ルート2 ~インフィニット・ストラトス~   作:葉月乃継

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33、亡命政府

 

 

 久しぶりに夢を見ている。

 この十二年間はずっと泥のように眠る日々ばかりだったので、夢を見るなんてのはホントに珍しい。

 自分の手が今よりずっと小さい。誰か大人の男に引っ張ってもらい、山を登っている。

「疲れたか?」

 そいつが心配げな顔でオレの顔を尋ねてきた。

 だけど足手まといになりたくなくて、首を横に振った。

 そうは言っても顔に出ていたんだろう。小さなオレの頭を撫でて、男は言った。

「あと少しだけ、頑張ろうか」

 これは誰の夢なんだろうか。

 

 

 

 

 マイクロバスの座席で目を覚まし、大あくびをした。

「緑山、コーヒー」

「はい」

 近くに座っていた三人の部下のうちの一番若いのが、缶コーヒーを持ってオレに差し出す。プルトップを開けて口に含み、窓枠に頬杖をついた。

「さて、どうするかねえ」

 今は高速道路のパーキングエリアに止まっているようだ。外を見回しながらぼんやりと呟く。

「どうするもこうするもあるか。シジュ、お前は何故、相談しなかった?」

 右手に持ったビールの空き缶を握りつぶさんばかりの勢いで、岸原がオレに詰め寄ってくる。

「前倒しはわかっていただろう、岸原。あとは逃げるだけで精いっぱいだったし。一般職員もみんな無事。乗り込んできた馬鹿な部隊だって死者はなし」

「強奪した六百機のマスターキーは? あれさえあれば、再び交渉できるだろう!」

「ああ、あれ? 織斑千冬に渡した」

 こともなげに言ったオレの言葉に、岸原が目を見開き体を振るわせる。

「なななななああ!? どうしてそんな勝手なことをするんだ!」

「いやさ、合計六百人の生徒全員を抱えて移動とか籠城も無理だし、そんなことなら、さっさとそれなりの人物に渡した方が良いでしょ」

「ぐ、そ、それはそうだが!」

「下手な交渉手段なら、持たない方がマシ。しっかしなあ」

 オレはバスの中をぐるりと見回した。

 中にいるのは、オレこと四十院総司(二瀬野鷹)と岸原、それに国津のいつもの三人組。あとは直轄の部下でコントロールルームを担当していた青川、緑山、赤木の三人。

 そして最後に厄介なヤツらが三人いる。

「……どこに行くんだ、我々は」

 篠ノ之箒。現在の肩書はIS学園代表IS操縦者候補生。

「……そこの人に聞けよ」

 織斑一夏。今はIS学園IS操縦者正代表だ。

「ちょっと副理事長、お金貸してー、わさびジェラート食べたい」

 そしてファン・リンイン。通称バカ。

 この三人が、何故かついてきてしまった。

 まあ確かにIS学園側として戦闘に参加してしまったから、戻る場所はないとわかっていたけど、ついてくるのは予想外だったな。潜伏できる場所も複数用意しておいたから、そのどっかで大人しくしててもらおうと思ってたのに。

「はいはい。お釣りは好きにしたらいいよ」

 サイフから千円札を取り出して、鈴に渡す。

「副理事長は?」

「私はいらないよ。篠ノ之さんを連れていってあげて。トイレとか」

「あいあい」

 テキトーに返事をした鈴が、嫌がる箒の手を掴み、マイクロバスから降りて行く。

 オレがジン・アカツバキの端末をぶっ倒した後、わずか二十分の間にIS学園から脱出した。

 何せ人質であった生徒たちががいなくなったのだから、早々と専用機持ちたちに捕まるのは明白だった。それに極東IS連隊も撤退して敵もいなくなったんだから、あのタイミングで逃げるしかない。籠城戦なんか勝ち目はないし、そもそも勝つ必要はない。目的は達成したのだから、IS学園に拘る理由もない。

 機動風紀のメンツは元からIS学園に勤めていた山田先生達に『ヨロシク』の一言でお任せしてきた。玲美に関しても同様だ。国津もオレもかなり心配だったが、外傷もなかったので、IS学園側によろしくと伝えておいた。逃避行に同行させるわけにもいかないしな。

 そしてIS学園を脱出し、予め用意してあった手段で自衛隊の陸地の包囲網を抜け、移動手段を調達し高速道路をひた走っていたわけだ。

 そういうわけで、ここにいる合計九人。

 この一部緊張感に欠けるメンツが、世間で言われるところのIS学園亡命政府であった。

 

 

 

 

「ここは?」

 緑色のジャージにティアドロップのサングラスという格好の国津が、白樺の木に囲まれた大きな別荘を見上げる。いつも思うが、この人の私服センスはどうなの。

「当分はここに潜伏だな。色々と手を回してはいるけど、さすがに一般人にあの子たちを見られるわけにはいかないし。青川さんお願い」

 オレの言葉に、ヒゲ面中年スタッフが頷いてから先行し、鍵を差し入れドアを開ける。

「まあ、当分はここでゆっくりしましょうか。どうせすぐに動きはあるよ。間違いなく」

「動き?」

 後ろにいた箒が不安げに繰り返したので、肩越しに、

「敵は死んだわけじゃないよ、まあ、詳しい話は食事のときにでもね」

 と教えてやる。

 ここは長野の山奥、高原にある別荘だ。一応は四十院総司の持ち物だが、名義は完全に他人の者である。元々、こういうときのために用意していた、いくつかの隠れ家のうちの一つだ。

 しばらくは、ここでのんびりとすることになるだろうな。

「着替えとかは結構な数を準備しているし、ユニセックスな服が多いはずだ。食材も事前に届けてあるはず。あと、部屋はそれなりに数があるけど悪いが私は一人で部屋を貰うよ。私の持ち物だからね。緑山、三人を案内してあげて」

 年若いスタッフに通達し、釈然としない少年少女を置いて、開かれたドアに入っていく。

 まだまだ戦いは続くだろう。それがオレとエスツーの結論だ。

 だからほんの少しだけ休むことにしよう、今だけは。

 

 

 

 

 別荘のリビングは吹き抜けとなっており、暖炉が設置してある。何せかなり高い山腹にある避暑地なので、十月と言えど朝なんか気温がゼロ度に近くになるのだ。今は夕方だが、やはり室内とはいえ温度は平地の十二月並みだ。

 そこでオレは薪が焼かれる火に当たりながら、ロッキングチェアで考え事をしていた。

 ジンについては、次の動き待ちか。

 あとはアラスカがあの六百機をどう扱うか。泣きついて来るのを待つのが正解だろうな。今頃、千冬さんのところに大名行列が出来ているかもしれない。あの無愛想な面が苦笑している姿が目に浮かぶ。

