何にして悟空がここへやって来れたのかを問うてきた。

 

「ん。ちこっと気使って、な」

 

 先程の紋白達と話していた時の顔とは違い、目を細め今までで見たことが無い真剣な顔で切道を見る悟空。この圧倒的不利な状況を理解しているのかいないのか、そんな子供を切道は不思議に思いながらも興味を持った。

 

「うん、面白いね君! この状況でも堂々としているし、目にも恐れや震えが見当たらない。

 どう、君ウチに来ない? 今その歳でその度胸、そしてここへ来れたその能力は惜しい。ここで散らすのももったいないし、ウチならその力を十分に発揮できる。どう?」

 

 子供のように嬉々として語る切道だが、この状況では提案ではなく命令に変わらない。普通の人ならば“YES”と答える。

 が、

 

「わりぃな、それりゃきねぇや」

 

「……それはまた、どうして?」

 

 断られても切道の顔に変わらない。だが声の質が僅かに変わったことをこの場の全ての人間は悟った。

 

「約束があっからな。“ずっと一緒にいる”ってさ。だから守んねぇとさ」

 

 悟空が指す“約束”。それを言葉から察した切道が悟空の後ろを見る。そこに心配そうにしている九鬼姉弟、そして唯一揺るぎ無い瞳をしている紋白が目に入った。

 

「そうですか、残念です……」

 

 これまででは珍しく、切道が素直に残念そうな顔をする。

 

「けど、やっぱりその力は惜しいなー。

 ……うん決めた。ねぇ君、えぇっと確か孫悟空……だったね? 西遊記の主人公と一緒とは珍しい名前だね。今ウチでは“気”の研究をしていてね? 兵に様々な用途や応用をさせているんだ。内気功、外気功、身体強化、回復、とまぁいろいろと研究しているんだよ。その中でも今の君の技は見たことが無いものだ!

 あぁ、ごめんごめん。研究のことになると熱が入っちゃうからね。ほら“気”とか男なら子供の頃から憧れるものだろ?

 まぁ結局何がいいたいかと言うと――」

 

 ――“答えは聞いてない”ってやつだね

 

 切道がピッと二本指を悟空に指すと、一人の親衛隊が取り押さえるために向かう。通常よりも一回り大きい男が悟空の前に立てば、その差は歴然。実際大人一人分ほどの身長差が悟空と男にはあった。はたから見ても悟空と男の力の差も歴然で、まさに大人と子供で争うようなものだ。

 誰もが悟空が拘束される未来を見る。揚羽等はその後に起こるだろう最悪の未来さえも幻視してしまい思わず駆け出そうとするが、今自分がここを離れれば英雄と紋白から離れ危険に晒すことになると理性が押し止めた。

 故に見ているしかない。残り後5m、3mと近付き、あと一歩というところでその巨大な両の(かいな)が伸ばされ、悟空の姿を覆い隠す。届くのも時間の問題であろう。

 

 ――そう。届けば、の話である

 

「――――」

 

 ……男の動きが止まった。五秒、十秒と経ってもピクリとも動かない。

 

「……? おいどうした? こちらに連れて来い!」

 

 切道の呼びかけにも応えない。これには全員が訝しむ。彼ら親衛隊には切道の命令は絶対にして不動の定理。どんな命令でもそれを実行する動きはまさに板状の駒のように性格で無駄が無い。だからこそこの状況は不可解だ。

 故に全てが終わった後、男に対しそれなりの処罰を与えることを考えながら切道がもう一度命令を下そうとする。

 が、それは叶わなかった。

 

 ドサリと男の身体が崩れ、四つん這いに倒れた。

 

「なぁっ?!」

 

 切道が驚きに目を見開き、思わず驚嘆の声がもれた。

 それは回りも例外ではない。悟空の悲惨な未来を幻視した者達は、いったい何が起こったのか理解できないでいた。

 

「――っとと、悪ぃな。ちょっと(リキ)入れすぎちまった。まぁけど――」

 

 男の体の腰がノソリと不自然に起き上がり、

 いや、唯一それを見れたのは悟空の後ろで見守っていた。揚羽、英雄、紋白だけだった。ただ悟空がしたことは何てことは無い、だがありえないものだった。

 

