居酒屋で愚痴を聞くだけの簡単なお仕事です   作:黒ウサギ

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文香さん可愛なぁ…
本当に可愛なぁ…

話は変わりますがネギまの新作投稿しました。
宜しければそちらもご覧下さい。


鷺沢文香:if 5

叔父さんの家に帰る途中に、私はとてつもなく怖い顔をした男性に声をかけられた。短く「ひっ」と小さな悲鳴が口から漏れて、少し後ずさりする。

 

「あ、怪しい物ではありません。私はこういった者でして」

 

そう言われて渡された名刺に目を通す。346プロダクションアイドル部門所属。

アイドルと言われれば、私が思い浮かべるのはカリスマJKの城ヶ崎美嘉さん。私とは全く正反対とも言える彼女。そんな正反対の私を、アイドルに…?

 

「貴女を見た時に、私はとても光る物がある、と感じました。星に、スターになれると。シンデレラになれると。」

 

そんな言葉を、私は何処か浮ついた感じで聞いていた。人前に出るのが苦手な私。他人と上手く会話が出来ない私。そんな私が、アイドルに…?

 

こんな私だけど、人並みに憧れていたのかも知れない。自身の書き綴った作品にも、その心情が書かれていたと思う。

 

「もし、お時間が宜しければ…この後少しお話でも」

 

などと、話が進んでいく最中

 

「文香さん…?」

 

彼の、声が聞こえた。

振り向くと、彼がいた。

 

 

 

 

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鷺沢さんが、彼女達のプロデューサーに声をかけられているのを見た時。心にモヤモヤしたものが心に湧いた。

何だろうか、この気持ちは。ヤキモチ…嫉妬…?よく分からないが彼女が見知らぬ人と会話してるのが気に食わなかった。

 

だから、思わずと言った感じに飛び出して、声をかけてしまったのだろう。

 

「文香さん…?」

 

思わず下の名前で読んでしまった彼女の名前。呼ばれた彼女は、こちらを振り向き何故ここに?と、そんな顔をして振り向いた。

その顔に、不意に心が高鳴る。心が暖かくなっていく。不思議な気持ちに戸惑いながらも、彼女の手を取り走り出す。

 

「え、神楽さん?」

 

戸惑いながらも付いてきてくれた彼女に少しだけ嬉しく思い。取り残された彼に申し訳なく思いつつも、行く宛も無く走り出した。

 

 

 

 

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「あーあ、プロデューサー振られちゃったねー★」

 

取り残された私に声を掛けて来たのは、城ヶ崎さんだった。

その後ろを見ると、渋谷さんと佐久間さんも立っていた。

私は首に手を当てながらも、先程の男性(・・)を思い出す。名刺を渡した女性よりも、後にやって来た男性の事を。

 

「先程の方は…あの女性の彼氏でしょうか」

 

思わず言葉にしたソレ。聞いていた彼女達が、半歩下がった様に見えた。

 

「プロデューサー…、流石に男色の気があるとは思わなかったよ…」

 

「まゆも…、流石にこれは受け入れ難いですねぇ…」

 

「悠人さん、確かに顔は悪くないと思うけど…。ソッチの気は無いと思うよ…?」

 

ここで私は彼女達が凄まじい誤解をしている事に気が付いた。そして同時に、城ヶ崎さんが彼の事を知っている気が付き、話を聞くことにした。

 

「まぁ悠人さんの事を話すのは別に減る事でも無いし、別にいいけどさ…」

 

そう言って彼女は一度目を閉じ、次に開いたその目は私では表現することの出来ない様な、それでも例えるなら決意に満ち溢れた目をしていた。

 

「悠人さんを困らせる様な真似をするなら、プロデューサーでも私は容赦しないよ」

 

城ヶ崎さんの雰囲気も、何時もの少しおちゃらけた物がさとは違く、鋭利な刃物のように研ぎ澄まされたものとなっていた。思わずその雰囲気に飲み込まれそうになるのを耐え、その目を睨み返すように見つめ返し「そんな真似は、するつもりはありません」と伝える。

 

「そっか…。と言っても私が教えれることはそんなに多くないんだよね。まともに接する様になったのも、割と最近の事だったし。」

 

そう言いながら、彼女が話し出す内容を聞き。赤の他人である私が聞くべきではなかったと後悔した。

一つため息を零し首に手を当て天を仰ぐ。

 

「それで?プロデューサーは何でこんな話を聞きたかったの?★」

 

話を終えた城ヶ崎さんは先程とは打って変わり、何時もの様子で話を聞く側に回った。

 

「彼に、今までに無いほど惹かれるものがあったからです」

 

そう告げると、前に座っていた渋谷さんに脛を蹴られた。痛みに顔を顰めながら渋谷さんを見ると怒っていた。

 

「私、いや私達よりも惹かれるものがあったの?」

 

「い、いえ!違います…。彼の場合はなんと言うか、今までとは違った光を感じまして…」

 

「やっぱりプロデューサーってホ「違います!」」

 

何度も訂正しているのだが、まともに信じてもらえない。少しだけ自分は信用が無いのではないかと不安になるが、頭を振ってその疑念を消す。

 