 頬杖をついて考え込んでいると、後ろに人の気配を感じた。

「おいシジュ」

 急に頭をガシリと力強く掴まれた。振り向くと、酒精で顔を赤くした岸原が立っている。

「何だ、もう酔っぱらっているのか。あんまり油断はしないでくれよ」

 遠慮ない力で握ってくる太い指を撥ね退けながら、からかうように笑いかけると、向こうもニヤリと笑い返す。

「これぐらいどうってことない。空母に着陸ぐらい出来るぞ。それよりホレ」

 岸原が彼の後ろに立っていたヤツを引っ張り出した。

「……あの、副理事長、お話が」

 ジーンズとフリースに着替えた一夏が、神妙な顔つきでおずおずと口を開き始める。

「何かな?」

「どうして、四十院副理事長は、ISを操縦出来るんでしょうか」

 その言葉に、岸原がハッとした顔をしてオレを見る。

 しかし返答は決まっている。

「何の話だい?」

「俺、見たんです! 副理事長がディアブロを装着したところを!」

 あちゃ、見られたのか。まあ、極東に逃げていった生徒たちも見てるのはいるだろうしな。ちなみに逃げた生徒たちのISからは、映像保存の機能をわざと排除してある。

「見間違いだと思うんだけどね。私は理事長に脅されて、何も出来なかったわけだし。あのディアブロが勝手にやったんだけど」

 いつもどおり息のように嘘を重ねていった。手慣れたもんだ。

「そんなわけは!」

「大体にして、世界で唯一の男性操縦者はキミだけだろ。妙なこと言わないでくれよ。そんなことより冷蔵庫は確認したかい? あとキッチン」

「え? 冷蔵庫? キッチン」

「いや、だってまともに食事を作れるの、キミぐらいしかいないからさ。炊事係頼むよ」

 手で追い払って、これで話は終わりだと表現する。

 まあ、いずれディアブロをオレが持ってるってことも、オレが動かしたってこともいずれわかる話だ。

 それにウソを吐くのには慣れている。

 納得いってなさそうな一夏の肩を抱いて、岸原が方向転換させて無理やり歩かせ始めた。オレの意図を組んだんだろう。

 岸原大輔、元空自の一佐で四十院総司の親友。彼にももちろん、大事なことは何も話していない。最近はかなり疑ってかかっているみたいだが、この人はこの人で、いざというときの意気地がない。まだ放っておいても大丈夫だろう。

 どうせ誰も信じない話だし、問題はそこじゃない。むしろオレが二瀬野鷹であることより、四十院総司が生きていることの方が世界にとっては大事である。

 メシが出来るまでもう少し時間があるだろう。

 誰とも呼吸を共有しないから、独りは良い。気が休まる。

 空気を共にしなければ、オレが息のように吐き続けるウソを、誰かに吸わせることはないのだから。

 

 

 

 

 夜の帳が落ち、九人で一つの大きなテーブルを囲んで、一夏が作った食事を口にしていた。

「シチューはまだおかわりありますからー」

 すっかり給仕係へと変わった織斑一夏が、全員に声をかける。それからブタさんの描かれたエプロンを外して、オレと反対側の下座に座った。

 なかなかに美味いんだが、その味に鈴と箒が少し不機嫌そうな顔をしている。まあ一夏の方がアイツらより料理が上手だからな。料理の勉強をしている二人にとっちゃ、懸念材料だろう。

「しっかし、上手く行きましたねえ、四十院さん」

 中年女性の赤木さんが、ビール片手に上機嫌で歌う。歳は彼女の方が上で立場はオレが上だが、基本的には気兼ねがない関係を築いている。

「何が上手いもんかい。ホントはアレから千個以上は盗みたかったんだから」

「欲張りですねえー。でも、思ったより前倒しになったから、仕方ないのかしらねえ」

「アラスカが思ったよりだらしないんだよ。各国の反応を窺ってばかりで、全然招集出来なかったんだし。全部で二百機ぐらいの大部隊にして欲しかったんだけどね。そうすりゃ、こっちとしてはもっともっと引き出せたかもしれないのに」

 機嫌悪そうに言うオレの顔を見て、中年女子こと赤木さんが嬉しそうな顔をする。赤青の中年部隊は、いつもこうやってオレをからかいに来るのだ。

「世界にISコアは五百個もないんだから、仕方ないでしょうねえ。しかしまあ、とりあえずの成功にカンパーイ」

「はいはい、カンパイカンパイ。といっても、国津のおかげだけどねえ」

 嫌そうにグラスを向ける上座のオレに、赤木さんは上機嫌でグラスを合わせてくる。赤木さんも青川さんも緑山も優秀な人材なんだが、赤青の中年二人組は酒癖がよろしくない。それにこの人たちは酔っぱらうと、四十院総司という人間をからかうのが、どこまでも楽しくなってくるらしい。

「しっかし、あんなにスカッとしたのは久しぶりですねえ」

 大声で笑いながらビールを次々と開けてるのは、髭面の青川さんだ。彼はオレたちの中で最年長だが、気さくな人柄で信用も置ける人物だ。

「まあスカッとはしたかなあ。あの無愛想で小うるさいバケモノを退治出来たんだし。ISを強奪したときのヤツの顔、見せてあげたかったよ」

「それが見れなくて残念ですなあ」

 大声で笑って新しい缶を開けて泡を零す。

「ですが、これからどうされるんですか?」

 冷静な口調のアルトボイスは、緑山という若いスタッフだ。

「どした?」

「とりあえず作戦は成功です。たった六人のスタッフでよく完遂しました」

 まるで男のような身なりをしているが、れっきとしたうら若き女性である。彼女は中性的な格好を好むことが多い。生真面目で融通が効かないが、相当に優秀な人間だ。彼女に出来ないことはISの操縦ぐらいだろう。まあ、それもやろうと思えばこなすんだろうが。

「完遂にゃ程遠いがね」

「四十院さんの次の手はなんでしょう?」

 ハムをパンに挟みながら、緑山が不機嫌そうに尋ねた。

「暇つぶしさ。しばらくはここで身を隠す。私に出て来られても、アラスカも極東も米軍も困っちゃうだろうしね」

「困る? 向こうとしては身柄を確保したいのではないでしょうか」

「困るよ。どこもかしこも私の身柄を渡せになって、色々な裏でのやり取りが始まって、そこに人員が割かれるんだ。今はみんな六百機のISに集中したいのが本音。私を捕まえても戦力は裂かれるばかりで増えやしないからね。内心はもうちょっと出て来ないでくれって思ってるよ。まあ見つかる気もないけど」

「では相手が本気で探索に来ない間、我々は何をするのでしょうか」

「どうせ次の手が来るよ、理事長様の」

「ジン・アカツバキですか。行動理由が私にはよく理解できません」

「緑山が他人の心情を理解しようなんてのが、私としちゃ成長が嬉しい気もするがね。つまりは人類を管理下に置きたいのさ」

 チラリと箒の方を見てしまう。先ほどからさほど食事の手が進んでいない。真面目な性格だからな、こいつも。ジン・アカツバキという存在が生れたことに、紅椿の操縦者として何かしらの責任感を抱いてるんだろう。

「管理下? 機械による管理社会ですか。合理的な話だとは思いますが」

「キミらしい意見をどうもありがとう」

 思わず苦笑いを浮かべてしまう。同僚である赤青の中年二人組も同意見のようで、オレと同じような顔だった。

「おかしいですか? 現在でも、例えば農業の生産工程や漁獲量調整、他にも電車のダイヤなど人間はプログラムに管理されており、その方が幸せに回っていると思いますが」

「おかしくないよ、前々から言ってるだろう。私はキミの意見を一度たりとも否定したことはない。ただ、そんな生易しい物だったら苦労はしないさ」

「と言いますと?」

「じゃあ、今の混沌とした人間社会をどう整理する?」

「そうですね……と言っても簡単に思いつきませんが」

「緑山に思いつかないなら、機械的な手段ってのも知れてるなあ」

「それは暗に私が機械のようだとおっしゃられてるのでしょうか、四十院さん?」

 どこか不満げなグリーン女史が、オレを責めるような口ぶりで尋ねてくる。

 二十歳前後に見える彼女だが、こう見えても博士号持ちの天才だ。他の二人にも色々な肩書がある。そういう優秀かつ性格に少し難のあり世間でつまはじき者にされているのが、四十院総司直轄の部下たちだ。

