小麦粉使いの魔法使い   作:蛙顏の何か

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そうだ、京都へ行こう

 

桜の花びらが舞い散る三月の夜、空には満月が浮かび麻帆良学園を照らしている。

生徒はそれぞれの寮に帰宅している時間であり、こんな夜の学園を出歩く者など居ない筈なのだが、とある女子中等部エリアに不穏な空気が流れていた。

 

そこは桜の木が生い茂る道であり、学園の皆は『桜通り』と呼んでいる。

 

そこには二つの人影があった。

一つは麻帆良女子中等部の制服を着た少女であり、意識を失っているのかベンチで横になっている。

そしてもう一つの人影だが、これが一際異質な雰囲気を漂わせていた。

背丈は小学生と言われてもおかしく無い程小柄であり、流れる様な長い金色の髪をしているが、魔女の様な尖った黒の三角帽子とそれと同じ色のマントを羽織っている。

それだけなら、まだコスプレをした変態だったのだが、その少女の口から見える長く鋭く尖った犬歯は血で濡れており、ベンチで気を失ってある少女の首筋には、その牙で噛まれたであろう痕が残っていた。

 

『吸血鬼』

民話や伝説に登場する存在で、生命の根源とも言われる血を吸い その存在や力には実態が無いとされる怪物であり、正にそれを連想させる少女は、自分の口に付着した血液をペロリと舐めた。

 

「やはり、この程度では全然足りないな

所詮一般人の血、チマチマ吸っているだけではいつまで経っても埒があかん」

 

吸血鬼は悪態をつくと、人の気配に気づいた。

寝ている少女の事では無い、この学園は魔法使いの街だ、夜も侵入者が居ないか魔法先生が巡回して回っているのだろう。

 

吸血鬼はマズイと思った、彼女はこの学園に捕らえられている身であり、ある理由から己の殆どの力を封印されている。

学園長と取引し、仕事をすれば学園内限定で自由は許されているが、こんな所を目撃されてはそれも台無しだ。

 

吸血鬼は飛んだ、マントを蝙蝠の羽の様に羽ばたかせ、人けの無い森の方へと飛んで行った。

 

彼女はただ待つだけの女では無い、何としてでも自由を取り戻す。例えどれだけの時間がかかろうとも、何もしないのは彼女の性分に合わない。

 

それに、幸いにも自分には時間だけは腐る程あるのだから、と自虐気味に笑みを浮かべながら、吸血鬼は闇夜の空を飛んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「本っ当にゴメン!!」

 

 

朝の9時、まだ通勤ラッシュで混み合う駅前で、夕子さんは両手を合わせて一生懸命謝っているが、裕奈は頬を膨らませそっぽを向いていた。

 

 

事の発端は、三日前に遡る。

 

それは明石家の人達と夕食をとっていた時、伊織が言った一言が原因だった。

 

「そうだ、京都に行こう」

 

何が『そうだ』なのかは分からないが、明石家の三人はそれに賛成し、裕奈のお父さんは仕事で行けないらしいが、夕子さんはその日は休みなので四人に行くことにした。

そこで、せっかく行くなら大勢がいいだろうと云う事で、伊織が

 

「あの二人も連れて行ったらどうだ?おめぇら四人いっつも一緒にいるじゃねぇか」

 

 

あの二人とはアキラと和美の事であろう。

一年生の時から毎日の様に遊び、和美のパパラッチ魂のせいで僕ら四人ともよく事件に巻き込まれていたりもする。

何もない三峰家で遊んだ事はないが、休日はよく三人が迎えに来るので伊織もそこ時覚えたのだろう。

 

土日を利用した一泊二日での旅行であり、流石に二人が行くわけがないだろうと駄目元で誘ってみると、これがすんなりOKしてくれた。

 

 

しかし、当日に問題が発生した。

夕子さんに急遽仕事が入ってしまったのだ。何でも緊急の連絡らしく、急いで行かなければいけないとの事。

そして、一緒に行くと言った自分の母親が当日のキャンセル、これに娘の裕奈は怒らない訳が無い、僕も夕子さんも説得しているが、裕奈はそっぽを向いてしまっているのが今現在の事である。

 

「仕事なんだから仕方ないよ、夕子さんだって行きたい気持ちは一緒なんだから」

 

「そうだよー裕奈、大人は仕事が本分なんだから、おとなしく私達と行こうじゃぁないか」

 

「ゆーな、元気だして」

 

「おい、もうすぐ電車来ちまうぞ」

 

三人で説得するが、裕奈はやはり聞き耳を持たない。すると、伊織の言うようにスピーカーからアナウンスが流れる、 あと一二分くらいで電車が到着してしまうだろ。

すると、夕子さんは背を向ける裕奈を優しく抱きしめる。

 

「裕奈、お母さん仕事早く終わらせてくるから、明日にはそっちに行って一緒に京都観光しましょ」

 

「……………ホント?」

 

子供をあやす様に優しく語りかけると、裕奈はやや涙目で夕子さんと向き合う。

夕子さんは裕奈の目をしっかり見つめ、笑顔で頭を撫でる。

 

「本当本当、お母さん嘘つかない!

