展開も死ぬはずの人が死ななかったりします。デスやらなんやらの設定は放り投げてます。
巻き戻り、再構成、その後。好きなように考えてください。原作が複雑なので、すり合わせの段階でミスがあるかもしれません。遅筆になります。それでもいいという心の広い方はどうぞっ!
――いかなる物も、そこに行き着く。
絶対なる死という旅の終わりに。
けれど、アルカナは示すんだ。
死は一つの終わりであり、新たな始まりでもあるという事を。
物語は調和を迎え、君は『力』の献身により新たな一歩を踏み出した。
それはまさに絆の勝利といえる一歩。
おめでとう。
奇跡は今、ついに果たされた――
夢を、見ていた。
何処か懐かしい青色の部屋。
青の部屋の主。そして優しげな笑顔を向けてくる青の少女。
――君達は誰?
夢を見ていた。
遠き日の何処かの光景。宇宙の光景。
地球の上。遥か遥か上に居た。
――これは何処?
夢を見ていた。
青の部屋の住人に、掛けられた言葉。
“契約”。とても懐かしい言葉。
――でもそれは、君達じゃなかった気がする。
ノイズ。
誰かの争う光景。目前に迫る醜悪な怪物。
立ち向かう少年少女。
――君達は誰?
『――――!』
ふと、自分を呼ぶ声が聞こえた。
新しい風を感じさせる、力強い声が。
「…………」
湊は眼を開けた。閉じそうになる瞳を、我慢して開く。
自分を呼んだ声の主を探そうと、髪で覆われていない左目で周りを見渡すが、列車の中にそれらしき者は見当たらなかった。
そもそも、自分の耳には少し古いカプセル型の携帯音楽プレイヤーが着いている。そこからは割と大きな音量で音楽が流れてくるのだ。
(気のせい?)
らしくもなく、その中性的な顔を怪訝にしながらも、もう一度眠りにつこうとしたところ。
不意に暗さに気づいて、列車が丁度トンネルの中を走っている事に気がついた。
パーッ――
「…………」
トンネルを抜ければ、そこは。
なんて感情に溢れた言葉は、どの物語で見たものだったか。
列車の音と共にトンネルを抜けたそこは、今までの都会然とした光景は消えて、自然豊かな緑色が広がっていた。湊の、端整だが表情の無い顔が、少しだけその光景へと向ける。
とても綺麗なのだろう。
でも。それを見ても何も思わない、いつも通りの今の自分が。何故かこの時だけは、嫌でたまらなかった。
――さあ。再開しよう。
世界へ至る、新たなるアルカナの旅路を――
ガタンガタンと、線路を叩く古典的な音が響く車内。
湊はプレイヤーの音楽を止め、のどかな田舎に耳を澄ませながら目を瞑る。
『――間もなく終点、八十稲羽~八十稲羽~』
(ここか……)
都会と違い疎らな車内を眺めながら、ぼーっとしていると。目的地へと近づいたと、案内が耳に入る。
湊は席の上部に置いていた少ない荷物と、土産を降ろし準備を終えた。
そして再度イヤホンを着け、音楽を流す。
自分らしくもなく、最近ブームのスタイリッシュで明るい音楽だ。
そうして到着を席に座り待ち、程なくして駅に着く。
新しい仮の家がある町。
一年という短い間、世話になる町だ。
古ぼけた看板。木造の駅。
人のいない駅。
そんな駅を過ぎ、外を見渡すが全く人通りがない。
こんなに人がいない光景を見たのはいつ以来だろうか。雑然とした都会の中では、こんな光景など見る事など無かった。
かつていた場所では煩い程にひしめき急いていた車も、まるでそんなものは無いとでもいうように全く通りはしない。
「辺鄙な所だな……」
そう感慨もなく呟けば。湊へと野太い声が掛けられる。
そちらを向けば、腕を捲ったシャツを着た男性と手を繋いだ幼い子供が居た。
見覚えのある顔。湊の親の葬式で見た顔だった。
「おう、もう着いたか。写真より男前、というよりは美形だな」
「…………」
やはりこの二人が迎えのようだった。
後ろにエンジンのかかった車が見えた。あの車で迎えに来たのだろう。
両親が死んで以来。半年もなく各地を転々としていた自分を、少しだが長く面倒を見てやりたいと、一年間預かる事を名乗り出てくれた人だ。
遠縁で、さほど縁も無かった自分の面倒を、快く請け負ってくれた人だ。少し怖そうだが悪い人ではないだろう。