「いやいや、キミが合理的な手法を思いつくのが上手いって話をしてるんだよ。それでジン・アカツバキがどうやって人類を管理下に置くかって話だっけ」

「はい。ぜひともお聞かせ願いたいです」

 珍しく年相応な顔で不満げに頬を膨らませ、非難めいた視線をオレに向けてくる。ふと視線を感じて見回せば、全員が手を止めてオレの方を見つめていた。

「簡単さ。まっさらにするのさ」

 笑いながら、オレは手刀を横に切るようなジェスチャーを向ける。

「え?」

「人間を最初から作り直すのさ。一番最初の、アダムとエヴァから」

 それがオレの記憶とエスツーという少女による結論だ。そしてジン・アカツバキも箒に対して同様のことを言っていたのを、オレは盗み聞きしているし、死んでいたときに垣間見た記憶でも似たようなもんだった。

「あの!」

 正反対にいる一夏が手を上げたので、全員がそちらを向く。

「どうしたんだい?」

「何が起きたのかはマイクロバスで聞いて把握しました。ですが副理事長たちの目的は結局、何だったのでしょうか」

 今さらながらの言葉に、オレは何にも説明していなかったことを思い出した。

 生徒三人以外の全員が非難めいた目を四十院総司に向けている。

「はいはい、悪かったよ、私が説明しておりませんでした。あー、織斑一夏君」

「はい」

「私たちはね、独自に掴んでいたんだよ、あのジン・アカツバキという存在をね。もうかれこれ一年前か」

「え?」

「一人の少女がいたのさ。天才だった」

「束さんのこと……でしょうか」

 恐る恐る尋ねてくる声は自信なさげだが、真っ先に世界最高の天才を思い浮かばれてもな。隣にいる箒があからさまに不機嫌そうな表情をしているし。

「もちろん違う。そもそも彼女は一年前でも少女って歳じゃないだろう。全ては君たちの知らない、その少女の予測だったんだ」

「予測、ですか」

 少し不審げな表情を浮かべているが、まあ当たり前か。

「プライバシーに関わるから、その少女のことについては教えないよ」

「で、ですけど、束さんの行方がさっぱりわからない今、その子に協力を願えば良いんじゃないでしょうか」

「もういない」

「え?」

「死んだんだ、彼女は」

「そんな……」

 オレはお茶をすすってから、わざとらしく苦虫をか噛み潰すような顔を浮かべた。

「その亡くなった少女が、とあるデータから類推した理論で一つの推測が立てられた。我々はS2仮説と呼んでいたけどね」

「S2仮説? 元となったデータというのは?」

「すでに宇宙にISが五十機いる」

「ISが五十機?」

「もちろん、そのデータが本当にISの物だとは観測した人間にもわからなかった。機器の故障だと思ったようだ」

 その観測データってのも、オレが探させたんだけどな。

 オレが二瀬野鷹だったとき、ジン・アカツバキを宇宙の果てへ押し出そうとした。だが、アイツの配下である可変戦闘機型IS五十機によって失敗したのだ。

 だから四十院総司はそれらが宇宙にいることを最初から知っていたし、そいつが現れた瞬間のデータも探せば残っているだろうと思っていた。

 人類のISは、まだ地球からわずかな距離までしか行くことが出来ていない。

 ゆえに月軌道なんて場所にISがいることがわかれば、通常の人間なら何らかの測定ミスだと思うだろう。それにデータが取れたのも一瞬だ。つまりジン・アカツバキがこの時代にやってきた瞬間の話だけである。普通なら機器の故障ぐらいに思う代物だ。

「んで、その子がバーっとよくわからない数式やら何やらの後に、こう付け加えたのさ。この世ならざるISが世界に潜んでいると。これがS2仮説さ。眉つばの話だったが私は伝手を使って、世界中の権威って人たちに部分的な検証をさせ取りまとめた結果、最後に確信したわけだ。敵の存在ってヤツを」

 その説明を聞き、三人の少年少女が息を飲む。

 だが四十院総司は、黙っている人間たちをしり目に余裕ぶり、ワインを口に含んで一夏の作ったシチューに舌鼓を打つだけだ。

「ですが、その話だと筋が通りません。副理事長は、相手をどうして敵と思ったんですか?」

 まあオレは最初から敵だと認識していたわけなんだが、意外に周囲へこれを説得するのが難儀だった。一夏の指摘はもっともだ。

「カンだよ、カン。経営者としてのカン。私はこれで勝ち進んできたんだ」

 だが、よくわからない理由を自信満々な顔で回答にした。だが四十院総司というカリスマを知る人物たちは、意外にこれを信じてしまうことが多い。

 もちろん、IS学園の専用機持ちたちは、実際に戦いその所業を知っている。ゆえに良くない存在だと認識出来ていたはずだ。

「それに、国津も岸原も同じこと言ったよ」

 グラスを持つ手の人差し指を一夏へと向けると、オレの左右にいた二人がばつの悪そうな顔をして目を逸らした。岸原なんて下手くそな口笛をピューピュー鳴らしている。

 やれやれと小さなため息を吐いてから、オレは一夏へと説明を続けた。

「銀の福音の事件直前から、この二人を半ば監禁状態にして、私のカンが当たってるかどうか見張らせたんだ。赤青緑の三人は素直に信じてくれたってのに。んでまあ、そいつが仕出かしたこととかを確認させたりしたわけ」

 半信半疑でオレに付き合っていた国津と岸原は、玲美が殺されかけた件でようやく納得したようだった。

「本物の篠ノ之束の助手を発見して病院に担ぎ込んだりとかしたし、私が新理事長と二人を対面させて、ようやく納得してくれたってわけさ」

「な、なるほど。でも、どうして敵だとわかっているものを、IS学園の理事長に祭り上げたんですか?」

「行方がわからないと一番困るからだよ」

「どこで何をしているかわからない敵が一番怖い、ってことですね。だから表舞台に祭り上げて、ヤツに都合の良い場所を提供しつつ監視していた」

「正解だ。岸原よりよっぽど筋が良い」

 ジロリと件のオッサンを睨むと、ビールを煽るように飲み、

「信じられるわけがないだろうが! ISが勝手に動くなど!」

 と缶をテーブルへ叩きつけるが、オレは取りあってなどやらない。

「そこのオッサンは置いておいて。だけどまあ、篠ノ之束の無人機の件もありの、銀の福音の暴走の件もありのでようやく信じてくれたってわけだ」

「ですが副理事長は、相手が未来から来たと知っていたわけですか?」

「コアナンバー2237。だいぶ形が変わったとはいえ、テンペスタⅡ・ディアブロは元々我が社製だ。ねえ国津」

 今度は反対側の科学者を睨むと、こちらは申し訳なさそうに目線を落とす。

「二瀬野君が持ってきたときは、信じられない思いだったけどね。調べてみればS2仮説と全てが合致した。こう見えても科学者の端くれだ。仮説を否定しきれなかったから、信じる方向で色々とやってみた。そうするとわかってきたわけさ」

