麻帆良学園の図書館島は有名スポットの一つとして多くの者に知られた場合だ。
この広大な麻帆良学園の唯一の図書館だがその蔵書数は日本中、いや世界中の書籍が集められていると言っても過言ではない。
図書館島と言われるだけあって外部からは湖に浮かぶ孤島のように見えるがその地下は見た目からは想像も付かないほど広く入り組んだ迷宮となっている。
この図書館島地下迷宮の全貌は誰も理解しておらず麻帆良学園の管理者である学園長ですら知らない。
それ故が好奇心旺盛な麻帆良学園の生徒達は図書館探検部なる部活が結束され日夜迷宮探索に勤しんでいる。
「時間ピッタリだな天才」
「貴女に言われると嫌味に聞こえるネ」
図書館一階のフリースペース。そこには一般生徒に紛れ読書に勤しむフィアンマの姿があった。
彼女は手元の本から視線を外さず、待ち合わせの人物である超 鈴音に声をかけた。
超は旅行でも行くのか大き目のキャリーケースを引っ張っていた。子供が持つには重いのか額には若干だが汗が滲んでいる。
だが、そんな彼女の事など気にもしていないフィアンマの興味は手元の本にいっていた。
フィアンマの本は六法全書のような分厚い本でも異様な威圧感を放つ魔道書でもなく、300ページ程度の手頃な本で表紙には可愛らしい女の子のキャラクターが描かれた本だった。
「少し意外ヨ、そういった娯楽系の書籍は下らないと吐き捨てそうなイメージがしたのだガ」
「ライトノベルの事か?そうでもない、この時代はまだそこまで広まってないのかも知れないがこれから数年後には爆発的なヒットとなる次世代の書物だ
……それに『この世界』の書籍は興味深い、色んな発見がある」
フィアンマは楽しそうに本を捲る。超は特に気にすることもなくキャリーケースを彼女の隣に置く。
「注文の品を持ってきたヨ
それで?これから何が始まるネ」
「楽しい喜劇だよ、観客は俺たちを合わせて四人かな?
この暇な時間を忘れさせてくれる数少ない娯楽が始まるんだ」
口を釣り上げ本当に楽しそうに喉を鳴らすフィアンマ。
「三峰 伊織にあったことはあるか?」
「あったことはないネ
英雄だけあって情報には事欠かなかったガ、どれも凄まじい伝説が残ってるネ」
「そうか、ならいつか会ってみるといい
きっと色んなものを打ち砕かれるぞ
俺様もそれまでは自分が天才だと思い上がっていたがあれは別格の存在だ」
「これは珍しいネ、自分こそが絶対と謳う支配者だと思っていると想像していたネ」
「あれを目の前にすればそう思う
お前が科学の天才なら三峰 伊織は万能型の天才だ
知識という水をスポンジの様に一瞬で吸収し、生まれながらの卓越した身体能力に魔力貯蔵量、何をとっても劣等感を抱かずにはいられない」
フィアンマの表情には怒りが見える。三峰 伊織という圧倒的な存在を鮮明に思い出した彼女の瞳は揺ら揺らと怒りの炎が燃え上がっており、無意識の内に漏れ出た『魔力でも気でもない不思議な力』が周囲の物をミシミシと軋ませていた。
「だが、それに比べて三峰 縁は秀才だ
非才に見えるかもしれないが三峰 伊織の下で少しづつだが着実に成長し、実戦において開花する
よくある成長型主人公の傾向があるがそれ故に見ていて面白い
ああいったタイプは成長を続ける事で強い基盤を築く、三峰 伊織やナギ・スプリングフィールドよりも一層厄介な存在となる」
「だからこその調査かネ?」
「遊戯だと言っただろ、今日の俺様は観客だ
故に横槍を入れる気はない、同族の奮闘を見学させてもらうさ」
彼女は読んでいた本に栞を挟むと、それを棚に戻す事なく歩き出し、地下へと続く階段を降りていく。
