小麦粉使いの魔法使い   作:蛙顏の何か

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そこはロリコンのハウスだった。


扉を潜ると__。

 

暖かな日差し、小鳥の囀り、そしてこれは紅茶の匂いだろうか。とてもいい匂いが漂よっており、その心地良さから目を覚ます。

 

ここは何処だろうか、展望台にも似ているが紅茶の置かれたテーブルに腰掛けるイスは何処か小洒落た喫茶店の様にも感じる。

耳をすませば離れた所から水の叩きつけられる様な滝の轟音が聞こえており、辺りの景色は大自然の森と広大な川、そして所々にある本棚という何処か現実味のない景色だった。

 

「あれ?ここは……どこ?」

 

全く見覚えのない景色に見慣れない紅茶、しかも湯気が立っていることからまだ入れて間もない。

確か僕はドラゴンを退け、扉を開けられずに四苦八苦していた時に意識を失った。そこまでは覚えてる。

 

「そういえば、腕が治ってる」

 

いや、腕だけではない。先ほどの激戦で身体中がボロボロであった筈なのにそれが完治しているのだ。

覚えているだけでも右腕の火傷、腕と肋骨の骨折、吐血した事から内臓もやられていると思うのだがそれが嘘の様だ。

 

そういえば、魔法服も着ておらずポーチもなくなっている。

何故か着てきた服ではなく、だぶだぶの猫耳フード付きのパジャマであり袖が長いせいで手が隠れている。

 

「(え?なにこれ……萌袖パジャマ?

確かに可愛いけどなんでこんなの着せられてるの僕……)」

 

次々と明らかになる現在の状況を分析して、これは夢か何かかと思って頬を引っ張るがやっぱり痛い。

どうやら夢ではないようだが、なら尚更分からない。

とりあえず、誰かいないかと椅子を降りて後ろを向くとすぐ真後ろに白いローブの男がニコニコと微笑みながら立っていた。

 

「っ!!!?」

 

「お目覚めですか、体に異常がないようで何よりです」

 

なんだこの男は、こんなに接近されたのに全く気づかなかった。

藍色の瞳に同色の髪色、ショートヘアだが一部だけ妙に髪が長く一つに束ねている。胡散臭い笑みを浮かべ白いローブに身を包む姿はどこか存在が気薄だ。

人間ではなくまるで幽霊のような気薄いな存在感の男を前に咄嗟に臨戦体制をとる。

 

「フフフ、そんなに警戒なさらずとも取って食おうなどとは思ってませんよ」

 

「……その笑顔が超怪しいんですけど」

 

「よく言われます」

 

男は尚も笑みを浮かべ、目の前の男を警戒しながらいざという時の脱出経路を探す。

この場所は断崖絶壁に作られた妙な広間だ。もし脱出するなら小麦粉瞬動で崖を飛び降りるか、男を越えて通常ルートで逃げるしかない。

 

「どうやら信用されていないようですね

その猫耳パジャマがお気に召さなかったのでしょうか?」

 

「これやったのお前か!!僕の服返してよ!というか寝てる間に何したんだよ!!この変態っ!ロリコン!!」

 

「フフフ、魔法服は損傷が酷かったので修繕中ですよ

身体の方も重症でしたので回復魔法でチョチョイと」

 

どうやら手当てをしてくれた様だが、それなら何故この服なのだろうか?いや、そもそもこの男は何故こんな服を持っているのか、そこが疑問に残る。

確かに可愛い、可愛いけど……僕、男だよ?

これならまだパンツ一丁になった方がマシ………いや、それこそダメだ。

そんな状態で目を覚ましてこの男を見た日には、貞操の危機と羞恥心で崖から飛び降りる事を迷わず選択したであろう。

 

「よくぞ、ここまで辿り着きました

問題なく合格点をあげましょう」

 

「合格点?えーと、そういえば貴方って何者?」

 

「申し遅れました、私はアルビレオ・イマ

貴方の師匠、三峰 伊織の師の一人であり友人です」

 

「伊織のっ!?」

 

伊織の名前を聞いた途端、それに食つき反応した事によりアルビレオ・イマは再び微笑みかけた。

 

「先ほどの戦い、拝見させて頂きました

危なっかしくはありますがその歳であの技量、気や『テレズマ』の使用も申し分ない

伊織はどうやら良い師だったようですね」

 

「え?え?ちょ、ちょっと待って整理させて、色々疑問が多すぎて訳わかんない」

 

「大丈夫ですよ、時間はいくらでもあります

先ずは一杯いかがですか、せっかく入れた紅茶が冷めてしまいます」

 