「や、大きくなったなぁ……」
(葬式以来か……)
「…………」
湊はぺこりと黙って頭を下げる。何か返せば、互いの共通点である親の葬式に行き着き、気まずい思いをするだけだからだ。
決してめんどくさいからではないだろう。多分。
「あー。覚えてないか? 一度会ってるんだが……」
困ったように頭を掻く。
そんな彼の様子を、流石にこれから世話になるのにどうでもいいとは思えなかった湊。言葉少なに返す事にした。
「……覚えてます。
「あ、ああ。そうか。えぇと、おじさんから聞いてると思うが、俺は
そう声を掛けられ湊の視線が向けられると、それまで興味深そうに湊を見ていた菜々子は、湊の無表情が怖いのだろうか、遼太郎の腕に隠れてしまう。
頬が赤くなっているのを見るに、初対面で恥ずかしがっているだけなのだろうが。
「ほれ、挨拶しろ」
「……こんにちは」
挨拶した後すぐに隠れなおす菜々子。やはり恥ずかしがっているのだろう。多分。
湊はこれでも強面ではないし、普通の顔だと自負している。
「なあんだ、こいつ。照れてんのか? いてっ」
「っんぅ!」
「あっはっは」
「…………ふ」
そう遼太郎が言えば、菜々子は顔を赤くして遼太郎の尻を叩く。
より真っ赤になった菜々子を見れば、成程遼太郎の言うとおり、照れ隠しなのだろう。
今までの家庭ではなかったその暖かいやりとり。
思わず湊の顔にも微笑が零れたのだった。
“ようこそ
稲羽市へ”
車外に流れるのは、そんな簡素な歓迎の文句が書かれた看板。
車内に流れるのは、ありふれたどこぞのスキャンダルらしきニュース。
後部座席にはしっかりシートベルトを締めた湊。因みにしっかり土産は渡してある。
『――柊みすずさんと昨年入籍したばかりの、稲羽市議員秘書生田目太郎氏に――』
「しっかし、今までの都会からこんな場所に来ることになるとは、お前も大変だな」
「…………」
気を使ってくれているのだろう。湊は首を振り大したことは無いと返した。因みにプレイヤーは首に掛けてあるだけで、着けることはない。それが最低限の礼儀という物だろう。
車が信号で止まる。車外に目を向ければ、そこには今人気絶頂らしいアイドルのポスターが張ってあった。前の学校の生徒が騒いでいたのを、ふと思い出す。
「――まあ。一年間だけだが、よろしくな」
「…………」
そんな湊に遼太郎は再度声をかける。男臭い親しみの持てる笑顔だった。
これからよろしく。掛けられた言葉を反芻する。
なんだかそんな言葉を掛けられたのは久しぶりな気がした。湊はそれに頷く事で返す。笑顔は出なかった。
遼太郎はそんな湊に苦笑いはしても、嫌な顔をする事はなかった。これもまた久しぶりな気がして、どこか不思議な気分であった。
決して雰囲気が悪くならないのは、ひとえに遼太郎の懐のデカさ故なのだろう。
そんな苦笑いをする遼太郎の肩を、指先でつんつんとつつくのは菜々子。可愛らしく恥じらい、湊の様子をお気にしながら小さく呟く。
「トイレ……行きたぃ」
休憩のお願いだった。
『らっしゃっせー』
止まったのはガソリンスタンド。巻いたやる気のなさそうな声が、一同を迎えた。
休憩のついでに、給油をしていくらしい。遼太郎に頼まれた、ウェーブしたくせ毛長髪の店員が作業をしている。
湊は持ち主のいない車に一人いるのもどうかと感じ、車外でのどかな風景を眺めていた。視界を遮るものが少なく、すっと遠くまで見る事が出来る。
(悪くないな……)
「ねえ。君高校生?」
「…………」
そんな事を思う湊に、店員から声が掛けられる。湊は静かに振り向いて、肯定の意味を込め頷いた。
店員は湊の無表情に気圧されたのか、どもりながらも言葉を続ける。
「うっ、あー、えっと、うちバイト募集してんだけど、どうかな?」
「…………どうでもいい」
「はっ、はは。そう」
湊の言葉に勢いを消されたように、話が一旦途切れた。
しかしくせロン毛の店員は、何かの使命に燃えるようめげずにもう一度話しかけてくる。
「ここさ、都会から来ると、なーんも無くてびっくりっしょ? 実際退屈すると思うよ? バイトでもしないと」