「声が、とても頭に残っているんです。何処か人を惹き付けるような、そんな声が」

 

 

 

 

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文香さんの手を取り、気が付けば商店街までたどり着いていた。

 

「はぁ…はぁ…っ。神楽さん、少しだけ、休ませて貰ってもいいですか…」

 

しまった。と顔を歪め、彼女の事を考えずに連れてきてしまったことに少し焦ってしまう。

 

「ご、ごめん!」

 

掴んでいた手も慌てて離す。何とも微妙な空気が流れてしまった。

離した手に残る温もりに、少し恥ずかしくなり。グッパと握ったり開いたりを繰り返してしまう。

どうしたものかと、視線を泳がせていると

 

「えっと、お疲れのようですし、もし宜しければ家に来ませんか?」

 

時が止まった気がした。

 

 

 

 

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「ここ、文香さんの家だったんだ…」

 

「?訪れた事があったんですか?」

 

会話しながら、叔父さんのお店の中に入り、そのまま居間に入る。

 

「えっと、お店の前にアルバイトの募集してあったでしょ?それ見た時に店内を少しだけ見たくらいかな」

 

確か、叔父さんが募集をかけると言ってた事を思い出す。一向に連絡が来ないあたり、アルバイトが来ることは望めないのだろうけど。

そう告げると、彼は苦笑しながらも少し慌てて辺りを見始めた。

 

「えっと、誰もいないの?」

 

そう問われ、叔父と叔母は近所の友達と旅行に言っていると告げる。そしたらまた神楽さんは一層慌てて、終いには俯いてしまった。コロコロと変わる表情に思わず私は笑ってしまい、ふと気づく。今この家に二人きりでいるという事実に。

 

「えっと、その、階段を上がって左側が私の部屋、ですので。飲み物持っていきますから、部屋で待っていて貰えませんか」

 

なんて、言ってしまい。別に居間でも良かったのでは無いかと思い直す。が、一度言ってしまった事を撤回するのも印象が良くないのではと思い、部屋で待ってもらうことにした。

 

 

 

 

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待っていてと、通された部屋は本が多く並んでいた。彼女らしいと思わず笑ってしまい。その中で異様な物が目に付いた。

 

ー干された洗濯物である

 

一度見てしまった彼女の洗濯物、下着から目が逸らせなかった。というか、もしかしなくて彼女は洗濯物の存在を失念しているのでは無いだろうか。

そう考えていると、扉が開く音が鳴った。

 

「お待たせしました、飲み物はお茶で…」

 

そう告げながら入ってきた彼女は、干されていた洗濯物に目を写し、固まり、素早い動きで洗濯物を取り込んだ。

 

「見ました…?」

 

この質問は難題な気がするのは気のせいであろうか。見てないと言ったら嘘つきになってしまうが、見たと素直に言ってしまえばそれはそれで彼女を傷つけてしまうのではないか。

 

「す、すみません。お見苦し物を見せてしまって…」

 

見苦しいなんてとんでもないです。ただ黒の下着は意外でした。

とは思っていても口には出さない。

 

「えっと、飲み物飲んで、落ち着こっか」

 

顔を真っ赤にしながら頷いた彼女が座るのを見て、俺も座り飲み物に手をつける。走り続けて疲れた体に冷たいお茶が流し込まれ、火照った体を冷やしていく。

そして、冷静になった頭で彼女がスカウトを受けていたことを思い出す。

 

「鷺沢さんは、さ…」

 

「ふ、文香で…いいです…」

 

え?と彼女を見ると、先程とは違い、自身でも驚いたような顔をしていた。

 

「えっと、本当に文香さんって呼んでいいの?」

 

無言でコクリと頷く彼女を見て、心が満たされていく気がした。

 

「それじゃ…、文香さんは、アイドルになるの?」

 

そう訪ねると、何故それを知っているのかと聞き返された。まぁそりゃそうなるよなと苦笑しながら、先程の場面を見ていたことを告げる。

 

「お恥ずかしい所をおみせしました…」

 

「でも、文香さん何処か嬉しそうだった…」

 

あの時の彼女は、自然と笑顔になっていた。場所が場所じゃなければ、ずっと見ていたくなる程に。

そうして、スカウトされている姿を見た時に浮かんだあの気持ちが自己中心的な、醜い感情だと分かった。

 

「私も…女の子ですから…。少しは、憧れもかあります…」

 

そう告げた彼女は、やはり何処か嬉しそうに微笑んだ。

 

「でも、俺の我侭になるんだけどさ…」

 

こんな事言われて困るかもね。と笑いながら前置きし

 

「出来れば、その笑顔は大勢に知られたくないかなって…」

 

こんな事を言われても彼女は困るだけだろうけど。俺はこの気持ちを言いたかった

 

「ずっと、その笑顔は俺だけが見ていたいかなって…」

 

「何で、そんな事…言うんですか…?」

 

何でと言われてしまい。もう後戻りは出来ないと悟り

 

「俺は、文香さんの事が、好きだからかな…」

 

心の内を告げた。

 

 

 




言ったァ!というか、言わせたァ!

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