Fate/ZERO-NINE【休載中】   作:縞瑪瑙

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第二章第0話の投稿後、息もつかずに第一話です。
戦闘シーン近づいてくる緊張感、どんな具合でしょうか?お手本にさせてもらっている
作者様方の能力がすごく高いので、びくびくしつつも投稿です。


Fate/ZERO-NINE 2-1

 セイバーは森の中を疾走していた。

 左手には、アインツベルンの錬金術で作られたブレスレットがある。

ランサーの槍に抉られてできた傷は槍の破壊もしくはランサーの脱落以外に

回復の方法がないと判明し、緊急手段として封じてあるだけだ。

 

 「…奴は!?」

 

 直感に従い、アインツベルンの城へと侵入してきたキャスターのいる方角へと

もてる脚力と体力を動員して走る。最優のサーヴァント、セイバーの敏捷はランサーにこそ

劣るが他のサーヴァントには引けを取らない。闇夜であろうとも、幾度となく夜戦を

経験していた彼女には全く問題がなかった。

 

…問題であるのは…キャスターだ!

 

 およそのキャスターの生前については、アイリスフィールから情報は得ている。

 英雄と言っていいはずの人物が、なぜ、反英霊として呼び出されたのかは、敵であるとはいえ

セイバーにとっては納得がいかないところであった。国のために戦った元帥、ジル・ド・レイ。

 そんな彼があのように落ちぶれた歴史を歩む羽目になったのはなぜか。報われると

信じて剣を取り、戦いへと赴いたのではなかったのか。世界は、そんな人の願いも踏み

にじるのか。

 やりきれない感情とともに、セイバーは地面をけった。

 

 

 

 

 

   ●

 

 

 

 

 発端となったのは、監督役からの招集であった。

 そこで告げられたのはキャスター陣営の討伐命令。倒した場合、令呪を一角報償

として贈るとのこと。

 

 「聖杯戦争の存続にかかわる重大なことである。各陣営は速やかに戦闘を中止し、

  キャスターを討伐せよ。何か、質問はあるかな?」

 

 使い魔が集まった教会からは質問はなかった。

では、と息を入れた監督役言峰璃正は薄い笑いを浮かべる。

 

 「この聖杯戦争の続行のために、頑張ってくれたまえ」

 

 

 

 

   ●

 

 

 

 キャスターの暴挙はすぐさま目をつけられていたのだが、アーチャー陣営の遠坂は

これをあえて利用していた。

 アサシンが根城としている場所を見つけてはいたのだが、それをひた隠し、ほかの

サーヴァントの能力を諮ろうと画策していた。また令呪という餌でほかの陣営をおびき寄せ、

かつ、マスターも監督役のところへとおびき寄せることで正体や拠点をあぶりだそうという

狙いもあった。

 ただ、問題であったのは、そういった意図を読み取る達人が、ライダー陣営に

いたことだった。

 

 「あの神父は嘘をついているな…もう、自分たちで処理できるとわかっているはずだ」

 

 使い魔からの映像を見ていたウェイバーに、ウフコックは断言した。肩の上に載った

ネズミは、自慢の鼻をスンスンと鳴らし、

 

 「何かをたくらんでいるな…キャスターが討伐されればこの停戦命令は即解除だ。

  多くの陣営が集まったところで不意打ち、なんてことがあるかもしれない」

 「待ってくれよ、仮にも監督役だろ?そんなことしたら中立性に欠いた

  行動じゃないか」

 「もちろん。だが、俺は監督役とグルである陣営がわかっている。

  あのアーチャー陣営…トオサカの当主だな」

 

いいか、とウフコックはテーブルの上に飛び移って前足を広げる。

 

