11話~20話まで一部手直しに付き、差し替えました。
2018.2/26
1話~31まで設定見直しにより一部設定変更+グロンギ語ルビ振りに付き手直し、差し替えました。
「エテジエ」
フリアヒュルム皇国は王都から北東に位置する商業の街。
リスルス川と呼ばれる大河の要所に建つ街で、南西に王都方面へ伸びてから西へ芸術の都と呼ばれるアルブレス聖王国へと伸び、街の北東側で北と東に二又に分かれ、北は多数の鉱山を有する技術国のウィーリディス帝国へ、東は商業国家であるカルレウス共和国へと繋がるフリアヒュルム皇国の水運の要だそうだ。
街の中へリスルス川から川が引かれており、小船による川港からの運送手段にとなっていて、街での交通手段にも用いられ、辻馬車ならぬ辻舟もあるとか。
商業の街だが、それだけでなく、学業にも少なくない力が入れられており、当時の領主―― プリヴェラ・ルメルカート侯爵婦人 ――が人材育成を目的としてプリヴェラ学院を創立し、主に13から15歳の一般の者などを集め、学術の基礎を教える「普通学科」に、商業系職人を目指す者が集まる「商業学科」、生産系職人を目指す者が集まる「創作学科」、魔法の素質を持ち、魔法使い(中級以上の魔法を使える術士)や魔導師(最上級の魔法を二つ以上使える術士)などを目指す者が集まる「魔法学科」、騎士や冒険者を目指す者が集まる「武術学科」の五つの学科に分かれているという。
また魔道具、マジックアイテムの作製も行なう技師、「魔術技師」や「魔工師」などのこともあり、選択授業で別の学科の授業を受けることも出来るなどの自由性も持たれているらしい。
なお、貴族は王都の方にある皇立学院というところに入るのが一般的で、生徒間の問題で階級差別などはほとんどないそうだ。
以上、東門の門番小隊長、ティグリスさんから聞いたエテジエについての話しからの要約でした。
突然の拾「商業の街 エテジエ」
「何やってんすか、隊長……… 」
「乗っても良いよ、つうから乗せさせてもらった」
日が天辺に近づき始めたころ、やっと門まで辿り着き、検問を受けられる番になったところで、先ほどの若い衛兵とは違う当番の衛兵さんから掛かった第一声に、タロウスに乗ったまま悪びれた様子もなく、笑顔で返すティグリスさん。
そしてタロウスから降りると「ほんじゃ、行こうか」と先へ進みだした。
「え、ちょ、隊長!? 」
「検問は俺がやっておいたから大丈夫だぞ~」
「そういう問題じゃないでしょう! ちゃんと決まりは守らないと、というか仕事放っぽって一体どこ行こうとしてんですか! 」
オレたちの疑問を代弁したらしい衛兵さん。それを受けてティグリスさんは「もう、しょうがないな~」と言った風に振り返ると説明を始めた。
「お前も見てた通り、このビックブルはヒトを背に乗せられるくらいに人慣れしてるが、不測の事態って奴が全くないわけじゃあない。
だがそれもアーズ、そこの彼が一緒ならすぐさま対処できるそうだ。魔法も使えるってことだし、間違いは早々起きないだろう。
んで、街の外にビックブルを置いていくことになれば、そういう理由でアーズも残らにゃあならない。そうなるとそっちのシャンフィ嬢ちゃん一人で、不慣れな初めての街で物を売ったり買ったりしなきゃあならなくなる。保護者無しの、子供一人で、だ。
街の治安の一端を担う身としても、一人娘のいる親としてもそれは見過ごせんだろう?
