なんて、張り切っていた時期が僕にもありました。
旅館の部屋に荷物を置くと、今日一日の観光を思い出す。
ーーーーーー何も起きなかった。
清水寺や大仏殿など見て回ったのだが、何一つ変化は無く、無駄に気張っていたのに、こうして予約していた旅館まで辿り着いた。
「(なんか、気疲れした……
よく考えてみれば伊織が全く警戒していなかったんだから、格下の僕が警戒したところで意味ないか……)」
荷物を放り投げ、座敷に大の字に寝転がると、伊織達が部屋に入ってきた。
「ふぅ、疲れた〜」
「ちょ!ゆかりんズルい!私も横になる!」
「おいちびっ子ども、ダレる前に片付けてやがれ」
伊織が僕の方に荷物を放り投げので渋々起き上がり受け止める。
「飯までまだ時間がある、おめぇらは寛ぐなり、風呂に入るなりしてな」
「ねえねえ!イオリさんも一緒に入ろうよ!」
「悪りぃな裕奈ちゃん、あたしはちょっと野暮用で外に出るからよ
飯の時間までには帰ってくるから、大人しくしてな」
「伊織どっか行くの?」
もしかしたら、今回の旅行の真の目的かと思い訪ねて観る。
もし学園祭の時の様な事が起きるかもしてないと思うと、いても立ってもいられなかった。
「まぁ、あたしは大人だからな、近くにいいバーが無いか探してくるんだよ
ついでに夕子にも電話してくる」
などと心配した僕が馬鹿だった。
この人は僕達が寝静まった後、一人で酒を飲みに行くようだがそれは問題無い。
伊織も大人だ、子供達の前で大っぴらには飲めないのであろうが、この人の場合は女を引っ掛ける恐れがある事だ、特に朝帰りなら絶対にそうだ。
「あーうん、行ってらっしゃい、あんまり遅くならないようにね〜」
「何遠い目してやがるんだ
もう行ってくるからよ、こいつらの事頼んだぞ、何かあったらあたしが夕子に怒鳴られる……」
そう言うと、伊織はヒラヒラと手を振り襖を閉めた。
残るのは子供達だけであり、伊織が出て行った事によりアキラと和美がソワソワし始めた。
「う〜ん、どうしよっか?お風呂に行く?」
「ちょ、ちょっと休んでから行かない?私クタクタで…」
裕奈とアキラは備え付けのタオルと浴衣を持って早速入りに行こうとするが、和美は流石に疲れたのか座り込んでしまい動きたくないようだ。
「休んでる間暇だしさ、トランプ持ってきたんだ
これでちょっとゲームしない?」
和美がバックからトランプを出すと、シャッフルしてテーブルに置く。
僕達もテーブルを囲うように集まると、それぞれに配り始めた。
「何するの?ババ抜き?」
「んにゃ、大富豪」
「あぁ、それなら私も得意だよ」
ほぅ、大富豪か。
まさかこの僕に大富豪で挑むとは何という身の程知らず。
元高校生だったと云う事もあり、カードの切り方は勿論であり、手札の引の良さから負け無しの僕に、小学生が相手など片腹痛い。
和美が素早くカードをシャッフルし、それぞれに配る。
ーーーーーー勝った。
手札を見た僕は勝利を確信した。
ジョーカーは無いものの、2が3枚や1が3枚と、上位カードが勢揃いだ。
相変わらず引きの強さが凄まじい、ここまで一方的な勝利は虐めであり、些か大人気ない気もするが仕方ない。
勝負の世界は非情なのだから。
「革命ー!」
「おおう!流石は裕奈!ナイスだよ!」
「あー、よかった
弱いカードばっかりだから助かったよ」
「(´・ω・`)」
京都の夜の街を歩き続けるあたしは、イケイケなねーちゃん達には目もくれず、ひたすら足を進めていた。
せっかく京都に来たのだから、美人な舞妓さん達と優雅に晩餐をしたいものだが、生憎そんな暇はない。
賑わう夜の街から少し離れた場所に、巨大な鳥居が佇んでいた。潜り抜けるとその先には幾つもの鳥居が建てられた石道が続いており、辺りは竹やぶで覆われていた。
すると、幾つか鳥居を抜けると肌に妙な違和感を感じ始めた。
その正体は結界だ、しかも山一つ取り囲む程の結界であり、麻帆良程ではないが、とても強力な奴だ。
だが、結界と云っても単に全てを拒む様なものではなく、何処かに基点を作り、そこで拒む対象の設定を変えるような柔軟な物だ。
今の設定は多分、悪霊や悪魔の類と強力な力を持った者を拒む物だろうが、あたしは難なくすり抜け、本殿まで悠々と歩き続けると人影を発見した。
「なぁそこなお嬢さん」
神社を掃除する巫女に優しい口調で話しかけると、巫女さんはポカンと惚けた顔であたしを見た。
「あたしは三峰 伊織だ、近衛 詠春さんに取り次ぎしてもらえないか?」
「え?あ、ああ!少々お待ちください!!
