結城理……理、ことわり。真理。あってると思います。でも何だか少し野暮ったい読みにも思えるかも……?
とはいえ祝!
こちらは、有里湊でこれからもよろしくお願いします!
――マヨナカテレビって知ってる?
(……?)
湊はぼんやりとした意識で、いつの間にか眠っていた事に気づく。
ベッドに向かおうと、重い
すると。
「……霧?」
そこは霧に包まれた何処か。一寸先も見えないと言っていいような場所。
見覚えなどあり得るはずも無いのだけれど。何だか懐かしい気分になる場所だった。
湊は数瞬考えた後。思考を放棄し、とりあえず前に進む事にする。
「…………」
固い床が湊の足音を反響させていく。まるで現実味のないこの場所の道の端は、一歩踏み外せば真っ逆様に落ちていきそうな深淵が広がっているような、危険な場所だった。
『真実が知りたいって?』
(……別に)
誰かの声が響いた。湊はその声に、反射的に否定した。
その誰かの言葉に、特に何も思わないまま、更に進んでいく。霧は更に濃くなってきていた。ぬらりとした質量をもって、湊という存在を絡め捕ろうとしているように。
『それなら……探してごらんよ……』
(……どうでもいい)
また響く。湊は少しうんざりした。
その声の主はどこにも見えず、どうやら奥から響いてきているようだ。内容は余りに唐突であり、文字通りどうでもいいのだが、こんな場所からは早く抜け出したい。そのまま歩みを進める。
すると、正四角形を組み合わせたような、奇妙な壁があった。
しかしよく見てみれば、向こう側へと繋がっているようである。そして、扉の向こうからは何かの気配が感じられた。恐らく、声の主なのだと思われる。
進もう。と、意思を決めれば、四角が回り開けていく。
扉が開くと同時に射した眩い光の向こうには、より濃くなった霧が漂っていて。
そして、誰かの影。多分声の主の影が、霧の向こうに立っていた。
『やはり、君だったか……ワイルドの能力を持つ者よ。何故ここに……? “いのちの答え”はもう見つかったのだろう? いや、見つかったからこそここにはいないはずだ』
そのノイズがかった奇妙な声を聞けば、鈍痛が頭にはしる。ふと気づけば、いつの間にか右手には剣が握られていた。左足にはホルスターと拳銃が、自然と装着されている。
とりあえずこれらを使って、影を殴ればいいのかもしれない。
湊はいつ覚えたのか、自然と戦う為の体勢へと変わっていく。
『……君は、試すまでもないね。僕の姿も、霧に映る影とはいえ、しっかり見えてしまっているようだ……それに、君の過保護な“死の影”と敵対するような事は、僕としても避けたいしね……』
その声と共に、霧がより深くなる。
構えた湊としては、どこか肩透かしを食らった思いであった。
『君は、真実を探せるかい? 誰だって見たいものだけを、見たいように見る。そう、君は誰よりそれを知っている。そして霧は、どこまでも深くなるんだ。けれど、もしかしたら君ならば……』
そこで、言葉は途切れた。更に霧は深くなっていく。
どこか期待に満ちたように感じる言葉だった。
『いつか会えるのかな……こことは別の場所で……君の望みは、何なのか。楽しみにしているよ……』
その言葉を最後に、また意識が遠のいていく。
そして湊は気を失った。
トントンッ。
「朝ごはん出来てるよー」
そろそろ起きる時間だ。
湊は扉を叩く音と、菜々子の声に目を覚ました。
何やら夢を見たような気がする。
しかしそんな事は意識からすぐに消え去った。なぜなら今日から新しい学校が始まるのだから。
湊は新しい学校の制服に着替えた後――襟がチェック柄の学ラン――とりあえず居間へ向かう事にした。
居間に降りると、そこにはすでに朝食が作られているのが分かる。
菜々子が作ったのだろうか。湊はこんな小さな子が、自分で朝食を作っていることに驚いた。湊自身も料理は作れるが、果たしてこんな小さな時に作れただろうか。
どこか手慣れたその様子から、いつもの事だと言う事がうかがえる。
(……堂島さんは?)
