あの夜の戦闘から二日経ち、その間僕は病院のベッドで療養して傷を癒していた。
あれだけの戦闘でたったの二日で退院とはやっぱり魔法使いの技術は凄まじいが、その間暇で仕方ない僕はあの時の戦いで覚醒した『光の処刑』について研究していた。
まぁ、実際には研究と言うほどたいしたことではない。やった事と言えばちゃんと使えるかと云うものだった。
あの極限の状況下であり、もしかしたら火事場の馬鹿力が発動して偶々使えたのではないかと心配したがどうやらそれは無い様だ。
紙とペンを用意し「ペンを下位に、紙を上位に」とした所、ペンは紙に刺さらず紙は皺一つない綺麗なものだった。
他にも「石を下位に、シャープペンを上位に」など色々試してみたが、どれも成功したことから僕は本当にこの力に覚醒した様だ。
何故今まで使えなかったのかは分からないが、この『光の処刑』を発動した時は妙な感覚になることがある。
どのような感覚かと問われると答え辛いが、何と言うか頭がクリアになると言ったら良いのか体の底から妙な高揚感が湧くと言ったら良いのか分からないが、兎に角良い気分になるのだ。
その間だけは体の怠さも解消され小麦粉の操作も出来るようになったが、医師にもこれらの関係は分からなかった。とりあえずは多くの問題の一つが解消したと落ち着くべきだろう。
それはさて置き、退院した僕が今何をしているかと言えば、敵の本拠地にお呼ばれしているのです。
僕が入院したその日に和美が近衛さんや和泉さん達を連れてお見舞いに来た時にアキラから聞いたのだがどうやらあの吸血鬼は僕を探しているようだ。
もしかしたら御礼参りかと思い、退院して直ぐ装備を整えてから相手の待つ待ち合わせ場所に赴くと、何故かアキラに先回りされていた。
「あ、アキラ!?なんでここにいるの?」
「縁が心配だったからだよ」
いやいや、心配なのはこっちだよ。
態々巻き込まない様に退院して直ぐに行ったのにこれでは意味がない。
「大丈夫、今度こそ足手まといにはならないから」
「いや、だからって……」
そうは言うが、アキラの手には木製のバットが握られており、何処から見つけて来たかは知らないが建設工事で見かけるヘルメットを被って武装しているが、魔法使いの前ではそんなもの意味はない。木製のバットなんて僕でも片手でへし折れる。
「お願い____」
そう言ってアキラは僕の手を両手で握り締める。
「お願いだから、もう一人で無茶しないで……」
アキラは涙で潤んでいた。あの時の惨劇を見て、心配になる気持ちも分からないでもない。
僕だって同じ状況に立たされれば同じことをしていただろうし、今日だってアキラを巻き込まない様に敵の本拠地に自ら向かったのだ。
「………わかった、でも危なくなったら迷わず逃げて
これだけは約束して、もし相手が何かして来たら、アキラは学園長か高畑先生を呼んで来て」
本当は連れて行くべきではないと思う。だがそれではアキラは納得せず、もっと危ない事に首を突っ込んで来る。
ならば、守り辛い何処かより自身の手の届く範囲にしてくれた方が助かる。
アキラもそれで了承してくれた様で「………うん、わかった」と頷いてくれた。すると、タイミングを測っていてくれた様で、待ち合わせ場所にいた人物が話しかけて来た。
「本日はお越し頂きありがとうございます
私は主の元で身の回りのお世話をしております絡繰 茶々丸と申します」
礼儀正しい口調で、教本にでも載っていそうな程完璧な角度でお辞儀をする女性は何処と無く機械的な感情が篭っていないように感じた。
いや、見た目が明らかに『人間ではない』と言ったらいいであろうか。
メイド服を身に纏った彼女だが、指の関節が明らかに人間の物ではなく、耳のヘッドホンに見える飾りもよく見れば耳に同化しており、彼女が人間ではなく機械でできたマシンドールでは無いかと思ってしまう。
