小麦粉使いの魔法使い   作:蛙顏の何か

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優先する。

三峰 縁は拳を握り締め、悠々と近づいてくる吸血鬼を見据える。

 

相手は噂に名高い吸血鬼。

縁の知識の中で、吸血鬼と云えばろくな奴はいない。

 

三百万以上の命を持つ者や、時間を止める者に、星の触覚なんてとんでもない奴までもいる。

 

つまり何が言いたいのかというと、吸血鬼というのは総じてチートキャラだということだ。

 

そして、全ての吸血鬼に必ずと言っていい程備わっている能力がある。

 

『再生能力』

吸血鬼は不老不死だと言われる由縁でもある能力であり、奴らは基本的には『太陽光』や『心臓を潰す』と言った事でしか絶命しない。

 

今は夜間であり、その為『太陽光』という弱点は無くなる。

もし心臓を潰しても絶命しなければ彼に活路はない。

 

「(いや、確かに僕の目の前にいる奴は吸血鬼と噂されているかもしれないけど本物の吸血鬼だという確証はない

確かに犬歯は長くて鋭いけど、付け歯という可能性もあるし、断言は出来ない)」

 

そう、もしかしたらやっぱり只の変態という可能性もある。

 

だが、縁が懸念していることはそれだけではない。

 

魔法使いと云うのは基本的には接近戦を苦手としているが、彼らには『魔法障壁』と云う厄介なものが存在する。

『魔法障壁』とはその名の通り壁、魔法で生み出したバリアの様な物だがその形態は多種多様であり、自身の目の前に出現させる盾の様な物もあれば、鎧の様に全身を包む物まで存在する。

 

それを突破するには生半可の攻撃では通用しない。

縁が如何に身体能力が高くとも、魔法というフィクションの法則には敵わない。

 

ならばどうするか。

そんなものは簡単だ。相手がフィクションの法則を使うなら此方も同じことをすればいい。

 

縁は『魔法』が不得意であり、明かりを灯す程度の奇跡しか起こせないが、彼には『気』という才能がある。

 

『気』を籠めた拳は岩も砕き、刃も通す事はない。従って縁にも吸血鬼を倒す術はある。

 

「(勝負は一瞬、吸血鬼の後ろに回り込んで一撃でキメる)」

 

地面をしっかりと踏みしめ、両脚に気を巡らせる。

ペタペタと素足で歩み寄って来る吸血鬼を見据えた瞬間____跳んだ。

 

踏みしめた大地には砂塵が舞い、周りの景色を置き去りにして縁は跳んだ。

目にも留まらぬ速さで吸血鬼との距離を詰め、目の前の敵の真後ろに降り立とうと地面を踏みしめた………かの様に思えた。

 

 

「ごぼぉっ!!」

 

顔面を殴された様な衝撃と共に、縁は天高く吹き飛んだ。

 

いったい何が起こった。縁がそう疑問に思い、未だに地面に立つ吸血鬼に視線を送れば、彼女は右肘を正面に突き出し両脚を踏ん張る様に広げた。

 

宙に舞う縁はその差中理解した。

 

『瞬動』は瞬間的に加速して移動する跳躍術であり、バトル漫画顔負けの速度で相手との間合いを詰める事が出来るが、これは自身の速度が上がっているのではなく、縁自身はこの技は『踏み込み』を極限まで突き詰めたものだど考えている。

だがどんな技にも長所があり短所がある。『瞬動』は確かに圧倒的な速さで移動できるが途中で方向転換が出来ない。それ故に跳ぶルートがわかってしまえばそこに肘を置くなり拳を置くなりしてカウンターを決めることができる。

速度が圧倒的なだけあり障害物に激突した時のダメージは凄まじいが、こんなカウンターが常にホイホイ決まる訳が無い。

そんなに毎回見切られてカウンターを決められれば、この技の欠陥性は酷いものであり多くの戦闘者達が習得することはないだろう。

 