そんな思考をしている最中、本来菜々子の面倒を見るべき遼太郎が居ない事に気づく。
別に人の家庭にどうこう言うつもりはないが、これがいつもの事ならば菜々子はいつも一人で朝食を食べているのだろうか。
それは何だかいけないような気がした。防犯面でも、教育としても。
「おはよ」
「……おはよう」
そしてそんな菜々子は一欠けらもそんな素振りは見せず、にっこりと朝の挨拶をしてくれた。湊の無表情にはもう慣れたのだろうか……
ふとそんな疑問がわき上がる。
そういえば。自分以外の人がつくるご飯は久々だと気づいた。誰かに起こされるのも久々だった事もまた。
「じゃ、いただきます」
「……食事は君が?」
「朝はパンをやいて……あと、めだまやき。夜は、かってくるの。お父さん、つくれないから」
「そう……」
(……つくれないんだ)
どうやら、一人の時間が多いとか関係なく、遼太郎自身が料理を作れないだけであったようだ。
そしてそれを聞き、だったら暇な時、自分で作って見てもいいかもしれないと思う湊。流石にこんな小さな子に、全部を任せるのはどうかと思ったのだ。
湊だってそれくらいの感情は持っていた。
「今日から学校でしょ? とちゅうまで、おんなじ道だから……いっしょに行こ」
「うん」
そう考え込む湊に、どこか不安気になりながら、ソワソワと聞く菜々子。
拒否されるとでも思ったのかもしれない。けれど湊は、一瞬も考えず一緒に行くと返事をしたのだった。
そしてご飯を食べ終えて、二人が歩くのは通学路。
菜々子は口下手な湊に気を使ってか、色々と話しかけながら歩いていた。内容は主に、今流行の少女アニメや、学校の事だ。
しかし湊にはよく分からない話題が多かった。
(……今度、見ておくことにしよう)
そうしている内に、鮫川河川敷と書かれた青板の看板の前に着く。菜々子は傘を持っていない手で、道の先を指でさした。
「あと、この道、まっすぐだから。わたし、こっち。じゃあね」
「気を付けて」
「うん!」
振り向いて、笑顔でそう返事をしてくれた菜々子。
湊は思う。自分よりも、よっぽど出来た子だと。
雨の中、去ってゆく菜々子を見ながら思う。
(これからは、色々頑張ってみようかな……)
そのまま、まっすぐ歩いた先、通学路の学校前交差点。
菜々子と別れてから掛けたプレイヤーから流れる音楽の合間、ギコギコという音が混じって来た。壊れたのかとプレイヤーを外してみれば、その音は湊の後方から流れてきていた。目を向ければ、赤い鞄を掛けた同じ高校の制服の男子の姿。自転車に乗っているのだが、チェーンが錆びているのか、黄色いスポーツ自転車はふらふらと危なっかしい。
(歩いたほうが早いでしょ、あれ)
どうにも意味が無いような気がしてならない。自転車の意味を分かって使っているのだろうか。
無機質に見つめる湊の横を、ふらふら通り過ぎていく彼。今時の茶色に染まった長髪と、どこか親近感を覚えるヘッドホンを着けているのに気づく。
「よっ……とっ……とっとぉ……ぐはっ」
そして彼は案の定、それは見事に電信棒へと突撃し、『息子』をぶつけてしまう。古びた自転車は倒れ、差していた傘は放り投げられ、『息子』は瀕死……かもしれない。
湊をして、気の毒そうに思わせると友に、どこか腰の辺りに変な感じを受ける光景であった。
「う……おごごごごご……」
(痛そうだな、あれは……)
その余りに酷い光景に、思わず足を止めてしまう程。
しかし思い返してみれば、彼は自分の友達というわけでもないのだ。
「どうでもいいか……」
それに気づいた湊は、ご愁傷様と軽く流し学校へと歩みを再開するのであった。
坂を上り、八十神高校正門に着くと左右には桜が咲き誇っている。
湊は一瞬立ち止まりそれを眺め、これからの一年の決意も新たにしてから、門をくぐっていくのであった。
職員室で湊の担任だと紹介されたのは、何やら口うるさい前歯の出た教師、諸岡。
何かの真似をしているような、そしてそれを何か間違えているような気がする教師。そんな諸岡に音楽プレイヤーについてぐちぐちと説教を受けながらも、全く応えず廊下を歩く。仕舞には猫背がどうとか、ポケットに手を突っ込むなとか、そんな説教もされる始末。