「深淵を覗く時、深淵もまた此方を覗いている
俺たちはこの輪からは逃れられない、道化のように踊り狂いこの舞台を面白おかしく引っ掻き回す
この物語において、お前はどんな配役になる『榊原 縁』」
いつの日だったであろう。もう随分昔に感じられる。あの日は教室の本を返しに図書館を訪れ、変な司書に騙されてからだ。
あの日、僕は龍に出会った。物語に出てくるような巨体で蜥蜴型の西洋龍だった。
硬い鱗に覆われ、周りに豪風を吹かせながら巨体とは思えぬ速さで追いかけ回され、更には炎まで吐かれた。
あの時は何故助かったのかは分からない。
何故あの落下で助かったのか、龍を押し潰した黒球が何だったのか、そもそもあの司書は何がしたかったのか、分からないことだらけだが僕のする事は変わらない。
「ここ…だよね、うん間違いない」
地図を片手に迷宮を探索し、そしてようやく目的地にたどり着く。
記された場所には広間になっており周りには木々が立ち並び、天井から光が降り注ぐ事でここが地下だと忘れてしまいそうだ。
そんな自然な光景の先には不自然に建てられた扉があり、地図の位置的にはここを指し示している事からあれが目的地なのだろう。
「………来たな」
腹の下辺りまで響く咆哮。
空気が振動し、翼の羽ばたく音と強烈な匂いで相手の姿が容易に想像できる。
既に魔法服は着ている。左手にはいつもよりも三倍の大きさの小麦粉ギロチンを携え耳には既に『アドリア海の指揮権』が付けられている。
完全武装、僕に出来る最大の準備は整った。
あとは……待つだけ。
「ギギァァァァァァァアアアーーっっ!!!」
再度放たれる咆哮。翼を羽ばたかせ嵐のような風圧が全身に降り注ぐ。
ドラゴンは扉を守るように降り立ち僕の行く手を遮る。
こいつに恨みがある訳じゃない。
……いや、本音を言えば追いかけ回された恨みがあるがその程度でこの龍をコテンパンにしていい理由にはならない。
でも、僕はこいつを倒さなくてはいけない。そうしなくては前に進めなかった。
三峰 伊織___何もかもが謎の女性。
一緒に住んでいたにも関わらず、出身は疎か年齢すら知らない僕の大切な人。
突然居なくなるような困った人だけど、それでも大切な人だと言えるたった一人の家族だ。
その人は言った。龍を倒せと、そしてその先にある扉を超えろと、彼女はそう言った。
何故そんな事をするのか、その真偽は彼女が居ない今知ることは出来ない。
「君には悪いと思うよ、ただそこに居るだけなのに相手の都合で争いになる
でも、僕は自分の道を優先させてもらう
君を無視して進める程強くもないし、無傷で倒せる程逸脱もしてない
ちょっとした悪役の台詞をつかうなら_____」
左手のギロチンが霧散し辺りに充満する。
背後から『アドリア海の指揮権』から呼び出した『女王艦隊』がマストから浮上し辺りの気温を低下させる。
「どきな、そうすれば命だけは助けてやる」
ドラゴンの咆哮と共に戦いのゴングは鳴った。両翼を扇ぎ勢いよく突進し、鋭い爪が襲いかかる。
此方も瞬動により回避し距離をとる。
先ほどまでいた地面は大きく抉れており、あの一撃を受けるだけで一巻の終わりだと伺える。
あのドラゴンはワイバーンと言われる種族だ。二本の短い足でその巨体を支え巨大な両翼が腕の様に付いている。
ああいう飛龍種は飛んでいる時こそ本領を発揮する。
そして、この広間は大木が周囲に生えているが開けた空間が多い。天井も上を見る限りかなり高く一度飛び立ては『虚空瞬動』がない限り追い付けない。
