小麦粉使いの魔法使い   作:蛙顏の何か

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だが、小麦粉!てめえは駄目だ!

修行の時間が終わり、ダイオラマ球を出ると、もうすぐ昼の十二時に差し掛かっていた。

修行は一日中ある訳ではなく、朝早くからやっているが、昼には解放される。

昼は毎日のように裕奈と一緒に遊びに出かている。

裕奈はその辺の女の子達の様におままごとをして遊ぶタイプではなく、どちらかと言うと、男の子達に混ざりスポーツをする、体育会系な女の子だ。

あれから、伊織の地獄の特訓をしているにも拘らず、彼女のパワフルさには今だついて行けてない。

この間も、公園で遊んでいたところ、ガキ大将のような小太りの少年が数人の手下を引き連れ、公園を占領しようとしていたが、

裕奈がガキ大将を一瞬で張り倒

し、唖然としている手下を次々と薙ぎたおし無双状態

逆に彼女を止める方が大変だった。

 

そして今日もそんなパワフルな彼女と遊ぶのだが、裕奈はいつも一時に迎えに来るのでまだ一時間ほど時間がある。

 

「う〜ん、どうしよかな?

せっかく時間があるし、あれでもやろっかな」

 

伊織の部屋を出て、僕の部屋へ向かう。

僕の部屋にはベットとタンスだけの必要最低限の家具しか揃っておらず、伊織の部屋は真ん中にダイオラマ球が置いてあるだけで、あとはなにもない。

伊織曰く、ダイオラマ球の方が広いし快適だから殆どあの中で暮らしているらしい。

部屋はただダイオラマ球の置き場が欲しかったのと、仕事の為に住所が必要だから、仕方なく借りていたらしい。

まぁ、ダイオラマ球を野ざらしにする訳にもいかないし、あの中には別荘みたいなのもあるからあそこの方が快適だろうう。

ちなみ、修行以外ではダイオラマ球の時間は弄ってないらしく、時間設定は現実の時間に合わせてるらしい。

 

「(そういえば、ダイオラマ球ってかなり高価だって言っていたけど、よく手に入ったね〜

あ、でも、前にロリババァから賭けでイカサマして勝ち取ったらしいけど、その人も災難だったね)」

 

部屋に入った僕はベットの近くに置いてある大きなビニール袋を手に取り、そのままテーブルへ運ぶ。

中身はプラスチックの調味料居れや、タッパーなど複数の保存用の容器でありどれも百円ショップで買える様な物ばかりだ。

 

なぜこんな物を買ってきたかと言うと、伊織が料理を作らないからだ。

あの人はいつもコンビニ弁当か外で食事して過ごしているらしく、冷蔵庫にはビールしかない。

これはいかんと思った僕は、昔から得意だった料理を作ることにした。

お金は伊織からお小遣いを貰っているのではなく、いつも財布がダイオラマ球の近くに置いてあり、好きに使っていいらしい。

伊織から貰ったお金を有難く使い、気合いを込めて料理を作ったが、今思い出しても会心の出来だった。

だが、食べた本人の伊織は一口食べただけで疲れていたのかその場で倒れる様に寝てしまった。

家主が食べぬまま僕だけが食べる訳にもいかず、伊織が目覚めるのを待つと二時間程で目を覚まし、いきなり僕を殴り飛ばした。

とても理不尽だ。

 

あの後、三峰家では料理以外の家事を全て僕に任された。

自分で言うのも何だが、あれだけ料理が上手いに食事係を任せて貰えないなんて伊織は何を考えているのだろう。

そんな愚痴を明石家で言ったら、明石家の台所を借りて料理を作らせて貰った。

何故か台所が爆発したが、きっと古かったのだろう。誰かが怪我する前に判明してよかった。

 

明石家の台所が使い物にならないせいで、今は夕子さんが三峰家の台所を使って料理を作ってくれている。

僕も夕子さんを手伝おうとしたが頑なに拒まれた、なせだ。

 

ちなみ、この買ってきた容器は三峰家の使いにくい台所を改良する為に買ってきた物だ、

これで僕も夕子さんも台所が使いやすくなるで有ろう。

 

買ってきた容器の中に砂糖、塩、片栗粉などを詰めながら、ふと、伊織との訓練の時のこと思い出した。

正確には気絶していた時に観た高校時代の夢の事だ。

この半年間たまに見る事がある。

この生活にも慣れて来たし、いつも充実しているが、やはり、帰りたいとも思っていた。

 

「(でも、今回の夢はやけに引っかかるなぁ

アニメや漫画は好きだったけど、二次創作小説なんて読んだ事ないから分からないよねぇ

ん?あれ?でも、輪廻転生や憑依って、今の僕の状況に当てはまるんじゃ……)」

 

何か重大な事に気付いてしまった気がするが、やはりそれも可能性の一つでしかないと思った。

何故なら、僕は神様とやらに土下座された覚えもないし、憑依ならこの人物の身体が誰の物だったのか、今だに判明していないからだ。

 

「(それに、気の習得は早かったけど、無双できる程の力でもない

特別な能力があっても、物を硬くしたり脆くするだけの能力なんて、魔法が使えるこの世界ではチートでも何でもない

ましてやハーレムなんて、確かに裕奈とは仲がいいけど、元々内気な方の僕が女の子とウハウハなんて出来る訳がない)」

 

気付くと、容器に詰める作業が終わっており、時計はもうすぐで一時を回ろうとしていた。

もうすぐ裕奈が来るので、急いで容器を台所に運ぼうと、まとめて一気に持ち運ぶ。

三峰家の台所には何もない為、空いたスペースに置いて、帰って来てから並べようと思ったが全身が凍り付く様に止まった。

置こうとした所に居たのだ、奴が。

あの黒く光る硬殻を持ちながらも高速で動く、一度見たら三十回はみると言われるアイツだ。

普通は物が多い所で発見される事が多い奴だか、この何もない三峰家に何故か居た。

 

「うひゃああぁぁぁぁぁあ!!