相手の技量にもよるが見切られるとすれば達人の領域。それは伊織や月光といった強者達の世界だ。

 

 

ブロックの地面に体を叩きつけられ、強烈な痛みが全身を駆け巡るが苦しんでいる暇など相手は与えない。

 

縁が落ちてきたと同時に、吸血鬼はマントの中から試験管を放り投げた。

試験管の中には緑の液体が入っており、蓋も閉めずに投げ捨てられた試験管は液体を撒き散らしながら宙を舞う。

 

「『魔法の射手・連弾・氷の五矢!!』」

 

液体が爆ぜ、試験管が粉々に吹き飛ぶと、こそから大人の拳代ほどの球体が生成され、真っ直ぐ縁へと飛んでゆく。

弓矢の如く風を切り、素早く飛んでくる魔法の球体を落下したばかりの縁は避ける事も出来ず、そのまま全弾命中する。

 

「ぬぅ!くそっ!!」

 

着弾の瞬間に気の鎧を最大出力まで高めるて防御するが、まるで鉄球でもぶつけられたかの様な痛みが走り、着弾の勢いを殺す事が出来ずに後方に転がる。

 

「(一発の威力は気で強化した拳と同じくらいか……

一発だけなら簡単にいなせるけど、『魔法の射手』は手数で攻める魔法だからやっぱりそれが厄介だよ)」

 

「ほぉ、今のを耐えたか。なかなか頑丈に鍛えて貰ったようだな」

 

相変わらず余裕の表情を崩さない吸血鬼。瞬動を見切られた時点で只者ではないと思ったが、それでも何か突破口がないか縁は必死で模索する。

 

「(もう一度瞬動で間合いを詰めたいけど、もう一度カウンターを受けたら意識を保てるか怪しい

でも魔法使い相手にこの距離はマズイ、どれほどの魔法使いかは知らないけど、あの『魔法の射手』だけでもジワジワと嬲られれば終わりだ)」

 

倒れ伏せた状態で、縁は吸血鬼との間合いを測る。

目測では二十メートル、縁が気で強化すれば六歩で近づける距離だが、この距離は相手にとってもこちらはいい的でしかない。

 

縁は起き上がると同時に走り出した。瞬動を使わずに、気の強化だけで相手との距離を詰める。

 

一歩、二歩___陸上選手も真っ青な速度で駆け、拳を引き絞る様に後ろに回した。

 

三歩___あと十メートルだが相手も対処に移る時、吸血鬼は懐からまたしても試験管を取り出す。

 

『魔法薬』それが先程から吸血鬼の使っている物の正体であり、あの魔法薬は魔法使いにとっては杖の様な触媒としても使え、杖と違い詠唱を簡略化することも可能だが、これには致命的な弱点がある。

 

先ずは威力。魔法使いにとって杖とは音楽で言うスピーカーの様なものであり、杖が良ければ良い物ほど上質な音を奏でるが質の悪い物ならばそれだけスペックが低く魔力の高いものが使えばそれだけノイズが多くなる。

魔法薬の場合、賢者クラスの錬金術師が調合すれば上質な触媒になるだろうが、先程の食らった『魔法の射手』の威力から考えてそれほど良い物では無いらしい。

 

二つ目はストックの数。杖と違い、魔法薬は所詮は杖の簡易版でしかないのでいつかは弾切れになる。

しかし、相手の吸血鬼は身に纏う蝙蝠の様なマントから取り出しているのでストックの数は百近くあるのかも知れないので弾切れは期待出来ない。

 

そして、三つ目は____

 

 

「(魔法の発射速度!!)」

 

 

四歩___踏み出した瞬間、引き絞った拳を何もない空間に振り抜く。

充分に拳に気を溜め、それを固めて射出する技『遠当て』。気で強化した縁の拳一発分の威力しかないが、詠唱もいらず、何より発射を悟られる事のないこの技は伊織も重宝している。

 