ドラゴンが此方を視認すると再び突進してくる。今度はギリギリまで攻撃を引き付け、瞬動で真横ではなく真上に跳んだ。突進により生み出される剛爪を交わしドラゴンの顎へ左拳を叩き込んだ。
気で強化された拳は岩すら破壊する。更には瞬動による推進力が合わさり戦車すら貫く程の威力があるだろう。
しかし、それはドラゴンに当たる寸前でバチッ!と何かに阻まれ、叩き出した拳は弾き飛ばされた。
「くっ!やっぱり魔法障壁か!!」
宙で一回転し、体制を立て直すがドラゴンの巨大な尾が直撃し薙ぎ払われた。
身体からミシッと骨の軋む嫌な音が鳴るが魔法服のお陰で折れる事はなく、地面に何度もバウンドして転がる。
転がる最中、視線の端に大きく口を開けるドラゴンの姿を捉え、昔の記憶がフラッシュバックする。
「(ブレスが来る!!)」
ここで『光の処刑』での防御を考えたが、『女王艦隊』がようやく召喚しきれた。ここで視界を炎で覆われると照準が出来ない。今はこの無理な体勢でも回避が優先。
転がりながらも瞬動で跳び、狙いの定まってない移動で空中に跳び上がる。
その数瞬後に炎が広場を包み、巻き上げられる熱気は吸い込むだけで喉を焼きそうほどだ。
「全砲門一斉射撃!!撃てぇ!!!」
『女王艦隊』からの轟音と共に発射された氷の砲弾が炎の海を払う。
無数の砲弾がドラゴンを襲い、氷の爆発を巻き起こしその巨体を跳ね飛ばすがやはり『魔法障壁』に阻まれ外的損傷は見られない。
これは図書館で調べた事なのだが、竜種とは吸血鬼や妖怪などと同じく人種より優れた上位種と呼ばれる存在らしい。
特に『古龍』や『吸血鬼の真相』は最強種と言われているとか何とか。
吸血鬼はその優れた魔法能力と再生力。竜種は魔法を詠唱する事は出来ないが魔法障壁を常に貼っており、防御面も優れ、その巨体から生み出される剛力の攻撃力は凄まじい。
竜種の有する膨大な魔力は魔法障壁だけに注がれている。絶対防御と言ってもいい程の鉄壁の鎧を突破するには伊織の使う大規模魔法や月光のような障壁をすり抜ける技が必要だ。
残念ながら僕にはその両方ともない。だが、二人とは全く別の方法で突破できる。
「優先する。___魔法障壁を下位に、砲弾を上位に」
その詠唱が完了し、不思議な力が全身から満ちていく感覚を感じると今までドラゴンの全身を覆っていた障壁がガラス細工の様に砕け散り、今度こそ砲弾が直撃した。
「ギギギァァァァァャヤアアアアアアーーーっ!!!」
ドラゴンの苦悶の叫びが広場に響く。
障壁に阻まれ傷一つ付けることのできなかった鱗は一部欠けており、着弾部位は氷で覆われていた。
『光の処刑』による優先順位の変更。これは防御にも使えればこのように攻撃の補助としても役に立つ。
ドラゴンが何度魔法障壁を貼り直そうと此方が優先順位を変え続けている限り砲弾は障壁に勝る。
「(見た所、ドラゴンが障壁を貼り直すのに10秒の時間が掛かるみたいだね
『光の処刑』のお陰で障壁の方は問題ないけど、やっぱりあの鱗がやっかいだなぁ)」
ドラゴンの行動を監視しながら、ふと自身の右手に目線が行く。指先から肩にかけてまで包帯がグルグル巻きであり、所々血が滲み痛々しいがそれでも右手は力強く握り締められている。
「(まだ足りないか……もう少し時間がいる)」
逸る気持ちを抑えながら、砲弾に撃たれ続けるドラゴンに視線を戻すと、突如咆哮が上がる。
苦痛からくる咆哮ではない。最初に上げたものとは比べ物ににならないほどの爆音であり骨に響く程の殺意が込められている。
砲弾は浴びながらも雄叫びは止まらない。全身の半分が凍りついても長い雄叫びが続き、そして_______止まった。
