11話~20話まで一部手直しに付き、差し替えました。
2018.3/4
1話~31まで設定見直しにより一部設定変更+グロンギ語ルビ振りに付き手直し、差し替えました。
プリロの街で三泊して出発し、いよいよ目指すは「フストレー」の街。
そこでフェフたち、クラン「翼の剣」は伝手を頼って
当初の目的はエルフとエルフの街を生で見たいからアルブレス聖王国を目指していた。そこにフェフたちと出会い、旅は道連れと彼らの目的地、アルブレス聖王国にあるフストレーの街まで一緒に行くことにしたわけだ
しかし、約束のフストレーの街に送り届けたからフェフたちと別れ、ハイお終いというのも惜しい話だ。オレを怖がらずに接してくれる貴重な心良い人物たちと別れるというのは。
問題は後ろ盾なく、一つところに留まって大丈夫かということなんだが。
まあ、あれもこれもと考えても仕方ない。現実逃避かもしれないが、今は物作りに集中するとしよう。
突然の拾伍「魔法のススメ」
パチパチ、ぱち
プリロを旅立つこと三日目の夜。
星明かりと焚き火の明かりの下、オレは夜番へ加わりつつ、自作したクリップボードに挟んだ数枚の藁紙(藁半紙)と同じく自作した万年筆モドキの魔道具を手に魔道具キックボードの改良案を考えていた。
キックボードもあれから改良を加えてVer.3になり、耐久性に操作性、安全性も上がった。今は量産性向上について考えている。
藁紙に耐久性などを維持しつつ、量産性を上げることを簡略した図面を描いては思いつく限りの案を何通りも書き出して行く。
勿論オレ以外が作れることも充分に想定し、もっとも複雑な部分である術式の簡略化には特に力を入れる。
「………」
ある程度書き出して一息吐く。そしてふと気付けばコチラを興味深げに見つめる四つの視線。夜番を共にしているフェフとマリーだ。
「あっと、悪い。邪魔しちまったか」
顔を上げて視線を合せるとフェフから謝罪の声。マリーも「……すみません」と消え入りそうな声で謝って来た。
オレはリップボードに挟んだ麻紙を捲り、白紙の麻紙を上にする。
[もんだい ない。ちょうど ひといき ついた ところ だ]
とグランロア語を書き込み、ふたりに見せた。
「!? 言葉、わかるようになったのか」
[むずかしい ことば は わからない が、すこし なら ききとれる]
驚いて問うフェフにそう書いて返し、オレは文字をちゃんと書けていること、伝わることに安堵した。
いや、宿などで文字の勉強をする際、シャンフィに見てもらってちゃんと読めるようになったと太鼓判をもらっていたが、ちゃんと書けているかどうか少なからず緊張というか不安というか、そういうのがあったから。
しかし、これで曲がりなりにも意思疎通の手段が出来た。シャンフィの負担も減り、ひとりでの自由になる時間が増えるだろう。
まだまだ頼るところはあるかもしれないが。
「………もしかして、聞くよりも読む方が楽ですか? 」
そんなマリーの問いに[そうだ な、よむほう が らくだ]と返すと、マリーは少し逡巡した後に薪を一本手に取ってオレの隣りへ寄ると地面に何か書き始め――
[あーずさんのつかうまほうについて、おききしてもいいですか]
――と、文字を書いた。俺にわかりやすいよう基本文字のみで書いてくれた気遣いが嬉しい。
ともあれ、オレはその内容に少し悩んだが、答えることにする。
[こたえ られない こと も あるが、それで よければ]
そう藁紙に書いて見せると、パッと花が咲いたような笑顔を見せたマリーは[ありがとうございます]と地面に書いてきた。
オレの魔法は
やろうと思えば、イメージさえ出来るならばどんなことも大概のことは出来てしまう。それこそ石ころを金や宝石に錬金することも出来てしまうのだ。
そんな異能の魔法を詳しく話すのは―― シャンフィのような例外はいるが ――危険だ。欲に塗れた者に、この力を欲した者に狙われる恐れがある。