「…どうも、三峰 縁です
吸血鬼からのご招待だって聞いたけど貴女が案内人で合ってますか?」
「はい、その通りです
ご心配なさらずとも私にはまだ戦闘技能のございませんのであなた方に危害を加える事はありません」
「吸血鬼とは交友的な関係ではないので全部は信じません
あの時と違って、貴女達が何かすれば直ぐに無力化する手段がこっちにはある事を忘れないで下さい」
「承知致しました、マスターにもそのようにお伝えします
それでは館までご案内致しますのでついて来て下さい」
此方の警告にも特に反応せず談々と答えた彼女に従い後について行く。
得体の知れない彼女を警戒しながらも駅を乗り継ぎ、山道を登りながら後を追うが相変わらずあの怠さのせいで速度が遅くなっている。
案内人の絡繰も此方に速度を合わせているが、アキラに心配をかけたくないので温存しておきたかった気を日常時と同じ様に使用することでどうにかついて行くことは出来た。
「随分山奥まで来たね」
「そうだね、怪しさ爆発だけど人目につき難いから逆にこっちもやり易いんだけどね」
もし向こうが荒事を起こし、僕らを処理しやすい様にこんな所を選んだとしたらそれは大きな間違いだ。
あの夜の時と違い、此方は完全武装でありこんな人の寄り付かない場所なら女王艦隊を撃ちたい放題だ。
彼女に案内されるまま進むと森の中にポツンと一軒のログハウスが建っており、高さも二階建てとなかなか立派な造りをしている。
「こちらが我が主の住居です、結界などは張られていないのでご心配無く」
「あ、やっぱりそう言うのもあるんだ」
アキラは物珍しそうにログハウスを眺めているがその両手には相変わらずバットが握られており彼女なりに警戒していることが分かる。
案内人の絡繰は罠はないと言ったが、僕自身魔法の知識に疎いので見ただけでは信用ならない。警戒することに越したことは無い。いつでもパクティオーカードを抜ける様にして僕らは足を踏み入れた。
吸血鬼の屋と言うのだからきっと薄暗くてジメジメしていて悪趣味な置物が飾ってあるのかと思えば、棚には埃一つなく花瓶には花まで添えられ誰の趣味なのか可愛らしい縫いぐるみや人形が飾られていた。思ったよりも家の中は綺麗に装飾されており、アキラもキョロキョロと辺りを見回りしている。
「良くぞ来たな、歓迎するぞ」
突如、聞き覚えのある妖艶な声が部屋中に反響しどの位置から聞こえるのかと辺りを探すが声の主は視界に入るところには見当たらない。
「態々此方の話に乗ってノコノコとついてくるとは、大方来なければ自分の身内に危害が加わるかもしれないなどと深読みしたのだろうが、そうならば賢い選択とは言えないな」
尚も声は響き続け、アキラを守る為に僕の背中に隠し匂いで位置を探るがここは相手の住居、匂いはそこら中からするため探りづらい。
「おまけに一般人を連れ込むとは、余裕の表れなのか単なる馬鹿か……」
先に巻き込んだのはそっちだろうと言おうとしたが、その前にギィィと何かが軋む音が耳に入りそちらに振り向く。
いた。二階の柵に腰掛け、鋭くギラつく双眸で高みから此方を眺めていた。
「だが、そんな阿呆に負けたのも事実
歓迎しよう三峰 縁、ようこそ我が館へ」
あの時と同じく外見は西洋人形の様に美しく十代前半かそれ以下の年齢の少女とは思えない程の妖艶な色香を漂わせ、三日月の様に口元を釣り上げた妖しげな笑みを浮かべており、彼女の存在だけで重圧がのしかかる。
相変わらずの存在感だが、あの夜と違うのは彼女の口から吸血鬼特有の長い牙が見え隠れしていないことだろうか。
「……どうもお久しぶり吸血鬼さん、朝は棺の中でお眠かと思ったけど元気そうだね」
「ふんっ、私をそこらの吸血鬼と一緒にするな
我は『闇の福音』と名を馳せた悪の魔法使いであり『真祖の吸血鬼』、宵闇の帳が無くともこの身は不滅
