小麦粉使いの魔法使い   作:蛙顏の何か

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移り変わる彼女の日常

落ちている。長い長い螺旋階段の中心、何もない空洞の虚空から僕は落ちている。

綿毛が宙に浮かぶ様に、シャボン玉が地面に落ちていく様に、ゆっくりと僕の身体は落ちていっている。

 

 

ここはどこ?なんでこんな所に?

 

 

塔の中の様に長い螺旋階段から落ちる中、僕の体は忙しなく回り続ける歯車の隙間を丁度よく通り抜けながら落ちている。窓から外を眺めれば一面海面が続けており、この建物が海に浮かぶ灯台にも思えたが歯車の音が妙に耳につき、ここが時計塔ではないのかと自然に思ってしまった。

 

 

なんで僕は落ちてるの?僕は何をしてたんだっけ?

 

 

何かを思い出そうにも頭は寝ぼけているかの様に思考が鈍り、ゆっくりとはいえ落ちているにも関わらず、僕は落下に身を任せていた。

 

 

 

______汝、何を望む______

 

 

 

謎の声が塔全体に響き渡り、男か女かも分からない、子供か老人かも分からない、人間が非人間かも分からないがそれらが合わさったとても透き通った声が僕の耳に届いた。

 

 

何を望む。僕は何を望んでいるのだろう。

 

「……………………………」

 

落ち続ける僕の口が動いた。そして確実に何かを発した。

 

それでも、僕は何と言ったか覚えていない。

 

その言葉はとても遠く、僕から発している筈なのに聴き取りにくい。

 

 

僕は何と言ったのか。僕は何を望んでいたのか。

 

僕自身の望みの筈なのに、僕はなぜ思い出せないのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぅん………ここは………」

 

目を覚ませば、そこは満点の星空とアキラの顔を下から見上げていた。

 

「縁!やっと起きたんだね!心配したんだよ!」

 

目を覚ました僕にアキラは瞳を涙を浮かべながら僕を抱き起こした。

 

どうやらあの戦いの後、僕は気絶してしまったらしい。

だが、それも仕方ないだろう。最後、あの吸血鬼を捉えた瞬間に全ての気を注ぎ込んで殴り飛ばしたのだ。燃料切れになって倒れてしまっても仕方ないだろう。

 

「大丈夫、骨は折れてないよ……それより吸血鬼は?」

 

「あの場に置いてきた

とりあえず起きる様子はなかったけど、いつ起き上がるか分からないからこの離れた丘まで逃げてきたんだ」

 

となると、ここまでアキラが運んでくれたようだ。

前から思っていたけどアキラってやっぱり力持ちだよね………まぁ、本人が嫌がるから口にしないけど。

 

とりあえず、いつまでも倒れている訳にもいかないので体に力を入れるが体には全く力が入らず、それどころが全身に激痛が走り起き上がれない状況にあった。

 

「うぅ〜……全身が痛い……」

 

「まったく、無茶はいけないよ」

 

抱き起こした体をゆっくりと地面に下ろし、頭は固い地面に下ろさずにそのままアキラの膝に導かれる。

 

「にょぉっ!!?」

 

ま、まさか、これは伝説の膝枕!?一生体験出来ないであろうと思っていた都市伝説を体験し、今の僕は二重の意味で涙目になっていた。

 

「(柔らかくて良い匂いだけど、どこかしっかりとした乗せ心地……水泳のお陰で筋肉が若干ついているからかな?)」

 

「で、説明してもらえるよね縁」

 

「ほぇ?なにをぉ?」

 

「さっきの出来事全部かな」

 

柔らかな寝心地にウトウトしていたが、アキラのその一言に一瞬で目が覚めた。

そういえばそうだった、アキラにはあの戦いを見られていたんだった。

 

緊急事態とはいえ今思い出してみればかなりヤバイ気がする。

お互いにあり得ない程の速度で戦ってたし、僕は『遠当て』を使って、吸血鬼に限っては魔法をバンバン使ってた。

言い逃れなんて出来るわけがない。

 

「えぇっと〜その〜……言わなきゃいけないよね」

 

「そうだね、なるべくなら縁の口から聞きたいかな」

 

やっぱりそうか……。僕が記憶消去の魔法を使えたらいいのだが、魔法が苦手な僕にはそんなこと出来るわけがない。

 