(どうでもいい……)
しかし、それも教室に着くと漸く終わったようだ。
そこで湊も漸く着けていたイヤホンを外し、聞き流していた小煩い説教が聞こえない事を確認して、諸岡の後ろを歩き教室へ入る。
「静かにしろー! 今日から貴様らの担任になる諸岡だ! いいか、春だからって恋愛だ、異性交遊だと浮ついてんじゃないぞ。ワシの目の黒いうちは、貴様らには特に清く正しい学校生活を送ってもらうからな!」
誰もがうんざりしている空気の教室を、湊は静かに見渡す。以前の学校と違い、どこか古臭い感じがした。
しかしながら幾人かは個性的な格好をしているのも見受けられる。――その中には、今朝見た『息子』をあれした男子生徒もいた。そんな彼の他にも赤い上着や、緑のジャージを着た女子生徒もいる。あれは、校則違反ではないのだろうか。何故諸岡は何も言わないのだろうか。
もしかしたらあれは校則違反では無いのかもしれない、後で生徒手帳を見ておくことに決めた湊であった。
「あー、それからね。不本意ながら転校生を紹介する」
――ほれ、名前を書け。
そう前歯でしゃくられ、こちらも不本意ながらも、前歯でしゃくられたらしょうがないと、黒板へ名前を書いていく。
その間にも諸岡から、どこか前歯に引っかかる紹介が続いた。少しは黙っていられないのだろうか。
「こいつは言うなれば爛れた都会から、辺鄙な地方に飛ばされた、いわば落ち武者だ」
(自分の事を言っているのか?)
名前を書き終えた湊の、どこか怪訝な顔にも気づかずに、諸岡は再度前歯で湊を促した。
「ほら、自己紹介しろ」
そんなぶしつけな言いつけにも、何ら動じることもなく、湊は自己紹介を始める。
今日決意した、少し頑張ってみようという心のままに。
「……今、落ち武者に紹介された、有里湊。よろ」
「キサマァっ!! 落ち武者とは私の事かっ!? それに今、窓際の女生徒に怪しげな視線を送っただろう!?」
そんな心機一転を思い、出した言葉を邪魔したのは、落ち武者こと諸岡教師。湊を指さして、怒涛の説教をし始める。
湊はしかし、彼なりの精一杯出したユーモアのどこが悪かったのか分からずに、ただ首を捻るだけ。
驚いたような、というよりもどこかやっちまったな。という視線を向ける生徒達にも気づかない。
「貴様の名を、腐ったみかん帳に刻んでおくからなぁっ!? いいかねっ、ここは貴様が今までいたっ」
「せ、センセーっ! 転校生の席、ここでいいですかーっ!」
長引きそうな説教から、湊を助ける為か、それとも自分達のメンタルを守る為か、シュバッと手を挙げたのは緑のジャージを着た少女。
そんな、恐らく助け舟だと思われる少女の声に、諸岡と、湊の視線が集まる。まるで正反対な視線に、苦笑いでやや引きながらも手を下げない。
それに勢いを削がれたのだろうか。
「さっさと席に着けぇっ!」
ぐぬぬ、と唸った後、そう湊に吐き捨てる諸岡。
どうにか説教の嵐は避けられたと、教室の誰もがほっと息をついていた。
件の女子生徒の隣。示された席に座る湊。
すると隣の女子が話しかけてくる。胸元の幾つものバッジがチャームポイント。かもしれない。
女子にしては短い髪と、可愛らしい愛嬌のある容姿。活力を感じさせる明るい女子だ。湊とは正反対な女の子である。
「あいつ、モロキンっていうの。最悪でしょ? っていうか、モロキンによくあんな事言えるよね!」
「……そう?」
けたけたと歯を見せながら笑いかけてくる女の子。
湊の事を面白そうに話しかけてくる。湊も頑張ろうと思った手前、話を続けようとするが……
「静かにしろっ!! ホームルームを始めるぞっ!
「やばっ……後でね」
「……うん」
それはモロキンに阻止された。どうにも肩透かしを食らった気分である。
ふーっとイヤホンを着け直し、ふと窓の外を見れば。
「……」
(霧……)
そこには何処か見覚えのある、とても濃い霧が
映画公開は秋かー、先は長いですね!
4/16加筆・修正