居酒屋で愚痴を聞くだけの簡単なお仕事です   作:黒ウサギ

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第16話

本日も晴天なり。

暖簾を掛け、軽く伸びをする。最近は寒い日が続いており、日差しが暖かく感じてきた。実際暖かい。

入り口前に置いてあるボードにランチメニューを書こうとして手を止める。何にするか全く考えてもなかった。

考えてはなかったが、揚げ物が食べたい。唐揚げだったりカツだったりコロッケだったり。がっつりと行きたいね!

悩み悩み悩み抜き、チーズチキンカツをワンコイン定食にして、お客様に日頃の感謝の気持ちとして提供しよう。

 

 

『本日のランチメニュー

チーズチキンカツ 500円

キャベツ、ライスお代わり無料』

 

 

やりすぎた感じがしないわけでもないが、まぁたまには良いだろう。

 

「神楽さんとこ、今日のランチ凄いね。」

 

聞き慣れた声に振り向けば渋谷凛。学生服に身を包んでいるあたり、これから学校なのだろう。

 

「いいなぁ、私も学校無かったら駆けつけて来たかったよ。」

 

「残念、無念。これだけの大盤振る舞いは本日のみ、じゃないと経営やばいから…」

 

この価格が毎日とかお店潰れます。

 

「ふーん、まぁ今度同じメニューだしてよ。食べて見たいしさ」

 

「気が向いたら出すとするよ。ほら、時間大丈夫なんか?」

 

「あー、まだ大丈夫だけど早めに行って先生に質問したかったんだよね。それじゃね神楽さん。」

 

バイバーイと手を振りながら去って行く渋凛を見ながらSPWを思い出した俺はちょっと駄目かもしれない。

 

 

 

 

 

 

そんなわけで

「バイトの募集行いたいと思う。」

 

「どんなわけで?」

 

346の応接室にて俺はPに大事な話をしに来た。

ランチタイムも終わり一度休憩に入ろうかと洗い物をして居た時、思ったのだ。

 

「いつか過労死する。」

 

「うん、一人で切り盛りしてたらそりゃやばいよね。」

 

実際やばいってもんじゃない。三途の川でサボってる死神を何度蹴飛ばしたことか。いつか涅槃にフライハイしそうで本気でやばい。

 

「そんなわけで、アイドル働かせる気ない?」

 

「出直してこい」

 

可愛らしく舌を出しウインクも付けたのにこの対応である。

 

「冷静に考えてみろ。アイドルにそんな時間的余裕があると思うか?地方営業やったり、レッスンやったり、ラジオのMCやったり、色々忙しいんだぞ。」

 

マジレスにぐうの音も出ない。

実際3桁越えのプロダクションメンバーの殆どが売れている346プロ。まじぱない。

 

取りつく島もないPにバーカと言いながらお店に戻る。まぁバカは私です。ここは地道にアルバイト募集の貼り紙でも出しておくとする。ふふふ、面接は圧迫面接を行ってやるぜ…

 

 

 

 

 

 

一週間経ったが面接ゼロ件である。何故…

時給も奮発して四桁出すことにしてるし、ご飯付き。何が不満なのか…

 

「淫乱ピンク働く気ない?」

 

「出直してこいハゲ」

 

はははハゲちゃうわ!というか今語尾に星マークすら無かったぞ。

今日も今日とてランチ終了後、346プロにて暇を潰している我輩である。気分はねこ、前川さんとは違うのだよ。

 

「そこはかとなくバカにされた気がするにゃ」

 

勘のいいガキに魚をぶつけ隊。

前川さんをいじることでストレスを発散させるしか今はするしか無い。

 

「みくにゃんみくにゃん、煮干しいる?」

 

「いらないにゃ…。まずみくは魚が嫌いだって言ってるでしょ…」

 

知ってて聞いてみました。

猫パンチを目に当てるのは辞めましょう。本気で痛いから。

反撃として前川さんの周りに水の入ったペットボトルを設置しておく。なお簡単に跨いで抜け出された模様。

そんな感じで暇を持て余していたわけだが携帯が震えた。バイブレーションで高まるアドレナリン。って喋って見たらなつきちに古いって言われた。尚、だりーはわかっていないみたいです。ウヒョ君可愛い。

震えている携帯に表示されている番号は見知らぬ番号、取り敢えず出て見ることにすると

 

『すいません、アルバイトの件でお電話させて頂いたんですけど』

 

神様ありがとう。過労死回避に近づきました。

 

 

 

 

 

 

 

 

面接を申し込んで来た塩見周子さん。年齢は18歳、志望動機は時給の高さとご飯付きが魅力だからとのこと。うん、素直でよろしい。実家は京都にある老舗の和菓子屋。なんでも父親と喧嘩して家を飛び出して来たらしく、現在はホテルぐらし。部屋余ってるから使ってみる?などと冗談言ってみたらなんこ住み込みになりました。最近の若い子アクティブすぎる。

 

「和菓子作り手伝ってた事あるんでー、手先は器用な方だとは思うよー?」

 

なんとものんびりとした子である。まぁ可愛いから看板娘としてバンバン働いて、お客さんを呼び込んでくれ!なんて口には出さない。出したら辞められそうだからね!