そうバイトをプッシュしながら近づいてくる店員。湊はそれでも相変わらず無表情のままだ。どうでもいいと言葉には出さないが、やはりどうでもいいのだろう。
それでも店員は誘い文句を言い切って、湊に握手を求めた。
「ま、考えといてよ。……よろしく」
「…………」
小さい町で軋轢を作らない為の処世術故か、湊はそっけなく応じる。
そして手を合わせた瞬間。
「……!!」
「……?」
店員が顔を一瞬歪ませた。驚くような、苦しんでいるような。そんな表情だ。
湊は何か脈打つような変な感覚が体に起きた事に気を取られ、店員の様子に気付きはしなかったが。
店員は表情を戻すと手を離し、別れの言葉を掛ける。
それに反応し店員を見れば、丁度遼太郎達が帰って来ているのが分かった。
「……じゃ。仕事に戻んなきゃいけないから」
どことなく憔悴した店員が、遼太郎達と入れ違いに去っていった。
「待たせたな。行こうか?」
遼太郎にぽんと、肩を叩かれる。
――ズグンッ
瞬間。
頭が、撃ち抜かれたような痛みに襲われた。
側頭部から突き抜ける、激しい頭痛だ。
何かが目覚めそうな、目覚めたような感覚も共に湊を襲う。
「くっ……」
「んん?」
「だいじょうぶ?」
菜々子から掛けられた声。初めて向こうから掛けてきた言葉。
「くるまよい? ぐあい、わるいみたい……」
心配そうな表情と、声を聞くと次第に痛みが治まっていくのを感じる。
湊は珍しくも、心配させぬよう微笑み、柔らかな声で返事をした。
「あ、ああ。うん。大丈夫だよ」
「長旅で疲れたんだろう。早く帰ろう」
遼太郎の心配そうな声と、菜々子の気遣わしげな表情が、何故か嬉しく感じた湊であった。
空が曇り始めた頃、堂島家に到着した。
湊に与えられたのは二階の一室。たった一年いるだけの部屋にしては、とても立派な部屋だった。
ささやかながら暖かい歓迎会の後、まだ慣れぬ部屋に戻る。
しとしとと、窓を叩く雨。降り始めた雨音を窓越しに聞きながら、置いてあった段ボールを解いていくと、前の学校の制服を見つけた。
思い出されるのは、転校の時の光景。
涙も感動もない簡素な、慣れた光景。教師は淡々と。生徒は皆興味なさ気な視線で。
湊も何の感慨も感じない、去りゆく日常の一コマ。
静かに制服の入った段ボールを閉じた。
特段何か思ったわけでもない。何となく気に入らなかったのだ。
『これからはしばらくは家族同士だ、自分んちと思って気楽にやってくれ』
遼太郎の言葉を思い出し。少しだけ気分が良くなったような気がした。
そして新たに開いた段ボールには、こちらの高校の制服が。これは湊の新しいスタートの証。
制服を取り出して、服掛けに掛ける。
『……仕事だ。菜々子、後はちょっと頼むぞ』
『……うん』
ふと、菜々子の悲しそうな顔も思い浮かんできた。
遼太郎が出て行った後つまらなさそうに、天気番組やニュースを見ていた菜々子。
口下手な湊は、一言くらいしか喋れないままであり。結局、遼太郎が刑事をしている事しか分からなかった。
『あっ! ジュネスだ! エブリデイ・ヤング! ジュネス!』
なんてCMが流れるまで、菜々子は静かだった。あの元気も、湊に気を使ってくれたのかもしれない。
「ふうっ……」
そんな事をつらつらと思い浮かべながら行った荷物整理。一段落ついたところで、柔らかいソファーに腰掛ける。プレイヤーから流れる音楽を聞きながら、一休みとばかりにボーっとする湊。
思考を支配するのは、これから過ごす八十稲羽について。ガソリンスタンドの店員の言っていた通り、何もない町。都会に比べ静かすぎる町。でも悪くないとも思った町。
しかし結局は今まで通りであり、それはつまり湊にとって、
(どうでもいい)
という事である。
湊はそこで思考を止め、襲い来る睡魔に身を任せて、そのまま目を閉じた。
映画化するという事で、もしP3のアルカナが死(死神)から再開できるなら二年後のP4でもできるんじゃないかっ!?
という妄想が爆発してしまいました。
えー、P3メンバーは出ない気がします。ゲスト出演で出るかな?
矛盾は突っ込んでくだされば、直す場合もあります。
読んでいただきありがとうございました!
4/15加筆・修正