【凍結】 突然転生チート最強でnot人間   作:竜人機

11 / 32
2016.3/5
11話~20話まで一部手直しに付き、差し替えました。

2018.2/26
1話~31まで設定見直しにより一部設定変更+グロンギ語ルビ振りに付き手直し、差し替えました。



11 「血気盛んなのは良いけど、少し頭冷やそうか……」

 

 

 

 

 

 

 【ビックブル】

 

 生息地: グラングローア大陸南方から中央及び南東部・草原地帯、森林地帯

 

 全高: 最高2メルト強。

 

 特徴:

 赤茶色の厚く丈夫な皮膚に通常の牛に比べて一回りも大きい筋骨隆々の体躯を持ち、雄は側頭部から伸びる二本の大きな角を持つ。

 

 主食: 食性は草食。

 

 概要:

 猛牛の魔物。

 草食で魔物としては気性は大人しい部類だが、警戒心が強く、テリトリーに入る者には容赦なく攻撃を加える。

 その突進は大木を易々とへし折るほど。

 基本5匹から10匹以上の群れで行動するが、希に一匹で行動するはぐれもいる。

 

 主にグラングローア大陸南方、ルベール王国周辺などに多く分布しているが、大陸中央から南東部にも、その姿を見ることがある。

 

 革はその丈夫さから防具などの装備品に多用され、角は装飾品などにも用いられる。

 筋肉質のためなのか、その肉質はひどく硬く、あまり食用には向いていない。

 

 

 『マレファリド商会 発売:グラングローア大陸の生物・魔物の生態(著:リチェルカ・シヴォートノエ) より抜粋』

 

 

 

 

    突然の玖「初めての街」

 

 

 

『 ブ ル ル 』

 

ゾグゾグ(どうどう)ザギジョグヅ(大丈夫)ザギジョグヅ(大丈夫)

 

 集まる人目に少し興奮気味の牛の魔物の手綱―― 首に縄を巻いただけの簡易な物 ――を牽くシャンフィが、グロンギ語を使って話しかけて落ち着かせる。

 

 結局あの後、言った(書いた)通りにこの牛を【金縛り】の魔法を使って手早く生け捕りにして、チート能力全開で手懐けて調教(テイム)。家路に着く頃にはシャンフィを背に乗せられるほど人に慣れさせることができた。

 

 その翌日は今シャンフィが着ているオレとお揃いの白染めにしたフード付ローブを作るのに費やした。無論チートのフル活用でテイムした時よりも全開で。

 真っ赤なドラゴンの革を脱色染色なめし、御都合主義な魔法交えて半日以上掛けて仕立て上げた一品だ。

 

 白染めにしたのは、素の赤いままだと目立つし、初見でドラゴンの皮製と素人目にもわかるのではとないかと思い、魔法を駆使してやってみたら出来てしまったのだ。

 

 完成後に落ち着いたら、自分のあまりのチートっぷりを再認識。久しぶりに自分自身にドン引きした。

 

 

 でだ。まぁ、なんでシャンフィがグロンギ語を使って牛を宥めているのかというと、大体オレのせいというか。

 提案してきたシャンフィ曰く、オレがグロンギ語で、シャンフィが標準語? である日本語やこの世界の言葉―― グランロア語というらしい ――で指示したり話しかけたら混乱するだろうからグロンギ語に統一しようとのこと。

 

 せめてオレがシャンフィに合せられれば良かったのだが、どうやってもグロンギ語以外まともに話せないのだ。頑張って頑張って頑張って何とか日本語が話せるようにはなったのだが、どうやっても全部オンドゥル語になるんだよな。リアルに「本当にありがとうございました」だよ、本当に。

 しかも気合振り絞らないと出来ないから異様に疲れるし、喉へ負担かかるし、聞き取りづらいで、これなら無理せずにグロンギ語話して筆談してた方が良いてことで落ち着いた。

 

 ちなみに牛の名前は「タロウス」で雄だ。

 名前の由来は太郎(タロー)とミノタウロスを合わせて割っただけだったりする。

 少々安直な名前だが、変に凝った名前付けても呼びずらいし、黒歴史を残すようなことになるよりは丁度いいのだ、これが。

 

 

 閑話休題

 

 