アルビレオに促され、グチャグチャな頭を整理する為に一旦落ち着く。

丁度よく温くなった紅茶を一気に煽り、風味も香りも堪能せずに喉の渇きを潤す。

 

「そうですね、では先ずは伊織との約束について話しましょうか」

 

「お、お願いします」

 

お互い向かい合うように椅子に座り、テーブルにお茶菓子を並べて話しは進み出す。

どうも事の始まりは僕が伊織とパクティオーした時に始まり、もし僕がドラゴンを超えてあの扉の先まで辿り着けたら修行をつけてやって欲しいとの事だそうだ。

 

「彼女の師は四人いまして、私とゼクトは魔法を教える役割を果たしてました」

 

「ゼクトさん?」

 

「ゼクト、詠春、ガトウ、そして私

知識にも貪欲で天井知らずの伸びしろ、才能の塊であった彼女にはそれだけ多くの師を必要としました

と言っても、彼女の戦闘スタイル上殆どゼクトが修行をつけていたのですがね」

 

次々に明らかになっていく伊織の過去、伊織とアルビレオの所属する組織『紅き翼』は日々世の為人の為、魔法を駆使して世界を規模の事件を解決した英雄集団だそうだ。

世の為人の為と聞いて、伊織がそんな事をするとは到底思えないと言ったらアルビレオも笑って同意した。

 

世界的事件とはどんなものだったのかも聞いてみたが何度も笑顔で流され教えてくれる気はないようだ。

 

「私は彼女の師と言うよりはどちらかと言えば研究仲間と言った部類かもしてません

彼女は生まれながらの優秀な気と魔力を保有していましたが、彼女の真髄はそこではなく『テレズマ』といった特殊な力にありました」

 

「『テレズマ』……さっきも言ってましたね、僕のテレズマがどうとか」

 

『テレズマ』つまりは『天使の力』

とある魔術の禁書目録において重大なキーワードであり、文字通り天使の保有するエネルギーであり天界の力。それをなぜ彼は知っているのか。

 

「『テレズマ』、天使の力とは言っても本当にそうなのかは私達にも分かりません

この名称は伊織が命名したもので、これは彼女しか持ち得ない特殊なエネルギーでした」

 

昔を懐かしむように語っていた彼からは一変し真剣な表情へと変わる。

 

「『気』とも『魔力』とも異なる全く新しい力

体内から生成し、チャクラとも呼ばれる人間の生命エネルギーが『気』

万物に宿る森羅万象の力であり世界のエネルギーを体内に受け入れ使役することが『魔力』

しかし、彼女の生成する『テレズマ』はそれらの例に反する全く異質の力

その源がどこか、と問われればこれは抽象的になるのですが魂、としか言いようがありません

生成する器官もなく無尽蔵に湧いてくる、他者に流し込めばそれだけで不具合を起こし、長時間の使用続ければ本人でも不調をきたす

恐ろしくもありますが私は彼女に興味が尽きませんでした

今でもこの命題には悩み続けています」

 

自身の研究成果を論ずるように何処か愉しげに彼は話し続けていた。

『テレズマ』という異様の力、それは僕が『光の処刑』や『小麦粉の魔術』を使うときに使用するモノだろうか。

 

「そして特出すべきは彼女がいう『異界の魔術』なるものです

彼女は自身を『後方に座するもの』と名乗り『聖母の慈悲』という特殊な魔法を使ってみせました」

 

「『聖母の慈悲』!!確かに伊織はそう言ったんですか!?」

 

「ええ、これも彼女の命名です

あらゆる呪いを解除し虚像から本物の力を引き出すサウザンドマスターに次ぐ反則的な力

その魔法で彼女は『テレズマ』のコントロールに成功し、魔力での強化とは比べ物にならない程の強靭的な身体強化であの実力に達しました」

 

『聖母の慈悲』、それはとある魔術の禁書目録において『後方のアックア』が使っていた術式。左方のテッラのラファエルが『光の処刑』なら後方のアックアのガブリエルは『聖母の慈悲』

 

「あれは彼女だけのものと思い、君のことを聞き私は耳を疑いました

ですが、あの戦いのあと広間の小麦粉を調べて分かりました

あれは伊織の『テレズマ』とほぼ同種のものです、共に研究した私が保証します

まさかこの時代に保有者が現れるとは…長生きはするものですね」

 

僕と伊織、共に同種の力に同じく異世界の力、たった一作の文庫本から共通する僕らの繋がりを伊織は知っていたのか?

知っていて何も言わなかったのか?