次の瞬間、砲撃を続けていた『女王艦隊』が吹き飛ばされ大木の一本に激突した。
「な、何が起こったんだ!!」
あまりの衝撃に辺りには砂煙が立ち込める。自身の目を疑った。先程まで砲撃の嵐から逃れる事が出来なかったドラゴンが瞬間的に加速し『女王艦隊』を尾で薙ぎ払ったのだ。
船体には尾の型に削れ痕があり、左側面の大砲がいつくか使用出来なくなっている。
幸い『女王艦隊』には自己修復機能があるが、伊織の魔力に依存しているアーティファクトは修復まで時間が掛かる。
肝心なのはドラゴンだ。
瞳孔が開き野生的な眼力が圧力としてのしかかる。
そして何より異常なのが胸の辺りだ。鱗で覆われた表皮は熱を発し赤く発光しており、凍りついていた鱗を一気にその氷を溶かしている。
竜種には魔法障壁や強靭な鱗の他に『火炎袋』という炎を生み出す器官が存在する。
この器官は竜の種類によって変わってくるのだが『火炎』は竜種の中で最もスタンダードなタイプだ。
「なんて奴だ、あいつ火炎袋を燃焼させて自分の肉体を活性化させたんだ
ロケットのエンジンみたいに燃焼させて爆発的に加速したのか」
フシュゥゥとドラゴンの鼻から蒸気機関のように熱せられた息が発せられる。そして再び火炎袋が高温に熱せられると_____。
「まずい!!優先する___ぐあぁっ!!」
気付いた時には遅く、『光の処刑』で優先順位を変える前にドラゴンの角が激突し凄まじい衝撃が襲う。魔法服が無ければ腹に風穴が開く突進であり、内臓をやられたのか口から吐血し肋骨が何本か逝った。
あまりの力に抵抗する間も無く吹き飛ばされ、何処かの川原に勢いよく落ち水飛沫が上がる。
「ゴホッ!ゴホッ!ゔぇぇ……」
水っぽい咳を数回した後、口からボタボタと血が吐き川原を汚す。
『光の処刑』と『女王艦隊』、この二つかあれば簡単に勝てると思っていた。完全に油断していた。『対策』もしていた、『切り札』もあった、だがそれでも追い詰められた。
ここまで離されれば対策の意味もない。切り札もまだ時間が掛かる。
「まだ…まだ…勝負は……ここから……」
うつ伏せの体をゆっくりと持ち上げる。魔法服は水を吸収しないのか濡れていない。
髪からはポタポタと血と混ざった水が滴り落ちる。
再びドラゴンの咆哮が響き渡る。直ぐにも逃げようとするがダメージが抜けきらず反応が遅れぬかるんだ石に足を取られる。
その隙は大きく、高速で飛んでくるドラゴンから灼熱の炎が吐かれる。
「優先する。___炎を下位に、肉体を上位に!」
咄嗟に優先順位を変更して炎を防御する。周囲に広かった炎は川を蒸発させ辺りの石までも高温に熱せられる。もしまともに受けていれば僕の体は一瞬で炭化していただろうと冷や汗を流す。
だが、炎で視界が覆われたせいでドラゴンの動きが見えず、辺りに気を取られた隙にドラゴンの脚に蹴り飛ばされ一瞬意識が飛びかける。
砂利の地面に転がり、意識が明確になるとドラゴンが落下しながら巨大な足で踏みつぶそうと迫ってくる。
「くそっ!休む暇もない___ってしまった!!」
目前まで迫ってきた足を体を転がしてギリギリ回避できたが、魔法服の一部を踏まれその場から動けない。
この魔法服は左方のテッラの修道服と酷似している。あの服にはエリマキトカゲのような襟が付いている変わった服はなのだがドラゴンはその肩幅よりある襟を踏んでいる。
火炎袋が発光しブレスを吐く体制になる。
ブレスが来る分には別にいい、まだ優先順位は変更したままなのだから焼かれる事はないがブレスを吐いたまま近づかれ噛まれでもしたらお終いだ。
「(どうする、一旦魔法服を戻すか?