ちょ、誰かぁーー!急ぎ来てください!!」
多分、いきなり来た怪しい奴を一人にさせない為だろう、巫女さんは他の奴を呼び詠春さんに取り次ぐ。
少し時間が空いたので巫女さんを口説いていると、別の巫女さんが現れ、あたしを屋敷の奥に通した。
ちっ、あと少しで落とせたのに……。
とてつもなく惜しい気持ちを抑え、巫女さんに案内されると、とてつもなく広い部屋に案内された。
あまり飾り気はなく、宴会をするにはもってこいの場所だが、ここまで無駄に広いと、まるで武道場を連想させられる。
広間の階段から一人の男が降りてくるとあたしを案内した巫女は頭を低くして退室するした。
「久しぶりだな詠春さん、昔に比べて随分老けたじゃねぇか」
「そういう君は成長したね、もうすっかり立派大人の女性だ」
「なに気取ってやがるんだよ、屋敷中女侍らせてハーレムかよ、このムッツリ侍」
「ちっ、違う!ちゃんと男性も居るし侍らせてなんかいない!!
それとムッツリちゃうわ!!」
顔を真っ赤にして必死に否定する師を見てつい笑いを堪え来てなくなる。
彼はこの関西呪術協会のトップであり、あたしにとっては陰陽道と武器の師でもあり、そして何より、伝説の英雄の一人、サムライマスター『近衛 詠春』だ。
あたしか京都に来た理由は、観光なんかではない事は、見れば分かるだろう。
この京都には関西呪術協会の本山があり、あたしはその本部のど真ん中に居て、しかもトップと対面している。
今回の旅行の目的は幾つかあるが、
その目的の一つはそう、あの半年前の麻帆良祭での月光の襲来、その真相を探るためだったが、詠春さんの証言で、ことの他これは直ぐに分かった。
事件の始まりは三年くらい前の事、この関西呪術協会の本山で内部テロが勃発した。
総本山には何十人もの陰陽師達居り、その中に反呪術協会の者が紛れ込んでおり、この本山に制圧作戦をかけたのだ。
詠春さんは、その時『魔法世界』で首相達と会談がありその時を突かれたようだ。
月光を直接狙った訳ではないが彼女は元人斬りの神鳴流であり反呪術協会側の人間で、寝返った彼女は裏切り者。
当然反呪術協会の者たちは月光を殺そうとするが、彼女は神鳴流の中でも五本の指に入る程の天才剣士、何人いようが雑魚では話にならない。
そこで門下生の一人を人質にとり、彼女に呪いをかけたのだ。
月光は素直に呪いを受けたのだが、奴らはミスを犯した。
『あの月光に呪いをかけた』その安心感と達成感から一瞬の隙が生まれた。
その一瞬があれば月光には十分だった、先ずは一番近くにいた者を喉を木刀で突き刺し、武器を奪うと一瞬で部屋は血の海となった。
彼女は神鳴流の奥義でもある『弐の太刀』を使う剣士だ、人質だけを切断しないように虐殺するなど造作もないこと。
結果を言えば、そのあとも殆どは月光さんが殲滅したそうだが、彼女の腕だけはどうにもならなかった。
戦闘中は彼女自身の気でどうにか抑えていたらしいが、殺生石の呪いは強力で放っておけば一日で確実に死に至る
そこで詠春さんは関西呪術協会で研究中だった玉手箱の試作品に呪いを封じ込んだ。
最初はそれで症状は安定していたそうだ、常に触れ続けなければいけないと云うリスクはあるが、命はどうにか取り留めた。
だが、それも長くは続かなかった。
最初の二ヶ月は封じ込められていたのだが、玉手箱の方が腐食していき、月光の腕が再び浸食されていった。
玉手箱も研究が進まずに、試作品でありあまり量産も出来ず、少ない量でどうにか繋ぎとめていたが、ついにこの事件に繋がる問題が発生した。
何時も一番近くに居り、彼女の一人娘でもある月詠ちゃんに呪いが伝染し始めていたのだ。