「――オラもちょっと頭にキテっからな。手荒になっちまうけど勘弁してくれよ」

 

 一撃。右拳による腹部への一撃で倒してしまったのだ。だがただの一撃ではない。その威力は防弾チョッキをきたガタイのいい男が倒れるほどだ。

 

「……また何かしたのかもしれません。これ以上何かあると計画に支障をきたします。もういいです、この計画さえ達成すればその後に時間は十分あります。彼のような特殊ケースは後々探すとしましょう」

 

 切道が手を上げる。それに合わせて親衛隊たちが前に出て銃を構え出す。

 

「揚羽さんだけでいいです。あとの三人は片付けなさい」

 

「悟空逃げろ!」

 

「……」

 

 悟空は動く様子はない。ただ半身になり左手を前に出しただけだった。

 だが何故か、その黒い瞳に睨まれただけで切道の背筋に寒気が走った。それを振り払うように手をかざした。

 

「やりなさい!」

 

 咄嗟に揚羽は紋白と英雄を自分の身体で隠し、来るであろう痛みに備える。

 途端に鳴り響く銃声の嵐。ドとダとパを合わせた音を鳴らして発射された弾丸は、続けてガラスを割り壊す音と混じって逆に高く響きあい、音にならない音を作った。

 

「……バ、バカな!?」

 

 しかしそれは、揚羽達の身体を貫くことはなかった。

 痛みが来ないことを不思議に思いながら、揚羽達は二人の方へと向く。悟空に動きはなかった。未だに左手を伸ばしたまま不動であった。

 

「全部で120ってところか……」

 

 ――その手から、パラパラと弾丸が零れるまでは。

 

「か、片手で自分達に当たる弾丸を全て弾いた……だとっ!!?」

 

 悟空の足元には弾丸が転がっていた。数にして100発程だろうか。そして悟空が落としたものが20発、合わせて約120発。つまり悟空には全て見えていたということになる。

 切道や親衛隊、参加者、そして近くで見ていた紋白と英雄にも何気なく右手を伸ばしたことしかわからなかった。だが唯一、マスタークラスに近い揚羽の目だけは捉えていた。

 しかし揚羽も信じられず、納得もできなかった。先程の一撃も子供の一撃で倒すことは出来る。“気”を使えばいいのだ。それはあの川神院で次期総代と名高い孫の川神百代にも、そして己にもできることだ。だがさっきの悟空の一撃には気を使った様子は見えなかったし、今も気の壁を作ったということもなく、はっきりと認識できなかったが左手を高速で動かし掴んだのだ。自分の目でもブレていることしかわからなかった。つまり先程のも合わせ、悟空は素の身体能力だけで男を倒し、弾丸をつかんだことになる。

 揚羽自身も銃口から予測弾道を割り出して斜線上から避けることで回避は出来るし、“気”で身体強化を行えば掴むこともできるかもしれない。またヒュームやクラウディオほどの者ならば“気”を使わずとも複数の銃口に囲まれても見ずとも空間把握などで回避や掴むことも可能であろう。だがそれは何年、何十年と修行や経験を積まなければ習得できない技能だ。

 だがその事実は揚羽の頭をさらなる混乱へと落とす。いくらなんでも鍛えた軍人相手に勝てる腕力など、7、8歳の子供が小さい頃から鍛えて手に入るはずが無い。その矛盾を解決できるのが“気”であり、それでも解決できないとなると『悟空は数年僅か7、8歳にして十数年分の修行や経験した』ということになる。

 ――揚羽はまだ知らない。彼の実際の年齢は100を超えているであろうことを。

 

(なんだ、なんなんだこいつは?!)

 

 それは切道も同じだった。大人顔負けの力、銃さえ効かない子供。いやもはや子供ではない。“    ”ではないか、と切道は考えそうになり、頭を振る。

 悟空がゆっくりと歩いて近付く、一歩、二歩と。それに合わせて切道も一歩、二歩見えない恐怖の影に後退ってしまう。だが三歩目で踏み止まり、恐怖を振り払うべくギリっと銃を握り直す。

 

(だがしかし、幸い奴にも弱点がある!)

