伊織のいない世界
「ゆっかりーん!」
「もぅ、ゆかりん言わないでよぉ」
学生服を着た糸目の少年は、目元隠す程前髪の長い少年の名前を挨拶がわりにと高らかに叫んだ。
「それより宿題したの?言っておくけど見せないよ」
「キングクリムゾン!!この会話の時間を消し飛ばした!!」
「はいはい、でもノートは見せないよ」
前髪の長い少年は、何時ものようにと糸目の少年をお座なりに受け流し、急いで教室に向かおうとしていた。
周りからはクスクスと笑い声が聞こえ、前髪の長い少年は恥ずかしそうに顔を伏せ、早足で逃げようとするが、糸目の少年が回り込み行くてを遮った。
「もう、ゆかりん冷た〜い。でも、それもツンデレだと思うと僕、ご飯何杯でもいけちゃいそう!」
「デレてない、宿題見せない、僕の行く手を遮らない
もぉ、恥ずかしいからどいてよ」
「デーフェンス!デーフェンス!」
前髪の長い少年は、どうにか糸目の少年を振り切ろうとするが、糸目の少年は、高速で反復横跳びをしているかの様な軽やかなフットワークで、友人を通そうとはしない。
糸目の少年が騒いでいるせいで、教室からは、何事だと覗いてくる人達が増え始め、ドンドン多くなっていく視線に、少年の顔は恥ずかしさのあまり真っ赤になってしまった。
「わかったよぉ、見せるからもうやめて……恥ずかしくて死んじゃいそうだよぉ」
前髪の長い少年は涙目になりながら、周りの視線に耐えかねて折れてしまった。
「フヒヒ、サーセン」
「その笑い方気持ち悪い」
「ありがとうございます!!」
侮蔑したのに何故か喜ばれた事により、もうどうでもいいよと、前髪の長い少年は登校早々疲れ果てていた。
「それよりゆかりん知ってるかい?今日は転校生が来るんだってばよ!」
「もう君が転校しなよ…」
「だが、断る!
それで、何故!僕ちんがそんなことを知っているかと言うと!!ななんとなんと!僕ちんの家のアパートに引っ越してきてね
あぁ、残念だが男だったよ……まぁイケメソじゃなくて、普通の極ありふれた顔してたよ」
「そういえば、美形嫌ってたね、下駄箱にイカ入れるくらい」
「その後はスタッフ(自分)が美味しく頂きました
おっと、その話は置いて、その御仁がなかなか話しやすい人でね。どうも、昔この街に住んでたらしくて、親が海外に転勤したから、自分は昔住んでたこの街に戻ってきたらしいよ」
「へぇ、僕、電車通学だからこの街はあんまり知らないけど、その人も一人で大変だね」
糸目の少年が無理やり話を進める事により、前髪の長い少年は仕方なく突っ伏していた顔を起こし、会話をする事にした。
「それがそうでも無いのよ
何かその御仁の部屋に幼馴染の女の子や従姉妹のお姉さんは来るし、今日一緒に登校してたら曲がり角で美少女とぶつかってたし、もうなんかウハウハでウホッ、な訳よ」
「よかったじゃん、寂しそうじゃなくて」
「畜生!!こんなの不公平だ!!なんで向こうには美少女があんなにフィーバーで大連鎖なんや!!
こっちはツンデレのゆかりん一人なのに!!