いやそんな時間はない、なら__!!)」
決断は早かった。魔法服を戻すにはパクティオーカードいるがそれを取り出す時間がない。ならばと気で強化した腕で長く邪魔臭い襟を引き千切った。
炎が吐かれるその瞬間に瞬動で跳びドラゴンの頭を真横から通過して奴の頭上を捉えた。
「おおりゃああっ!!」
体を一回転させ、勢いをつけた踵落としがドラゴンの頭部に炸裂し地面にめり込んだ。
普通なら頭が爆散するほどの一撃だが魔法障壁と鱗に阻まれ傷一つ付いていない。
「そうだ……いつも通りだ」
そう呟くと、地面に伏しているドラゴンに追撃をかけず、それどころか背を向けて跳んで行った。
思い上がっていた。強力な力を手にしたからと油断して、使いこなせてもいないのに相手を軽視する。その結果が今の自分だ。ボロボロに傷ついて血反吐を吐く、僕はいつからそんなに慢心していた。
思い返せばそうだ、今まで簡単な戦いなんて一度もなかった。今回もそうだ、いつものように立ち上がり足掻くだけ足掻いてみっともなく勝利を捥ぎ取る。
「(前にも言ったじゃないか、僕には万能の力はないと
何を『優先』させるべきなのかを
もう、手の平から零れ落ちないようにと)」
大木を蹴りながら空中を跳び続ける。出来るだけドラゴンとの距離を離して時間を稼ぎ『女王艦隊』の下まで向かう。
ドラゴンの咆哮と羽ばたきが聞こえてくる。一度空に羽ばたけば向こうは一瞬で追いついてくる。
「(そんなだから伊織を止められなかった
アキラを魔法使いの世界に巻き込んだ
祐奈を……救えなかった……)」
弾丸の様に飛んでくるドラゴンを視界に捉える、大木を蹴って直角に方向転換する事で回避する。
ドラゴンは大木に激突する前に翼を羽ばたかせ勢いを殺し、両足で大木を掴みブレスを吐く。
「(僕がここに来たのは伊織の言いつけだからじゃない
ただ自信が欲しかっただけなんだ)」
迫り来る炎を背に直進上にある枝を掴んで鉄棒の選手の様にグルンと勢い良く回転して斜め上に回避する。
「(伊織に少しは認めて貰えるんじゃないかと思ってた
大切な人を失わない為の力が欲しかった
_____祐奈を励ますだけの、僕が守ってやるって言ってあげられるだけの自信が欲しかったんだ)」
本当に情けないと自分でも思ってしまう。女の子一人を救う勇気すらないなんて男らしくない。
でも、諦める事なんて出来ない。勇気がないからと目を逸らしあの頃の日々を捨ててまで自身を押し殺し殻に閉じこもる事なんて出来はしない。
誰にも負けない力が欲しい。
もう負けたくない。失いたくない。
あの日々を取り戻したい。
ならば勝つんだ、勝って守り通すんだ。
そして、今を勝つには走るんだ、跳ぶんだ。
もっともっと早く駆け、遠く遠く跳び出すんだ。
広間は目の前だ。『女王艦隊』の修復はある程度完了している。
反撃は、これからだ。
ドラゴンの咆哮を背に、広間に滑り込んだ。
辺りには遮蔽物となる大木はなく、ドラゴンも猛スピードで突っ込んでくる。
今のドラゴンの最高速度は瞬動でしか躱せない。
地面を逃げ回っても炎で追い詰められる。ならば逃げる道は一つ。
襲いかかる両爪を回避するべく空へ跳ぶ。ただ真上に跳んだだけの動きにドラゴンも慣れたのか跳んだコース上にブレスを吐いた。
このままでは炎に突っ込む、あれを防御するには『光の処刑』しかないが瞬動の方が圧倒的に早く詠唱が間に合わない。
目の前には灼熱の炎、瞬動は途中でコースを変えられない。
炎が後数センチと迫ったその時____僕は、再び跳んだ。
「そいやあぁっーー!!」
掛け声と共に身体を捻り、空中で跳んだ僕は高速で地面に激突した。
「へぼぉぉーーー」
気で守ったとはいえそれでも顔面から地面に突っ込むのは痛い。鼻血が出ていないか確かめ、顔をスリスリと撫でているとドラゴンの尻尾が鞭の様に襲いかかる。
「よっと!」
それを難なく回避し再び空に跳ぶと、今度は空中で止まりそのまま静止した。
側から見れば空中に浮いている様に見えるがそれは違う。
辺りを見回せばその正体がすぐに解る。
この広間に漂う様に浮かぶ謎の白い塊。それが宇宙空間のデブリの様に漂いこの広間を覆っている。
「結構自信作なんだけど、解説するのが人外じゃ発表のやり甲斐がないよなぁ…