ならどうするか、つったら保護者代理を立ててやるか、ビックブルを連れて保護者のアーズも一緒に街に入るのが一番だ。
でも保護者代理を立てるのは俺たちの中からじゃ物々しすぎるし、かと言って今時分に手が空いてて子供の面倒見れる知人なんて俺たちにゃいない。そうなると、やっぱりビックブルを連れてアーズも一緒に街に入ってもらうしかないわけだ」
「このビックブルを街に入れる理由についてはわかりましたし、多分問題はないんでしょう。あれだけ背の上で隊長にはしゃがれても大人しくしていたんですから。
でも、それと隊長が持ち場離れるのとどう関係があるんですか? 」
「お前ね、飼い慣らされて大人しいとは言え、魔物を街に入れるんだぞ。見張りの一人も付けないとまずいだろう。
それに、道案内がいた方が早くアーズたちの用事も終らせられる。言い方悪くなっちまうかもだが、それだけアーズたちが、魔物が街の中にいる時間を短く出来る。
んで、見張り兼道案内役を俺が買って出たつうわけだ」
そう胸を張って言い切るティグリスさんと頭を抱える衛兵さん。
「アンタここの責任者でしょうが、仕事中にホイホイ持ち場離れんで下さいよ! 」
「んじゃあ、お前が代わりに見張り兼道案内やる? 」
「え………」
言われてタロウスに視線を向けて、次にオレの顔を見て、またタロウスを見てオレを見る、そして顔色が悪くなりだす衛兵さん。
「うっ、急に持ち場を離れたら腹痛が痛い病がががが」
何気に失礼だなオイ。翻訳してくれてるシャンフィは愉快なリアクションに苦笑してるけど。
ティグリスさんも苦笑を浮かべ、「そういうわけだから、あたー任せた」と腹痛が痛い病の衛兵さんに言って歩き出す。すぐにオレたちもその後を追う。
「さて、まずは買い取りして貰う予定だったな。
しっかし、ヒートドラゴンの鱗を買い取ってくれるところとなると、そこらの店じゃあだめだよなあ、やっぱ」
オレたちと並んだティグリスさんは少々困り顔を浮べる。なんでもヒートドラゴンの鱗は、その昔に邸が買えるほどの値で取引されたことがあるらしい。そりゃそこら辺の小さな個人経営の店じゃ、邸が買えるくらいの値にならずとも、買取は無理だわな。
というか、鱗でそうなら鬣の毛や革、骨に肉も相当な値が付きそうな気がする。ただの火属性のドラゴンと思っていたんだが。
「フラウラー商会かトレフル商会辺りが良いか。そこなら俺のダチらが働いてるから、少しは顔が利くし」
そう結論付けたティグリスさんは「こっちだ」と言って道案内してくれるのだが、やはりというか、なんというか人目がキツイ。オレたちの進む先で人集りが割れ、好奇の目や恐れの眼差しがザクザク突き刺さってくる。
「
シャンフィ
やっぱりフード被っとけば良かったかと思いつつも、そうシャンフィに声を掛ける。
道行く人たちを少しでも怖がらせないために、せめてタロウスだけでも魔物だけど大丈夫ですよー、とアピールも込めるためにシャンフィに乗ってもらうことにしたのだ。シャンフィも言外のオレの意図に気付いたらしく快く了解してくれた。
まぁ、視線がザクザク突き刺さってくるのは然して変わらないのだが
、やらないよりはマシだったはずだ。
エテジエの町並みは一言で言えばベネツィアに似ている。実際に行ったことなんかないし、ここの川は人工の物らしいけども。
街中を縦横に流れる川は話を聞いて想像してたものより川幅があり、荷を載せた船や辻舟が行き交い、白亜の橋が架けられていたりとなんとも賑やかで綺麗な町並みだ。商業だけでなく観光地としても有名そうな気がする。
大通りを行く馬車の馬に馬糞袋を付けているのを見たし、街の衛生面も確りしているようだ。
余談だが、タロウスにも馬糞袋のような物を付けている。材料はタロウスをテイムした帰り道やエテジエへ道々で狩った動物や魔物の革。
魔法で色々いじってもいるので重さやら臭いやらの問題はない。でも使い捨て。
今のところ定住の予定もないし、肥料を作る必要もないので、そのまま適当な森にでも穴掘って埋める予定だ。
閑話休題
東門から真っ直ぐ大通りを進んで右に曲がり、白亜の大橋を渡ると露店ひしめく通りに出た。
相変わらずヒトは避けていくし、好奇の目がザックリザクザク突き刺さってくるが、恐れを抱いた眼差しは減ってはきている、と信じたい。時折オレを見て小さな悲鳴が聞こえたりするような気もするけども、それはきっと気のせいだから。だからお願い、信じさせて。
「フラウラー商会は主に織物やアクセサリー、貴金属なんかを扱ってる。
んで、トレフル商会の方は色々手広くやってて、冒険者向けの小物や武具類なんかも扱ってるな」
「どっちがちゃんと買い取ってくれそうですか? 」
「んー、買い取りならどっちでもちゃんとしてくれると思うぞ。ただ、今のおススメはフラウラー商会かな。ダチの話しだと最近、かなり腕の良い細工職人が入ったってんで、質の良い素材を集めてるらしいから、結構な値で売れるんじゃないか? 」