アルビレオの話からも、伊織がその力を『後方のアックア』のモノだと理解している。

よく考えれば、僕が『光の処刑』に気づいた時から伊織は動揺していなかった。小麦粉から発せられる『テレズマ』の力も彼女は直ぐに理解し受け入れていた。

伊織は何故僕を引き取った、何故元高校生である事を口外するなと念を押した。

 

考えれば考える程浮かんでくる疑問に頭がどうかしそうだ。

元々は伊織の言いつけを守る為にここまで来たのにあの女はもっとややこしい疑問を残していった。

 

「おっと、すいません、久しぶりの話し相手でしたのでつい話し込んでしまいました」

 

「いえ、ありがとうございます

僕も聞きたい事が色々と出来ました」

 

「訪ねたい事は山程あるでしょうがそれは後日

先ずは貴方にお返しするモノがありますのでこちらに」

 

僕の質問を手で制すると、椅子から立ち上がり浮遊感のある足取りで案内する。

どうもこのテラスは灯台というか展望台のような塔から伸びた場所であり、室内に入ると図書館のように、本が並べられておりあまり生活感はないが異世界の別荘といった幻想的な雰囲気のある場所だった。

 

アルビレオに案内され、奥にある部屋に入るとそこには武器や防具、地図や作業台と何故かバイクといった武器庫と言うよりは物置のような場所に出た。

どれも魔力が付与されているのか異様な雰囲気を出しており、装備すれば呪われそうな不気味な物まである。

 

「ここは伊織が物置として使っていた所なのですが、どうやら持ち出したのは剣一本だけのようですね

急いでいたようですので仕方ないでしょうが……ああ、ありました

 

部屋を見回し中の状況を確認しているとアルビレオは部屋の角を指差した。

それは台座に乗った大きなボトルだった。ボトルシップのように中にミニチュアの島が浮かんでおり、そこそこの広さに一軒だけ木造のログハウスが建っていた。

 

「これって……」

 

僕は迷わずボトルに手を触れた。ボトルの表面には利用者0との表示が出ており、手慣れた手つきで操作すると突然風景が変わった。

 

「あ……あぁ……」

 

目の前の風景を見た瞬間、膝から崩れ落ちた。

漂う潮の香り、波打つ音、照りつける太陽、どれも懐かしい感覚。

 

ここは僕が修行の日々を過ごしたダイオラマ球だ。

伊織が居なくなったあの日、部屋からなくなった伊織の数少ない備品。

 

足を踏み出せば感じ砂の感触もあの時と変わらない。転送ゲートは確か『女王艦隊』が乗ったせいで崩れかけていた筈だが、今はそんな事はなかったかのように元通りだ。

 

不意に走り出した、椰子の木を避け日で熱くなった砂を踏みしめながら進み続ける。目的地は勿論ログハウスだ。

 

外からの見た目は変わりなく、鍵も一切ない扉を開ければ埃一つない我が家だ。

 

「うぅ、うあぁぁぁ…う、うう……」

 

溢れ出した涙を押させようとするがどうしても止まらない。まだ一月も立っていない、でも何年も帰ってきてないような感覚だった。

突然伊織が居なくなって、周りは僕の事を避け始め、裕奈も塞ぎ込んでしまい、自分の事も分からなくなってしまった。そんな不安から自分を押さえ込んできた。

もうあの場所には帰れない、だからみんなに迷惑を掛けずにいよう。

そうやって押さえ込んでいた感情が一気に決壊した。

 

不安だった、一人じゃないって事は分かってた、でも心を預ける場所なくなった事で僕は虚勢を張り続けたのだろう。本音を言い合える家族が居なくなり、あのマンションも追い出され、心に余裕がなくなっていた。

 

「ううう、止まらない、ひっく……止まらないよぉ………」

 

でも、ここはとっても落ち着く。胸の辺りがぽかぽかする。部屋からはまだ伊織の臭いが残ってる。

今からでも寝室から気だるそうに出てきそうな、そんな幻まで見えてきそうだ。

 

「これは半月前ですかね、伊織が持ってきたものです

中の損害が酷かったのでこうして少しづつ修理してたんですけどね」

 

幽霊のように全く音も気配もなくアルビレオが現れる。

泣き顔を見られたくないので必死で拭くが溢れ出る涙は止まらず、そっと何も言わず袖からハンカチを渡してくれた。それを有り難く受け取り鼻をかみ鼻水を拭き取ってそのまま返す。

 