出たああぁぁぁぁあっっ!!!」

 

今まで鍛え上げた全能力を使い一瞬で後退する、今だに瞬動は練習中だが、本能のままの咄嗟の行動で一発で成功した。

だが、それが悪かったのだ。

瞬動ほどの高速直線移動で、気や魔力で掴むか包んでない限り、大抵の物は振り落とされる。

それは僕がまとめて持っていた容器達も例外ではない。

 

「あ、」

 

目の前に見えたのはダイナミックに中身を巻き上げながら落下して行く容器達、アドレナリンが分泌しているせいなのかやけにスローに見える。

マズイこれは不味い!!リビングに大量の調味料がブチまけられている所を伊織に目撃されたら確実に血祭り決定だ!

 

「まっってぇぇえ!!」

 

そんな叫びも虚しく、容器達は次々と床に落下し更に中身をぶちまける。

もう駄目だお終いだ、絶望に暮れて膝を付きたくなるが、再び身体が固まった。

そして目線の先には信じられない物が写っていた。

 

そこには何故がタッパーが空中で静止していた。

まるで僕の声に応えるかの様に今だに落下する気配のない

良く見ると、タッパーの蓋が外れ逆さに向いているにも拘らず、中身を零れ落ちる気配がまるで無い。

奇妙な状態のタッパーに更に困惑していると側面に貼ってあるラベルが目に入った。

 

 

「…小麦…粉?」

 

床に散らばる調味料を気にせず、静止する小麦粉のタッパーに近付く。

タッパーを抜き、それでも形を崩さない小麦粉を手で触る。

 

「(鉄みたいに硬い)」

 

舐めてみてもやっぱりこの硬物は小麦粉の味がした。

魔法の様に静止した小麦粉を見て、初めは伊織がやったのかと思ったが、態々小麦粉だけ止める意味はない。

かと言って僕は今だにライター程の火も着ける事の出来ない落ちこぼれ魔法使いだ、こんな芸当出来るわけが無い。

じゃあ、誰が?と思い周りを見渡すが、見えるのは無残に広がる調味料達の姿。

つまり、ここには僕しか居ない、これをやったのは僕と言う事になる。

 

小麦粉の能力

これで思い浮かぶのは昔読んだ漫画や小説などから二つ程。

一つは、某海賊漫画の敵が使っていた、食った小麦粉を鼻からパスタにして出すという料理人に喧嘩を売っているとしか思えない様な能力。

これはそもそも能力ではなく多分特技だし、小麦粉を静止させる物ではないので違うであろう。

 

二つ目は『とある魔術の禁書目録』という小説に出てくる敵、神の右席の『左方のテッラ』の魔術

、こいつの魔術は『光の処刑』と言う天使に近付いた人間だけがなせるもので、優先順位を変えると言う魔術

そして、小麦粉はその魔術の副産物であり、金属の様に小麦粉を硬くし自由自在に操る能力である。

 

「(もうこれは確実そうじゃないか!

何で言われた時に気づかなかったんだ!優先順位を変えるなんて変わった能力あの人以外いる訳ないじゃないか!)」

 

それも仕方ないだろう。神の右席のメンバーの中で一巻しか活躍してない上に、あの四人の中で唯一死んでいる奴だし仕方ない。結構好きなキャラだけど。

 

「(でもこれってかなり凄い能力何じゃ…

神の右席の他のメンバーの能力が凄過ぎて霞がちだけど、これも十分強力。友達の言い方で言うとチートだ)」

 

だが、思考に耽るのは僕の悪い癖だ。

忘れてはいないだろうか、まだ、台所に居るヤツに何の対処もしていない事を、ここに調味料が散乱している事を…

 

台所から出てきたヤツは僕の足元にある調味料の山に突っ込んでくる。

ヤツから瞬動が生まれたのではないかと思う程のスピードで

 

「いやあぁぁぁああ!!くるなあぁぁぁあああ!!」

 

その叫びと同時に小麦粉は動いた、瞬動並の移動速度を誇るヤツを捉え、

 

そのまま圧殺した。

 

「っ!」

 

今日何度目かは分からないが、再び身体が凍りいた様に固まった。

聞こえてきたのだ、ヤツを圧殺した時の音が……

 

「……南無三…」

 

その言葉と同時に、玄関のチャイムが鳴り響く。

 

「ゆかりぃーーー!!あそびにびにきたよーー!!」

 

ドア越しから裕奈の声が聞こえてくる。

 

「(とりあえず、掃除しよう

祐奈には悪いけど手伝って貰ったら直ぐに片付くよね

 

だが、小麦粉!てめぇは駄目だ!お前は伊織が来るまでそこで大人しくしてな!)」

 

その後、裕奈と一緒に掃除した事により、一時間程で終わった為、伊織に知られる事もなく、血祭りは回避できた。

と思っていたが、僕達が遊びに行った後

放置していた小麦粉を伊織が間違えて踏んだ事により結局はダイオラマ球の中で血祭りにあげられる事を遊んでいる僕はまだ気づいていない。

 

 

 

 

 




七話目になってようやく小麦粉使いになりました。遅いっ!

ご指摘がございましたので、ダイオラマ球の設定を少し継ぎ足しました。
作者の文章力が足らず申し訳ございません。

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