人目を気にするオレをよそに何か話しているシャンフィとティグリスさん。
やっぱりグロンギ語しか喋れなくても、シャンフィにグランロア語を教わるべきか。話せずとも言葉の意味がわからないより、わかる方が断然良いし、読み書きや理解できる方が通訳してくれるシャンフィへの負担も減るだろう。街から帰ったら要相談だ。
それにしても、予想よりシャンフィが気落ちしてなくて良かった。エテジエの街へ思うことは少なからずあるのだろうが、表面上はそういった様子は見て取れない。
門前での出来事はあながち悪いことではなかったようだ。アレのおかげでシャンフィの中の「亡くなった両親と移り住むはずだった街」という考えが吹き飛んだのかもしれない。
それにプラスしてティグリスさんの存在も大きい。その人柄は、自然と周りの雰囲気を明るい方へ持って行ってくれている。
うむ、やはりティグリスさんと友誼を図るためにも、これからエテジエの街へ用がある時の出入りは東門に限定しよう。
『アーズ、ティグリスさんが鱗を売りに行くならフラウラー商会がお勧めだって言うんだけど、どうする? 』
そう言ってタロウスの背からシャンフィは先ほどまでティグリスさんと話していた内容を教えてくれた。
オレはティグリスさんお勧めのフラウラー商会で良いと思う。エテジエの街のことはおのぼりさん状態で右も左もわからないのだから、ここはティグリスさんの意見を聞いた方が吉だろう。オレのせいで大凶になりそうな気もしなくはないが。
そんなこんなでティグリスさんに案内されることしばし、時折街を巡回してる衛兵さんに―― オレを見て恐々しながら ――タロウスについて見咎められつつも、ティグリスさんの執り成しで無事にフラウラー商会に到着した。
白地に薄紅色の英字の筆記体のような文字が書かれたシンプルだが、センスの良さを感じさせる看板に、赤煉瓦と漆喰の壁が目を引く。
店の前に小さい川があり、川縁に鉄柵が立ち並び、階段があって、その先に辻舟用らしい船着場があった。ティグリスさんの話では店の裏手には大川に隣接していて、積み荷を載せた船用の船着場になっているらしい。
そんな大店がフラウラー商会。なのだが、なにか商会らしからぬ物々しいというか、普通じゃない雰囲気が伝わってくるのですが。
「そいじゃ、ボースって奴に俺の紹介で来たって言やあ、多分大丈夫なはずだから」
「一緒に来てくれないんですか? 」
「いやあ、俺も一緒に行ければ良いんだが。ほら、一応魔物の監視ってことで付いて来たから、いくら大人しい上で魔法で大丈夫なようにするつっても、見張っとかないとさ」
シャンフィを降ろしたタロウスの背をポンポン叩きながら、そう言うティグリスさん。
仰る通りなんですけど、オレたちだけだと非常に不安一杯なんですが。店から伝わってくる雰囲気からして、出来れば入りたくない。入ったらオレのライフはもうZeroにまっしぐらな気がする。
『アーズ』
「………
心配してくれているのだろう、オレの羽織っているローブを掴み、上目使いで見つめてくるシャンフィに溜め息一つして、そう独り言つ。
気乗りせずともやることをやらねばならないのが大人だ、と自分に言い聞かせ、まずはとタロウスの手綱代わりの縄を川縁の鉄柵に結ぶと、結界の範囲を定めるためその周りをぐるりと回り、一応にと呪文を唱える。
「
呪文と共に回り歩いた足跡が浮かび、それが淡い光りを発してすぐに消える。
これで簡易な物ではあるが結界は成った。至近から大砲でもぶっ放されでもしない限りは、何があっても大丈夫なはずだ。
「ほえ~、俺の知ってる魔法とは随分と違うんだなあ」
何か言いながら張られた結界に触れてふにふにと確認するティグリスさん。
「それじゃ、タロウスのことお願いしますね」
「ああ、いってらっしゃい」
ティグリスさんに声を掛けてからオレに行こうと促すシャンフィに手をつなぐことで応え、フラウラー商会へ向けて一歩を踏み出した。
ガリガリガリガリ………
何の音かと言われれば、オレの精神が現在進行形で削られている音だと答える。
うん、まぁ、わかってた、わかってたさ、わかっていたよ。ティグリスさんが特別肝が据わってて偏見を持たない物すごい良い人だっただけなんだって。
フラウラー商会の扉を開けて入って待っていたのは革鎧を纏い、槍を手に青い顔の警備と思しき人数名と同じく顔を青くしてカウンター向こうで恐々としている商人さん若干名。
何この強盗襲撃を察知して、迎撃準備は万全だ覚悟しろ、みたいな状況。
多分だけど、オレたちのことが既に噂になっていて、尾ひれ胸びれ背びれ腹びれがついてこの状況になったのではと思われ。
門前払いや閉店して扉を固く閉じられなかったのは不幸中の幸いか? 交渉の余地があるんだから、そうだよね?