宙に放り投げた魔法薬は縁の気弾によって弾かれ、射出された『魔法の射手』は吸血鬼の狙いを外れ縁の真横をすり抜けて行く。

 

五歩___この距離では回避は間に合わず、魔法薬を取り出す時間すらない。

 

もはや縁の射程内。魔法が不得意であり縁にとっては、今まで伊織に教えられてきた接近戦こそが彼の本領を発揮する。

 

六歩___弾丸の如く放たれた全力の拳は、吸血鬼の顔面目掛けて一直線に迫る。

 

魔法薬を無効化され、対処に一瞬の隙が生じた性で対応が遅れているのか吸血鬼は動けない。

 

 

「________は?」

 

 

だが、拳は吸血鬼に届かず、縁はまたしても宙を舞った。

瞬動の時の様なカウンターではなく、流水の如く流れる様な動きで縁の腕を掴み、相手の力を利用して背負い投げの要領で縁を放り投げたのだ。

 

一瞬状況判断が遅れだが、今度は宙で体を翻し、猫の様にスタッと着地する。

 

 

吸血鬼は此方を見てニヤリと口元を釣り上げ、懐から取り出した魔法薬を自身に振り撒く様に散らした。

 

「『戦いの歌』」

 

雫となって宙に散る魔法薬は鈍く輝き出し、吸血鬼の元へと吸収される。

 

「来い小僧。遊んでやろう」

 

その言葉と同じ様にかかって来いと手招きする吸血鬼に対して縁は若干苛立ちを覚える。

 

あの『戦いの歌』と云うのは身体強化魔法の中ではポピュラーなものであり、勿論それを知っている縁は相手が魔法使いでは不得意な筈の接近戦で相手をしてやろうと言っているのだから、闘争心を掻き立てられずにはいられない。

 

縁は迷わず駆け出した。気を全身に廻し一気に吸血鬼へと近づくと、今度は全力にではなく軽いジャブの連続で相手を牽制する。

 

しかし吸血鬼は放たれる拳を余裕の表情で全ていなし続け、此方の攻撃が一切当たらない。

 

それどころか、此方の隙を見つけては下半身を重点的に攻撃している性で段々と脚が覚束なくなってきている。

 

「(くそ!!さっきからチマチマと)」

 

攻撃が当たらずダメージだけが蓄積しているせいか縁の集中が乱れ始める。

その隙を吸血鬼は見逃す筈も無く、縁の大振りの拳を躱した瞬間素早く手刀を耳元に打ち込んだ。

 

その瞬間、縁の視界が歪んだ。縁の三半規管に攻撃して数瞬意識が混乱しているのだ。

ふらつく縁の顔面に肘打ちを打ち込み、更には後ろによろけているところを後ろ裏打ちが顔面を捉えた。

鼻血を巻き上げ、バランスの取れないまま地面に倒れ伏せる縁は意識が朦朧としながらも懸命に立ち上がる。

目を覚ます様に頭を振り、荒れている呼吸を整えながら吸血鬼を見据える。

 

「(なんて実力だ、格闘の実力は明らかに伊織クラス、いやそれ以上かもしれない

伊織は明らかに剛のタイプの武術だったけど、こいつは柔のタイプ

下手な攻撃は受け流されるだけだ)」

 

しかし、頭では分かっていても縁には元々武術を習ってもいなければ喧嘩だってしたことのないような大人しい少年だった。

直ぐに自身の戦闘スタイルを変えることは出来ず、攻撃しては受け流され続ける。

如何にか体制を崩して大きな隙を見せまいと抗うが吸血鬼の流れに逆らうことが出来ず大きく転倒してしまった。

 

「(しまった!)」

 

吸血鬼の瞳が満月の光を反射しギラリと不気味に光る。

彼女の手には既に魔法薬が握られ、それを天高く振り上げる。

 

「『氷瀑』!!」

 

叩きつけるように投げられた試験管は爆発し、氷の粉塵を撒き散らしながら広範囲に爆裂した。

縁の身体は吹き飛ばされ、何度もバウンドしながら地面を転がった。

氷系魔法の影響で右腕は氷に覆われ、体の所々にも氷が張り付いていた。

 