「…………

縁君、私は伊織から貴方がここに来るようなら師として教鞭をとってほしいと頼まれました

あのドラゴンを倒した者には私の知識を与えようと思っていたのでやぶさかでは無いですが…まだ貴方からは何も聞いていませんね」

 

鼻水塗れのハンカチを袖に直すと、アルビレオ・イマは僕を見据えた。

受けるか否か、アルビレオはそっと手を差し出して僕の返事を待った。

 

「伊織は…言ってました

あなたなら僕を更に上に連れて行ってくれるって

僕はどうしても強くなりたいんです、もう何も失わない為に、誰にも負けないくらい……強く……

あなたは本当に僕を強くしてくれるんですか」

 

「それは貴方次第です

人間の成長には、努力は付き物ですが素養もまた必要な物

貴方にはそれが十分にあります、きっと、誰にも負けない魔法使いになる筈です」

 

「なら、お願いします

どんな試練でも乗り越えてみせます」

 

迷う事はなかった。伊織が選んでくれた師なのだ、きっと僕に合っている筈だ。

だから、アルビレオ・イマの手を取る事を躊躇いはしなかった。

 

彼もその選択に笑顔で答えてくれた。そして僕を導く様に優しく手を引き、これからの事を説明すると外に出ようとするところを引き止めた。

 

「あ、あの!修行の事なんですけど、少し待ってもらってもいいですか?」

 

「構いませんが…何か用事ですか?」

 

「はいっ!!どうしても!今すぐ行かないとダメなんです!」

 

アルビレオは僕の目をじっと見つめ、その真剣さや決意から読み取ったのだろうか、彼はやはり笑顔で頷いてくれた。

 

「どうぞ、お行きなさい

心のままに動くのもまた人間らしさの一つ、今の貴方にはそれが何よりも大切な事なのでしょう

なに、十数年待っていたのです、数日程度で弟子を取り下げるなどとは言いませんよ、私はいつでも待っています」

 

「ありがとうございます!!僕、絶対に戻ってきますから!!」

 

行ってきますと、手を振りながら全力疾走でダイオラマ球を出る。

家に帰ってからの事を考えながら、とにかく地上を目指して全力で走り抜けていく。

 

この時、一つ失念していた事があった。

今考えれば、なぜがアルビレオがとても愉しそうな笑顔で見送っていたのだが、そんな事を気付く余裕は僕にはなかった様だ。

 

家に帰った僕にアスナは「……なに、その服…」蔑む様な視線を向けて言った。

 

 

「アルビレオさん服返してぇぇーーーーっっ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、僕は遂に裕奈の家に向かっていた。

 

本当はもっと早く行くつもりだった。だが、麻帆良の門は連日報道記者に張られており少しでも顔を出せば一瞬でカメラとマイクが迫った来て質問攻めにあうだろう。

 

「(いや、それも言い訳か

本当は自信がなかっただけなんだよね

それに僕自身も伊織の事を引きずってたし…)」

 

「久しぶりだね縁君、最近は何かと慌ただしくて家に居る時間が短かったけどこっちもようやく落ち着いたよ」

 

今は久しぶりあった裕奈のお父さんに明石家まで車で送ってもらっているところであり報道記者をかわす為、段ボールで偽装し後部座席に隠れてやり過ごした。

考案者の和美からはバンダナとカロリーメイトを渡されたが、バンダナだけ返してカロリーメイトはありがたく頂いておいた。

 

本当は高畑先生に送ってもらう予定だったのだが出張で出払っており、一時帰宅のため職員室を出ようとしていた裕奈のお父さんを如何にか見つけて今に至る。

 

「本当なら、仕事なんて放り出して裕奈の側に居てあげるのが父親って者なんだろうけどね……いや本当に…情けない」

 

「裕奈のお父さんは何も悪くないですよ

学園側も態々出頭命令なんて出さなければいいのに…」

 

「それこそ仕方の無いことさ、僕は夕子の夫で伊織の数少ない友人だ

向こうが邪推するのも無理はない」

 

助手席から見る裕奈のお父さんの顔は平然であろうとしているが明らかに窶れていた。

本国というのが何処かは知らないが、こんな大変な時に遠くまで呼び出しすなんて何を考えているんだと憤慨せざるを得ない。

 

「でもお陰で大分事態は収拾できた

伊織の無実は証明出来なかったけど、向こうもこれ以上騒ぎを大きくする気はないようだよ

縁君もしばらくは騒がしいけど学園側も事態の沈静化に取り組んでいくから、学園の外に出る場合は僕かタカミチ君、それか学園長に言ってくれればこうやって目的地まで送ってあげるよ」

 

