魔法科高校の幻想紡義 -旧-   作:空之風

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九校戦前の幕間、幻想サイドになります。
今回はプシオンと能力の説明が主体となります。


第17話 幕間「psycheon」

幻想郷の妖怪の山には様々な神や妖怪たちが住んでいる。

 

守矢神社の二柱と風祝、秋の神の姉妹、厄神、仙人、天狗。

 

そして、外の人間の技術者や魔工技師たちが見たら現実逃避しそうなぐらい高い技術力を持つ、水平思考の河童たち。

 

妖怪の山に住む妖怪たちは、人間や他のところに住む妖怪に対して排他的であり、基本的には山には立ち入れない。

 

とはいえここは自分勝手なものが集う幻想郷、侵入してくる輩は後を絶えない。

 

お宝探しで無断侵入する霧雨魔理沙とか、さり気なく芍薬を勝手に栽培している永遠亭の面子とか、妖怪退治と言い張って真正面から強行突破してくる博麗霊夢とか。

 

そして、時たま遊びに来る結代雅季も然り。

 

 

 

 

 

 

「お、いたいた」

 

哨戒天狗たちの目を掻い潜って妖怪の山に不法侵入している『放蕩する神主』もとい『今代の結代』こと結代雅季は、川辺でこちらに背を向けて何かを弄っている最中の妖怪を見つけるや、

 

「おーい、にとりー」

 

間延びした声で相手を呼びつつ、空を飛ぶ高度を下げる。

 

雅季に名を呼ばれて振り返ったのは河童の妖怪、『超妖怪弾頭』河城(かわしろ)にとりだ。

 

にとりは雅季の姿を見るや、

 

「あ、放蕩神主」

 

ズザー、と雅季は着地に失敗して地面にコケた。

 

今度あの捏造新聞記者に全力全開の弾幕を食らわせてやると密かに誓いながら、雅季は起き上がる。

 

「せめて道楽の方がいいんだけどなぁ」

 

「道楽神主?」

 

「そそ。道は楽しい方がいい」

 

「どちらかというと道が楽な神主だね。結局は仕事しないって意味だし」

 

「仕事と趣味が一緒だから問題ない」

 

お互いに軽く言葉で遊び、雅季とにとりはニヤリと笑う。

 

「それで、今日は守矢神社にでも行くの、雅季?」

 

「いや。今日はにとりに用事があってね。この前に渡した法機(ホウキ)の改造って出来ている?」

 

「ああ、あれか! 勿論さ! いやぁ、人間もここまで呪符を簡略化できるようになったんだねぇ。流石は我ら河童の盟友さ。まだまだ無駄が多いけど」

 

雅季がにとりに渡したのは、無縁塚に落ちていた一世代古い旧式の携帯端末形式の汎用型CADだ。

 

 

 

幻想郷では外の世界で忘れ去られた物が流れ着くことがよくある。

 

たとえば少し前には旧型の電波塔が丸ごと一つ幻想入りして、今では妖精たちの遊び場となっている。

 

その中でも無縁塚は外の世界の物がよく流れ着く場所だ。

 

これは墓地である無縁塚に埋葬される者たちは総じて誰とも縁が無い者たちであり、それが外来人であることが多いため、その事から外の世界との結界が緩んでしまっている影響である。

 

結代神社の無縁塚分社が建てられてからは無縁仏たちも幻想郷との『縁』を結ぶようになった為、結界の緩みがこれ以上進行することはないが、反対に補強されることもない。

 

つまり無縁塚は現状維持の状態であり、今も変わらず外来品が、咲き乱れる彼岸花に隠れるかたちで彼方此方に落ちている。

 

まあ、博麗の巫女とか妖怪の賢者とかが無縁塚の結界の補強を行えば話は別だが、あの二人がそんな面倒な事を進んでするはずがないので、特に害がない限りは放置だろう。

 

ちなみに無縁塚に落ちている道具を巡っては結代雅季と、『香霖堂の店主』こと森近霖之助(もりちかりんのすけ)、ネズミ妖怪である『ダウザーの小さな大将』ナズーリンの三人による早い者勝ちの争奪戦状態にあったりする。