 「あのアーチャーは、多種多様な宝具を持っていた。俺が認識しただけでも

  あらゆる時代、あらゆる国々、あらゆる神話の宝具があった。

  そういった宝具を意のままに取り出せる宝具だとしたら、アーチャーはどんな相手でも

  弱点を突いた戦いができるというわけだ」

 「…じゃあ、実質最強か?」

 「いや…問題であるのはあのサーヴァントの性格と戦闘への意思だ。

  どうやら相当な国の王か皇帝であったと考えられるし、見るからに

  戦闘に自ら行くようなタイプじゃない。武器をふるうのではなく、

  あの空間から発射していただけだ」

 「なるほど…世界中の宝具を持っていて、しかも王様で、人の上に立つような英霊…」

 

 ウェイバーもこの聖杯戦争のために一応は世界中の英霊・英傑たちのことを

調査していた。人並み以上には覚えていると自負のあるウェイバーは、

頭の中にいくつかの候補を挙げていた。

 

 「とりあえず…皇帝とかなんだろ?

  誰だろうな…収集したっていうならどの皇帝とかでもやることだし…」

 「うん。ドクターの知恵も借りたいが、今は無理だな。

  とりあえず、あれだけの神性を持っているなら、半神とかではないかな?」

 

 神性スキル。

 歴史上には往々にして神の血を引き継ぐものが登場する。もちろん実際はどうだったかは

不明であるが、そういった人々からの信仰を集めているならば得るスキルだ。

ウェイバーがもともと狙っていたイスカンダル、ヒュドラを殺したヘラクレス、

その他、クー・フーリンや関羽などがその例にあたる。

 

 「てことは…結構古い時代のやつだな。ちょっと調べようか」

 

 本棚から、ロンドンから持ち込んだ神話を扱った分厚い辞書を引っこ抜いて、テーブルの

上に置くとウェイバーは早速ページに目を走らせる。

 

 「イスカンダルってことはないよな…あれはライダークラスだし、征服した土地の

  文化を愛好したからって時代は超えないし」

 「ヘラクレスも違うだろう…あれは王というよりも戦士だ」

 「じゃあ、本当に神が呼ばれたのかな…鍛冶の神とかならありうるんじゃないか?」

 「だとするなら、それはキャスタークラスで呼ばれるな。あるいは発射のタイミングで

  武器を鍛えるという工程が入るはずだ」

 「インドのほうの神でもない…残るは中東だけど」

 

 ウェイバーの手はとあるページで止まる。そこには、とある王についての一説が書かれている。

 

 「ウルクの王 ギルガメッシュ…?」

 「ギルガメシュ叙事詩に書かれた、実在した王だな…神の血を受け継いでいて、

  しかも不老不死のための旅をしたとされる、世界最古の王だ」

 

挿絵には、何やら毛が多く生えた人間と取っ組み合いをしている。

 

 「エンキドゥ…神々の作った泥人形。確か、ギルガメシュが用意した娼婦に

  己の獣性を吐き出して人間としての理性をもって、唯一の友となった…」

 「これじゃないか、ウェイバー」

 

はしゃいだようなウフコックの声に、ウェイバーは声に交じる喜びの声を

抑えることはできない。

 

 「やったぞ…やった!」

 

成果を上げて、ガッツポーズをしたウェイバーにライダーからの声が届いたのは

それからしばらくしてからだった。

 

---キャスターを見つけた。

 

  ●

 

 

 

ライダーが、アインツベルンの城へと向かうキャスターを捉えたのは、夜になって偵察に

自主的に出たからであった。しかし、仕掛けることはできなかった。

 

 『子供たちが…!』

 

 ぼぅっとした表情で歩くのは、十歳にもなっていないような子供たち。

二十人は下らないその子供たちは、キャスターの魔術によって抵抗なく真っ暗な夜道を

歩いていく。その奇妙な行列を、ライダーの視界を通じてウェイバーは見ていた。

 

---駄目、攻撃できない!

