Fate/ZERO-NINE【休載中】   作:縞瑪瑙

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いよいよ第二章です。
だいぶほら吹いた感じの予告に見合うかどうか不安ではありますが、どうぞ楽しんでください。
ではどうぞ!


2nd 解凍
Fate/ZERO-NINE 2-0 解凍


 サーヴァントとマスターの間には魔力供給のラインが開かれている。

所詮はかりそめの肉体、その糧である魔力がなければ、後は消滅を待つのが

サーヴァントである。

 そして、そのラインを通じてマスターはサーヴァントの過去を垣間見るという現象

がたまに起こる。

ウェイバーもその例にもれず、夢の中にいた。

 

 

 

 

   ●

 

 

 

 暗い、湿った、どこかの建物。

 灰色ののっぺりとしたコンクリートの壁が視界に飛び込んできた。続いて蛍光灯の

明るさが目に突き刺さる。

 

 『これは…」

 

 ウェイバーは視界のみの状態に、すぐさま気がついた。自分はライダーの過去を見て

いるのだと。書物でかじった程度であったが聖杯戦争におけることは一通り調べてある。

 

 『じゃあライダーは一体どこに?」

 

 体はない、が、カメラ越しに風景を見ているときの様にウェイバーの視覚は左側に

回転することで、ライダーの姿を移した。

 いた。

 巨大なカプセルの中、卵を連想させるような楕円を描くラインを持つそれの中に

人間が入っている。囲むように並んでいるのはよく分からない機械の類。

 しかし、素人目にもそれがカプセルの中の人間の状態を表示していることはすぐに

判明した。

 視界が迫る。

 隙間から覗いた先には、

 

 『ライダー?』

 

 黄色の液体が満たされ、人間が寝そべるようにソファの形をした底面が見える。

目を閉じて、死んだように眠っているのはまごうことなきウェイバーのサーヴァントだ。

召喚した時に教えられた宝具“電子の殻”はすでに体表を覆っている、ということは

ウフコックが言っていた大やけどをした後ということだ。

 

 『…わ!』

 

 顔だけを出して液体に使っていたライダーは、ふいに眼を開いた。しばらく瞬きを繰り

返した後、身を起こした。同時に、カプセルのふたが開き、換気扇が回り、床ずれを防ぐ

液体の中のベットのマッサージ機能が停止した。誰の操作もなく。

 しかしウェイバーにはそれがライダーのやったことであるとすぐに理解できた。

 

 「…」

 

 身を起こしたライダーはきょろきょろと周りを見渡し、そしてその皮膚をそっとなで

首をかしげた。何かに気がついたかの様に。やおら、その手を上に伸ばす。その先には

蛍光灯があり紫色の殺菌光を発していたがふっと消える。続いてその手を水平に動かし、

いくつかの電子機器を思い思いにいじる、手を触れることもなく。

 そして、古びたラジオに手を伸ばし、顔をしかめた。しばらくしてラジオは

何処からともなく電波を受信し、ハスキーな女性シンガーの歌を流し出す。

 

 『視界が…!?』

 

よどんだ水に顔を突っ込んだ時の様に、ウェイバーの視界が歪み、しばらくして晴れる。

次に目についたのは、ドクターから話を聞かされているライダーの姿だ。

 

 「昏睡中の君の視覚野に対し、市当局の定める“質疑応答”をさせてもらった。

  こういう権利はあるけど行使しますか?とか、生きたいですか?とか…」

 

おぼろだが、そういった内容を話すのが聞こえる。

 

 「そして君は選択したスクランブル09(オーナイン)を」

 

 スクランブル・オーナイン、緊急特例法案と呼ばれるライダーの宝具だ。

そしてしばらく二人が話した後、ふいにドクターは上機嫌になって立ち上がる。

 

 「おい、ウフコック!彼女がお前を呼んでるぞ!」

 

 心底うれしそうな声だ。

 嬉々とした表情で呼びかけるが帰ってくるのは沈黙のみだ。苦笑いしたドクターが

不意に古びたラジオを手にとる。シャイな奴でね、と言い訳すると、

 

 『!?』

 

 それを地面へと投げつける。当然、たいして頑丈ではないラジオは砕けた。砕けたパーツ

の中から音量調整のつまみの部分が転がって来てライダーのカプセル近くで止まる。

 

 「こいつも宇宙開発用さ」

 

手の上にそれを乗せたライダーはじっと見る。

 

 「女性をあまり驚かせるものじゃないぞ、ドクター」

 