「うぅ……ぐぁ……」

 

「縁!縁!!しっかりして!!」

 

どうやらアキラが倒れているベンチまで飛ばされたようで、体を糸で縛られているにも関わらず縁に近づこうと必死で暴れている。

 

「(いかん…目の前がボヤけてきた…)」

 

戦いのダメージの蓄積量は、既に縁の身体の限界を疾うに越えておりもはや意識を保つ事すらままならない。

アキラの声が段々遠くなって行くと縁は頭を振り上げ____

 

 

「オラァッ!!!」

 

突然、自分自身の頭を地面に叩きつけた。

 

限界にきた体に自身が更に追い打ちをかける行為に吸血鬼もアキラも唖然とした。

当の本人はクラクラと目を回し頭の周りをクルクルと星が回るビジョンが自身の脳裏に流れていた。

 

「へへ…これで目が覚めた」

 

遠のく意識を如何にか戻したものの体が限界に来ていることには変わりない。

ならばと縁は足腰に気を送り周りを補強することで如何にか立ち上がった。

 

「………なぜだ」

 

再び立ち上がった縁の姿に吸血鬼は自然とそんな問いを口にしていた。

今まで毅然としていた吸血鬼はまるで理解出来ないものを見ているような視線を縁に向ける。

 

 

「なぜそこまでして立ち上がる

己の限界が来ているにも関わらず、この私に敵わないと知りつつなぜ戦う」

 

「………負けたくないからだよ」

 

その返答に吸血鬼は疑問に思った。

 

通常、縁は他の子供達に比べて正義感の強い子供だ。それは彼が元は高校生であり子供達によりも歳をとっている為に自身が年上だからという責任感もある。

 

そして事の発端はアキラが捕らえられた事から始まり、吸血鬼は縁を『ヒーロー願望を抱いた魔法使い』だと思っていた。

この場合は『誰かを守りたい』という善良な者が答えそうな返答が帰ってくるとばかり思っていたが彼は『負けたくないから』だと言った。

 

「負ければ失ってしまう、まだ僕の手の中から溺れ落ちてしまう

大切な人の笑顔も、細やかな日常さも奪われてしまう

だから僕は負けられない、負けない為に戦うんだ

奪いに来るものを全て薙ぎ払い、降りかかってくる火の粉を消し去らなくちゃいけない

僕には全てを守る力なんてないし、誰もを救う善人でもない」

 

 

彼、三峰 縁としての人生の戦いには勝利と云うものがなかった。

逃走と敗北、そればかりだ。

そして敗北の度に噛み締める自身の無力さ。次は負けない、そう思って今まで修行に励んできた、にも関わらず敗北し、その結果誰よりも大切な人が自分の前から去って行った。

 

三峰 縁の力など世界の名だたる強者に比べれば微々たるものだが、それでも彼には僅かながらの力がある。

小さな力では何も救えない、何も守れない。人はそんな小さな力を『仲間』という集いで大きくし何かをなさんとするが、縁にはその『仲間』すらいない。

 

だからこそ、何かを『優先』しなければいけない。己の小さな力で何が出来るのかを、己の心に従い何を『優先』させるべきなのかを。

 

 

「だからこそ立ち上がらなければいけない

腕が千切れても、脚が消し飛んだとしても、負けない為に何度でも立ち上がらなければならない

例えこの命を賭そうと関係ない、そんな細いな事を『優先』出来る程、僕は強くないのだから」

 

縁はもう一度拳を握り締める。何度も傷ついては倒れ伏せ、満身創痍だった人間とは思えない程、今の彼の覇気は凄まじいものだった。

 

アキラは声も出ない。今にも消えてしまいそうな彼の命の灯火に不安を感じずにはいられないが、彼の覇気に押されて何も発する事が出来なかった。

 