 

閑話休題。

 

 

 

にとりは背負っているリュックサックを下ろすと、外の世界では見かけなくなった型式の携帯端末形態の汎用型CADを取り出した。

 

「コイツが河童の技術の結晶さ!」

 

そう言い放って胸を張るにとり。

 

雅季はにとりからCADを受け取って見てみる。

 

まず見た目だが、渡した時と比べて少しばかり大きくなっている。

 

大きくなったといっても片手で操作が可能な範囲だが。

 

それ以外に外観については特に変わった様子はない。操作キーもそのままだ。

 

だが、見た目とは裏腹に中身は凄まじいことになっているんだろうなぁ、と雅季はしみじみと思う。

 

「どれどれ」

 

百聞は一見に如かずと、早速CADに霊力を流し込む。

 

ちなみに幻想郷では当然ながら想子(サイオン)とは呼ばず、霊力や妖力、魔力、神通力と呼んでいる。

 

呼び方の区分けはただ単純に人間なら霊力、妖怪なら妖力、魔法使いなら魔力、神なら神通力と種族別に分けているだけであり、基本的の力の効力は外の世界と同じである。

 

だが、外の世界のように想子(サイオン)だけで術式を構築しない。

 

CADに流れ込むのは想子(サイオン)霊子(プシオン)の二種類。

 

そもそも幻想郷を幻想郷たらしめているのは想子(サイオン)ではなく、霊子(プシオン)の方なのだから。

 

 

 

 

 

 

想子(サイオン)とは認識や思考結果を記録する素子と定義されている。

 

では霊子(プシオン)とは何なのだろうか。

 

結代雅季は「霊子(プシオン)は幻想である」と言った。

 

八雲紫はそれを否定しなかった。

 

それが答えであるからだ。

 

霊子(プシオン)とは想念を具現化する素子である。

 

想念は森羅万象全てが持っているもので、特に人間を筆頭に動植物が強く持っている精神性だ。

 

そして神や妖怪、亡霊、妖精は、霊子(プシオン)で構成された実体を持つ霊子情報体である。

 

人が崇めれば神が生まれる。

 

人が恐怖すれば妖怪が生まれる。

 

死者の想念が強ければ幽体から亡霊が生まれる。

 

自然が豊かな場所では自然の化身として妖精が生まれる。

 

霊子(プシオン)は想念を具現化するものであるため、「そんなのいるはずがない、できるはずがない」など否定されると霊子(プシオン)は力を失い減少、消滅してしまう。

 

故に外の世界では科学が重要視され、幻想が否定されたため霊子(プシオン)は減少し、神や妖怪など幻想的なものたちは姿を消すことになった。

 

外の世界でイデアからの独立情報体と定義されている霊子情報体である『精霊』とは、言うなれば幻想の残滓だ。

 

霊子(プシオン)がもっと強く豊富にあれば『精霊』は妖怪、妖精などになっただろうが、霊子(プシオン)が減少した外の世界では実体化はおろか自我も持てない。

 

ちなみに精霊を使った術式は幻想郷でも弾幕ごっこなどでよく使われる。

 

精霊を介して自分以外のところから弾幕を張るスペルカードなどがそうである。

 

著者である霧雨魔理沙が「幻想弾幕博物図画集」と仰々しい名前を付けて図書館に売りつけようとしたが、結局買い手が付かず魔理沙の自宅にほったらかされている本の中では奴隷タイプの弾幕と名付けられているが、それはどうでもいい話だろう。

 

閑話休題。

 

幻想郷には霊子(プシオン)は強く豊富にあり、普段から霊子(プシオン)に触れている人間もまた幻想を持つようになる。

 

そして、幻想を持つ者が行使する魔法は、想子(サイオン)霊子(プシオン)の混ざった術式となる。

 

霊子(プシオン)は人々の幻想を具現化する力、つまり概念的な力だ。

 