 

 舌打ちしかねないライダーは、気配を殺して追尾するのが精一杯だ。

ライダーの腕ならば、いかなる距離であれキャスターを狙撃するなどただの

拳銃でも楽なこと。

 しかし、相手はキャスター。いったいどんな仕掛けを施しているかは計り知れないことだ。

また、子供たちが正気に返った時のリスクを考えれば…頭を吹き飛ばされた死体と真夜中に

対面など考えたくもないシチュエーションだ。

 一方で虚空に向かって放っていた声の内容からして、キャスターの真名がジル・ド・レイ

と判明していた。しかしどのようなキャスターであるかは、所詮ライダークラスには

わからない。

 

 『タイミングを見計らってくれ…でもなんだってセイバー陣営に押し掛けるんだよ』

 「誰かと、セイバーを勘違いしているかもしれない。おそらくだがジャンヌ・ダルク

  と考えるのが自然だろう」

 

 ライダーの左手の手袋となって、キャスターのにおいをかいでいたウフコックが

マスターとライダーに伝える。

 

 「子供たちは恐らく生贄にでもする気だろう。彼は、歴史上ではそういった黒魔術に

  傾倒している」

 

ならば、

 

 「必ず隙は生まれる。討伐令が出ている以上、ほかの陣営と手見逃しはしないさ」

---でも…

 『落ち着いてくれ、ライダー』

 

食い下がりかけたライダーに、パスを通じてウェイバーの声が入った。

 

 『暴走しちゃだめだ。君の力ならたぶんできるかもしれないけど…あ、もちろん

  信じてるけど…』

 

なんだろう、と一瞬ウェイバーは言葉を切って考え、それをそのまま吐き出した。

 

 『あんまり焦っちゃ、ダメだぞ』

---!……うん。ありがとう。

 

 

 

 

 

 

   ●

 

 

 

 一方で、別の侵入者がアインツベルンの森にはあった。

仕立ての良い服に身を包んでいるのは、金髪碧眼の男性。そして小脇には陶磁の大瓶

を抱えていた。実際の重さが百キロを超えるそれを軽々と扱えるように施された

重量軽減の魔術のレベルは大したものだ。

 

 「Fervor, mei  sanguis」

 

 詠唱されたのは言葉だった。

 それは魔術の呪文であり、扱う人物が自身へとかける自己暗示の術。魔術師の体へと

刻み付けることで、魔術は人間が扱えるものとなる。本来ありえないモノを刻むので、そう

短期間で楽に身に着けられるものではない。

 

 「Automat oportu defensio(自動防御)Automat oportum quaerere(自動索敵)

  Dilectus(指定) incursio(攻撃)

 

 

 だからこそ、魔術師はそれを刻印という形で子孫へと引き継ぎ、能力を高めていく。

これだけの簡単な呪文でこれだけの魔術礼装---水銀によって構築された

最大の武器であり盾を操るのもそれによるところと、持ち主の才覚によるところが

かなり大きい。

 

 「さて…アインツベルンの実力を見せてもらおうか」

 

憤怒の表情を何とか上品な振る舞いで覆い、ケイネスは森へと足を踏み入れた。

 ケイネスの現状は、見た目とは裏腹にかなり悪かった。

 まずは、ロンドンから持ち込んだ多くの魔術用品をせっかく用意した拠点もろとも

ふっとばされてしまったことだ。聖杯戦争に絶対必要ではないが、得られるかも

しれないバックアップを失い、何よりもケイネスのプライドが許さなかった。

 

 「…邪魔だ!」

 

仕掛けられていた爆弾が発動するが一瞬で、『月霊髄液《ヴォールメン・ハイドラグラム》』によって

爆圧が防がれる。

 続いてだが、婚約者であるソラウ・ヌァザレ・ソフィアリの存在がある。

ホテルの爆破から逃れた彼女は、暫定的な同盟を結んだライダーの用意した

拠点に身を潜ませ、その翌日にはランサーにケイネスを探させ、連れてきた。そして、始まった

のは説教だった。

 

 

 

 

   ●

 

 

 

 「ケイネス、私がいろいろ言いたいことがあるのはわかっているでしょ?」

 「…ああ、もちろんだ」

 

 両者の間におかれた紅茶は、すでにこの場の空気同様に冷め切っていた。

ちなみに、ランサーはソラウの一存で場から外れている。

 

 「初戦での失態。セイバーを倒せず、しかも令呪を浪費し、挙句に独りよがりで

  拠点を失った」

 「…」

 「ライダー陣営からの警告を丸々無視したのはあなたよ?