これじゃぁまるで__」
女ではなく男だと、前髪の長い少年は否定しようとしたが、廊下にも響く様な糸目の少年の絶叫により、遮られた。
「まるで、ラブコメの主人公みたいやないかぁ!!!」
伊織の事件は、瞬く間に世間に広がった。
僕が目覚めた部屋は、高畑先生の寮だったらしいが、伊織のニュースを聞いた後、僕は直ぐに三峰家のあるマンションに急いで向かった。マンションの前は数台のパトカーと多数の警察官、多数の報道陣が道を埋め尽くさんとばかりに大挙していた。
あまりの出来事に、僕は頭の中が真っ白になり、報道陣を掻き分け、警察官の人壁を抜けようとすると、当然の様に止められた。
その時の僕は、気が動転してたのだろう、だからこそあんな軽率な行動をとってしまったのだろう。
僕は警察官に「三峰 縁です……」と力無く言った。
そして、あれだけ騒いでいた報道記者や、それを抑える警察官の声が一瞬止み、皆が僕を見た。
今、伊織は世間を騒がせる犯罪者だ。そして、その家族である少年が突然目の前に現れたら、どうなるかは明白だろう。
報道記者達は、この期を逃すまいと、カメラを向け、押し付けんばかりにマイクを差し出し、僕の声を拾おうとそれぞれの記者達がマイクの押し合いをしていた。
記者達は、
「三峰 縁君ですよね!!お姉さんのした事をどう思いますか!?」
「お姉さんとは二人で暮らしてたんだよね?その時お姉さんがおかしかった事はありませんでしたか?」
「いなくなったお姉さんの事をどう思われますか?」
などと、閻魔大王の真似事でもしろとでもいうかの様に、それぞれが一斉に質問してきた。
だが、不運な事に、伊織に鍛えられた僕の耳は、この全てを聴き、そのどれもが伊織の事。僕の心配など、微塵も考えてはいない。
何も答えず、ただ呆然としている僕の手を警察官が引き、報道陣から護る様にマンションの中へと入れてくれた。
警察官に導かれ、昨日ぶりの三峰家へと帰宅した僕の目には映ったのは、部屋の中を念入りに調べる警察官、多分ドラマなどで観る刑事や鑑識だろう。
奥からこの事件の担当の刑事が現れ、僕に伊織の事についてや、昨日僕が何をしていたなどと事情聴取された。
てっきり、警察署で取り調べかと思ったが、子供の僕をそんな知らない場所に、知らない大人と居ることは負担が大きいと考えているのか。僕はとりあえず「家で寝ていたら、いつの間にか知り合いの家にいた」とだけ、伝えた。
魔法使いでない彼らに、詳しく言ったところでどうにもならない上に、下手すればこの人達には記憶消去がされるだろう。
そして僕は最後に、伊織の無実を訴えるが、刑事は渋い顔をするだけで何も答えてはくれなかった。
誰も信じていない。それもそうだ、誰もが自分の家族が罪人など、そんな現実は受け入れられないだろう。
僕は急に冷めた気持ちになり、刑事の人に、部屋を見ていいか確認すると直ぐに了承して、部屋に案内してもらった。
僕の部屋は全く昨日のままであり、台所の方もそれは同じだった。
元々家に物を置いてない三峰家であり、調べられるものなどごく僅かだろうと思い、順番的に伊織の部屋に案内されるが、あるものがなかった。
いつもは殺風景な部屋であり、部屋の真ん中にダイオラマ球しか置いてなかったのだが、この部屋には何もなく、本当にスッカラカンの空き部屋となっていた。
伊織が持って行ったのであろう。魔法に関係する様な物は、この家にはあれしかなかった。もし伊織が持って行ってなかったにしても、きっと魔法使いの警察官みたいなのが回収していた恐れがあった為、それは何と無く予想は出来ていた。
その後は、僕がいない事で探し回っていた高畑先生が来たことにより、僕は一時高畑先生の寮がある麻帆良学園に戻ることになった。
帰りは警察の人が送ってくれた事により、報道陣を避けて戻る事が出来た。
高畑先生が「大丈夫かい?」と心配してくれたが、僕は、いきなり変わってしまった自分の世界に、心身共に疲れ果てていた。
高畑先生とも全く話さず、車は麻帆良学園に到着した。幸い報道陣はこの学園を嗅ぎつけておらず、門の前で車を止めてもらったのだが、麻帆良に帰った僕達を待っていたのは数人の魔法先生達だった。
「三峰 縁君だね、すまないが御同行願いたい」
「ちょっと待ってください、これはどういう事ですか?」
魔法先生の一人で、スキンヘッドとサングラスが特徴的な巨漢の教師が、僕を連れて行こうとするが、高畑先生が間に入りそれを拒んだ。