太陽の光などどうという事はない」
互いになんとも言えないピリピリとした雰囲気を出している性なのか、この場にいる誰もが動かない。アキラは勿論のこと従者の絡繰 茶々丸もだ。
それもそうだろう。僕らはつい数日前に争いあった間柄、彼方はどうなのか分からないがこっちは命を賭して戦ったのだ、友好的なな態度は取りづらい。
「…ね、ねぇ縁…その……」
「い、いや、何も言わないでアキラ、せっかくの緊張感が解けちゃう……」
だが、そんな緊張した空気とは裏腹にアキラはオロオロと動揺している。これが恐怖からくる動揺ならそれは正しい反応なのだが、彼女の言わんとすることが分かる僕にとってもなんとも言い難い。
せっかく向こうがあの日の様な凄みを利かせているのに僕らは何とも言えない気まずさに包まれていた。
「(あの位置からだとパンツが見えてるんですけど……)」
そう相手の下着が丸見えなのだ。しかも大人びた黒のセクシーな下着だ。
コスプレなのか麻帆良では見かけない黒を基準とした改造制服を着ており、ミニスカートのせいか見上げるこちらからは彼女の下着が丸分かりなのだ。
「(き、気まずい……でもついこの間敵対関係だった相手に『下着見えてますよ』なんて指摘はし辛い……)」
いや、そもそも男子の僕が指摘したら確実にセクハラだろう。
かと言ってアキラに言って貰うにしても向こうも僕と同じ心境みたいだし何とも……
それに僕も『チャック開いてますよ』なんて言われたら恥ずかしさのあまり死んじゃう。しかもそれっぽい雰囲気で格好つけた台詞を言った後なんて恥ずかし過ぎてそのまま死滅しちゃう。
「(お、おちおちおちおちちちゅけ!
ここは素数を数えて……って数えとる場合かーーっ!!
とりあえず紳士として気づかないフリをするべきか……)」
動揺する気を静めて、落ち着きを取り戻す。
だからなのだろうが、敵地に乗り込むという緊張した状況の中で強張っていた心身をようやくリラックスさせたからなのだろうか。僕の中で何かがハジけた。
それは閃きと言ったら良いのだろうか。エジソンの発明の様にベートーベンの名曲の様に頭の中の何かが化学反応を起こし爆発した。
脳裏に過るのはあの夜の吸血鬼の姿。闇夜に溶ける様な黒いマントで全身を覆っていたが、その下は下着と言っても差し支えない様な薄着姿だった。そして吸血鬼は満月の晩に少女の生き血を啜る。
それらから導き出せる答えは一つつまり彼女は____
「(自分の痴態を見せびらかして喜ぶ変態さんだったのだぁーーっ!!)」
な、なんだってぇーーーっっ!!
いや、考えても見てほしい。こんな露出狂みたいな格好で夜な夜な女の子の血をチュウチュウしてるんだよ?もうそれ変態さんじゃん。伊織と同等かそれ以上かもしれない。
そう思うとこの歳で伊織の様な境地の高度な変態に進化(退化?)したこの娘が可哀想に思うが好きでこんな事やっているよだからやっぱり何とも言えない。
具体的にはあの朝伊織が女子高生を連れてきた時のような侮蔑の視線を向けてしまう。『この雌豚がぁ!』的な。
「そう敵意を向けるな、あの戦いは完全にお前の勝利だ
異議申し開きはなく間違いなく私はあの場で全力だった、全身全霊を賭けて挑み正面から敗北した
あの聖戦を汚そうなどと愚かな行動はとらないさ」
向こうは戦意は無いことを告げ、あの戦いを何処か誇らしそうに語るが変態認定してしまった僕からはどうしても深い意味に聞こえてしまう。
「えぇと、それならどうして僕は呼ばれたの?」
「その前に一つ質問だ、なぜその子娘を連れてきた
これからする話は『我々の世界』の話だ、巻き込んだ私が言えた義理ではないが分かっていてそいつを連れてきたのか?」
『我々の世界』と聞いて僕に『変態世界』の話をされても困ると思ったがどうもニュアンス的て『魔法使いの世界』の話のようだ。