でも説明して進ぜよう、この空間に漂う白いのはなんと小麦粉なのだー!」
な、なんだってーー!!と脳内の観客が驚きを示す。でも肝心の目の前の観客は炎を吐き興味を示す素振りも無い。
「小麦粉のギロチンをバラして幾つも空中に浮かせる
それによって足場を作り、空中での瞬動を可能とした簡易的な虚空瞬動、その名も『小麦粉瞬動』!!」
フンスーと誇らし気に鼻息を荒立てる。
毎回空中でピンチになる事から夏休みの時から研究していたものだ。
広い空間で尚且つ小麦粉を周囲に配置する時間が必要であり、その間は注意力が散漫になりがちになるが一度展開出来ればこちらのもの。
これで攻撃、防御、回避の全て揃った。体力的にはこちらが不利だがようやく全ての準備が整った。
「さあ、最終ラウンドだっ!」
「ギギァァァァァァァアアアーーっっ!!!」
何度目かの咆哮、のしかかる威圧感も自身の闘志を再び奮い立たせる。
最後のゴングは鳴った。体力的にも全力で戦えるのはあと数分が限界、攻め切らなければ負ける。
気を全開に解放し、砲身の修復を終えた『女王艦隊』の砲撃がドラゴンに降り注ぐ。
「優先する。___魔法障壁を下位に、砲弾を上位に」
防御に使用していた術式を変更し、攻撃一辺倒に専念する。ドラゴンの魔法障壁は再生が早い。攻めて攻めて攻め切らねば勝機はない。
ドラゴンも空へと飛び立ち火炎袋を燃焼させ突っ込んでくる。
ドラゴンの最高速度は確かに早い、だがその動きは直線であり初速の段階でコースを予測出来れば回避するのは不可能じゃない。
伊織との訓練でも、早過ぎて目で追えない拳を捌くのにそうやって予測していた。
……まあ、殆ど失敗に終わったけど。
だが今はその経験が活きている。空中での縦横無尽の瞬動で奴も攻撃が当て辛くなっている。
その証拠に奴は点での攻撃の突進より、面での攻撃のブレスに切り替えた。
「(突進は回避し易くなったけど、ブレスのせいで近づけない)」
これにより僕を捉えやすくなったがその代わり相手はちょこまかと動かなくなった。それは砲撃が当てやすくなるという事であり徐々にだが砲弾が当たりだした。
空を飛ぶ生き物は繊細だ、少し体制を崩されれば地面に真っ逆さまだ。ドラゴンも数発だが襲いかかる砲撃に体制を崩されブレスも狙いが定まらない。
鬱陶しく思ったのか、ブレスを止め地面から砲撃を続けている『女王艦隊』へと視線を向けた。
狙いを変えたドラゴンは加速し、受ける砲弾を構わず突き進み船体へ激突した。
砲撃が撃てるまで修復をしたとはいえ船体の方はまだ完全に修復出来てはいない、トドメの一撃を食らった『女王艦隊』は今度こそ真っ二つに叩き割れた。
船体は修復不可能、砲身も激突した衝撃で砕け散り使い物にならない。
だが、この船は機能を停止した訳ではない。
真っ二つに割れた船体の後方部分、そこから錨が射出されドラゴンの胴体に諸に命中した。
突然の衝撃と錨の重さでドラゴンは地面に叩きつけたれ錨がのしかかって身動きが取れない。
馬力が足りないと思ったのか、火炎袋を燃焼させ錨を払い飛ばそうと鱗に覆われた皮膚が赤く発光する。
「逃すと思ったのか」
そんな仰向けになって倒れている胴体に僕は既に乗っていた。
立っているだけでも靴からゴムの焼ける嫌な臭いがするが、ようやく訪れたチャンスを逃しはしない。
だが、『女王艦隊』という矛はもう無い。『光の処刑』もドラゴンの魔法障壁を破壊するのに必要であり問題の鱗を突破する攻撃力が欠けている。
僕はおもむろに右腕の袖を捲った。所々血が滲んでおりとても痛々しくこの戦闘で悪化したのか包帯の半分ほどか血で赤黒く染まっている。
「この右腕が見えるかい?これはお前を倒すために寝る間を惜しんで気を貯め続けたんだ」
今は全身気で身体能力を上げているが、右腕だけは妙に気のオーラが濃い。これはエヴァンジェリンとの戦いで学んだのだが、気にも魔力にも密度がありそれが濃く圧縮されたもの程鋭く強固な技となる事。
そこで見よう見まねで密度を上げるべく一点に集中するしたが濃い気に耐えられず腕の皮膚が焼けてしまったのだ。
これはコントロールの甘さが原因なのだが、これが一朝一夕で出来るものではない。しかも圧縮する効率と制度が未熟過ぎて中々纏まらず半日かけてようやく『伊織の十分の一』までの密度に仕上がった。