幸いにも早めに対しよしたおかげで症状も軽く、治療で直ぐに治ったのだが、彼女はそれで追い詰められてしまったのだろう。
あんな人斬りでも、耐えられなかったのだ、自分の存在が娘苦しめいる事に、また伝染し、今度は取り返しがつかなくなってしまうのではないかという彼女の強迫観念が今回の事件を生み出してしまったのだ。
「本当に……すまなかったね」
「別にあんたが気にすることじゃねぇよ
あたしは自分で決めて、殺意をもって月光さんを殺した
あんたが望もうが望むまいが、それは変わらねぇよ」
詠春さんは辛辣な表情で頭を下げるが、結局のところ、あたしが月光さんの真相を知ろうと思ったのは、ただ自分が納得するだけの自己満足でしかない。
事情を知ってようが知っていまいが、あの人はあたしを本気で怒らせた。
だから殺した、ただそれだけの事だ。
「でも、あの人からしてみれば、やっぱり初恋のあんたに殺されたかっと思うぜ」
そして、月光さんが何故、詠春さんに殺されたがっていたかはこれだ。
あの人はやけに詠春さんに心酔していたし、やはり人生を変えてくれた人だ、失恋してしまったとしても、彼の事を思い続けていたのだろう。
例えそれが、歪んだ愛でも。
「それは、彼女が言ったのかい?」
「あぁ、言ってたし、それによ、あたしにもあの人の気持ちは何と無く分かるよ」
「そういえば、君の初恋の相手はあのお姫様だったね、やっぱり今でも好きなのかい?」
「あたしの失恋は仕方ねぇよ、競い合う相手が悪すぎたよ
あー、なんつぅかよぉ、そんな話をしに来たんじゃねぇんだよ
あたしの恋バナはいいから、今日駅で捕まえた奴はどうなった」
そう、そしてこれが二つ目の目的、というよりこれがメインだったりもする。
あの学園祭以降だろうか、あたしは何者かの視線を感じるようになった。
あたしが監視される理由なんで腐る程あるし、今も何かと危ない橋を渡っているが、あの餓鬼の場合は厄介だ。
メガロの奴らがあいつの存在に気付き始めたのか、それともあえて今まで泳がせていたのかは知らねぇが、このまま監視が続くと厄介だ。
調べた所、相手は式神のような遠距離型の小型ゴーレムで監視しており、なかなか姿を現さない。
相手は何故か麻帆良学園の内には入ろうとしないため、あたしのアパートしか監視しないのでこのままでは拉致が空かなかった。
そこで今回の旅行で相手を炙り出す作戦に出た。
案の定、電車内でも視線を感じたあたしは、駅に降りてホイホイついて来た監視者を捉えトイレでブチのめした。
流石に駅のトイレで尋問する訳にもいかず、詠春さんに頼み関西呪術協会から使者を送って貰った。
「で、相手さんはなにか吐いたか?」
「いや、今のところは手荒な真似は出来ないよ
君の間違いだったら大変な事になるからね」
「別に期待してなかったよ
あたしが尋問するさ、夜は長いしな
殺生石の呪いはあるか?そっちで回収したんだろ?」
「今は地下で厳重に封印してかなりの数の呪術師達が浄化作業に当たってるよ
それと、絶対に使わせないよ、あの呪いは強力過ぎで常人なら一瞬で死に至るからね」
まぁ、確かにあの泥はヤバイ、放置しておけば、土地は枯れて荒れ果てる。
かなり上位の土地神がいる土地でも、浄化にはどれくらいかかる事やら。
殺生石の呪いを使うつもりはなかったので冗談だが、別の呪いを使うのは本当だ。
呪いは相手を着々と苦しめるので拷問にはうってつけだ。
「そういえばタカミチ君から聞いたよ、伊織君が弟子をとって一緒に暮らしてるって」
「たく、あのタカミチ坊主め、人の事をペラペラと……
別に…そんな関係じゃねぇよ」
「家族は大事にするんだぞ」
「家族じゃねえ!単なる居候だ!!