 シチューをスプーンでグルグルとかき回しながら、独り言のように国津が呟いた。

 こうして、やっとの思いでこの二人を説得、前から色々とやってた根回しも功を奏し、なおかつアクシデントも多数ありながら、ようやくここまで漕ぎ着けた。

 長かった。そしてここからは、全く予想出来ない未来が訪れる。

「そ、それで副理事長たちは、これからどうするんでしょうか?」

「私たちか。難しいな。相手の出方待ちだ。ジン・アカツバキはおそらく死んだわけじゃあない。その少女の推論では、相手は完成されたインフィニット・ストラトスのうちの一機だ。S2仮説が正しければ、この次元に本体はない」

「あ、いえ、すみません、そういう話を聞きたかったのではなく、副理事長たちが今はどういう目的で動いているんでしょうか、という意味です」

 謝罪の意味も込めて頭を下げた後、一夏が真っ直ぐとした目をオレに向けてきた。その懐かしい顔付きを見て、思わず頬が緩んでしまう。その左右を見れば、一夏を挟むように座っていた鈴と箒も真剣な眼差しこっちに向けていた。

「ふむ。そうだなあ……目的は簡単なんだが、一言で言うなら」

 四十院総司なら、こういうときどう言うだろうか。

 ケレン味が強く、いかなるときも余裕を持ち、卓越した知識と未来を見抜いているかのような先見性を兼ね備えた、オレによって作り出されたIS業界のカリスマ。

 彼ならきっと、こういうだろう。

「我々は、地球防衛軍なのさ。燃えるだろ?」

 真剣な眼差しの少年少女たちへ、四十院総司はニヤリと不敵に笑いかけた。

 

 

 

 

 何だかんだでみんな疲れていたのか、ディナーと称した酒盛りも早々に終わった。オレは誰もいなくなった暖炉の前でロッキングチェアに揺られながら、ボーっとアルコールを摂取していた。

 酒に関しては付き合いで飲む程度だったが、さすがに一息吐こうと思い、青川さんにブランデーの水割りを入れてもらったのだ。

「あれ、誰かと思えば副理事長」

 背中から声をかけられて振り向くと、そこにはブランケットを肩にかけた鈴がいた。

「……ファンさんか」

「ここあったかいわね。ちょっとお邪魔しまーす」

「私は一人で飲むのが好きなんだけど」

「えー? こんな若い子が付き合ってあげようってのに」

 くふふと楽しそうに鈴が笑う。こいつはガキの頃から変わらねえな、ホント。

「娘と同じくらいの歳の子に、晩酌付き合ってもらう趣味はないよ」

 ピッピッと手を振って追い払おうとしたが、鈴は気にした様子はなく、部屋の片隅にあったもう一つのロッキングチェアを持ってくる。

「なんか箒が不機嫌でさー。部屋の温度が別の意味で寒いっていうか」

 腰掛けて、肩に巻いていたブランケットを膝に置き、鈴は背もたれに体重を預けて揺られ始めた。

「そりゃ不機嫌にもなるよ。IS学園を守ろうとしたけど、結局はそのまま撤退になったんだから。織斑君の部屋にでも逃げたらどうなんだい?」

 そうからかうと、鈴は肩を竦めて、

「青髭のオッサンいるし、一夏も不機嫌だし」

 とため息を吐く。

「キミも不機嫌になって然るべきだと思うけどね」

「いやーなんつーか、アタシは元々IS学園は割とどうでも良かったっていうか。根なし草気質なのかな。愛着はあったんだけどなあ」

「失うときが来ることを知ってる人間ってのは、そんなもんさ」

 カランカランと氷を鳴らして鼻で笑う。

 鈴は失うことを知っている人間だとオレは思っている。コイツはコイツなりに辛い目に遭っている。しかもそれを、おくびにも出さない良いヤツだ。

 箒は失い過ぎて、大事なものを作りたくないタイプだろう。アイツの人生ってのは最低の部類の一つと言って良いものだ。そして今回は、手に入れる気がなくとも手に入れてしまった安寧を、あっさりと失ってしまったのだから。

 そしてオレが思うに、織斑一夏は何も持っていないタイプだ。

「考える時間っては重要さ。放っておいてあげたら良いよ」

「でもなんか副理事長って、もっと怖い人だと思ってた」

 コロコロと会話が変わるのが、ほんと若いなあと思う。昔なら気にしなかったんだが。

「そう思ってるなら、それなりの態度で来て欲しいけどね」

「なんていうか、友達にそっくり。あ、ヨウのことを知ってるんだっけ」

 なんつーか、ホント直感すげえ。

「まあ、三回ぐらい会ったことはあるよ。うちの機体に乗ってたんだし」

「あ、そうだっけ。ねえ、アイツってどうだった?」

「どう?」

「やっぱり真面目にやってたわけ?」

 身を乗り出して興味津々に尋ねてくる姿は、ホントに昔と変わらない。まあ、そうは言ってもこいつらにとっちゃ最近の話だしな。

「さあね。私もあまりよくは知らないよ。キミこそ仲は良かったのかい?」

「クサレ縁ってヤツ?」

 鈴がどこか得意げな顔で笑う。

「そりゃ良いことだ」

「……ま、死んじゃったけどね」

「そうかい」

 これ以上の返答はしない。オレに言えることは何もないんだ。

 二瀬野鷹がここにいるってのは、誰も信じないんだし、こいつに言っても意味はない。

「副理事長って、実はヨウのこと、嫌いだったわけ?」

「ん? どうしてそう思うんだい?」

「いや、なんかそういう表情をしてたっていうか、オンナのカン?」

 パチリとウインクを飛ばしてくるが、お前のは野性のカンだろうが。

「まあ、ああいう甘えた人種は好きじゃないかな。何も考えずに自分勝手を振り回してってのはね」

「へー。なんか意外」

「ん?」

「あいつって逆に自分がないタイプだったからね、小学校中学校のときって」

「ほう」

 思わず驚いた顔をしてしまう。我の強いという自覚があったオレとしては、その表現は意外だった。

「なんていうかさ、いっつも一夏の影に隠れて、存在を消してますって感じで」

 楽しそうに言って、両手を組み背筋を伸ばし、背もたれに体重を預けてロッキングチェアを揺らす。

「そういうことか。まあ、私には何でかわかる気がするよ」

「え? どうして?」

「才能があるヒーローみたいな、絶対に勝てないって思う相手が近くにいたんでしょうよ。だから、二番手になることで安寧を得て、なんとかバランスを保つんだ。そういう人間を知ってる」

 自分のことだからな、よく知ってるよ。

「あー、わかる。なんか一夏には絶対に道を譲って、みたいな感じでさー。一夏も大したことないヤツなのに必要以上に委縮しちゃって。そういうところがバカっぽいっていうかなんていうか」