「今回の事が私だけの問題ならそれでいいけど、この件には縁も関わってる

大切な友達がこんなわけのわからない事に関係してるなら、私は何が何でも首を突っ込んで真相を確かめる」

 

アキラのそんな強い想いを受け、体が動かせず目を反らせない僕は彼女の強い意思の宿る瞳を見続けるしかなかった。

 

でも僕は、アキラには平穏に生きて欲しいと思っている。

確かにこんな事に巻き込まれて、事情を知りたいだろうけど、彼女の事が大切だからこそ踏み止まってしまう。

 

「それにほら、京都旅行の罰ゲームでもあるから言い逃れはできないよ」

 

「えぇっ!!それ今ここで持ってくるの!!」

 

「ん?だって、何でもするって言ってたじゃないか」

 

いやいや、それは一方的に和美が結んだ約束だよ!?

そう心の中で思っても、アキラは是が非でも僕から言わせたいようだ。

 

普段推しの弱い彼女がここまでくると、これは梃子でも彼女の意思は動かない。

もしこのまま僕が黙ってしまえば、アキラは和美にもこの事を知らせて二人で調べてしまうかもしれない。

 

流石にそれは不味い。彼女もペラペラ言いふらさないだろうが、これ以上魔法を知ってしまうことは彼女達の危険にも繋がりかねない。

ここは最小限に抑えるしかない。

 

「……わかったよ、でも、誰にも言っちゃダメだよ

当然、和美にも」

 

「うん、わかった

和美には悪いけど、縁が正直に言ってくるなら、わざわざ和美を巻き込む必要はないからね」

 

アキラも納得してくれたようだ。でもあの戦闘目撃した後なんだ、これがどれだけ危険な事か彼女もわかっているだろう。

 

さて、とりあえずどこから説明しようか。

 

考えをまとめながら、とりあえず説明しなくてはいけないことだけを話せばいいと思い、僕はこの平穏な日常に潜む真実を彼女に話した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数台の電子機器が忙しなく稼働し、大量の熱を放出している中で、超 鈴音は額に汗を浮かべ目の前のモニターに釘付けだった。

 

別に暑い訳ではない。機材がオーバーヒートしない様に、部屋は冷房を効かせている。

ならば何故彼女は汗を浮かべているのかはモニターの画面にその答えがある。

 

モニターには先程縁が激闘を繰り広げていた桜通りが映されており、今は地面に倒れ伏せるエヴァンジェリンが黄緑色の髪の少女に介抱されていた。

 

「まさか、弱体化したとはいえエヴァンジェリンさんを倒すとは思わなかったネ……」

 

エヴァンジェリンは正真正銘本物吸血鬼であり悠久の時を生きる歴戦の魔法使いだということは超も知っている。

確かに彼女は自身の魔力を殆ど奪われている。

『無敵』ではなくなってしまったのだから大幅に弱体化するがそれでも彼女が強者の位にいることは変わりはない。

現に彼女は体術だけで縁を圧倒していた。全てにおいて上を行く彼女の勝利は確定的であり画面越しから見ていた超もそう思っていた。

だが縁はその盤上をひっくり返してエヴァンジェリンから勝利をもぎ取った、これが驚かずにはいられないだろう。

 

 

「当たり前だ、あの程度の相手など、本来のあいつの実力ならば造作も無いだろうよ」

 

その時、超の後ろから声が響いてきた。

超は咄嗟に振り向くと、部屋の扉が爆発した様に開かれ、機械の残骸と共に研究員が放り込まれた。

 

奥の方を覗けば、この研究員だけでなく他の研究員達もそこらに倒れ伏せており、この様子だと全滅した可能性もあると超の脳裏には考えられた。

 

「ドアが脆いせいでノックしただけで砕けちまったな、いや、俺様の気にすることではないか

入っただけで襲いかかる無謀なお前達が悪い」

 

この惨劇を作り出した張本人は何も悪びれた様子もなく、残骸を踏みにじりながら歩み寄ってくる。

 

 

ミディアムショートの赤い髪は風に揺れてサラサラと流れ、気の強そうな瞳は宝石のルビーの様に深紅に輝いている。

外見は縁や超とはあまり年齢の変わらない少女であるが同年代とは思えない程の色香と圧倒される程の覇気を目に見えてわかり、赤を基準としたシックなブラウスやスカートがそれを際立たせる。

 

少女が一歩踏み出す毎に見えない威圧感に身体が押し潰されそうになる。

肉食動物のような瞳に睨まれ身体に若干の震えが走る。

 