 

 

 

 

 

 

採用から一週間。仕事ぶりを見ていたが神様まじ感謝。仕事は普段とは打って変わりテキパキと動いてくれるし、お客さんの対応も完璧。セクハラにも余裕で対応してくれる。周子はん、あんたやるなぁ!

 

「最後のお客さんおーわりっと、店長ご飯作ってー」

 

「あ、はい。」

 

というか仕事早すぎてもう俺がいらない子になりそう。2代目はお前だとか言って旅に出そう。冗談だけど。

 

「なんかリクエストあるー?」

 

「時間も時間だからあっさり系でー」

 

時計は12時に近づいており、この時間帯に消化の悪い物を出すのは辞めておこう。

 

「と言うことでそばにしよう」

 

「どういうことかは知らないけど、そばはいいねー。私きつねそばがいいなー」

 

きつねそばね、周子ちゃんきつねのコスプレ似合うよね(確信

懐かしい前世設定で狐の格好してたもんね!もちろん取れなかったけど!

過去を懐かしみながら油揚げに味を付け、蕎麦を湯掻いていく。

あぁ、平和だ。可愛い看板娘がいて、それなりに繁盛して。完璧やん、僕の人生。

などと妄想を膨らませていたら周子ちゃんが凄いこっちを見てて。惚れるなよと呟いたらあり得ないと返された。ハート折れそう。

 

 

 

 

 

 

 

「いやー、疲れた疲れた」

 

仕事が終わり、一日の疲れを流すように風呂に入る。足が伸ばせるって素晴らしい、格安ホテルにいた頃はシャワーだけで済ませていたが風呂に入りたいと言うのが本音である。

 

「時給もいいしーご飯も美味いー。神楽さん様様だね」

 

まぁその美味しいご飯のせいで最近腹周りが気になることになってきているが…

試しにとつまんで見たら程よい弾力があった。うん。

 

「痩せよう…」

 

そっと決意し、お風呂から上がる。確かアイスがあったはずだ。え、ダイエット?痩せる決意はしたけど行動に移すとは言ってないよ?

 

「〜♪〜〜♪」

 

鼻歌を歌いながらタオルで体に着いた水滴を取って行く。やーサッパリサッパリ。疲れた体が新品になった気分だよ。下着を着け、寝巻きに着替え、外に出る。

 

「アーイスーアイスアーイスー」

 

よくわからない歌を口ずさみながら冷蔵庫を目指す。今日の気分はシンプルにバニラかなーなんて思いながら厨房につくと煙草の匂いがした。

お店も閉めて煙草の匂いがすると言うことは神楽さんが吸っているということ。珍しいなーなんて考えながらアイスを取り出し近づいてみた。

 

「なーにしてんのん?」

 

「んー周子ちゃんかー。風呂上がり?」

 

「そそ、風呂上がりー。んで質問の答えはー?」

 

煙草を消しながら神楽さんは読んでいた物を見せてきた。私が近づくと煙草を消してくれる。ちょっとして気遣いに私は笑顔になる。その笑顔がばれないように見せてきた物を確認する。

 

「え〜と、なになにー?オーディションの説明?何でこんなもんを?」

 

まさか神楽さんが受けんの?

 

「いや、知り合いが審査員やることになってて、ちょっとした好奇心で見せてもらってただけ」

 

「わーお、個人情報ダダ漏れじゃーん。周子こわーい」

 

「まぁ世間的には良く無いね…」

 

どうしよう、アルバイト1週間目で終わることになりそうです。

次の仕事探さないとなーなんて適当に考えてたら、神楽さんが慌てて引き止めてきた。そりゃ一週間で辞められるのは嫌だよねと笑ってしまう。

あぁ、平和だ。

実家を飛び出して、頼る人もないのにこんなところに来て、いきなりアルバイト先に住み込みで働いてる。お母さんが聞いたら笑いながら応援してくれそうだなー。お父さんは、うん。神楽さんの命が危ない。

あぁ、平和だ。

願わくば、こんなのんびりした日々が続いて欲しい。

 


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