渋い声が、つまみから洩れた。くるりとつまみを構成する物質が内側へと、

そして金色の体を構成する物質が外側へと、ひっくり返った。

 

 「こんばんは、お嬢さん。ネズミはお嫌いじゃないですか?」

 

そして、二本足で立ちあがったそれは優雅に一礼した---------

 

 

 

 

 

 

 

 

 「……あれ!?」

 

と思った時には、ウェイバーの視界にはやわらかい何かがあった。

白い、清潔なそれは、

 

 「枕かよ…」

 

 身を起こすと、カーテン越しに朝日が部屋の中へと滑り込んでいた。

今日一日は晴れの予報だったかと思いだして、思いっきり伸びをする。体のだるさは

少し残っている。昨日の戦闘に魔力を多く供給したからで、さらに言えば、寝ている間

も間桐雁夜の手術を夜通し行っていたドクターへも微量だが魔力を供給していたのだ。

むしろ、ウェイバーはよく回復した方だ。

 

 「ライダーは…いるか」

---私は霊体化してるから安心して

 「ああ…」

 

 下では、もうすでにマッケンジー夫妻が朝食を作っている音や気配がある。

時計を見ればまだ朝の六時前、大体五時間程の睡眠だったが、ウェイバーは

せっかくなのでそのまま起きることにした。昨日の今日なのだ、しばらくはどの陣営も

様子見となるだろうと、ウェイバーはある意味で油断していた。

 

 「やあ、ウェイバー君。いい朝じゃないか」

 

 朝食の席に目をこすりつつついたウェイバーは、目の前の席から飛んできた声に

意識を叩き起こされた。

 

 「ドクター!?」

 

 髪の毛がいつの間にか黒に染められ、きちんとした格好のドクター・イースター

その人がにこやかに笑いながらマッケンジー夫人と並んで座っていた。

 ご丁寧にも洋風の朝食が用意され、その半分ほどがすでに胃袋へと

消えていった後だった。

 

 「昨日の今日だけど会いにきたよ。

  どうだい、冬木での帰省生活というのは?大学の外での生活は息抜きに良いだろう?」

 

アイコンタクトで、どうやら自分の身分詐称に乗っかっていると伝えてくるドクター。

 

 「ど、ど、どうして…?」

 「朝一できたけど驚いただろう?けどね、ちょっとまずいニュースがあってね。

  近くに寄ったついでに来たんだ、冬木にいる僕の生徒は君くらいだし」

 

指で、ブラウン管テレビを指さすドクター。

それは電源が入っており、何やらニュース速報を流している。

何の変哲もないただのニュースではないと察したウェイバーは、出されたコーヒーを

そこそこに、目をそちらへと向ける。

 早口で、日本人のアナウンサーが何かを言っている。もちろん日本語がしゃべれない

ウェイバーは、ニュースの字幕機能で流れる文字に目を走らせる。その内容には、

 

 「色々、危ないからね…猟奇殺人、しかも」

 「…オカルトじみた殺人!?」

 『……室内には、被害者の血で魔術陣の様なものが書かれており、警察では…』

 

目だけが笑っていないドクターの言わんとすることは、すぐにわかる。

 

 「色々まずいってことだよ」

 

 

 

 

   ●

 

 

 

 

 朝食もそこそこに、ウェイバーはすぐさまライダーに頼んで偵察に行かせた。

自室へとドクターを入れたウェイバーは急いで状況を聞く。ゆったりとソファーに

腰かけたドクターは事前に調べておいたのかすらすらと事件の概要を話し出す。

 

 「事件自体は、ここ一週間ばかり続いているみたいでね。

  警察は最初からオカルトとかの犯行とみて口止めをしていたみたいだけど、

  さすがに六件も続けば隠せなくなったんだろうね」

 「でもこれって…まともな魔術師じゃないだろ?神秘の隠匿は絶対条件だ。

  わざわざ人を殺して、その場に証拠を残すなんてバカじゃないのか?」

 

神秘(ミステリー)とは、ギリシャ語のミステールという言葉を語源とする。

閉じる、閉ざす、隠す。

大体はそういうニュアンスを含んでいる。つまり、神秘が神秘であるのは隠されて

いるからであって、それを漏らすことは神秘を薄めることだ。そして迂闊にもらそう

ものなら魔術協会が黙っておらず、口封じのために刺客を放ってくる。

ウェイバーはそれをよく理解しているための反応を示した。

 