 

 

「お初にお目に掛かる超 鈴音

夜分遅くに失礼するが、俺様が態々遠くから出向いてやったんだ、茶の一つも出すのが礼儀ってヤツじゃないのか?」

 

「それは失礼したネ、まさかこんな夜中に人が訪ねてくるとは思わなかったからお茶菓子も切らしてるヨ

でも、初対面の相手に名乗りもせずにそんな事を言って来るのは些か失礼ではないかネ?」

 

お互いに牽制し合い、互いの出方を観察している。

相手を見下す様な威圧的な態度をとり、不敵な笑みを浮かべているが、超の方は汗が額から滴り落ち、内心ではかなり困惑しておりポーカーフェイスを作るのに必死だった。

 

「ほお、俺様の名を聞くか

だがそうだな、ここはあえて『フィアンマ』と名乗っておこうかな」

 

フィアンマと名乗った少女に超はやはり心当たりがなく、彼女の頭の中は更に困惑していた。

超 鈴音は天才だ。それもこの時代にはないオーバーテクノロジーを再現出来る程の頭脳であり、一度出会えば忘れる事など当然ない。

超の頭の中にはこの少女の事は一切記憶していない、『遠い未来を知る』彼女でもだ。それなのに彼女は超の事を知っている。

 

超は天才だが表ではその才覚を見せてはいない、精々テストの点数で毎回満点を取っているくらいだ。

裏では工学部を掌握し、来るべき日の為の準備を進めているのだが、それは麻帆良の魔法先生達にも気づかれてはいない。

 

なのに何故この少女は知っているのか。超は嫌な汗が滲み始めた。

もし自分の事を知っているのならタダでは帰せない、いや、そもそもこの工学部を見たからには帰せる訳がない。

 

超はポケットにある携帯端末に触れた。これがあれば工学部にある全警備システムを作動出来る。

超が呼び出すだけでこの部屋は警備ロボに埋め尽くされるだろう。

 

「スマートフォンか、この時代はどれも携帯電話だからな、こいつは珍しい」

 

「っ!!?」

 

超が後ろを振り向くと、そこには先程まで目の前にいた筈のフィアンマが居り、しかもポケットの中に入っていた携帯端末をその手に持ち眺めていた。

 

「(い、いつの間に後ろに…

瞬動とは違う、予備動作もなければ移動した痕跡すらない

ならば縮地か?こんな子供が?あり得ない、そんな天才がいると言うのならば、私は天才でも何でもなく凡人に落ちているだろう)」

 

見たところ、フィアンマは何の武装もしておらず杖や指輪のような魔法媒体すら見当たらない。もしかしたら気を使っているのかも知れないが目に見えて放出してない事からその可能性も低くそうだ。

 

そんな超の事など気にも止めず、フィアンマは携帯端末を眺め弄り回していた。

 

「……………なにが目的ネ」

 

この少女は明らかに危険だ。奥の研究員や警備ロボを粉砕した時点でそれは明らかだ。

だが何故こんな事を?天才である超にもこの少女の目的は皆目検討もつかない。

 

「目的?そうだな……」

 

右手に持っていた携帯端末を握り潰し、粉々になった鉄屑が零れ落ちる。

気を纏った様子もなく、腕力だけで破壊したようだかどう見ても彼女の細腕でそんな事が出来るわけがない。

 

 

「____同盟だよ」

 

そう言った彼女の表情は明らかに手を取り合おうなどとは思っていないと分かる程に恐ろしい笑みを浮かべていた。

 

幼いながらも感じ取れる覇気。自身が絶対の支配者だと言わんばかりの傍若無人な態度。

 

同盟?侵略の間違えではないのか?

そう思ってしまう程に彼女からは信頼性がない。

 

しかし、超には首を縦に振ることも、安易に横に振ることも出来ない。

超には身を守る術がない。ここに来たフィアンマが研究員のロボを破壊し、応援を呼ぶ端末も破壊された。

奥の手は残っているが、こんな所で使っていいようなモノではない上にあれは諸刃の剣だ。こんな所で倒れるわけにはいかない彼女にはフィアンマの同盟とやらを断ることは出来ない。

 

「協力してもらうぞ火星人

我が野望の為、俺様の描く未来の為に、この『神の右席』に協力してもらうぞ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、全身に大怪我を負った縁はやっぱり入院することになった。

魔法使いの先生だから直ぐに完治すると言っていたが心配なものは心配だ。

 