 言葉通りにバカにしたような大声で鈴が笑う。

 お前、ホント遠慮ねえのな。

 四十院総司として苦笑いを浮かべブランデーを口に含み、返事代わりにと氷の音を鳴らす。

 それ以上は喋らずに、オレは黙って暖炉で燃え盛る火を眺めていた。

「……ホーント、何で死んじゃうんだか、あのバカ」

 ポツリと鈴が泣きそうな声で小さく漏らす。

 グッと胸の奥が掴まれたような気がした。玲美たちが二瀬野鷹の話をするたびに覚えた、心臓をかきむしりたくなるような焦燥感と同種の感覚だった。

 だけど、オレは何も話したりはしない。

 それが二瀬野鷹と、そして四十院総司としての生き様だからだ。

「さ、暖まったなら部屋に帰るんだ。オジサンは歳だから、眠りこけたキミを部屋に抱えるのは勘弁だ」

「はーい。それじゃ副理事長、おやすみー」

「おう」

 立ち上がってオレの横を駆け抜ける鈴へ、背中を向いたままブランデーを持つ手を軽く上げる。

「ヨウ?」

 しまった。このバカといると、長年隠してた素が表に出てきてしまう。四十院総司は今みたいな挨拶はしない。

「ん? どうかしたかい?」

「あ、ううん、何でもないでーす。それじゃー」

 誤魔化しが効いたのか、元から反射で尋ねただけなのか、鈴はそれ以上何も言わずにパタパタと階段を上がっていく。二階から扉の閉まる音が聞こえたので、オレはそっと溜息を零した。

 これで良いんだ。

 これで。

 グラスを持ち上げて、中にある色つきアルコール水と氷の世界をボーっと見つめる。

 色んな人を巻き込んで、こんな生き様で良いのかって思うことは沢山ある。

 二瀬野鷹として十六年近く、四十院総司として十二年、計二十八年近くを生きている。前者は無自覚に、後者は自覚的に色々な物を巻き込んだ。

 元の体に戻る術なんて知らないし、出来たとしても戻るつもりはない。何故なら二瀬野鷹は死に、四十院総司は生きているのだ。

 後で四十院総司の嫁さんに連絡を入れないとな。心配かけてるだろうし。

 そんなことを考えながら、真っ暗になった窓の向こうへと視線を向けた。

「さて、何年ぶりの休暇かな」

 気が休まるときなんてないが、それでも体を休めるのは重要だ。

 考えのまとまらない頭で思考をしているうちに、意識が遠くなる。

 まあ良い。今日は眠ろう。

 そうして、四十院総司は眠りについた。

 

 

 

 

 朝、洗面台の冷たい水で顔を洗い、鏡を見る。

 そこにいるのは、いかにも仕事盛りと言わんばかりの若い男だ。年頃は三十路ぐらいに見えるだろう。オレが思うに、おそらくコイツは死んだときから老けておらず、体は二十代後半のままだ。今はまだ若く見えるで通じるが、あと数年もすれば周囲が不審に思い始めるだろうな。

 どうして老けないかは謎だ。だが、衰えるよりはずっと良い。

 余裕たっぷりの笑みを作って、表情をチェックする。

 これが四十院総司だ。

 タオルで顔を拭って、ワイシャツを羽織った。

 さて、今日も一日を始めよう。

 

 

 

 

 別荘の中でスリッパを鳴らし、リビングを通ってモーニングを取るために食堂へと向かう。

 中に入ると、国津幹久が手に持った端末でニュース番組を眺めていた。

「おはようさん」

「やあシジュ、おはよう」

 爽やかな笑みで返事をしてくるが、この人もかなりの機械オタクである。玲美は常々カッコいいと言ってたが、アイツの目はどっか曇ってるんじゃないのか。PCと課題を与えたら、メシも食わずに籠ってるような人種だぞ。

「何か目新しい話でもあったかい?」

「いいや、どれもこれもIS学園の件ばかりだね。機動風紀の面々は一応、極東に収容されたようだ」

「ま、無事で良かったよ。一応、手は打ってある。全員の身元引受人は今頃、米軍になってるはずだ。あそこは未成年に手荒な扱いはしないはずだよ」

「さすがだね」

 コーヒーを一口飲んで、再び端末へと目を落とす。

「機動風紀は私の管轄の人事じゃなかったけどね、それでも捨てて置くには可哀そうだろう。あー緑山、私にもコーヒーを」

 食堂と繋がったキッチンに人の歩く音が聞こえたので、大声でオーダーする。青オッサンと赤オバサンは朝弱いので、緑だろうと思ったのだ。

 だが、コーヒーセット一式を持って入ってきたのは、部下の緑山ではなく、一夏だった。

「おはようございます、副理事長」

 昨日と同じブタさんエプロンをつけた少年がカップを差し出し、コーヒーを注いでくれる。

「似合うね、キミ」

「ドイツでもやってましたから」

 そう言って照れたように笑う。こいつも世界にISがなければ、こういう仕事についていたのかもしれないし、ひょっとしたらそっちの方が幸せだったのかもしれない。

「眼帯はどうしたんだい?」

「いえ、IS学園に忘れてきました。突然の脱出劇だったので」

「電光石火だったからね。着替えとかは充分かい?」

「はい、しばらく暮らすには困らなそうです。食糧は明日には買いに行かなければなくなりそうですが」

「その辺りは赤青緑の三人にお願いして。ああ、女性二人は料理音痴だから、全部メモにした方が良いよ。でもキャベツとレタスと白菜の区別は諦めた方が良いかもしれないね。下手したらメロンを買ってくるかもしれない」

「な、なるほど」

 苦笑いとともに頷いてから、一夏はキッチンへと戻っていく。しばらくしてフライパンで何かを焼く音が聞こえてきた。朝食の準備をしているんだろう。

 ホント、気が効く良いヤツだよな、アイツは。

 コーヒーを飲んでから、オレも国津に習って携帯端末を取り出す。

 ふと、目の前の国津が怪訝な顔つきでタッチディスプレイをスクロールしていることに気付いた。

「どうしたんだい?」

「いや、どうにも極東IS連隊は逃げてきたIS学園の生徒の扱いに困っているようだね」

「織斑センセもついてるんだし、任せるしかないよ」

「マスターキーも渡したって話だけど」

「岸原がお怒りだったよ。でも、結果的には良かっただろう。生徒たちも織斑千冬には従うだろうし、彼女をIS学園から追い出した連中も、今じゃ私にメンツを潰されて権力を失ってるだろうしねえ」

「なんというかまあ、相変わらずというか」

 ざっと説明したオレに、国津が頬を引きつらせていた。

「どうした?」

「どれだけ未来が見えてるんだか」

「見えてないよ。当たり前のことを当たり前のように気を配ってるだけさ」

「そうは言うけどね」

「それより、嫁さんからは連絡があったかい?」

「あれからないなあ。無事だろうけど」

「怒ってるよなあ、怖いからなあ、あの人」

「そうか……でもシジュ、玲美を助けてくれてありがとう」

 コーヒーカップを置いてから、真っ直ぐオレの方を向いて国津が頭を下げる。

「よせやい。昨日から何度も聞いたよ。それよりホントに置いてきて良かったのかい?」

「本当は一緒のところに連れてきてあげたかったんだけど、やはり私たちと一緒ではね。山田先生だったっけ。彼女に頼んでおいたから、大丈夫だとは思う」

「真耶ちゃんセンセなら適任さ。でも三弥子さんが亡国機業と絡んでて、アスタロトの調達先もそこだって言うなら、おそらく無事だろう。理子ちゃんや神楽もついてるなら、しばらくは問題ないと思うよ」