それを言うならあんたがしろよ!あの日だって、このかちゃんにちゃんと護衛を連れときゃぁこんな事にはならなかったんだよっ!!」
「そのことは、私もお義父さんも深く反省しているさ
だからお義父さんの方は警備をもっと厳重にするらしいし、私の方でも今年から護衛を付けさせるよ
ちょうど娘と同い年の子がいてね
神鳴流剣士で月光君の門下生だった子だよ」
「そぉかい、まぁ、使える奴だと良いんだがな
もしかして月光さんの娘さんじゃねぇだろうな?」
流石にないだろうと思いたい、このかちゃんには関係ない事だが、もし月光さんの娘に逆恨みでもされたら溜まったものではないだろう。
それに、あの子の方も母親を殺した奴のことを正確に知るべきだろう。
殺されるつもりはねぇが、恨まれ役くらいにはなってやりたい。
すると、詠春さんは表情が険しくなると首を横に振った。
「いや、護衛役の子は桜咲 刹那という子だよ
月詠君はこの京都から姿を消したよ……」
「姿を消しただぁ?」
どういう事だ?何かの事件に巻き込まれたか?
いや、その線は薄いだろう、この本山は今までよりも結界は強固になり私のように招かれなければここまで辿り着く事は出来ない。
ならばどうやって?考えられる事は一つ、彼女が自分から出たのだ。
何故そんな事を?
「(母を殺した者への復讐か……)」
「三ヶ月前程に姿を消して、今も捜索しているが、この京都を出てからは全く情報が入ってこない
無事だといいのだが……」
多分、これからも情報が入ってくる事はないだろう。
あたしの予想では、月詠ちゃんは昔月光さんが育った場所へと向かったのだ。
あたしも場所は知らないが、そこは人斬りの神鳴流の隠れ里のようなものがあり、月詠ちゃんはもしかしたら月光さんからその話を聞いたのかも知れない。
昔の『妖刀 ひな』の事件でもう大半の人斬り剣士は殺されているだろうが、彼女は親を殺した相手を自らの手で殺す為に、月光さんと同じ道を歩もうとしているのだろう。
「ままならねぇな、ホント」
伊織「いいのかい、そんなにホイホイついて来て」
監視者「アッーーーー!!!」
駄目だ、相手が女性なら確実にこの構図が浮かんでしまう。
久しぶりの投稿ですが、今回も色々と原作キャラの名前が出ましたね。
原作ではせっちゃんは中学時代に麻帆良に行く様ですが、月光の事件により時期が早くなっています。
そして月詠はやっぱり闇堕ち。
と言うより彼女で無ければせっちゃんのライバルは務まりません、同じ変態ですし(笑)
でも、この流れで行くとゆかりんともぶつかりそうな……
流石にゆかりん、いおりんの尻拭いをさせられるとは……いつもの事か。