 そして今現在、オレたちがいるのはフリアヒュルム皇国は王都の北東に位置する商業の街、「エテジエ」の東門の前に出来た検問待ちの列の中の最後尾近く。

 オレたちから距離を取る行商人の商隊や旅人の視線が集中しているのは言わずもがな、基本害獣扱いの魔物を引き連れて、挙句に真っ白なローブで身を隠し、フードを目深に被る明らかにヒトじゃないのと獣人の子供が一緒にいるのだ、怪しさ大爆破どころじゃないだろう。

 門までまだまだ距離はあるが、そろそろ様子のおかしさに気付いた門番の衛兵が職質しに来るんではなかろうか。

 

「そこの………ビックブルを連れている奴、止まれッ! 」

 

 と、思っているそばから来たか。見るからに若い衛兵3人が門の方からこっちに走り寄って来た。

 

 さて、どうしたもんかな。というか、タロウスは牛の魔物として知られているから仕方ないにしても、取り囲んでオレにまで槍向けんでくれないかね。いや、わかるよ、わかってるよ。「ヒャッハー! コイツ明らかに人間じゃネーゼェ! 」ってことで向けてるのは。でも少しでもヒトっぽくしようとローブと一緒に作った黒染めの革の貫頭衣とズボンをローブの下に着てるんだから、もう少しやんわりと話し合いから行こうよ。何言ってるか言葉わからんけども。

 

『 ブ ル ル ル ッ 』

 

「!? 」

 

ゾグゾグ(どうどう)、タロウス。グデギ(ステイ)グデギ(ステイ)

 落ち着いてください。

 ちょっかいを掛けて怒らせたりしなければ、この子は暴れたりしませんから」

 

「そいつはビックブル、魔物なんだぞ! そんな言葉が信じられるか! 」

 

 何言ってるかわらないけども、子供相手に槍向けて頭ごなしに怒鳴りつけるな。若いから血気盛んなのか気が短いのか知らんが、もしシャンフィに手を出すようならただじゃ済まさんぞ。職務だろうが何だろうが何もしてない子供と老人と病人に手荒な真似しくさる野郎は外道認定だ。

 

「魔物を引き連れて、貴様一体何が目的だ!! 」

 

 だから子供相手に殺気立つな。槍も向けんな、コラ。

 

「この子に牽かせる荷車を買いに来たんです。後、いくらか物を売ったり買いに」

 

 殺気立った大人に槍を向けられ怒鳴られているというのに、場違いと思えるくらいに、怒鳴りつける衛兵よりも子供のシャンフィの方が大人に見えるほど落ち着いて対応している。

 しかし、良く見れば足や手が震えているのがわかる。言葉の通じないオレに代わって自分が確りしなければと、気丈に振舞っているのだろう。

 盗賊に襲われ殺されlかけたトラウマが少なからずあるだろうに。

 

「シャンフィ」

 

「き、貴様!? 動くな!! 」

 

『アーズ!? 』

 

 向けられた槍を気にすることなく、自然体でシャンフィに歩み寄るオレに、槍を向けていた衛兵がその槍を突き出して来たが、こともなげに片腕で受け止める。カキーンと金属音が鳴り、その穂先がポッキリ折れる槍。

 

「な!? 」

 

「わ!? 」

 

 慄く衛兵たちをよそにシャンフィを問答無用で抱え上げる。

 

 片腕に座らせるように抱き上げると、オレは空いた手でフードを上げて素顔をさらす。

 

「!? 」

 

 オレが素顔をさらしたことで衛兵だけでなく、距離を置いて動向を見ていた列を作る人々も騒然とし始める。

 中には聞こえないような小声で「ひっ」とかの小さな悲鳴を上げてる人が何人かいた。チートで耳が良いのも困りものである。おかげでオレの精神ガリッガリ。そういう反応はオレのライフがzeroになるので止めて頂きたい。というか、竜頭人身鱗姿の素で強面な竜人(ドラゴニアン)もこの世界にはいるはずなのに、その過剰反応はなんなのと言いたい。

 大体ローブで隠せない足元から大体予想できていると思っていたんだが、顔出してこの反応か、なんかパッシブなスキルで「威圧」とかの補正でも付いてるのかオレは。街の中に入ったら出来るだけフードは被っといた方が良いのか?