吸血鬼も同じだ。彼女は歴戦の魔法使いであり中世の時代から生きる本物の『吸血鬼の真相』だが、縁の発している覇気は尋常ではないと解る。

それに彼が彼女に向ける目は覚悟している目だ。

己の命を賭けてでも彼女を粉砕するという覚悟が彼からは滲み出ている。

恐怖を感じんことなくそれを跳ね除け、あの歳で命を賭して立ち上がる彼は異常だ。

 

だが、そんな縁の姿に吸血鬼は笑っていた。

嘲笑うでも侮蔑するでもなく、まるで好敵手を見つけたかのようなそんな邪悪な笑みだ。

 

年甲斐もなく興奮していると彼女も自負している。だがこの数年、憧れた男に封印されていた彼女にとってここまで足掻き立ち向かう人間の姿に押し殺していた彼女の血が久々に滾っていた。

 

「(傷付き血にまみれても尚己の道を突き進むか……これだから人間は面白い!!

もはや魔力集めなどどうでもいい!

今はこの小僧との戦いをもっと楽しみたい、打ち砕いてみたい!!)」

 

その邪悪な笑みは悪党ズラに相応しい程に彼女は今とても充実している。

自称悪党の彼女にとって自身を楽しませる存在など早々に見つからない。

だからこそこの時間をもっと楽しみたかったが、縁の姿や今までのダメージを考えればこの楽しい宴もそろそろ御開きだと感じていた。

 

「いい覚悟だ、小僧にしてはなかなかだと褒めてやろう

そんな貴様に対しての賞賛とし、この一撃で幕を下ろしてやろう」

 

吸血鬼は手に取った魔法薬を瓶ごと握り潰した。瓶は粉々に砕け、拳から緑色の液体が滴り落ちると、彼女の拳が光り輝いた。

 

「『断罪の剣』」

 

彼女の拳から伸びた一筋の光の剣。

彼女の魔力が低い性か刀身は40cm程の物だがその斬れ味は縁の気の鎧を切り裂くには充分だった。

 

「我が名はエヴァンジェリン・A・K・マクダウェル

『吸血鬼の真相』にして『闇の福音』、絶対的な強者であり

あ!く!の!魔法使いだ!!」

 

やけに『悪の魔法使い』という部分を強調しているが縁にとってはそんな些細な事などどうでもいい。

 

それよりも問題は、次の一撃で勝負を決めると相手は宣言したのだ。

 

縁自身も長くこの身体を動かし続けることが出来ない事くらい知っている。

今の彼の身体は気で筋肉を強制的に動かし、体を固定しながら動かしているに過ぎない。

 

そんな付け焼き刃の身体強化で戦闘を続けてもいずれは身体の崩壊で指一本動かせなくなる。

ならば一撃に全てを注ぎ、己の全霊の拳を叩き込んだほうが勝算はある。

 

右腕は凍ったままで今でも体温と体力を奪われている。走る為のバランスをとるのも難しいが動けないわけじゃない。

動ける為の必要最低限の気だけを体に回し、残りの全てを左腕に注ぎ込る。

 

吸血鬼エヴァンジェリンの光剣よりも縁の気の出力の方が高いが密度と集束が違い過ぎる。

縁の気は荒れており出せることには出せているが纏まりがない。

対してエヴァンジェリンの光剣は出力は劣るものの精密に調整されており、魔力に無駄がなく敵を切り裂く為には充実なほど魔力を集束させている。

 

打ち合えば競り負けるのは縁の拳。しかし、それが分かっているからといって縁は臆さない。

 

競り負けると云うのなら懐に潜り込めばいい。敵の攻撃を掻い潜り、渾身の一撃を相手に叩き込んでやればいい。

 

 

「僕は三峰 縁!!史上最高の魔術師、三峰 伊織の弟子だ!!