どう説明しようかと思考を巡らせていると、アキラは僕の前に躍り出てエヴァンジェリンを見上げた。
「縁から聞きました、この『麻帆良学園』や『魔法使い』の事
記憶を消そうと思えば出来ました、でも私はそれを望まなかった
目を閉じて耳を塞げば日常に戻れるけど、それは友達を見捨てる事になる
だから真実が知りたい!もう友達を危険な目に合わせたくないから!無知でいたくないから!」
「………」
吸血鬼エヴァンジェリンは何も言わなかった。ただその恐ろしい剣幕でアキラを睨み、無言の圧力を与えるがアキラも引きはしない。脂汗をかき、表情も強張るが決して下がらない。
その決死さに折れたのか、彼女は「ふんっ」と顔を背け僕の方に向き直った。
「まぁいいさ、私がお前を呼んだのは三峰 伊織の事を聞くためさ」
「伊織の事を知ってるの!!?」
思わぬところで『伊織』の名前が出たのでつい聞き返してしまったが、エヴァンジェリンは柵から飛び降りて猫の様にふんわりと着地した。
「まぁ座れ互いに聞きたいこともあるだろうからな」
絡繰さんが紅茶をそれぞれの席に注ぎに行き、全員に飲み物が行き渡ってからエヴァンジェリンは話し始めた。
「ふむ、お前には三峰 伊織の所在を聞きたかったのだがその様子だとそちらも探しているようだな」
その見た目通りに優雅に紅茶を飲むのかと思えば、椅子の背もたれに肘をかけて何の風情もなくグイグイと紅茶を飲み干した。
直ぐに絡繰さんが紅茶を注ぎ足すが今度は手を付けず、「飲まないのか?」と僕らのカップに視線を送る。
毒を気にしていた訳ではないが彼女見た目とのギャップに唖然としていたので忘れていた。
「伊織とはどういう関係?」
「なに、昔旅をしていた時に道が一緒になっただけだ
あいつらが歩いていた道が偶々次の行き先と同じだった、ただそれだけだ」
つまり一緒に旅をした仲と、本人は遠回しにそう言いたいそうだ。
しかし伊織が旅をしていたとは初めて知った。元々自分の話をしない伊織だがまさか夕子さんや高畑先生以外から聞けるとは思わなかった。
「デタラメな力を使う奴だった。自身の倍近くあるメイスを振り回し、莫大な気と魔力をドカスカ撃ってくる様なハチャメチャな女だったよ
確かあの時はまだ十代だったか?あの歳であれ程なのだから流石は化け物集団の一員と言ったところだな」
「(え?十代?伊織の年齢は聞いてないけど見た目が二十代後半だったから十年前?
いやいや、だったらこの子何歳なの?もしかして合法ロリ?
そういえば『とある魔術の禁書目録』の世界にもいっぱいいるからこの子もなのかな?もしかして三十代?)」
今物凄くこの子の年齢が気になったけど今は止めておこう、重要な事じゃない。
エヴァンジェリンに伊織の事で幾つか質問すれば返ってくる答えもあったが彼女自身の伊織とは数年程度付き合いで度々会ったがそんなに親しくはなかったと本人は言っている。
やはり身の上話は余りしないのか得られる情報は少なかったがそれでも伊織の事を知る事が出来て胸の中がポカポカする。
「奴の話はもういいだろう、私が言える事は奴は強かったそれだけだ
奴の居場所が分からないならいいさ、殺しても死ぬ様な奴ではない心配するだけ無駄だ
別の話をしようじゃないか」
あれだけ話を聞いておいて向こうの要件には答えられないので若干心苦しくはあったが、どうやらこれだけが目的ではないらしい。
もう温くなった紅茶を飲み干す。アキラは黙って僕達の話を聞いているだけでエヴァンジェリンも特に気にせず話し続けていた。
「どうだ?私の弟子になってみる気はないか?お前ほどの面白い素養を持っている奴なら育ててやるのも吝かではないぞ」
「あ、すいませんお断りします」
全く間をおかずにズバッと断った事が予想外だったのだろうエヴァンジェリンはズルッと椅子から落ちた。
「な、なぜだ!と言うよりなぜ即答なんだ!!
