夕子さんのお子さん明石 裕奈(あかし ゆうな)ちゃんの案内でリビングに連れてこられた。
台所からエプロンを外しながら夕子さんが出てくる、そしてその横でせっせと料理を運ぶ眼鏡の男性が台所とテーブルを行き来していた。
「いらっしゃい縁君、退院おめでとう」
「お邪魔します夕子さん
凄い料理ですね、こんなに一杯あって食べれますかね?」
「大丈夫よ、裕奈はよく食べるし、そこの大食らいが来るならこれくらい用意しなくちゃ私たちが食べられないわよ」
裕奈ちゃんに引っ張られ大量の料理が置かれているテーブルに座る。
先程夕子さんに大食らい呼ばわりされた伊織さんは、そんな事は全く気にせず、ワインを勝手に飲んでおり夕子さんに頭を叩かれていた。
その後、料理を運ぶ夕子さんの旦那さんとお互い自己紹介して裕奈ちゃんと一緒に料理の配膳を手伝った。
この時、裕奈ちゃんは積極的にお父さんの手伝いをしたり、配膳を終えた後も自分から父親の隣に座るなど、お父さんにべったりなところを見るに、この子はお父さんっ子なのだろう。
家族を大事にする事は良い事だ。
僕の退院祝いを兼ねた食事会らしく、最初は明石家の人たちと交流を深めていたが、途中からは大人達がアルコールが回り始めたのか、飲み会になっていた。
大人達が昼間からどんちゃん騒ぎしているので、僕と裕奈ちゃんはその場から避難。
「こっちに公園があるんだ!」
「はぁはぁ…ちょっと…待って…!!」
裕奈ちゃんに手を引っ張られ、明石家の近くの公園で遊ぶ事になったのだが、どうもこの娘は元気が良過ぎる。
僕も運動は苦手ではないが、それは高校生の時の話で、今は違う。
使い慣れない子供の体に、退院直後という事もあり、今の僕は普通の子供より体力が少ないだろう。
裕奈ちゃんは片脇にバスケットボールを抱えてるにも拘らず今だに走るペースが落ちない。
息が切れながらも公園に着き、漸く手を離してもらえた僕は、膝に手を付き息を整える。
「大丈夫?」
あれだけ走ったのに全く息を乱してない裕奈ちゃん。
大丈夫じゃない、なんて子供の彼女に言えるわけもなく「大丈夫だよ」とだけ返す。
裕奈ちゃんは僕をベンチに連れて行き、隣に座ると僕の息が整うまで待ってくれている。
せっかく遊ぶために連れて来てもらったのに、来るだけで体力を使ってしまうなんて思っていなかった。
なんというか申し訳ない。
「ところで何して遊ぶの?」
「う〜ん、何しよっか?」
考えてなかったのか、バスケットボール持ってきているし、結構大きな公園だからバスケットゴールもあるので、バスケだと思っていた。
裕奈ちゃんはキョロキョロと周りを見渡すと、キャッチボールをしている男の子達の方へ駆け寄り、何か話し始める。
男の子達と話を終えると、今度はおままごとをしている女の子達、その次はジャングルジムで遊ぶの子供達と、公園に居る子供に片っ端から話し掛ける。
子供達と話し終えた後、僕の座るベンチに戻ってきた。
「おかえり、ところで何をしてきてたの?」
「これからみんなでドッチボールするんだよ!!」
よく見れば、最初声をかけた野球少年達が木の枝でラインを描いていた。
「(確かに二人ではドッチボールはできないけど、公園に居る子供全員に声を掛けるなんて、
しかも、声を掛けた殆どの子供が集まって来てる)」
裕奈ちゃんのこの積極性は驚かされる、僕なら話し掛ける事すらできない。
一クラスは有にいる人数での大ドッチボール大会は夕方まで続き、
言うまでもなく、僕は体力が持つ訳もなく、途中からは殆ど裕奈ちゃんに守ってもらっていた。
今の僕の身体は彼女とは同年代とはいえ、実質年下の女の子に守られているなんで情けなさ過ぎである。
親御さん達が迎えにきた事により、ドッチボール大会は解散となる。
今ではもう皆友達であり、別れの声が聞こえてくる。
裕奈ちゃんともすっかり打ち解けた僕は、手を繋ぎ明石家に帰宅している。
「楽しかったね!!」
「そうだね、でも凄く疲れたよ」
こんなに楽しかったのはいつぶりか。
高校生になってからは殆どが勉強の毎日。
友達も多くはなかった僕は基本インドアだ。
外で、しかも全力で遊び尽くすなんて、ここ何年もやっていなかった。
童心に戻るとはこの事だね。
「また明日もやろうよ!!」
「また明日…そうだね、明日も一杯遊ぼう!」
せっかく、子供の姿になったんだ。
学校にも行ってない今は、毎日遊び動し、今の内に味わっておかないと損だ。
「(でもその前に、体力つけなくっちゃなね、いつまでも守ってもらうのは、ちょっと…プライド的に……)」
これから、体力作りをどうするかなどを考えつつ、裕奈ちゃんと明日何をするか話しながら明石家へと帰宅した。
だが、その後が地獄だった。
明石夫婦と伊織さんは酒を飲みまくったせいでそこら中に酒瓶が散乱、料理もテーブルや床にブチまけられており、飲み過ぎて倒れている三人の介抱と掃除をする事になったのは言うまでもない。