一撃で決めると言うのなら上等!!此方も全身全霊をもってお前を打ち倒す!!」

 

相手の名乗りと宣言に対し、縁も高らかに言葉を返した。

 

互いに言うべき事は言った、もはや言葉などといらない。

両者互いに神経を研ぎ澄ませる。

 

 

「(確かに、僕はこいつに劣っている

体術でも魔力の運用でも負けている

でも、この心は!この気持ちは負けていない!!)」

 

両者、同時に踏み込んだ。

風の様に翔けるエヴァンジェリンに対し、最初の時の様な速さはないがそれでも懸命に走り出す縁が激突するのはほんの刹那の一瞬。

 

「(それにまだ、僕は自分の出来ることをやり尽くしてはいない!)」

 

お互いの射程内に入った瞬間、両者の攻撃のタイミングが重なった。

 

いや、合わせられたのだ。

互いに接近戦を仕掛けた為、射程内に入れば攻撃するのは当然だが、エヴァンジェリンは右手からは光剣が伸びており縁よりもリーチがあり、射程距離が長いので攻撃のタイミングはエヴァンジェリンの方が早くなる。

それなのに攻撃のタイミングが重なったと云うことは、縁が攻撃を掻い潜ってくる事を予測し、攻撃が競りあう様に仕向けられたのだ。

 

もう軌道を変える事は出来ない、縁もエヴァンジェリンも互いに全身全霊の一撃であり振り降ろされた拳を下げることは出来ない。

 

 

「優先する。___魔力を下位に、気を上位に!!」

 

 

その叫びと共に、剛拳と光剣は激突した。

 

集束された魔力の剣は高出力の気の拳を切り裂き、その鮮血を巻き上げて少年の腕を切断した____。

 

 

 

 

 

_____かの様に思えた。

 

 

 

 

 

 

「なにぃ!!」

 

しかし、砕け散ったのは光剣の方だった。

 

剣は拳と拮抗する事なく、拳が触れた瞬間にガラス細工の様に砕け散った。

 

拳を止めるものなどもうなにもない。

風を切る程の剛拳は吸い込まれる様に怨敵の顔面に迫り、完全に振り切ってしまった彼女では防ぐ術も躱す術もない。

 

 

ゴッ!!という鈍い音と共に拳が直撃し、エヴァンジェリンの顔面を完全に捉えた。

 

 

「おぉぉぉぉおおおおおおおおおーーーーーーっっ!!!!!!」

 

漸く捉えた怨敵に力の限り拳を握り締め、腕、腰、脚、拳を振る為に必要な全筋肉が呻り、捉えた顔面を思いっきり振り抜いた。

 

殴り飛ばされた彼女はそのまま地面に着かず数メートル飛び、途中にベンチを破壊し、その後ろの木々に激突して漸く停止した。

 

 

自身の敗北が認識した時にはエヴァンジェリンは既に意識を手放していた。

 

だが、あの拳が届くほんの一瞬に、彼女は目撃した。

 

少年の瞳が突如変色し、樹海の様に深くそして何処か澄んだ輝きを持つ緑色の瞳を____。

 

 

 

 




エヴァ様「貴様は!エタッた筈では」

( ゚д゚)「残念だったなぁ、トリックだよ」


久々の投稿で燃え尽きた……エヴァ様戦を書きたかったのにいざとなったら思う様にペンが動かないなんて相変わらずだらしねぇ。
でも私はエタらぬ!けっしてエタらぬ!!我魂魄百万回生まれ変わっても、エヴァ様書き続けるからなあーーっ!!!

そして漸く出たよ『光の処刑』、遅せぇ、ここまで遅くなるとは私も思わなかった。ゆかりんが成長してエヴァ様との戦いで覚醒して惜しかったからここまで下地を無駄に詰んだのにここまで遅せぇとはこの作品を書いた当初は思いもしませんでしたよ(ー ー;)

ついに出たエヴァ様もまさかのそげぶオチとは……まぁ、これは最初から考えていたんですがね。

でもUQで久々のロリエヴァ様をお見かけ出来てテンション上がりました。これであと一ヶ月は頑張れそう( ̄▽ ̄)

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