 いや、でも、やましい物は何にもないんだし、開き直ってこのままいくか? 先々のことを考えれば正解な気もするんだが、周りの反応に果たしてオレの精神が耐えられるかどうか。

 

 まぁ、ともあれ。

 

「シャンフィ、ヅグジャグゾダボル(通訳を頼む)

 

『アーズ? 」

 

「なんだ! 何をする気だ!! 』

 

 槍を突き付けて殺気立つ衛兵たちを無視し、タロウスの背を撫でて落ち着かせながら、シャンフィに伝えて欲しい言葉を口にする。

 

「えっと、血気盛んなのか、短気なのか知らないが、少し落ち着いたらどうだ」

 

「な、何だと!」

 

「職務にしても、大の大人が子供に槍を突き付けて、挙句に怒鳴り散らして、恥ずかしいとは思わないのか」

 

「ッ、それは、貴様らが魔物を引き連れてなどいるからだ! 」

 

 一々怒鳴るな。怒鳴らんと喋れないのかこの衛兵は。シャンフィが通訳し辛いだろうが。

 

「魔物が危険なのは確かだが、少なくともタロウスに、このビックブルに危険はない。現に、これだけ騒いでいるのに、暴れず、大人しくしているだろう」

 

 オレの言葉を訳すシャンフィの言葉を聞いてか、門へと列を作っている周りの人々から何か話し合う声が聞こえ始める。そういえば、言われてみれば、という風なことを言ってくれているとありがたいんだがな。

 

「だからと言って魔物を街に入れるなど! 」

 

「ならば、ビックブルは外壁の外に待たせるから、お前たちで監視すれば良い。

 街での用は細々(こまごま)とした物の売り買いと、荷車の発注だけだ。何かに手間取りでもしない限り、半日と掛からずに出て来れる」

 

 予想していた反論にシャンフィを通して即座に返す。

 

「そ、そんなことができるか! 魔物なんだぞ! 街の近くにだっていさせられるか!! 」

 

 もういい加減に責任者出てきてくれないかね。若いのに職務に忠実なのは良いが、頭が固くて融通が利かないんじゃ、臨機応変さが必要な有事には苦労するじゃすまないよ。

 というか、もしかして実戦経験ないのか、この3人。それなら魔物に怯えて、こんな態度を取っているんだで納得できるが。

 

「怯えているのか」

 

「な、何!? 」

 

「そうやって、一々怒鳴るのも、魔物への怯えを隠すために、威嚇(いかく)しているように見える」

 

 オレたちの会話からか、列を作っている周りの人たちがざわざわし始める。周りの人たちも、シャンフィを通したオレの指摘に思うところがあるようだ。

 

「き、きき貴様ぁっ! 」

 

「そこまでだ!! 」

 

 槍を突き出そうとした衛兵だが、怒号のような声が掛かり、その動きを止める。

 掛かった声の下へ視線を向ければ、衛兵3人を引き連れて立つ金髪あご髭の壮年の衛兵。

 

 やっと責任者のお出ましか。話のわかる相手だと良いんだがな。

 

「た、隊長! 」

 

「槍を降ろせ」

 

「しかし! 」

 

「良いから降ろせと言っている!! 」

 

 言うことを聞かない若い衛兵に再び声を張り上げて言う通りにさせる責任者の隊長さん。

 ただ怒鳴り散らしていた若い衛兵と違って耳によく響く良い声だが、もう少し声量下げてくれないかな。シャンフィが驚いてしがみ付いてきてるじゃないか。

 

「俺は東門の門番をまとめてるティグリスっていうもんだ。

 部下が迷惑を掛けたな、すまない」

 

 どうやら話のわかるヒトらしいようだ。異形の(こんな)オレに頭を下げてくれる辺り、肝も据わっていて懐も深そうだ。

 しかし、オレがシャンフィに通訳を頼もうと動いた時には、槍を弾いて穂先を折った時には、もうそこまで来ていたのだ、この隊長さんたち。

 

「そう思うなら、見ていないで、早く出てきてほしかったんだがな、って言ってる」

 

「あー、それも踏まえてすまん。状況を確かめるのにちょっとな」

 

 頭を掻きながらすまなそうにする隊長さん。なんだろうか、こう、親愛を込めて「おじさん」て呼びたくなるな。某ワイルドな虎さんみたいに。

 

 

 

「つまり、その「テイム」ってやつをアーズがしたからコイツは大人しいわけか」

 

「そう。でもまだテイムしてから日が浅いから、石を投げつけるとかいたずらされたりしたら、怒って暴れるかもしれないけど」

 

「おいおい、本当に大丈夫なのか? 」

 

「ゴセガギショショバサググビバザレサセスバサロンザギバギ……」

 