 「ん~、どうだろう。ひょっとしたら本当に魔術師かもしれないし、

  悪魔信仰とかの信者なのかもしれない。だいたいさ、魔術を使ったって

  証拠は今のところはないんだから」

 

カップに入れたコーヒーをすすったドクターは、ウェイバーの性急さを戒める。

 

 「…でもね、この事件が起きた一昨日の夜、最後のサーヴァントが召喚された

  みたいなんだよ。どうだろうね、この事件の犯人が、たまたま魔術回路を

  持っていて、たまたま召喚の儀式を行ったとしたら…

  そして、聖杯は数合わせに無作為にマスターを指名するんだ、ひょっとしたらって

  こともあるよ」

 「一昨日、かぁ…でも素人が召喚して大丈夫なのか?」

 「魔力を供給するだけなら、素人でもできるんじゃないかな。

  それにクラスはキャスタークラスだ、相手が素人でもどうとでもなるさ」

 

なるほど、とうなずいたころ、ライダーからウェイバーへと声がラインを通じて届く。

 

 『ウェイバー?』

 「ライダー、そっちってどうなってる?」

 『…視界をリンクしない方がいいと思う。私は大丈夫だけど、これはひどい』

 『ドクター、俺のほうで映像を録画をしてある。証拠物件としては有効だ』

 「召喚陣はあるのか?」

 

しばらくの沈黙の後声が聞こえる。

 

 『あった。人の血で書かれてる。結構正確に書かれてる』

 

 ちらりと、視界にリンクが映る。見えたのは間違いなく召喚のためのものだった。

一般的な住宅の床、黒く変色し始めた血液によって形を作ったそれ。近くに見えた青い

シートの下には、おそらく材料にされた住人の死体があるのだろうことは想像に難く

ない。リンクを切り、腕を組んだウェイバーは、

 

 「それじゃあ…その殺人犯がサーヴァントを呼んだってことなのかな?」

 「監督役が追いかけているから、僕たちはしばらく傍観だね。

  でもさ、ウェイバー。サーヴァントには注意が必要だよ」

 「?」

 

ドクターは新しく粉を解きつつ、コーヒーのカップをウェイバーに渡していう。

 

 「見た感じ、召喚時に触媒は使っていない。つまりは、キャスタークラスとなりうる

  英霊の中で、相性がいいやつが呼ばれるってこと。

  …殺人鬼、しかも猟奇的だったりオカルトじみたやつと相性がいいなんて

  ろくな英霊じゃないでしょ?」

 「あっ…!」

 

 サーヴァントは触媒なしでは相性の良さが優先されてしまうのが注意点だ。

つまり、たとえ弱いステータスや宝具、マイナーな英霊でも相性が理由で呼ばれることが

あるということだ。

 だからこそ、聖遺物を使うなりして目当ての英霊を呼び出すのが常套手段だ。

もし英霊が複数該当するような触媒があればなお良しだ。

 例えばキャメロットの円卓の破片、あるいは赤枝の騎士団の紋章などがある。

相性がよく、しかも名のあるサーヴァントが呼ばれる確率が高いという、

ずるもいいところの方法だ。

 そこまでを反芻したウェイバーが至った結論は一つだ。いずれにしろ戦う公算が

高まっているならやることは、

 

 「…ドクター。今日のうちに、英霊になるようなやつで、そういう趣向の

  人物を探してくれないか?」

 

そして、運がよけれな未然にこれ以上の暴挙を止めることができるかもしれない。

そう、ウェイバーは考えていた。

 

 「それは、マスターとして。スクランブルオーナインを選択した人間としての

  依頼かな?」

 「リスクを負うのが、その宝具の特性だ。

  それくらい、マスターの僕が負わなくちゃならないんだ」

 

 スクランブル・オーナインとは、ライダーの宝具の中でも異彩を放つもの。

マスターであるウェイバーはその宝具の制約下に置かれており、むやみな乱用が

即脱落につながるもの。

腹をくくるのも当然のことだ。

 

 「よーし。ならさっそく始めようか」

 

聖杯戦争が本格的に始まって2日目。

動きは、さらに激しさを増していく。

 

 

 

 




連投一本目です。
原作におけるキャスターの討伐あたりからですね。
アニメ見たときはこれはすごいと盛り上がったところですので、この章は力作なりそうだと
僕は思います。…けど、非難だらけだったらどうしようとか、不安です。

感想くれると、作者がよろこびますのでよろしくお願いします。
続けて連投するのは第二章第一話、お楽しみに。

五月二日、誤字修正しました。

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