「そうだね、うん。それとうちの妻のことなんだけど」

「予想外だったな。しかし、キミの家族はなかなかにエキセントリックだねえ」

「思い返せば、いくつか徴候はあった気はするな。それにあの三機の完成も、彼女に頼った部分は多いから」

「そうか……実際はどうだと思う? どうして私たちの邪魔をしてるのか。キミにお怒りだってだけじゃないだろう?」

「わからないなあ。正直、亡国機業といつどうやって単独で繋がったのかすら、見当がつかない」

 諦めたようにため息を吐き、国津は端末へと視線を戻す。

「まあ気にかかると言えば気にかかるが、私たちの敵は亡国機業じゃないんだ。相手にしても仕方ないだろう」

「そうだね……うん。また何度か連絡してみるよ」

 国津は少し疲れた表情で頷いた。

 そうは言っても娘や妻が気になるんだろう。オレも気になるがママ博士こと国津三弥子さんは悪い人じゃないし、三人娘は姉妹みたいなもんだから任せるしかない。

 淹れたばかりのコーヒーに口をつけて今日の予定を立てていく。

 四十院総司にとって休暇とは次の予定を立てるためのものであって、休みという意味じゃない。

 これからの算段を立てつつ、朝食が出てくるのを待つことにした。

 

 

 

 

『キサマ、どこにいるんだ!』

 電話越しに叫んでいるのは、国際IS委員会の委員長である。つまり名目上はIS業界で一番偉い人になる男だ。

「やだな、教えるわけないでしょ」

『日本国内にいるんだろうな? IS学園を空っぽにして、あんな数のISを押しつけおって!』

「ナイスだったでしょ」

『なぜ事前に言わないんだ、キサマは! 独立騒ぎなど起こして!』

「ったく、半分はアンタのせいだっての。こっから先、ずっとサノバビッチ言い続けるぞ、クソジジイ」

『ソウジ! キサマ!』

「アンタのご実家への融資と技術提供だって、今すぐ止められるんだし、アンタが色んなところから金策して集めてる口座のありかもぜーんぶリークできる……あ、IS学園のデータベースに入れたまんまだった」

『はっ!?』

「あ、消したわ。悪い悪い。思い違いだった」

『くっ……わ、わかった。これ以上追わせないように配慮はする。た、ただ、米軍は止められんぞ。あと日本のポリスも』

「知りませんよ。見つかったらすぐバラす。ほら、がんばってー」

 意地悪く応援してから相手の言葉を聞かずに回線切断ボタンを押す。

 小さなため息を吐くと、木々の間から空を見上げた。

 一夏の作った朝食を取った後、別荘の裏手にある林の中で散歩がてら、関係者に連絡してまわっていたところだ。一人になりたいと言っていたので、他の人間は近くにいない。

 欧州統合軍と米軍への根回しは終わったし、西アジアやイスラエルのIS開発局も話は通した。ASEANの連中も黙らせた。ロシアは更識がどうにかするから放っておいて良いとして、中国も党の幹部数人に連絡して送金も終わったから、鈴はしばらく自由だろう。

 あとは日本か。一夏と箒は超VIPだからなあ。どうしたもんか。

 考え事をしながらスマートフォンの中の電話帳をグルグルとスクロールさせていると、電話がかかってきた。

「うげ」

 嫌な名前が浮かんでいた。出るかどうかすごい悩んだ後、オレは意を決し震える手でボタンを押す。

「総司でございまぁす」

『あら、お元気そうですわね』

 おしとやかで優しく柔らかい声が耳元をくすぐる。

「楯無さんこそ、お元気ですかー?」

 相手は日本の暗部に深く根を張る旧家のトップ、更識楯無その人だ。学園では副理事長と生徒会長だったが、外に出れば立場上は四十院総司の方が下である。同格の家柄かつ向こうは当主でこっちは御曹司だから当たり前なんだが、そういう複雑な関係もあって今は会話したくない人だ。恨んでるだろうしなあ。

『今はどちらにいらっしゃいますか?』

 あ、この口調は本家にいるんだな。一応は礼儀にうるさい一家でもあるからな。色々と昔からお世話になったりお世話したりと、ご本家にも顔を出していたから、よく知ってる。

「あー、一応、秘密です。なにか御用ですか」

『まずはお礼をと思いまして。お時間はよろしいでしょうか』

「ええもちろん。楯無さんにはお世話になってますから」

『あら良かったですわ。では』

 コホンと小さな咳払いが聞こえてきた。直感でやばいと察知し、耳からスマートフォンを外す。

『この、バカ御曹司がああぁぁ!!!!』

 充分にスピーカーを離したし、電話自体に音量をセーブする機能がついているというのに、しばらく耳鳴りが残るほどの大音声だった。

「耳痛ぁ……」

『ふざけてんじゃないわよ! どうやってか知らないけどジン・アカツバキを倒したらさっさと逃げるわ、一夏君と箒ちゃんと鈴ちゃんも連れていくわ、全てのデータを抹消してるわ! そのくせ残った人員の世話は全て押し付けてくわ、貴方、どれだけ更識をコケにしてくれたわけ!?』

 大変お怒りでした。だがまあ、そこをのらりくらりと回避するのが四十院総司ってヤツだ。

「あー、ホントすみません。でも逃げずに捕まったら、みんな困るわけだし。それにここからも準備が必要になりますんで」

『準備ぃ!?』

「あ、怒らないでください、ホント」

 電話越しなのに平身低頭で謝るオレへ、更識楯無が大きなため息を吐いた。

『まあいいわ。それで総司さん、二つ、お尋ねしたいことがあります』

「はいはい」

『まずは一つ。二瀬野鷹のご両親の警備の件はどういう意味だったのでしょうか?』

「それか。ああ、他意はないよ。我が社のエースパイロットの身内を守ろうとしただけだ」

 いつもの口調に戻りサラッとウソを返す。旧家同士という立場上の話を除けば、オレは昔から楯無さんと簪ちゃんのお相手をしてあげていた気の良いオジサンの一人だ。

 それに予想されている質問の一つだったから、声色が変わることはない。さらに最も答えたく事柄の一つだったから、回答は用意してあった。

 なぜ、オレの両親は死んだのか。

 死なせまいと、オレは艦隊派の人間を押さえつけ、自ら手配したスタッフに世話をさせた。

 しかし、オレはわかっていなかった。

 二瀬野鷹の両親は『四十院総司の手配した人間が警備したこと』により、死んだのだ。

 もちろん現場の人間も故意じゃない。そもそも階段で足を踏み外して頭の打ち所が悪く死んだなんて、オレは知らなかった。オレが一夏から聞いていたのは母さんが事故で、父さんが自殺で死んだということだけ。

 ゆえに厳重に注意して送り出したヤツらですら、防ぐことが出来なかった。意気消沈した彼らの目を掻い潜ってオヤジが飛び降りたのだって、彼らを責めることは出来ない。

 悪いのはオレである。未来を変えようとして未来を変えられなかった。

 どれだけ力を持っても、限界が沢山ある。何でも見通す四十院の御曹司なんてヤツはいない。いるのは他人の振りをして必死に取り繕い。薄皮一枚の余裕を見せているニセモノだけだ。