オレ自身はなんとでも出来るが、シャンフィを始めとして親しくなったヒトが
だから異能であることはうまくぼかしつつ、オレ独自の魔法について話し、代わりにマリーからグラローア大陸の魔法を聞いていく。
グラローア大陸の魔法。
どうやら
まあ、ただ単純に名前が違う、ゲームと現実は違うだけだと言われればそれまでなんだが。それでも知っておいて損はないだろう。詳しく知ることで模倣することができればイタズラに興味を惹かずにすむのだから。
― side:シャンフィ ―
「む~」
プリロを旅立って六日目のお昼、昼食を取り終えた休憩時。私はちょっとばかり不機嫌だった。
マリーさんがアーズの隣りに座り、薪の一本を手に地面に何か書き込ん笑顔で筆談している。
ここ三日の間、アーズは休憩時や夜営時にマリーさんと筆談をしてばかりいる。とても仲良さ気で、内気で口下手なマリーさんを知るリザさんたちも驚いている。
別に仲良くしているのは良いのだ。不必要にヒトに怖がられるアーズがヒトと仲良く出来るのは良いことだし、喜ぶべきことだと思う。グランロア語の聞き取りや文字の読み書きを一緒に勉強したのはそのためなんだから。
でも、だからって御者をしている時以外、間に入られないくらいマリーさんとべったり一緒というのはどういうことか。私を放ったらかしにするなとは言わない、言わないけれども!
なでりなでり
「フィー?」
リョコが私を愛称で呼んで頭を撫でてくる。こてりと小首を傾げているのが年上ながらなんとも愛らしく、私の機嫌が悪い理由はわかっていないようだけれど、わからないなりに気遣ってくれているらしい。
うん、少し落ち着いた。
落ち着いたんだけど、視界の端にアーズとマリーさんが仲良く筆談をしている姿が入ってくる。
「むぅ」
まだちょっと、不機嫌かもしれない。
カランコロンカラン ガラガラカラガラ
フストレーの街を目指して進む牛車の御者台。いつも通りアーズとふたりっきりだけど、なんだかもやもやする。
アーズはマリーさんと筆談で何を話していたんだろうと考えると、胸の奥が重くスッキリとしない気分、もやもやで一杯になってくる。
フェフさんやリザさんの話では話題は魔法のことらしいけど、それにしたって仲良すぎじゃないだろうか。
「シャンフィ。
『知らない』
ぷいっとそっぽを向く。子供っぽいと思いながらもしてしまう。話をしたいけど、何か言わなくていいことも言ってしまいそうで嫌だ。
「……シャンフィ」
小さな溜め息を吐いて私を呼ぶアーズ。ちょっとムッときた。
「
「………」
変わらずそっぽを向いたまま無言を通す。もう意地になって「知らない」を通そうか。
「……
『魔法? 』
少々強引な話題転換ではあったけれど、気になる単語にアーズへ振り向いてしまった。
「
『アーズが教えてくれるの!? 』
それなら嬉しい。アーズの使う魔法はすごく便利そうだし、習うとなれば放ったらかしにされることもないだろうし。
「
浮き上がった気持ちがマリーさんの名前が出て来て急降下する。
魔法のことを魔法使いのマリーさんに頼むのは道理ではあるけれど、なんだか釈然としない。
「
納得いかない私を見てか、アーズはアーズの使う魔法について説いてくるが、それでも私は習うならアーズの魔法を、アーズに習いたいと強く思った。
『アーズの魔法が良い』
「
『アーズの魔法が良いの! 』
アーズの言葉を遮って力強く言い切り、アーズの顔を見上げるように力一杯睨む。
「………
『やったーー!! 』
大きな溜め息と共に根負けしたという顔で、アーズが魔法を教えてくれることを了承してくれた。思わず嬉しさに両手を挙げて喜んでしまった。
アーズの魔法、どんなのを教えてくれるだろう? どんなのを覚えられるだろう? 考えるだけで楽しくなってくる。
うん、楽しみで楽しみで仕方ない♪