「職員会議での決定です
この事件では、早期対応が求められるので、早めに情報を集めるに越したことはないとの事です」
「私がいない間にそんな……
確かに、早期対応は必要ですが、今の縁君はかなり参ってます
せめて、後日に。彼には気持ちを整理する時間が必要です」
「学園長も了承した事です」
段々とした魔法先生の対応に、高畑先生は僕を思って、どうにかお引き取り願おうと抗議するが、学園長の命令と聞いた途端、苦虫を噛み潰した様な顔になった。
やはり、一介の教師が学園長の決定を覆す事が出来ないのか。高畑先生は暫く黙り込み、僕に「君は…大丈夫かい?」と歯切れ悪く問いかけるが、この状況ではどうしようもなかった上に、これ以上、高畑先生迷惑はかけられないと思い、僕は「はい」と一言だけ了承した。
魔法先生達に案内されは先は、女子校エリアだった。
そういえば、このエリアには学園長室があった事を思い出したが、それよりも、僕の周りを取り囲む様に配置されている魔法先生達が気になる。
多分、僕が逃げたさない為の措置だろうけど、大の大人がまだ九歳の子供にこんな事をしているかと思うとかなり違和感のある光景だと思う。
女子校エリアを案内され、入学式時に案内された。学園長室と同じ建物であり、扉を開けたその先には、会議室のような広く、縦長のO字型の机が設置されており、魔法先生達や学園長がそれぞれ座っていた。
「すまないのぉ縁君、本来ならば儂ら大人だけで話し合うつもりだったのじゃが、このように強引について来てもらって」
「…いえ、構いません」
学園長は長い髭を撫でながら申し訳ないと謝罪の言葉を述べるが、本当にそう思っているのかが怪しい。
入学時にも思っていたのだが、この学園長は異常に長い眉毛のせいで目元が見えない事で、相手の感情が読みづらいのだ。
長机の左半分に魔法先生達、右半分が高畑先生と裕奈のお父さんが座り、その間となる場所に僕は座らされ、そしてその二つに分かれた机の丁度中間となる位置に学園長が座ることで、話し合いは始まった。
まるで裁判でも始めるかの様な配置であるが、それも強ち間違いで無い事に僕は直ぐに気づいた。
話し合うの最初は、『伊織が何処にいるかという』魔法先生達からの質問だったが、そんな事はこっちが知りたいくらいであり、僕に聞かれても知っている筈がなかった。
次に質問されたのは、『昨日、伊織が何をしていたか』というこれも、魔法先生達からの質問だった。
昨晩の出来事を話そうかどうか悩んだが、この質問には、何故が高畑先生が答えてくれた。
曰く、昨晩突然眠った僕を抱えた伊織が押しかけて来て、僕の事を頼むと言って去って行ったそうだ。
高畑先生も問いただそうとしたが、運んできた伊織は、精霊で編んだデコイだったらしく、追う事が出来なかったそうだ。
「次に、三峰 伊織の処分についてですが__」
「ま、まって下さい!」
着々と進められて行く中、僕は待ったをかけた事により、皆の視線が僕に集中した。
「も、もしかして皆さん、本当に伊織があんな事をしたと考えているんですか?」
多くの視線に、尻込みしてしまうが僕はこの場の違和感に耐え兼ね魔法先生達に問うた。しかし、その違和感は悪方へと的中していた。
「無論、皆そう思っているよ」
「伊織はそんな事をする人間じゃありません!!」
「果たしてどうでしょうか?
確かに功績は大きいですが、彼女は任務時の周りへの被害が多く、性格も乱暴で傍若無人、仕事も途中で放り出すような人です」
「待って下さい、確かに被害は大きいですが、それは彼女が毎回難易度の高い敵と当たることになるせいでもあります。強力な魔法使い相手に、被害なく勝利するのは不可能に近い。あの紅き翼でさえ出来るものは少ない程です
性格の面でも、彼女は戦場の最前線で育ったんです。あんな性格になっても可笑しくない」
「それに、彼女は仕事を途中で放り出した事は一度もありません
トラックの件は、あれは『麻帆良学園までの運搬をついでに頼んだ』だけですから、彼女はしっかりと勤めを果たしています
どうか、訂正を」
魔法先生達の不当な評価に、高畑先生と裕奈のお父さんも弁解するが、魔法先生達はそんな事はどうでもいいとばかりに一蹴して、話に戻ろうとするが、そんな彼らに頭にきた僕は、怒りのあまり立ち上がった。
「そもそも、あなた達は、何のために僕を呼んだんですか!!