確かにお前には負けだが私の魔法技術は凡百の魔法使いなんぞとは比べるまでもない
三峰 伊織よりも勝っていると自負している」
「いや、そこは疑ってないよ?」
それは本当だ、戦ったからこそ解るがエヴァンジェリンの魔法技術は麻帆良の魔法先生達なんかとは比べ物にならない事くらいは解る。
僕自身、魔法が苦手なのでそういった師に教えを請う事は必要だと思うが残念ながら僕の師は伊織だけなのだ。
「まだ、師匠からの宿題が残ってるからね
他所の師匠に目移りしてたら伊織に怒られちゃうよ」
「三峰 伊織からの宿題?何だそれは、私の誘いを断るだけの壮大な理由なんだろうな?」
確かに変態の弟子になんてなりたくないと言うのもあるがこれだけは譲れない。
まだ未熟な僕だが、あれから成長もしたし新しい力にも目覚めた。今ならあの時の様にはならない。今こそあの夏の宿題をクリアする時。
「ドラゴン退治だよ」
「よろしかったのですか?」
「師弟の件か?構わん、どうせただの気紛れだ、そんなに拘ってはいない」
縁達が帰ったあと、エヴァンジェリンは茶々丸の注ぎ直した紅茶を飲みながら先ほどのことを考えていた。
自分が弟子を取るなど六百年生きていて考えもしなかった事だが、一応理由があった。
確かに縁の素養は面白く、このまま鍛えていけば何処まで成長するか興味があるがそれは彼女が鍛えなくてもいい事だ。
ならば何故あんな事を言ったかと言うと、あの夜の一件以来、彼女は学園長に釘を刺されたのだ。
封印のせいで一般生徒と変わらない程に退化した彼女が魔力を集めるには血が必要だった。自由の為にコツコツと魔力を掻き集め復活の足掛かりにするつもりだったが最近は動きが活発的過ぎたのもあって魔法先生たちからも警戒が強まっている。いくら真祖の吸血鬼と言えども今は一般生徒と変わりなく魔法先生達と戦闘になったらひとたまりもない、暫くは動けず魔力を集める方法を模索していた時に丁度縁がやってきた。
魔法使いの卵と言えど、一般生徒からチビチビと集めるよりも万倍速い。秘密裏に弟子を取るなら奴も分かるまいと思ったがあっさり断られてしまった。
「(時間だけは腐るほどあるからな、ほとぼりが冷めたらまた集めるさ
それよりも良い情報も聞けたしな)」
縁から聞いた図書館島のドラゴン。彼女も暇つぶし程度に図書館島には行ったことはあるが縁の言う最下層には行ったことがなかった。
ドラゴンなど魔法世界にしか存在しない。だが縁は目撃している。更にあの三峰 伊織はその奥に何かがあると言っているのだ、これが気にならないわけがないであろう。
「あの狸爺ィめ今度は何を隠している
あの地下が広大なのは知っていたがそんなものが住み着いているとは初耳だ」
吸血鬼は喉を鳴らした。この暇な学園生活も少しは楽しくなりそうだと悪い笑みを浮かべていると茶々丸が肩を揺らした。
どうやら思考に耽っていた様で気づかなかった。
振り向くといつものように茶々丸が佇んでいたが何故か隣には大河内 アキラがいた。
縁といた時のようにバットもヘルメットも装備しておらず手ぶらでエヴァンジェリンの前に一人で現れた。
何の用だと訝しげに眉をひそめると、アキラは思いっきり頭を下げた。
「お願いします!私を弟子にして下さい!!」
一人の少女が誰も居ない廊下を歩いていた。
月明かりに照らされた夜の学校は例え大人でも恐怖を覚えるものだが少女はそんな事に興味はなく耳には携帯電話を当てて誰かと会話をしていた。
「手引ご苦労、本当に誰も居ないな
これでは幽霊が出そうでトイレにも行けないな」
《_____________》
「俺様がこの程度で玉縮めるかよ、逆に校舎を消し飛ばさないか心配でお前の方が縮んでんじゃないのか?」