 

「動くなぁ!!」

 

 ハンドガンを参加者達に向ける。それに合わせて周りの親衛隊の半数が悟空に注意しながらもマシンガンを参加者たちに向けた。参加者からヒィっと情けない声が漏れる

 

「いくら貴様でもこっちにいるやつらを守ることはできまい!! おとなしくしていろよ?」

 

「……」

 

 悟空は応えない。だが脚がピタリと止まった。それを肯定と捉えたのか、切道の口角が上がる。

 

「おっと動くなよ? ピクリとでも動けば貴様の変わりにあいつらがパーンだ!

 クハハハ、やっぱりお前も他人を巻き込むのを嫌う甘ちゃんだったか!! いくら貴様でもこの距離は届くまい。あぁ確かに貴様はすごいよ。おそらくここにいる親衛隊達では貴様に敵うかわからない……」

 

 気分が良さそうに叫ぶ切道。だがその言葉に先程までの余裕と品格の良さはなくなり、荒々しいものになっているのことに本人は気付いていない。

 

「だがお前に効かなくても、さすがにこのデブ達は撃たれれば死ぬ雑魚――」

 

「――あら、誰がデブで雑魚ですって?」

 

 カッとヒールの音が割ってはいる。自分の言葉を切らた切道は「あ゛ぁ?」と苛立ち気に声の方へ目だけを向ける。

 

「失礼ね。撃たれてもあたしの美しさが減るわけ無いじゃない」

 

 そこには髪の毛をバッと見せ付けるようにして自分の言葉に嘘偽りなし、と腰に手を当て堂々と銃口の前に立つエリカがいた。

 

「だから君も自由に動けばいいのよ、悟空……だったかしら?」

 

「ふむ、そうだな。美しさとかにあまり興味は無いが、私の魅力はわかるものにはわかってもらえるのでな。別に撃たれたからといってどうということもあるまい。痛いのは勘弁だが、この状況ではそうも言っておれまい……」

 

 続いて森羅もエリカの横に並ぶ。二人は銃口が目の前にあろうと腕を組んで仁王立ちしていた。

 

「……へへ、おめぇらも強ぇな!」

 

「あらやだ、いい笑顔……ホレタ! ねぇ君ウチに来ない? てか私のハーレムにならない? あっち(九鬼)よりもいい待遇で迎えるわよ?」

 

「いやいやエリカ、彼はこちらに来てもらうのだ。美有(みゆ)(ゆめ)にいい刺激となるだろう」

 

 悟空に何かを感じたのか、二人は悟空を勧誘しだした。しまいにはお互い言い争う始末。

 

「おれ、を……オレを無視するなぁっ!!! そんなに死にたいなら、二人共々あの世へ送ってやる!!!!」

 

 その銃口を前にしながらの争いは爆発寸前だった切道の堪忍袋を掻き切ってしまい、力の入りすぎた指を震わせながらトリガーを引こうとする。

 

「――待てよ」

 

 それはたった一言で止められた。

 

「オラが相手だって言ったろ」

 

 悟空の存在を思い出した。いや思い知らされたと言った方が正しいのかもしれない。同時に切道の頭も幾分か落ち着いたのか、優先順位を再度思い出してもう一方の手で腰にある二つ目の銃口を悟空にも向ける。

 

「……そうだ、そうだったな。まずはお前を……消す!!」

 

 エリカと森羅に向けた銃口そのままに離れ、悟空に近付いて右手に持つハンドガンを構える。相手の反撃が来ない、そして自分が外さない距離。

 

「さっきの“力”は使うなよ? ピクリとでも動いた瞬間この場の全員を殺す……おい、オレが撃った後にそのナイフで“確実”に殺れ」

 

やはり切道の頭の熱は冷めていないようで、始めの穏やかな口調からかけ離れた荒々しい言葉と憎悪渦巻く目で睨んでいた。こちらが切道の真の姿らしい。

 命令された部下の一人はコクリと頷き、ジリジリと構えながら近付く。今度こそ絶体絶命。それでも悟空の口角は下がらなかった。

 それを見た切道がギリッと口を噛みしめて、

 

 引き金を、引いた。

 

 パァン、と軽い音と共に発射された鉛の弾丸はそのまま真っ直ぐ進み、

 

 ――悟空の眉間を撃ち抜く。

 