外の世界では不可能、或いは理解できない、解析できないような魔法も、幻想を持つ者ならば使用できる。

 

その最も顕著なものが各人の持つ霊子(プシオン)の発露とも言うべきもの、『能力』だ。

 

その具体例として、以前に荒倉紅華から十六夜咲夜の時間操作について問われた時、雅季はこう語ったことがある。

 

想子(サイオン)のみの魔法式は全てが認識と情報で固められた、言わば完成した方程式みたいなもんだから、本当にその通りにしか作用しないし人が理解できない魔法は使えない。だけど霊子(プシオン)、つまり幻想っていう曖昧な部分を持つ魔法式なら、人が理解できない部分もこんな感じって思うだけで使える。得意分野なら思うだけで行使できるから起動式もいらない。こっちの方がすごく楽だしお得だよねー」

 

「楽とかお得とかは置いといて、咲夜さんの『時間を操る程度の能力』って咲夜さんしか使えないのですか?」

 

「現状ではね。外の世界でも速さとか重力で時間が変化っていうところまでは理解できているけど、だからといって時間が操作できるかっていうとそんなことは出来ない。外の世界の物理学だと対象物を時速千キロメートルで動かしても対象物は一秒に一兆分の一秒しか遅れないし、太陽ぐらいの重力をかけてやっても一秒に百万分の一秒しか遅れない。咲夜レベルの時間操作を加重系魔法でやったら地球が潰れてブラックホールが出来るね」

 

「それじゃあ無理ってことですよね?」

 

「さっき言った通り現状ではね。実は肝心なのは速度と重力じゃなくて、速度や重力によって時間を構成する『何か』が影響を受けるから、時間が遅れるっていうこと。咲夜はその『何か』を霊子(プシオン)で直接干渉しているから時を操れるんだ。元々霊子(プシオン)は気質とか魂に起因しているから人それぞれだし、咲夜の場合は『時』と相性が良かったってところかな。もし外の世界で未解明、未発見のそれ、時を司る法則やら素粒子、たとえばタキオンみたいな架空の粒子が実証されて解明されたら、時を操る魔法式も作れるんじゃないかな」

 

「それって相当先、というかもう未来の話じゃないですか」

 

「うん、月の都の十歩ぐらい手前レベルの。まあ、あそこは想子(サイオン)霊子(プシオン)を同等に発達させた結果というか、超弦理論で統一場理論を完成させて量子的な可能性すら操るようになった一つの到達点だけど。……ところで、何でこんな話になったんだっけ?」

 

「雅季さんが結代神社(うち)の酒蔵にある五百年級の古酒を飲みたいって言い出して、時が早められたらなぁって呟いたのが切っ掛けですよ」

 

「ああ、そうだったな。じゃあ飲むか」

 

「玉姫さまに怒られても知りませんよ」

 

閑話休題。

 

 

 

 

 

 

想子(サイオン)だけでなく霊子(プシオン)にも対応したCADが、事象を書き換える。

 

ほんの一瞬で起動式が展開される。もはや起動式のタイムラグなど有って無いようなものだ。

 

何せ前世紀には既に光学迷彩を実用化していた河童たちである。

 

河童の技術力を以てすれば現代最先端のハードウェアだろうと時代遅れに感じるだろう。

 

ましてや魔法的なものに関してならば本場は“こっち”だ。

 

百年程度の歴史しか持たない外の世界の魔工技師たちが敵うはずもない。

 

そうして展開される魔法式は、雅季がにとりに渡す前に組み込んでおいたスペルカード、結符『虹結び』だ。

 

七色の虹色の弾幕が空を覆う……はずだったのだが。

 

(あれ?)

