居酒屋で愚痴を聞くだけの簡単なお仕事です   作:黒ウサギ

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みんな!川に落ちたら風邪引くから気をつけろよ!


安倍菜々:塩見周子

ナナさんが居酒屋で働き出してから、早いもので半年が経とうとしていた。半年も働いており、なおかつアイドルとしても売れっ子であるのだから資金はあるだろう。なのに彼女はここを辞めなかったし、新たに部屋を借りて出ていく事をしなかった。ナナさんが何を考えているのかわからないけど、働き手がいなくなるのは辛いし、少しだけだが一人暮らしに戻るのは寂しくもある。まぁ居ることで困ることは無いのでこのままでも良いかと考え始めていた。

 

一方お店の方は大繁盛である。

何処からか漏れたのか……。いやまぁ別に隠す必要も無かったから普通にナナさんに働いて貰ってたわけだから、アイドルが働いてる居酒屋って直ぐに広まっていた訳だ。そんな話を聞いて多くのご新規さんが来たのだけど、たまにマナーの悪い客。例えば料理を頼まずに席を占拠して写真を撮っていたやつ。当然のように早苗さんに運んでもらった。

まぁ今ではそんな人もいなくなり、ナナさん目当てでは無く素直に料理を目的として来てくれる人が増えたので嬉しいことである。

が、そんな中に周子ちゃんまで毎日通い始めたので俺もPも大慌て。いつの間にか空き部屋に私物を持ち込んで自室としていたのだ。 もうびっくりよ。朝起きてエプロン姿で朝食作ってた時なんてびっくりしすぎて普通に仕事に見送ってしまった。見送った後になってから叫んだけどな!ちなみにその話をナナさんは知っていたらしい。寧ろナナさんが部屋を作る許可を出したらしい。その話を聞いて禁酒を言い渡した。俺は悪くない。

 

んで、更に驚くのは周子ちゃん。何か半年の間で気がついたら4代目シンデレラガールとして輝いていた。言い訳すると、近頃は居酒屋が忙しくなり、346事務所に顔だしする事も少なかったし、家ではあんまり仕事の話をしてなかったし…。それでも気がつけよとPに言われてしまった。気がついた理由としては周子ちゃんがトロフィーを持ってきて、何のトロフィーなのかと聞いてみたらシンデレラになった証拠だからと持ってきたらしい。へーとだけ返したが内心冷や汗ダラダラだった。知らなかったからお祝いもして無いし、何も祝う準備とかしてなかった。そんな俺の内心を彼女は察したのか、笑顔で今度楽しみにしてると言ってくれた。

 

んでんで、その4代目シンデレラガールの周子ちゃん。今TVで凄いことになってます。

 

『4代目になった事で、私の目標に、ゴールに辿り着きました。だからこれから私は、1人の女性として、恋を頑張りたいと思います。』

 

なんてこったの引退声明。

店内は静寂に包まれて、ウサミンがお皿を落とした音で喧騒に包まれた。

 

『それでは、今受けている仕事が終わり次第、恋愛に集中すると?』

 

記者からの質問が多く飛び交う中、彼女は答えた。

 

『今ある仕事も、そろそろ一段落しますしね。色々賛否両論有ると思います。でも私だって女の子ですから、恋する機会だって有ると思います。ファンの皆様全員に理解してくれと言うのは無理だと思ってます。でも、少しでも良いので応援して下さい。』

 

その言葉で映像は終わり、違うニュースが流れ始めた。

それと同時に、店内では周子ちゃんの引退について話が飛び交い、ナナさんも話に乗ってきた。

 

「悠人さん、周子ちゃんのこの事何ですけど、聞いてましたか?」

 

「んなわけ無いです。驚きが半端ないからな今。」

 

「ですよねぇ……。一緒に住んでるんですし、少しくらい話してくれても良かったと思うんですけど……」

 

小声で会話しながらも、手を動かすのは止めない。

 

「まぁ帰ってきてから話を聞くとしましょ。今はほら、3番さんにホルモン炒め持って行ってくださいな」

 

了解です。とだけ告げてナナさんはまた仕事に戻る。でも俺は色々と考えていた。

周子ちゃんのこれからの事。恋を頑張ると言っていたのだか相手は誰なのか、そこが気になる。

まさかとは思うが、自分とか?