…だから、伊織の言うことをしっかり聞いて、縁君達と仲良く遊ぶのよ?」

 

「……うん、わかった

じゃあ!約束!!」

 

二人は指切りをすると、丁度よく電車が到着した。

 

「それじゃ、子供達の事はお願いね

くれぐれも子供達からは目を離さず、子供達の安全を第一にね!!」

 

「わぁってる、いちいち言わなくてもいいっつぅの

おめぇもさっさと仕事終わらせて来いよ」

 

まるで母親に心配される娘の様であり、伊織は鬱陶しいそうに電車に乗る。

僕達もそれに続くと、扉が閉まり電車はゆっくりと動き始めた。

裕奈は急いで窓を開けると、夕子さんに一生懸命手を振った。

 

「お母さん!行ってきまーす!!」

 

「おう!元気に行ってらっしゃい!!」

 

僕達も夕子さんに手を振ると、電車が速度を上げたのでまだ手を振り続ける裕奈を三人で無理やり引っ張り窓を閉めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私、朝倉 和美はとても悩んでいた。

私の様な年頃の女の子が悩むことと言えば、勉強、趣味、家庭、友達、学校、と色々あるのだが、朝倉 和美は恋に悩んでいた。

いつからしていたのだろう、私がそれに気づいたのは二年生になってからの事だった。

一年生の後半辺りから彼の事を目で追い、ついつい彼に意地悪な事やちょっかいを出したりしてしまい、クラスが違うのに休み時間になれば急いで彼の所に行ってしまうしまつ。

この幼い頭脳にある無駄に多い知識から考えられるに私は彼、三峰 縁に恋をしていた。

 

「和美も食べる?」

 

目の前に座る縁は私にポッキーの箱を差し出すと、私は遠慮なく一本貰う。

電車の中では私達子供四人が向かい合って座っており、縁のお姉さんである伊織さんは隣の列の席に座ってる。

 

「やっぱりポッキーはチョコだよね」

 

「ええ!?サラダでしょ普通!!」

 

「私、トッポだから……」

 

隣で三人がお菓子について口論しているが私は参加せず、もう一度思考に耽る。

ちなみに私はゆかりんと同じチョコ派である。

 

私が惚れているこの三峰 縁だが、裕奈とアキラを見て分かる様にこの二人も縁の事が好きなのである。

縁も二人が好意を持っている事に何と無く気づいているようだが、どうも私の事は気づかれていないらしい。

 

なぜこのような事を考え始めたかと云うと、私は焦っているからだ。

実を言うと縁は結構モテる。

裕奈やアキラもそうだが、二年生の学園祭が終わってからよく同じクラスに転校してきた近衛 このかさんが縁の事を聞いてきたりしてくる。

彼女は日本人形の様に綺麗で可愛らしい容姿とのほほんと穏やかで面倒見のいい性格だ、周囲の男子からも人気がある。

自分で言ってもなんだが、私もそれなりに容姿も整っている、この知的な頭脳もあり優等生でもある。

それなりに人気もあるし、近衛さんにも劣っていない。

だが、裕奈とアキラは違う、二人も整った容姿に性格もいい、縁とベッタリいなければかなりモテるし、その辺は私と同じであるが、二人は縁と過ごした時間が長い。

私は縁と出会ったのが一番遅い、アキラは私とそれほど変わらないようだが、裕奈は入学前からの仲でありその差は圧倒的だ。

それだけで決まる訳ではないがこのアドバンテージは非常に大きい、私も最近は毎日誰よりも早く縁を迎えに行き、一緒に登校しているが効果はあまり期待できない。

 

「(だから、この京都旅行は絶賛のチャンス!