 周りの悲鳴や驚きの声が発せられるよりも速く、命令を実行するため部下の一人が逆手に構えた軍用ナイフで悟空の頚動脈を狙い、

 

 

 

 空を裂いた。

 

 

 

「…………ぁ?」

 

 ピっと鋭く風を裂いて進むナイフは、孫悟空がいた(・・)場所に残されていた存在のカケラを切り裂いた。乱されたそれは存在をいびつに歪め、ノイズのように消えていった。

 後に残されたのは空気へと溶け込んでいく影と、信じられない現象を見せられたまま振るった体制で固まる部下一人だけだった。

 一泊の静寂、その刹那に予め予想していた切道は意識を戻して左手のハンドガンに力を入れながらバッと人質の方へと向ければ、

 

「ばぁっ!」

 

「ひぃっ!?!?」

 

 わざとらしいお化けのように手を使って笑う悟空の姿が目の前に存在した。

 思わず反射的に引き金を引いた切道だが、弾丸は胸の正面へと向かい心臓を貫いた。が、またもやその姿は掻き消えた。

 

『あぁぁあっ!!』

 

 続いて聞こえたのは周りの驚き一色に染まった声。それに目をむけ、今度こそ切道の体は心の臓ごととまった。

 

「ヤッホー」

 

「ハハハ!」

 

「よっす!」

 

「おろ?」

 

「へっへ~」

 

 そこにあったのは何十という数の孫悟空の大群だった。

 それぞれがぞれぞれ変な格好やポーズで床にテーブルに、はてには天井や宙にまで浮く姿。これを初めて見せられれば誰だって固まり驚くだろう。

 

「うわぁぁあッ!?」

 

「このっ!!」

 

「離れろぉぉお!!」

 

「あぁっああぁあっああああうぇ?」

 

 現に感情が無い人形として切道に育てられた親衛隊たちが、錯乱しているのか命令もなしに武器で攻撃しだした。だがそれのなんと空虚なことか。文字通り煙のように消えていく悟空たちが、またどこからもなく写真を貼り付けたように現れ、逆に数を増やしていく。

 

「残像拳……てな」

 

「っくぅ……なんだ、なんだなんだなんだなんだなんなんだこいつはぁッッッ!!!!!」

 

 斬っても撃ってもまた現れる。まるでゾンビみたいではないか。

 人質さえ無視ししあまつさえこんな摩訶不思議な現象を起こすこいつは人じゃない。人であるはずがない。“バケモノ”ではないか……。

 切道は知らない。人質を無視しているのではない、人質がいようが関係なく救える術があるから、そして少女が“願ったから”こそ彼は動くのだ。

 そんな恐怖に苛まされていた切道は部下を壁にしながら、無意識に懐にある携帯のボタンを押していた。早く、早く連絡をとり、あいつ(・・・)を起こさなければと。

 

 だがそこでドサっと倒れる音が聞こえた、それも連続して。それと共に悲鳴や恐怖の声もなくなり、不気味な静けさを晒しだす。

 

「……ッ!?」

 

 いつのまにか奴の姿がなくなっていた。が、その代わりに裏導の親衛隊たち床で倒れている姿に変わっていた。自分が見ていないに何が、と未だ固まっている壁にしていた部下に確認を取ろうと手を伸ばす。だが手が届く前に彼らも糸が切れたように倒れ伏す。

 

「な、にが――」

 

「――よっと」

 

 後ろから声が聞こえた、幼く純粋な、しかしバケモノの声を。

 

「ふぅ、これで全部だな。さて」

 

「…………ぁ……あぁ……」

 

 見たくない、だが見なければならない。知的好奇心なのか、それとも別の何かの力故か。切道は後ろをゆっくり振り向く。

 

 

 

「おめぇで最後だ」

 

 

 

 そこにバケモノがいた。

 

 

 




何か悟空が恐怖の権化になってしまった。
切道のキャラも形が速攻くずれてしまった。もうちょっと落ち着いた感じだったのにどうしてこうなったorz
この話し終わったらのんのんびりするんだ。「よ」さえ入れたら後は完璧。
その後は遂にあのキャラと真剣でバトらせたい!!
けどこの話どうやって終わらそう……

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