こんな下らない戯言を聞かせて、僕を苛々させるのが目的なんですか!!?」
「生徒三峰、発言に気をつけたまえ
この会議には、君のこれからの事も含まれているんだよ。そして、君はそれに従う義務がある」
「麻帆良の魔法使いならそうでしょうが僕には関係ありません
僕の師は伊織だ!!そしてあなた達が伊織を見限ると言うのなら、あなた達は僕の敵だっ!!」
怒りに任せて、拳を机に叩きつけると、叫んでいたせいで力が入っていたのか。気を纏った拳は机を粉々に粉砕した。
この人達は敵だ。彼らは伊織を信じるどころか、高畑先生達の言葉にも耳を傾けず、傲慢にも真実かどうかも分からないのにそれが正しいと思っている。
故に、この拳は反覆の表れ、この組織は腐ってる。だからこそあの時伊織は彼らには関わるなと言ったのだろう。
だからこそ、後悔はない、そう、これでいい。
だが、それは同時に魔法先生達にも警戒を抱く事になる。杖や刀を一瞬で武装し、僕を取り囲んでいた。
「っ!!何のつもりです、高畑先生!!明石教授!!」
しかし、そんな彼らを阻む様に、高畑先生と裕奈のお父さんは僕を護る様に立ちふさがった。
裕奈のお父さんはステッキの様な杖を握り、高畑先生は何故か両手をポケットに入れているが、二人の鋭い表情とその闘気だけで、彼らには充分に伝わっていた。
「彼は、あの三峰 伊織の弟子なんですよ
さっきの気を見ても解るように、あの歳であれだけの練度の気を出せるのは異常です
これが数年経てば手が付けられない猛獣になり兼ねません。今ならまだ抑えが効きます」
一人の魔法先生がそう言った。奴は、三峰 伊織と同じように暴走し、いつか自分達に噛み付いてくる狂犬だ。だからこそ、仔犬の内に首輪を付け、自分達に歯向かわない様に躾けるべきだ。
僕にはそんなニュアンスに聴こえた。
「この子は、裕奈の大切な友達であり、私の子同然に接してきた子だ。この子がそんな子ではない事はこの中の誰よりも知っているつもりです
親は、何があっても子を守り抜く者
それに夕子なら、こうしていた筈です」
裕奈のお父さんはステッキを突き出し、力強くそう言った。
きっと夕子さんもそうしたであろうと。あの正義感が強く、そして誰よりも伊織を知っていた彼女ならばと。
彼は迷いなくステッキを相手に向けた。
「彼は友人から預かった大事な子です。決して傷一つ、指一本触れさせません
それに、大の大人が寄ってたかって子供を虐めるなんて、教師として見過ごせませんからね」
正に一触即発と云う空気だった。
誰も動かず、誰も近づけない。
まるでガンマンの早撃ち対決の様に、周りが静止したのかと錯覚する程に誰も動かない。
銃を持っているものは文字通り、撃つだろう。刀を持っているものは居合いの要領で抜刀するだろう。杖を持っているものは無詠唱の魔法を一瞬で撃ち出すだろう。
だが、誰も動かない。動くことが出来ない。動いた瞬間、戦闘が始まる。しかし、誰も火蓋を切ること出来ない。
たった一分にも満たないが、周りのもの達には何時間も経っているかの様な緊迫した空気に、誰が固唾を飲む。
その瞬間、高畑先生の手元がブレた瞬間___。
「やめんかっ!!馬鹿者共!!