少女は誰かと通話しているが会話で言うようにこの暗闇に怯えている素振りは見せない。寧ろ彼女の冗談を聴いて電話の相手が狼狽えている。
《_____________》
「わかってるよ、今はそんな目立つ事はしないさあと四年くらい待てる」
月の光に照らされ赤い瞳は妖しく光、少女の赤髪が風に揺れた。
赤髪の少女フィアンマは麻帆良学園初等部の校舎におり、彼女の年齢ならここに来る事に違和感はないだろうが今は誰も居ない夜だ。
静まり返る校舎で電話をしていれば声は響く、なのに警備員である魔法先生や魔法生徒もこない。この校舎には彼女だけが存在している。
「三峰 伊織が消えて動きやすくなったとはいえまだ時期ではないか
奴は俺様が消し飛ばしてやるつもりだったが上手く雲隠れされては『聖なる右』も使えん、不完全燃焼だ」
《____________》
「わかっている、近衛の老いぼれも『悠々の風』の高畑も簡単ではない
何より力加減を間違えたら後が面倒だ」
フィアンマは心底面倒くさそうに返事をする。
《_________________》
「アルビレオ・イマにエヴァンジェリン・A・K・マクダウェル?
そこは気にする必要はないだろう、封印された身でこっちには手が出せない
アルビレオ・イマはどうか分からんが俺様とお前なら簡単だろ?ヴェント」
電話の相手『ヴェント』はその問いには答えず無言の返事を返した。
ヴェントにとってその答えは直接相対しなければ分からない、それ程までにその二人は脅威的な対象らしい。
《_______》
「ん?これのことか?」
話題を変えたのかフィアンマはヴェントに問われた右手の物を持ち上げた。
彼女の手には一冊の分厚い本を持ち歩いており、重そうにしている素振りを見せないがそれを聞かれて愉快そうに笑みを浮かべる。
「なに、余興だよ
流石にこの四年間ただ待っているだけでは退屈でね、何か遊戯が無ければつまらなくて仕方ない」
《__________》
「自分で読んでもつまらんさ、こんなものは一週間もあれば覚えられる
どちらかと言うと観測する為に使うのさ、これは」
そう言うとおもむろに教室の扉を開けた。
表札には3年D組と描かれており、縁やアキラ達と同じ教室だ。
無論フィアンマの教室ではないし、そもそも彼女がこの学園に通っているかも定かではない。
《__________!!》
「物語を引っ掻き回すのは俺たちの特権、三峰 伊織も三峰 縁も中途半端ではあるがこの世界に確実に干渉している
ならば、波打つ水面に大岩を投げ入れようと今更同じだろ?」
そう言うと、彼女は手元にある分厚い本を机の引き出しに仕舞った。
電話からはヴェントの声が聞こえているがフィアンマは全く気にしていない。それすらも崩壊へのBGMとして聞き入れ彼女は机を撫でた。
少女なのに艶めかしく、そして妖艶な笑みを浮かべて美しく笑う。
「さて、久方ぶりの楽しい楽しいショータイムだ」
ネギま!でパンチラは日常、寧ろパンモロが普通。パンツが見えてない巻なんてあるのかと問いたくなるくらいパンツ祭り。最早終盤になるとパンツは背景の一途と化してしまうから不思議。
だからゆかりん、これが普通なんだよ。そもそもこの作品が健全過ぎたのかも(笑)
今なんてどの漫画でも平気で服が消し飛ぶ時代だから『ネギま!』は健全な方ですよ(錯乱)
次回はようやく広げた風呂敷を畳めそうです、伊織の宿題なんて皆さん忘れてしまってますよね?
そしてようやく出てきたヴェント、私的には最後のオリキャラにするつもりなので彼らがどう動くかで原作開始時がカオスになっていきます。