「えっと、オレが一緒ならすぐに宥められるから問題ない。

 それに、さっき言った通り、オレは魔法が使える。側を離れなければならない時は、それで結界を張れば、下手ないたずらも防げるし、暴れだしても被害は出ない、って言ってる」

 

 結局隊長さん、ティグリスさんが来た後、衛兵たちは門の方へ戻されて一時中断されていたらしい検問は再開された。

 残ったティグリスさんは事情聴取のためと監視のため、タロウスと列に並ぶオレとシャンフィに色々と質問しながら付いてきている。

 多分、周りの人たちにタロウス含めてオレたちは安全だと安心させるために、アピールする意味もあるのではないだろうか。

 もしそうなら、あの若い衛兵たちとのやり取りからオレとシャンフィの人となりを見定め、信用してくれたということなのか?

 そうだとしたら非常にありがたい。少なくとも話がわかって(ふところ)が 深く、頼りになるヒトが知人に出来たのはシャンフィのためにもありがたい。

 

 ちなみに、オレとシャンフィの関係は少々にごしたが話している。また言葉についてだが、街に行くにあたって前もって考えておいた物。

 オレは遠い地から、別の大陸から何がしかの魔法の事故でグランローア大陸に跳ばされて来たということにし、シャンフィが通訳をできるのはオレ独自の儀式魔法による契約によってオレの言葉がわかるんだという風に説明してある。

 オレの身の上は少々強引な気がして、信じてもらえるかわからなかったが、ティグリスさんは信じてくれたようだ。

 

「なぁ、このビックブル、たろうすって名前だったか、お前さんらの話が本当ならタロウスは人を背に乗せられるくらい人馴れしているんだよな? 」

 

「そうだよ。私、ここに来るまでにも乗って来たんだから」

 

 同時通訳しながらも確りと会話に加わるシャンフィ。この娘は前世の記憶抜きにしても相当に頭が良いのだろうとつくづくそう思う。

 プリヴェラ学院だったか。オレの心情としても亡くなった御両親のためにも、確りとした学校へ入れて学ばせてやりたいんだがな。

 

 ……………オレが異形(こん)なんじゃなかったら。

 

「じゃぁ、嬢ちゃんたち以外が乗ったりしても大丈夫なのか? 」

 

「うん、そうだよ。

 もしかして、乗ってみたいの? 」

 

「あぁ、うん、まあな。

 街の外に置いて行くにしても、街中に連れて行くにしても、一応安全は確認しとかないとな」

 

 などと言いつつ、どこか子供のようにそわそわするティグリスさん。

 

『バサ、グボギボデデリスドギギ。ブサバゾバギバサボシゴボヂパゾショグゼビバギベセゾ』

 

「なら、少し乗ってみると良い。鞍などないから乗り心地は保証できないけれど、って言ってる」

 

「良いの!? いや、ホント、なんか悪いな催促したみたいで」

 

 苦笑まじりに勧めれば、ティグリスさんは人懐っこい笑顔を浮かべて見せる。

 話がわかり、懐が深くて頼りになるのにどこか子供っぽい。人懐っこいというか、お人好しというか、良い人オーラ全開なヒトだな。

 ほんの短い時間だが、その人となりに嘘や欺きみたいな物は感じられない。こういうヒトとは是非に顔見知りの知人ではなく、友誼を結んだ友人になりたいものだ。

 

「タロウス、グデギ(ステイ)

 

 丁度 列の進みが止まったところで、タロウスにじっとしているように指示を出す。

 

「おっし、じゃぁ、乗せてもらうぜ」

 

「一人で乗れる? 」

 

 タロウスの背に手を置くティグリスさんに、騎乗に手はいるかと問うシャンフィ。何せタロウスは牛の魔物だけあって身体がでかい。地面から背の高さまで軽く2m強と、大型の馬の体高よりも高く、下手な大人の身長以上はあるのだ。その上で鞍もなく、ティグリスさんは衛兵で鎧を着込んでいるから心配になったのだろう。

 

「大丈夫大丈夫! これくらい! 」

 

 ティグリスさんはそう言って「よっ」という声と共に勢いを付けてタロウス背に軽やかに乗ってみせた。

 

「おおう、やっぱ馬に乗るのと全っ然ちがうなー」

 

 「視線たっけー」とはしゃぐティグリスさん。ホントにこのヒト、親愛を込めて「おじさん」て呼びたくなるな。

 

 

 

 

 

 

         ドグ・ヂヂ・ボンデギビジュジュゾ(To Be Continued)………

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告