双方矛を収めよっ!!!」
学園長の喝に、誰もの視線がそちらに向き、それと同時に、一人の魔法先生の真横を何かが掠めた様に頬が薄く切れ、後ろの壁を破壊した。
「魔法先生達は過剰な発言をしすぎじゃ!!この事件は本国から早急な対応が必要と念を押されているが、まだ真相が解らぬ段階で、その様な軽率な発言は控えよ!!」
学園長は魔法先生達に向けて怒鳴りつけると、僕の目の前まで歩み寄る。
「縁君、伊織君の事への不当な発言、この場の代表である儂に責任がある
すまなかったのぉ」
「別に、あなたに謝って欲しかった訳じゃありません」
偉い人が責任をとる。それは立派な事であると思うが、僕が欲しいの謝罪の言葉ではない。
僕は学園長に背を向けると、周りの魔法先生達を無視して、そのまま扉まで歩き出す。
「僕はあなた達の部下でも駒でもない。
僕に関わるな、そして、まだ伊織を侮辱するようなら、お望み通り噛み殺してやる」
そう言い捨てると、叩きつける様に扉を閉めた。
本当に無駄な時間を過ごしてしまった。
血が上った頭をクールダウンさせようと深呼吸すると、僕を追ってきたのか、裕奈のお父さんに呼び止められた。
今思えば、裕奈のお父さんは僕の味方をして良かったのか。これが原因で職場が居づらくならないかと思うと、何だが申し訳なくなってしまった。
「ごめんなさい裕奈のお父さん、こんな事になってしまって。でも僕は後悔はしませんよ
家族を馬鹿にされて、黙っている程、僕は器が大きくないので」
「いや、いいんだよ
彼処にいた殆どは、本国から派遣されてきた魔法使い達だからね。本国からの情報を、何一つ疑ってない辺り、本当に救いようない程に政府の犬だよ」
裕奈のお父さんは、さっきの魔法先生達に悪態をつくが、どうやら魔法先生達も一枚岩では無いらしい。
そういえば、先程から気になっていたのだが、その本国からの情報とは何だろう。
それに本国からの御達しもそうだが、この学園はその本国とやらとどういう関係なのか。
あの会議も、どうやら事件の全容が解っていないのに勝手に色々決定していたようだし、何だがきな臭い。
そんな事を考え、思考に浸っていると、いつの間に裕奈のお父さんに手を引かれ、車に乗せられていた。
「それより縁君、病院へ行こう」
「へぇ?」
突然の言葉に変な声を出してしまったが、僕は特に異常がある訳ではない。確かに伊織にボコボコにされたが、その痛みは全くなく。あの机を粉砕した事で手を痛めたのでは無いかと心配しているのかと思った。
「あの、別に手に痛みはありませんよ?無意識の内に気で強化していたので、特に何ともありません」
「……もしかして、気づいて無いのかい?」
そう言って、車のルームミラーを此方に向ける。
日本人らしい黒髪に、特に傷もなく、子供らしい柔らかそうな肌に、クリッとした幼い丸目の少年、つまり僕が写っていた。
「___え?」
いつもと変わらない、四年間見続けてきた自分の顔。しかし、一つだけ違うものあった。
「ど、どうして!?どうなってるの!!?」
自分の突然な変化に取り乱さずにはいられなく、食い入るようにルームミラーを覗き込む。
ルームミラーに覗き込んでいる自分の瞳。樹海の様に深く、吸い込まれる様な『緑』の瞳が『黒』に変色していた。
「何が…起こってるの…?」
その時の僕は、これが『前兆』だなんて思いもしなかっただろう。
この時なら逃げれたかもしれない。まだ戻れたかもしれない。
もしあの時、ああしていれば___。
伊織の居ない世界。
だった一人の人間が、いなくなるだけで、僕の周囲は急激に変わった。
僕自身も変わってしまった。
ここが僕の、人生の大きな分岐点だったのかもしれない。
いや、僕という存在自体が、この物語を分断したのかもしれない。
桜が満開に咲き誇るこの季節。あなたの居ないこの世界で、物語は回り出す。
ついに新章突入!!
というより、折り返し地点? まぁ、これからの展開次第で、原作突入時にかなり影響が出ますので、ゆかりんだけでなく、その周りにも乞うご期待。
それでは、中二乙も何のその、ゆかりんの闘いはこれからだ!!