輝けぬダヰアモンド   作:矢神敏一

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貴様は仲間に砲を向けたことがあるか?

 雪が降ってきた。今日は大雪になるそうだ。最近にしては珍しいのではないか。

 

 雪となると、我が国の人間は、思い出さざるを得ないだろう。あの過去のことを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 83年前、雪の降り積もるこの日、私は、私のこの砲は、仲間を殺すために帝都に向けられた。

 

 この40サンチの、世界に名だたる我が国の誇りたるこの砲は、守るべきである本土に、ともに戦うべきである同じ皇軍兵に向けられたのである。

 

 貴様は、仲間に砲を向けたことがあるか?

 

 私は、ある。

 

 

 

 

 

 

 

 

 仲間とは、なんなのだろう。

 

 同じ皇軍に属せば仲間か。

 

 同じ志があれば仲間か。

 

 同じ手段をとれば仲間か。

 

 

 

 ならば、彼らは仲間である。陸海の違いはあれど、我々は同じ皇軍の、陛下のための兵である。

 

 ならば、彼らは仲間である。この國を護り、この國を列強諸国に負けない偉大な国にするのが我らが使命である。

 

 ならば、彼らは敵だ。彼らは逆賊なのだから。犯してはならぬ禁忌を犯したのだから。

 

 

 

 では、彼らは仲間か?その陛下に逆らったのにも関わらず?

 

 では、彼らは仲間か?その行動がその後の我が国を大いに乱したのにも関わらず?

 

 では、彼らは敵か?

 

 

 

 わからない。私にはわからない。

 

 彼らの行動が正しいのか、正しくないのか。正しくなかったのか。正しかったのか。

 

 わからない。私にはわからない。

 

 妹とともに我が国の誇りと称されたこの力を、仲間を殺めるために使おうとしたことが、本当に正しかったのか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 仲間とは何だろう。

 

 私に仲間は居るのだろうか。

 

 仲間とは何だろう。

 

 仲間はそんなに簡単に敵になれるのだろうか。

 

 仲間とは何だろう。

 

 私に、仲間を持つ資格はあるのだろうか。

 

 

 

 わからない。私にはわからない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ただひとつだけ。

 

 この手のひらが、ぬくもりを感じているということは、ぬくもりを与えてくれる貴様は、きっと仲間なんだろう。

 

 かつて、救えなかった仲間たち。

 

 かつて、護れなかった故郷。

 

 今こうして、再び会えた妹よ。

 

 そして、私の手をそっと包む貴様よ。

 

 貴様たちのことを、私は仲間と呼んでいいのだろうか?

 

 いや、呼ばしてくれ。

 

 貴様たちを、絶対に傷つけたくはないから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 雪はいつしか止み、止まっていた人の流れは今再び動き出した。

 

 あの時も、こうだった。

 

 我々はいくつもの悲しみを乗り越えて、ここにいる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 過去を、否定してはならない。

 

 過去とはすなわち、自分であるから。

 

 

 

 過去を肯定した分だけ、そこには矛盾が生ずるだろう。

 

 なぜなら人間は間違えるからだ。

 

 

 

 だから、私は未来を否定する。

 

 間違えた過去の分だけ、未来を否定する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 大丈夫。未来は無限大だ。

 

 貴様が探し求め続ける限りにおいて、未来は否定しつくされない。




2月26日執筆

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