私を連れ行ったと云う事は、私も幼馴染、もしくは仲のいい友達と云う括りだから好感度は高い

ゆかりんは将来、自分の中でもトップ3の私達の誰かを選ぶ筈、確率は三分の一、その中でも私は一番不利な状況、だからこの旅行で……)」

 

初恋は実らないとよく聞くが、私はその気は一切ない。

この気持ちは本物であり、別の誰かに変える事なんて出来ない。

 

「(これは私の真剣勝負、この旅行で勝率を100%にする)」

 

その為の考えもしてきている。

作戦は今夜になるだろう、これで二人とは完全な敵対関係になってしまうかもしれないが仕方ない、恋は戦争なのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目的の京都に着いた僕らは、駅のベンチに座り、未だに忙しなく行き交う人達を目で追っていた。

伊織は駅に着いた途端にトイレだと言って行ったきりなのだがなかなか戻ってこない、きっと大なのだろう。

 

隣を見れば、電車での口論で疲れたのかぐったりとベンチにもたれ掛かる裕奈とアキラの姿があり、朝倉は先程から物思いに耽っている。

この時点で疲れ切ってしまっては先が思いやられるが、二人が楽しそうなので何よりだ。

僕も皆での旅行なんて初めてなのでとても楽しみで浮かれているが、その反面心配な部分もあった。

 

『京都』

古き良き日本の歴史が残る和の代名詞ともされる街であるが、ここは『関西呪術協会』の本土でもある。

そして『関西呪術協会』と言えば、あの麻帆良祭を思い出してしまう。

京都から転校生『近衛 このか』、そして彼女を狙う刺客、僕が今まで感じたどの敵よりも強烈な殺意を放つ小太刀使いの狂剣士『月光』

思えば彼女との戦いで生きていたのが不思議なくらいだ、あの時伊織が駆けつけてくれなかったと思うと寒気がしてしまう。

あれから半年以上が過ぎている、あの後、僕もあの二人の戦いがあった地に行ったが、まるで嵐が過ぎたかのように荒れており、辺りの木々や地面には赤黒い泥が付着しており、辺りを腐敗させていた。

事件の詳細は高畑先生や裕奈のお父さんから聴いたのだが、肝心の伊織はただ一言『殺した』としか言わなかった。

遺体は京都に運ばれたらしく、次の日には倒れた木々も回収され、あの気味の悪い泥も無くなっていたが、何故が道端には花束が置かれており、線香の燃えカスの様なものも残っていた。

 

あれからは特に何気ない日々を過ごしていた、近衛さんが転校生してきたり、冬休みを裕奈達と過ごしたりととても平凡な毎日だったが、突然の京都旅行だ、何か無いと思わない訳が無い。

 

「(やっぱり、この旅行は何かあるのかな……

でも僕だけならともかく裕奈達も巻き込んで何かするとは考えにくいし、考え過ぎかな?)」

 

だが、あの麻帆良祭の後の伊織の表情がどうしても頭に残っていた。

まるであの時の、伊織の恩師が死んでしまった時の様な、辛さや悲しさを無理やり隠している様な……そんな表情が……

 

「おう、悪りぃな待たせて、ちっとばかし手こずっちまった」

 

「手こずったって何?もしかしてトイレが?」

 

「おいおい、女にそんなこと聞くもんじゃねぇぜ」

 

何も悪びれてなさそうにヒラヒラと手を振る伊織に女らしさがあるのかよと思ってしまったが、言ったら殴られそうなのでここは控えておく。

伊織は何時ものツナギ姿ではなく、白いカッターシャツにジーンズというラフな格好をしており、髪型は何時ものショートポニーテールではなく、髪を下ろして帽子を被っている。

伊織にオシャレの自覚が芽生えたとは思えないが、多分夕子さんに言われて渋々着たのだろう。

 

「おら、ちびっ子共、いつまでダラけてんだ

観光はこれからなんだからちゃっちゃか歩け」

 

「あ、はい!

ほらゆーな行くよ」

 

「よっと!それじゃあ行こっか!」

 

「…………」

 

アキラは戸惑いつつ、裕奈は元気よく返事をしてついて行くが、和美はまだ考え事をしており、アキラに手を引かれ歩き始める。

 

僕は背負っているバックとは別に腰につけているポーチを確認する。

伊織がいるから安心だが、ここは『関西呪術協会』の本土である京都だ、この旅行は何が起こるか分からない。

周りの注意を怠らない、裕奈達は僕が守らなければ。

 

 





ついに来た……ついにエヴァ様のご降臨である!!

前半にちょっとだけ出てきましたが、エヴァ様がこれがどうこの作品に関わるか乞うご期待!!

エヴァ様はぁっ!!永遠の幼女であるぅっ!!!
    _  ∩
( ゚∀゚)彡 エヴァ!! エヴァ!!
 ⊂彡

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