 

展開される魔法式が違うことに雅季が気付いた時には、もう遅かった。

 

虹の弾幕を生み出すはずが、何故か空気中に漂う粒子に電荷を帯びさせていき、更に一方向へ指向性を持たせていく。

 

そして荷電粒子と化した粒子が亜光速まで加速されて、眩い光となって空に放たれた。

 

妖怪の山から幻想郷の空に向かって、巨大な光の帯が生まれた。

 

ちなみに現状を簡潔にまとめればこういうことになる。

 

 

 

弾幕を張ろうと思ったら何故かビームが出た。

 

 

 

「こんなこともあろうかと! 術式を荷電粒子砲に変えておいたのさ!」

 

呆然と光の束を見送る雅季の横で、にとりが胸を張っている。

 

原因は河童の暴走だった。流石は河童である。

 

こんなことってどんなことだろう。

 

「……って、今ので天狗にバレたじゃん!?」

 

既に高速でこっちに飛んできている複数の悪縁を雅季は感じ取っている。

 

不法侵入はバレなければ問題ない。

 

バレたら問題だからだ。

 

そして、今のビームでめっちゃバレた。

 

「んじゃ逃げるわ。にとり、法機どーもな」

 

早口で言い放つと慌てて空に上がる雅季。

 

「いたぞー! 侵入者だー!」

 

「またお前か今代の結代!」

 

「やば!」

 

人里の方へ向かって逃げる雅季の後を複数の白狼天狗が追いかける。

 

その先頭にいるのはにとりの友人である、『下っ端哨戒天狗』犬走椛(いぬばしりもみじ)だ。

 

「もみじー、後で天狗大将棋やろうー!」

 

それに気付いたにとりが飛んでいる椛に向かって呼びかけた。

 

「後でね!」

 

椛はにとりに向かってそう返すと、再び侵入者へと視線を移し追走劇に戻った。

 

「やれやれ、博麗の巫女といい、今代の結代といい、人間も(せわ)しくなったもんだね」

 

忙しくさせた張本人は自分の行ったことを棚に上げて、雅季と椛たちが飛んでいった空を見つめながらそうボヤいた。

 

 

 

 




魔法解釈を考え実際に文章にしてみると、改めて魔法科の原作者である佐島先生は凄いなと思います。

ちなみにマメ知識ですが、無重力の宇宙と比べて地球上も重力があるので時間は遅くなっています。一秒に約十億分の一の遅れというスケールですけど(笑)

今回は霊子(プシオン)と『能力』の独自解釈と説明がメインとなりました。

「認識と思考結果を記録する力」が想子(サイオン)であるのに対して、霊子(プシオン)は「想いを具現化しようと働く力」になります。

妖怪や妖精は実体を持った霊子構造体であり、外の世界の精霊はその原型です。

また半人半霊や半妖などは想子(サイオン)霊子(プシオン)の複合体、といったところです。

『能力』については、想子(サイオン)だけでなく各人の持つ霊子(プシオン)も織り込んだ魔法式です。

想子(サイオン)のみの魔法式、特に現代魔法は人が認識できる程度までしかエイドスに干渉できません。実際、「何をどのような状態にしているのか」と説明可能ですし。

一方の『能力』は、気質や想いを具現化する霊子(プシオン)も作用してくるので、霊夢の夢想天生など説明不可能なことも「何となく、こんな感じ」と曖昧なまま出来てしまいます。

また達也と深雪のように得意とする魔法が各人で違うのは、それぞれが精神の根本に持つ霊子(プシオン)、つまり気質の違いによるものです。

なので比那名居天子(ひななゐてんし)の持つ緋想の剣は、その魔法師が最も得意とする魔法を正確に当てる探知機にもなれます。

ちなみに、雅季がにとりに改造してもらったCADは幻想郷専用、弾幕専用になるので外の世界には持って行くことはありません。

もし達也がそのCADを見たら驚愕するでしょうけど。並みのエンジニアなら卒倒します。

ついでに雅季と紅華の会話にあったように、幻想郷の結代神社の酒蔵では古酒を熟成しており、中には千年級の物もあったりします。

そして泥棒対策として酒蔵には「離れ」と「分ち」を使った強力な結界が張られています。

魔理沙ならまだしも、お酒となると紫とか萃香とか規格外の連中も泥棒になるので、博麗の秘術ならぬ結代の秘術をふんだんに使って守っています(笑)

次回からは九校戦編に入ります。


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