「優先する。___魔法障壁を下位に、気を上位に」
術士を変更し、腕に貯めた気が待ちわびたとばかりに光り輝く。腕を振り上げ、渾身の力を込めた拳に気が集まる。
これは『遠当て』の発射段階だ。気弾を形成し球体に留める事で気という曖昧な概念に形を与えてそれを遠くまで飛ばす。それが『遠当て』の原理だ。
だが、伊織の使うものはそれとは違う。完全にコントロールされた濃厚な気を二重に圧縮し弾丸の様に高速で射出される伊織の得意技。
「______『気功弾』!!」
振り下ろした拳から圧縮した気弾が炸裂した。
皮膚の最も薄い火炎袋の上からの一撃であり内臓に最も近い位置からの攻撃にドラゴンの絶叫が響き渡る。
鼓膜が破けそうなどそんな事は頭になかった。ただ相手を殺す勢いで気弾を押し続ける。
「うおおおおおおおおおおおーーーっっっ!!!!!」
腕からバキバキと明らかに砕ける音が聴こえようと関係ない。鱗と気弾が拮抗する、全ての気を注ぎ込み気弾を押し続ける。
「いっけえーーっ!!!」
これが最後の一撃なのだ後にも先にもない、これが僕の全力全開。
鱗にヒビが入り全ての力が一点に集中したした瞬間、鱗は粉々に砕け散りドラゴンの胴体を貫いた。
「ギエエエエェェェェェェ____」
とてつもない威力に地面がどんどん沈んで行き辺りには盛大に地割れが起きている。空間が揺れ、広大な図書館全体が震えていた。
ドラゴンの長い咆哮が終わると共にもたげられた首か地面に倒れ伏せた。
「や……やった…か……」
ドラゴンが倒れ伏せ、動かなくなるのを確認すると、意識が遠くなり始めた。
今意識を保っていられるのは腕の激痛のせいであり、そこ痛みが無ければ今すぐにでも倒れてしましそうだ。
「…扉……扉に………」
朦朧とする意識の中、いう事を聞かない体を引きずりながら扉へと目指す。
ここには誰もいない、意識が飛べば間違いなく自分は死ぬだろう。
あの先に誰がいるかも分からない、もしかしたらないも無いかもしれない。でも、こんな所で死にたくなかった。
どうせ死ぬならせめて、伊織の課題を終わらせてから、そう自身に言い聞かせながら少しずつ少しずつと前に進んだ。
「(帰ったらまずは何しようかな……そうだな、先ずは和美達と相談して学園の脱出かな……それから祐奈の家にいって…………それから……………)」
あの戦いから数分は経っただろうか、体を引きずりながら前へ前へと進み続けてようやく扉までたどり着いた。
ただ帰ったらどうするか、祐奈になんて言うのか、そんな事を考えながら時間すら忘れて歩き続けての到着だ。
「……あー……どうしよ……この扉……重……」
扉は大人5人分ほどはある高さで巨人が出入りしているのかと思うほどの大きさだ、こんなもの気が使えるならまだしもこんなヘロヘロの僕では押しているだけで死んでしまう。
「…よい……しょ……よい…………しょ………」
それでも押し続けているの何故だろう。寄りかかるように壁にもたれ掛かり力が入らずとも只々押し続ける。
「(なんだか…眠くなってきた……なんか…このまま…ねたら……しにそう…)」
ゆっくりと目蓋が下がり、もたれ掛かっていた体がズリズリと下がっていく。
扉は1センチも動かせてはいない。それでも襲いかかる強烈な睡魔は勝てず意識は闇の中へと沈んでいく。
意識が沈む最中、何かゴゴゴと重いものが引きずられる音が耳に入り「フフフフ」と誰かの笑い声が聞こえた。
「おや、今日は随分と騒がしいお客様がお越しのようですね」
ドラゴン「これが儂の本気じゃ」
ドラゴンさんスゲー!!原作ではあまり触れられなかったドラゴンさんを強さを勝手に捏造してみました。いやあのクウネルおじさんが用意した手駒ですからね、きっとこれぐらい強い筈ですよ(震え声)
でもゴメンね、ドラゴンさん、私ゴッドイーター派なの。レンきゅんprpr(^ω^)
UQホルダーでも再び麻帆良学園が出てきて私もうワクワクが止まりません( ^p^ )
三太……お前は漢だったよ、それに比べて夏凛先輩は着実に噛ませキャラとかしている……このままでは神崎の姉ちんみたいに雑魚には強いけどボスキャラには瞬殺されるキャラになってまう……