こんなんで買い取り頼めるんだろうか、不安一杯てんこ盛りである。
「あ、あのー」
ビ ク ゥ ッ ! ?
店内に衝撃走る。というか、シャンフィの声にさえこの過剰反応って、ドンダケー。
一体どんな噂が錯綜して流れ込んで来たんだか。怖くて聞けないし、考えたくもないけど。
「ボースさん、という方はいらっしゃいますか? 」
「………お、俺が、ボースだが」
少々ざわついた後、カウンター向こうから押し出されるように出てきたのは大柄な体躯に焦げ茶色の髪の男。彼がボースだろうか? 名乗ったようだが、言葉がわからないから本当に名乗ったのかさえわからん。
「買い取ってほしい物があって、ティグリスさんの紹介で来たんですが」
「ティグリスの奴が……… というか買い取りって、一体何を? 」
苦虫を噛み締めたような顔を浮べ、戦々恐々で逃げ腰な男。
買い取りを頼むのはひとまずはシャンフィに任せるつもりだったんだが、この様子だとオレが無言でいる方が威圧が掛かって店の人たちの心労がひどいことになりそうだ。なんか誤解されてるっぽいし。
「ジジドゾサゴンングソボザ。ギヂラギゼロギギバサ、バギドデデブセバギザソグバ」
「え、あっと、ヒートドラゴンの鱗だ。1枚でも良いから、買い取ってくれないだろうかって言ってる」
「ヒートドラゴン!? 」
急にオレが喋りだしてまた店内にまたビクっと衝撃が走ったが、それもシャンフィの通訳で驚きに変わる。ティグリスさんも驚いていたし、やはりヒートドラゴンの鱗は相当に希少なようだ。今度暇が出来たら、どうしてなのか調べてみようか。
ともあれ、懐から予め分けておいたヒートドラゴンの鱗数枚入りの革袋を出して、掌大の赤い鱗を一枚取り出して見せる。
「ほ、本当に……… ヒートドラゴンの鱗、なのか? 」
「そいつは、確かにヒートドラゴンの鱗だな」
ボースは疑わしげに鱗を睨むが、その後から肯定の声が上がった。
「タルゴじいさん」
声の主はカウンター向こうにいる一人、眼鏡を掛けた白髪白髭のご老人。
「8年くらい前か、遠目でだが、カルレウスのビッグオークションで見たことがある。
あの時のは5枚セットで、もっと小さかったが」
タルゴと言う名らしいご老人はそう言いながらカウンターから出てきて先程までの青い顔もどこへやら、商人の顔というのか、勝負時を見極めるような漢の顔でオレの持つ鱗を見つめている。
オレは取り易いようにスッと鱗をさし出した。
「手に取って見てくれて良いですよ」
すぐにオレの意図を理解したシャンフィが話しかけ、ご老人は恐れることなく鱗を手に取った。
「本物か? 」
「ああ、間違いない。
傷も無くて、この大きさなら、一体どれだけするのか………
わしらの判断じゃあ扱えんぞ」
「でも、大旦那さんは若旦那を連れて商談に行っちまってるし………」
「それなら、私が代わりにお受けしましょう」
「大奥さま!? 」
出て来たのは赤毛褐色肌をした妙齢のご婦人だった。
「フラウラー商会会長コンメルの妻、フラウラと申します。
せっかっくのご商談に、内の者たちが失礼致しましたこと、お詫びいたします」
そう謝辞を言ってご婦人は頭を下げた。
ティグリスさんに続く特別に肝が据わってる人パート2のご登場でゴザル!
すみません、日に続けてまともにお話しできる人に出会えてちょっとはしゃいでしまいました。
しかし、大奥「さま」か、商会の会長である大旦那が「さん」付けなのに、その奥さんが「さま」付け。それに商会に付けられた名前。
「お気になさらず。こんな身形ですので、誤解を招くのは仕方ありませんって言ってます」
「ありがとうございます。では、こちらへ」
商談のための部屋へと案内されるオレとシャンフィ。さてはて、オレの持つヒートドラゴンの鱗は、どんな値段が付くのやら。