しかし、お見舞いに行きたくても私には月曜日という逃れられない敵に直面した。なので登校せざるをえない私は神楽坂と一緒に通学路を歩いていた。

 

やはり学園内の寮から登校しているので学校までの道のりは短く直ぐに到着してしまう。

元々あまり喋らない私と無表情の神楽坂では喋る事などは無く、お互いに違うクラスなので直ぐに分かれてしまった。

 

縁が休みと云うことで、和美に色々と問い詰められてしまったが真実を話す訳にもいかないのでとりあえず『階段から落ちた』と説明した。

 

今は近衛達を交えて放課後にお見舞いに行こうと話し合い盛り上がっているが、私はとてもじゃないがそんな気分にはなれない。

昨日のあの光景を目の当たりにしてしまっては特にだ。

 

昨晩、縁に教えてもらった事は私の日常を一変させるものだった。

世界には多くの魔法使い達が私達一般人に紛れて暮らしており、友人の縁は魔法使いの卵であると言う。

しかもこの麻帆良学園はその魔法使い達が築き上げた場所であり、和美が噂している『怪しい事件』の殆どが事実であり、私達の知らない所で魔法は日常的に使われている。

 

こんな事を突然受け入れる事が出来る程、私は頭が良くないが現実は非常だ。

多くの情報でパンクしてしまいそうな私だが、この情報で一番大切な事は何かと問われれば『縁が魔法使い』だと云うことだ。

 

縁はこの事件を忘れて平穏に暮らして欲しいと願っているがそんな事は私だって思っている。

だがそれは『縁も一緒に平穏になってくれなくては意味がない』。

 

自分だけのうのうと生きていることなど私はできない。

縁だけ傷ついて、私だけ傍観しているなんてもうしたくない。

 

「(だけど、私には何が出来るだ

縁に守られて何も出来なかった私が………)」

 

考えても分からない。こんな事態は子供の考える領分を超えている。

まして魔法なんて、朝のテレビアニメぐらいしか知らない私にこの問題を解決する術はなかった。

 

「ノックしてもしもぉーし!アキラくんちみ聞いてるかね?」

 

「え?ご、ごめん和美聞いてなかった、なに?」

 

「いや、廊下にアキラを呼んで欲しいって人がいるんだけどあれ知り合い?

背丈的に中学生くらいでコスプレイヤーみたいだけど」

 

「へ?」

 

和美の言った通り廊下に視線を送れば、そこには和美の言うように中高生程の背丈の女性が廊下に居た。

髪は黄緑で耳には機械のヘッドホンのようなものが装着されており、何故かメイド服を着ているせいで妙に目立つ。

 

しかも初等部にいるという場違い感が合間ってクラスの皆が注目していた。

 

私を待っている様だが、生憎そんな知り合いはいない。

しかし、無表情で微動だにしない女性が私にずっと視線を向け続けているのはとても居心地が悪い。

 

とりあえず、この空気をどうにかしなければとその女性の元まで駆け寄った。

 

「えぇと…私に何が御用ですか?」

 

「はい、そうですが正式には違います」

 

なら何故呼んだんだと思ったが、この身長差の相手ではどうにも威圧感を感じてしまい、そんな生意気な口が聞けるわけも無く、口を噤むと相手はぺこりと頭を下げた。

 

「私は絡繰 茶々丸と申します

我が主、エヴァンジェリン・A・K・マクダウエル様より三峰 縁様をお連れする様に仰せつかりました

彼は今どこに?」

 

 

 

 




つ、ついに出ちまったよ『神の右席』……また麻帆良のパワーバランスが崩れるな、今の麻帆良最強って誰なんでしょうね。やっぱり学園長?

私は基本作品がこんがらがるのであまりオリジナルキャラを出さない様にしているのですが『神の右席』はセーフでしょ……。え?月光?あいつは死んだからいいんだよ(・ω・)ノ

しかし超が圧倒されとる、このままでは正義のラスボスの超が正義のラスボス(笑)になってまう!頑張れ超!火星人は狼狽えない!!
彼女ならきっとガトリングレールガンくらい作ってくれるさ……麻帆良は滅びるけど。

そしてエヴァ様からの呼び出し。流石エヴァ様大人気ねぇ。小学生を屋上、もしくは体育館裏行きなんて大人気ねぇ。

私もエヴァ様に屋上で張っ倒してもらいたい(´Д` )

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