「ありがとう、裕奈のお父さん

でも外に出る事はもうないと思います

店も麻帆良には揃ってるし、レジャー施設なんて行くお金もないですから

それより裕奈は今どうなってますか?学校も来ないし、和美たちが行っても会いたがらないって言ってましたけど」

 

僕が一番気になっているのは裕奈の状況だが、基本的には和美と裕奈のお父さんからしかその情報は入って来ない。

最後にあったのはあの葬儀の日だが、その日まで見た裕奈は心が抜けたかのように呆然とした意識の中生きている……いや、最早あれは動いていると言った方が正しいかも知れない。

心が抜けたように生気がなく、ただ動き続ける人形の様に生きる気力がない。

 

「正直に言って芳しくない状況だよ

何度呼びかけても上の空で夕子の部屋から出ようとしない

食事も自身からは取ろうとしないし、僕があげれば食べてはくれるけど殆ど食べない

裕奈は今、虚脱感の中で生きる……あんな姿を見てると……いつか、裕奈までもが消えてしまいそうで……」

 

裕奈の現状を説明する彼からは大粒の涙が流れており、最後の方は声を震わせて説明が覚束無くなっている。

 

彼も彼で如何にかいつもの裕奈に戻って欲しいと思い色々やって来たのだろう。

今の話からしても、このままでは裕奈は生きる事を放置してしまいそうで危なっかしい状況にある。

 

もしも彼に時間があれば、ずっと側に居て裕奈の心を少しづつ溶かせて行ったかも知れない。

だが、魔法使い達はそれをさせてはくれなかった。『夕子の死』『伊織の事件』その収拾に彼は呼び出され、家族と引き裂かれてしまった。

 

僕がもう少し大人なら、彼の背負っている半分を背負えたかもしれない。

でも裕奈のお父さんは、子供の僕に重荷を背負わせないようにと彼方此方に出向いて今の状況まで落ち着かせてくれた。

 

「(それなのに僕は裕奈から目を背けて、自分の事しか考えてなくて、この半月間暮らしてきたのか

裕奈のお父さんは、自分の事を考える時間すらなかったのにここまで頑張っていたんだ)」

 

無意識の内に痛いほど拳を握りしめていたのがわかった。今まで精神だけは大人のように気取っていたが、僕は全くの子供だった。

一番の問題に目を背けて、自分を殺してまで奮闘してくれた大人の気持ちすら知らずにのうのうと生きていた。

 

「裕奈の笑顔は、絶対に戻ります」

 

絞り出すように発された言葉にどれ程の説得力があるのか。

でも、それは行動で示せばいい。

 

「また晴れ晴れとしてした笑顔で…最高の笑顔で、過ごせます」

 

「……縁君」

 

「絶対なんて言葉はないって誰かは言うけど、でも絶対です」

 

 

自信は得た、決意は示した。

 

後は、会いに行くだけだ。

 

「だから、僕を裕奈に会わせてください!!」

 

「………ああ、それじゃあ…お願いしようかな

お転婆な娘だけど、よろしく頼むよ、縁君」

 

 

車は学園を抜け、明石家に向かう。

 

学園を出るだけなのに、ここまでどれだけ回り道をしただろうか。

でも、そろそろ元の道に戻らないといけない。

 

あの旅行から僕らは道を見失った。慌ただしく起こる出来事に目を回して何処を進んできたのか分からなくなっていた。

 

僕は周りのみんなに手を引かれ、ゆっくりだか進んでいる。

だが、裕奈は止まったままなんだ。

 

 

車は停車し、僕は向かう。

裕奈に示さなければいけない。こんな酷い現実でも、進みたくなる明日がある事を。

 

 

 

 




ロリコンだという事を絶対に否定しないスタイル。さすがアルビレオさんやでえ!

今回は今まで謎だった『魔力でも気でもない不思議な力』の解明です。これは当初からありましたが、なかなか解説してくれる人がいませんでしたが、ここにいるじゃないか、なんか色々知っていそうな人が。
原作でもアルさんは色々知っている癖に黙っていたので、私はこいつ本当に意地の悪い奴だなぁと思っていましたがロリコンだという事は最大に評価します。さすがアルビレオさん。

こういったミステリアスなキャラは私好きなので、今作ではアルビレオさんがかなりスポットに当たる様になってます。謎だらけだから何かと使いやすいですしね(笑)


次回で一応、縁編は一旦区切りとなります。裕奈はどうなるのか、縁はどんな選択をするのか。ゴッドイーターは本当に原作通りアニメ化してくれるのか(切実)

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