『どうかしましたか? 個人的に面識でもあったとか』

 楯無さんの怪訝な声で我に返る。

「会ったことはないよ。だけど人は死ぬのは、いつだって悲しいことだ」

 一報を聞いたとき膝が折れた。頭を抱えて泣きそうになった。近くにいた青赤緑の三人がオレを心配するほどには凹んでいた。

 だけど四十院総司は、そんなことで泣きはしない。四十院総司は、二瀬野鷹がどんなに悲壮な目に陥っても、涙を見せたりはしないのだ。

「それでもう一つは?」

『これからは?』

「IS学園亡命政府のことか。そっちこそ、専用機持ちたちはどうしてるんだい?」

『デュノア、ボーデヴィッヒ両名はそれぞれ自国の大使館で待機中です。私と妹は実家に戻りましたが』

「そりゃ良かった。でもまあ、キミたちもどうせすぐに召集されるよ」

『へー。つまり』

「敵は死んでいない。だから出方を待って鋭気を養っているのさ」

『わかりました』

 諦めたような了承の言葉とため息が聞こえてくる。

「もういいのかい?」

『それだけわかれば結構です』

「織斑君たちも元気だよ、そう伝えておいてあげて。頼むよ」

『わかりました。では、最後に』

「ん?」

『死になさい、このバカ』

 低い声で口汚く罵ってから、相手は回線を切る。

 とりあえずこちらの安否を確認したかったってところだろうな、本音は。

 思わず苦笑いを浮かべながら、葉の枯れた樺の木へともたれかかった。

 空は灰色だ。あと二、三週間もすれば、この高地では雪が降る。平地は違う一足早い冬の訪れだ。

「やれやれだ」

 歳を取ると冷たい空気が身に沁みる。コートの襟を立てて体を縮め、オレはIS学園亡命政府の本拠地へと戻ろうと木々の間をすり抜けて行く。

 そこに一人の少女を見かけた。赤いダッフルコートを着た篠ノ之箒だ。

「どうしたんだい、篠ノ之さん」

「副理事長……」

「ああ、一人になりたいのかい。悪かったね、邪魔をして」

 こいつはIS学園をあんな状態にしたオレを恨んでるだろうしな。

 そう思い、箒の横を抜けオレは立ち去ろうとした。

「あの」

「ん?」

 声をかけられ、背中越しに相手の顔を見る。思いつめたような表情をしていた。

「いえ、何でもありません」

 しかしそれだけを消え入るように呟いて、オレへと背中を向け歩き出そうとする。

「ちょっと待って」

「なんでしょうか」

 相変わらず無愛想だな、と内心で苦笑いを浮かべながら、周囲を軽く見回す。

 すぐに足元に折れた白樺の枝が二本見つかった。細かい枝を折れば、太さ的に木刀代わりにはなりそうだ。そんなに堅くもないし、当たっても大した怪我はしないだろう。

 それらを拾い上げて、一本を箒へと投げる。

「どうだいサムライマスター。私と一本、稽古をしないか?」

「副理事長と、ですか」

 白樺の刀を受け取った箒が怪訝な顔つきをしている。

「こう見えても、腕に自信があるんだ」

 笑いながら軽く白樺の枝を振り回し、えい! とわざとらしい大声を出して見せる。

 あまりにも素人臭い声だったのか、箒が少し笑いながら、

「良いでしょう、稽古をつけてあげます」

 と真正面に枝を構えた。

 子守は慣れたもんだ。何せ十二年も父親をやっているのだから。

 

 

 

 林の中で、白樺の枝同士がぶつかる音が響いた。

「なかなかやりますね。ですが、振りが甘い」

 余裕ぶった顔で捌きながら、師匠めいたことを言う。

「こっちはオジサンなんだ。手加減してくれよ」

「さて、どうですか」

 笑いながら、オレの武器を絡め取るようにして弾き飛ばそうとする。

「おっと!」

 慌てて剣を引きバックステップをして距離を取る。

「今のを防ぐとは」

 感心したように呟かれるが、なんとか逃げられたって程度だった。

「いやいや、さすがだね」

「思ったより鍛えているように思われますが」

「どうだろう……な!」

 息を吐き出すと同時に大きく振り被って、相手の枝目がけ、ぶつかっていく。

 それをやすやすと受け止めて、鍔迫り合いへと持ち込まれる。

「何を悩んでるんだい?」

 顔が近くなったので、ついでに話しかけてみた。

「悩み……と言いますと」

「不甲斐なさかな、キミは真面目そうだし」

 押しても引いても、それに合わせて力を受け流される。呼吸を読むのが抜群に上手いんだろうな、おそらく。

「そんなことはありません」

 そしてこっちが引いた瞬間に合わせて押し込まれ、そこに白樺の枝が撃ち込まれた。受け止めたオレの方だけが真っ二つに割れてしまう。

 うーん、十二年のブランクを考えても、剣の腕が違い過ぎる。他の競技や純粋な体力なら自信があるんだが。

 短くなった枝を持ったまま肩を竦め、

「ジン・アカツバキ。いや、紅椿がああなったのは、キミのせいじゃないし、キミがIS学園を守れなかったのも、キミのせいじゃないよ」

 と笑いかけた。

「……ですが」

 図星だったらしい。一瞬だけ目を見張った後、申し訳なさそうに目を落とした。

「気にするこたぁないよ。相手の言葉を信用するなら、アイツがああなったのは、二百年後だ」

「え?」

「最後にそう言っていたよ。二百年後だって。キミはどう頑張ったって、あと八十年ぐらいしか生きられないだろうし、ずっと紅椿を装着し続けるわけでもないだろう?」

 白樺の剣を下げた箒の左腕で、ISの待機状態である二つの鈴がしゃらりと音を立てる。

「ですが、きっと私の未熟な心が、あのような化物を生み出したに違いありません」

「そうかい」

「私は無力です……」

 少女が乾いた灰色の白樺を握りしめる。

「まあ、私は説教するつもりもないんだが……その、まあなんだ」

 おーい、織斑君はどこですかー? と内心で助けを呼びながら、何かないかと言葉を探す。

「例えば未来人がいたとしよう」

「未来人……」

「仮にだよ仮に。そいつが未来から来て、お前たちのせいで未来が飛んでもないことになった! って責めてきたらどうする?」

「どうする……と言われましても」

「謝るかい?」

「謝ると思います」

「それでも許さなかったら?」

「今以上に頑張ると思います」

「じゃあ、それでいいんじゃない?」

 オレが言えるのは、そんなことぐらいだ。

「それで……」

「私はね、こう見えてビジネスマンでもある。だから、いちいち部下がした失敗に怒らないよ。反省点と改善点と行動計画だけを聞いて、それが間違ってないかだけを確認する。そして背中を押してあげるのが、良い上司の役目さ」