  命を救われて、求められた対価なんてせいぜい今後の協力関係くらいだし」

 

吐息したソラウは、一度呼吸を入れて婚約者を見据える。

 

 「…けどね、ケイネス。私だって現状には甘えないわ。

  聖杯戦争を勝ち抜くつもりに変化はないんだし、ライダー陣営だっていつかは

  敵対するんだから」

 

だから、

 

 「キャスターの討伐令が監督役から出たわ。報酬は令呪一角。何としてもこれを得て、

  ほかの陣営との差を埋めないと」

 

 まったくと、ソラウはため息をつきかける。なぜ、魔力をマスターの代わりに供給する役目

だけである自分が、マスター以上の思考や働きをしなければならないのか、はなはだ

疑問だった。

 

 「わかったかしら?」

 「…仕方がない、不本意だが認めよう」

 

 ケイネスは、ソラウには頭が上がらない。自分よりも地位が上の魔術師の娘であり、自分が

惚れていることも手伝っているのだ。そして、かなり頭が冷やされたケイネスに、反論する

余地はなかった。

 

 「では、キャスターの討伐が当面の目標ということか」

 「そうよ。監督役曰く誘拐事件をやらかしているみたいね」

 

 

 

  ●

 

 

 

 

 あの場は納得した、しかし、腹の虫がおさまるはずもない。ランサーには単独行動を命じて

自分から遠ざけてある。

 そして自分がすることなど決まりきっている。

 

 「ここか」

 

 アインツベルンの城。

聖杯戦争が始まった約二百年前から、この冬木の地に隠されている城だ。固く閉ざされた門には

強化の魔術を施してあるのだろう。だが、

 

 「scrap!」

 

 水銀の刃が一瞬で切り裂いた。ゆったりとした歩みでケイネスは、ふむ、と周りに目を凝らす。

広いホールには、人の気配すらない。もぬけの殻もいいところだが、

 

 「キャスターへの対応をしているにしてはいささか間が抜けているな」

 

まあよい、と息を入れ直し、ケイネスは声を拡大する魔術をもって城中に声を通す。

 

 「アーチボルト家当主、ケイネス・エルメロイ・アーチボルトがここに参じた」

 

 堂々とした名乗りの直後に返答が来た。飾ってあった美しい花瓶の中で

いきなり炸裂した対人地雷のクレイモアにも目もむけず、水銀の楯で受け止める。

魔術師の反応ではなく、礼装自体が危険を察知するとケイネスを守るように設定

されたこれは回避どころか反応すら不可能であろう殺人兵器からもケイネスを

守ったのだ。

 

 「なるほど…それがアインツベルンの返答か。ならば」

 

月霊髄液が攻撃態勢となり、それへと指示を出したケイネスは宣告する。

 

 「宜しい。ならばこれは決闘ではなく誅罰だ」

 

不敵な笑いとともにケイネスは一歩を踏み出した。

 

 

 

 

 

 




…ふう。大学に進学すると勉強やら一人暮らしの家事やらで忙しいですけど
執筆時間は増えましたね。
おかげでこんな感じに連投もできるというものです。

さて、今回は戦闘シーンが目前となるお話。うろ覚えながらアニメのシーンを再現しています。
でも中途半端なところで止まったなぁ…次の話から戦闘なんだけれども
その緊迫感を出せただろうかと、自己反省中です。

感想などくれますと、非常に喜びますので、気が向いたらお願いします。

四月十八日、前書き、本文の誤字を修正しました。
五月十一日、誤字修正と本文の加筆を行いました。

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