いやーないわー。考えておいてなんだけどさ、普通に考えるならPでしょ。いやでもどうだろうか、年齢差地味にあるし、もしかしたら仕事で知り合った男性かもしれない。

今考えた所で何も解決しないね。と思いいたり料理に集中する。帰ってきてから話をしてくれることを、今は願うのみだ

 

 

 

 

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「いやー染み渡るー」

 

「お疲れ様っと」

 

コンソメスープを飲みながら周子ちゃんはテーブルに突っ伏した。行儀が悪いとは思うけど、疲れているのだし今は良いかと言うのを止める。

スープを飲み終わり、彼女が話をして来るのを待ちながら簡単に明日の仕込みをする。ナナさんは明日の仕事のために今日の夜から既に移動している。夜食としてサンドイッチを持たせて見送った直後、周子ちゃんが帰ってきたので入れ替わりの形だった。

 

「私ねー、プロデューサーにアイドルにならないかって誘われた時に、少しだけ考えた事があるんだー」

 

返事をせずに、無言で頷く。それを見て彼女は話を続ける

 

「アイドルになる以上、当然目標は大きくトップになる事だった。でも、その後は?って考えると、何も思い浮かばなかったんだよねーん」

 

それを聞いて、少しだけ分かる気がする。

言い方が悪くなるかも知れないが、例えとして渋谷凛を挙げて見よう。彼女は3代目としてシンデレラに輝いた、そんな彼女は今もまだアイドルとして現役で働いている。それは何故なのか。彼女は自身の居るべき場所を見つけたからだと俺は思う。346が、皆がいる場所が彼女の場所なのだ。まぁあくまでも自分の考えであるし、本心はわからないけど渋谷凛はPに依存している可能性もあるし、なんとも言えない。

話が逸れたが周子ちゃんは先が見えなかった訳だ。

 

「今後もアイドルとして働いた場合私は何処に行くのか。誰も知らない、私も知らない。そう考えたら、アイドルでい続ける必要は無いんじゃ無いかなって、只の塩見周子に戻っても良いんじゃないかなって思ってさ」

 

アイドル止めようって話になったの。

そう告げる彼女は、後悔なんて無さそうな顔で笑っていた。なんと言うか年上である俺よりも人生楽しんでるね周子ちゃん。

だけど、次の言葉で

 

「只の塩見周子として、私は悠人さんに告白するよ。ずっと前から悠人さんが好きだったんよ。アイドルになる前から、好きだったんよ。だから、私は悠人を振り向かせるね」

 

理解が追いつかなくなった。

誰が、誰を好き?

少しだけ慌てて指を自分と彼女の間を動かす、!無言で頷かれた。見れば恥ずかしさに顔を染めている。つまりあれだ

 

「マジか……」

 

「まじまじー。いきなりで信じられないかも知れないけどさ、ナナさんが来て少しだけ焦ったんだ。ナナさん可愛いからねー。だから少しだけアピールしてみたんだけど、キスしても普通だったし、何時もより接近しても慌てないし。アピール気づかなかった?」

 

キスは…、あれか、特撮モドキの時か。あれ本物だったのか!それに気づくとこちらも顔が赤くなった。だけど他は思い当たる節がない。可能性があるとしたら水着姿で家の中を彷徨いたり、お背が流しますとタオル1枚で風呂に突撃してきた事くらいだ。

 

「寧ろそれがアピールとして受け入れられなかった事にショックだよん……」

 

いや、うんスマン。

 

「でも、これからは私は悠人さんを振り向かせてみせる。私だって1人の女だもん。好きな人の側にいるのが目標だもん」

 

そう言いながら彼女は近づいて来て

 

「好きよん、悠人さん。大好き」

 

そう言って軽く頬に口付けしてきた。

 

 

 

 

 




黒ウサギは急展開がお好き。
という訳でダブルヒロイン本格的始動。

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