 大体にして、オレの中にはウソばっかりで含蓄になるような言葉がない。ゆえに自分が十二年間のウソで得た経験ぐらいしか語ることがないのだ。

「私は……剣術家です」

「じゃあキミはあれかい? 弟子を持ったとして、弟子の失敗をいちいち責め立てるのかな。どうしてそんなことが出来ないんだ、バカなのか、キサマは! とか言って」

 わざとらしく箒のモノマネをしてみたが、残念ながら笑いは取れなかったようだ。子守にゃ自信があったんだが。

「あるかもしれません、不甲斐なければ」

「正直で結構。でも、キミは弟子を育てようと思っているんだから、そこからまた指導してあげるんだろ?」

「……そうしたい、と思います」

「じゃあ、そうしたらどうだい。キミが何をしようと、出来てしまったジン・アカツバキは変わらないよ。もうあいつは常識外の存在だからね」

「このまま、歩いて行けと……そういうことでしょうか」

「まあ、あと一つだけ。これは私が報告書で見た銀の福音事件の話なんだが」

「横須賀の、ですか」

「そうさ。あのとき、キミは白式にエネルギーを受け渡し、それをジン・アカツバキは怒った。なぜ渡すんだってね」

 これは二瀬野鷹として生きていたときの記憶だが、もちろん説明などしない。

「その通りです。なぜかアイツは、怒り狂いました」

「じゃあ、それで良いんじゃないかい。アイツが奪い取る生き方をするならば、キミは受け渡す生き方をしていけば良いと思う」

 ただの棒切れになった白樺の枝を枯れ葉の中に放り投げ、オレは背中を向け歩き出す。

 何を偉そうに語ってるんだか。このウソツキめ。

「あの」

 今度は振り向かずに足だけを止めた。

「なんだい?」

「ありがとうございました」

 おそらく礼儀正しく頭を下げているんだろう。見なくてもわかるよ、そんな態度は。

 それ以上は語らず、軽く手を振って別荘に戻っていく。

 しかし、こんな説教をするようになるなんて、アイツらと違って一人だけで大人になったんだな、オレは。

 そう考えると、切なさがハンパねえ。

 玲美たちが成長していくに連れて重ねてきた焦燥感を少し思い出す。

 高原に落ちた枯れ葉を踏みしめながら、山道を下り続けた。ここは平地と違い冬の訪れが早い。

 そういう生き方を選んだのだ。後悔しかねえけど、やり続けるよ。

 

 

 

 

 暖房の効いたリビングに戻ってくれば、それぞれが自由な時間を過ごしていた。

 青赤緑は一台のノートPCを囲み、話し合いながらオレが頼んだ作業をしている。

 国津はコーヒーを飲みながら、岸原と何やら相談ごとをしているようだ。

 リビングの端にあるソファーでは鈴が暇そうに寝転がっており、その横で座って新聞を読んでいる一夏を突っついたりとちょっかいを出している。

「篠ノ之さんは外にいたよ」

「あ、はい」

 自分に声がかけられたことに気付き、わざわざ立ち上がって一夏が返事をする。

「稽古でもしたら良いんじゃないかい。寒いけどね」

「は、はぁ……」

 コートを脱ごうとすると緑山が駆け寄ってきたので、彼女に渡しオレはイスを引いて座る。

 箒か。変わらねえな、アイツも。真面目過ぎるまんまだ。

 そんなことを考えていると、妙な引っかかりを覚えた。

「国津」

「どうしたんだい?」

「ISの状態をどうにかチェック出来ないかな」

「ISの? 彼らのかな?」

「そう。アスタロトも気になるし、白式と紅椿の調子も一応ね」

「うーん、機材がないとなかなか難しいかな。緑山君」

 国津が声をかけると、コートをかける手を止め、ユニセックスな緑山が近づいてくる。

「なんでしょうか、国津主任」

「悪いけど、ISチェック用の機材ってどうにか出来ないかな」

「難しいですね。一応は軍事機密ですし、今の状態の我々が手に入れるのは骨です」

 一番若い部下が申し訳なさそうに国津へと頭を下げる。

「そうか……シジュは?」

「私か。うーん、いっそどっかの基地に身を寄せるかな。今の状態だとあまりどこかの勢力と仲良くしたくはないんだけどね……赤木さんと青川さんも、何か手はないかい?」

 オレが話を振ると、中年男女は顔を見合わせた後、揃って首を横に振った。

 元々、一夏たちをここに連れてくるつもりがなかったのだ。ゆえにISをチェックする機材なんて用意していない。IS関連の機材はどんな些細なものでも、かなりの重要機密になってしまう。簡単に手に入れる、というわけにはいかない。

「ふむ……織斑君、ちょっと」

 手招きをすると、新聞を置いて駆け寄ってくる。

「なんでしょうか」

「少し篠ノ之さんを、今以上に気にかけてあげてくれないか。気になることがある」

「気になる?」

「彼女、二瀬野鷹を殺しかけた件があっただろう?」

 それはタッグトーナメントの前、箒が初めて紅椿を装着したとき、腕が勝手に暴走してオレの頭を吹き飛ばそうとした件だ。

「え、あ、はい。ありましたが……」

「二瀬野鷹の報告じゃあ、篠ノ之束っぽい人を見かけたというんだ。これが実はジン・アカツバキだったって可能性を考えると、彼女のISが操られたってことはないかなと」

 もちろん二瀬野鷹からそんな報告が上がっていないことは、オレ自身がよく知っている。だがウソも方便だ。

「了解しました。気をつけます」

 一夏が生真面目に返答をし敬礼をしようとした。だがオレが苦笑いを浮かべたのを見ると、ばつが悪そうに笑い上げかけた右手を下ろす。

 ISを抑えられるのはISだけだ。何か起きても、オレがディアブロを無暗に展開できない以上、一夏たちに頼るしかない。

 こういうときにシャルロットやラウラなんかの欧州組がいると頼りになるんだが、無い物ねだりをしてもな。

「四十院さん!」

 そこへ、青髭オヤジこと青川さんが慌てた様子で少し大きめの携帯電話を持ってくる。

「なに?」

「アラスカ条約機構の航空宇宙開発局からです。IS50機の反応を確認、大気圏突入したそうです!」

 その言葉に、思索をシャットアウトして立ち上がった。

「全員、休暇は終わりだ。岸原は欧州統合軍のコールマンを呼び出してアレの手はずを。国津はイスラエルのIS開発局に連絡、ありったけの弾薬とエネルギーを用意させといて。緑、四十院本家に黙って金を出せって言っとけ。赤、研究所の連中を全員叩き起こせ、こっからは真面目に働かないと給料カットだと通達。他社に出向してるヤツらも全員連れ戻せ。青、極東の連中に今の情報を伝えろ。匿名で良い」

 矢継ぎ早に出されるオレの言葉に、全員が早速作業に入った。

 思ったより早かったな。六百機を奪われたから、それが使えるようになる前に極東を落とす気か?

「副理事長!」

 一夏と鈴が真剣な眼差しでオレの言葉を待っている。

 こうなった以上は仕方ない。ある程度までは、こいつらにも働いてもらおう。ISがあるとないとじゃ大違いだからな。

「外にいる篠ノ之君を呼んで来たまえ。短い休暇だったけど、こっからは働いてもらおう」

「これから、どうされるんですか?」

 一夏の言葉に、四十院総司は口元だけで不敵な笑みを浮かべた。

「決まってるよ、戦いの準備さ」

 

 

 

 

 

 











前回は沢山のご感想をありがとうございました。

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