あの後、戻ってきた明石さんにちゃんと謝り僕を今後どうするかを三峰さんが説明した。
ちなみに、明石さんには僕が元高校生だという事を話していない、何故か三峰さんがそこを省いて説明していたので、僕も言わなかった。
それから半月ほどは身体が完全に回復するまで入院し、今日はその退院の日である。
三峰さんと明石さんはあれから二日に一回くらいのペースで会っており、僕の両親と同姓同名の人を調べてきて貰ったがどれも違っていた。
僕の方でも独自で調べたいが、病院から出る事が出来ないので、ロビーや売店で売っている冊子を三峰さんか明石さんに買ってきて貰って情報収集をしているが特に変わった事はない。
それから、僕の髪がかなり伸びている事を明石さんが気付き、病院の方に部屋を借りて散髪をした。
僕も前髪が長くうっとおしく思っていたのでこれは助かった。
今では肩まで伸びていた髪はサッパリと切られ、黒髪のショーカットになっている。
前の僕も黒髪だったので違和感はないが瞳の色が前とは違い黒ではなく緑色になっていたのは驚いた。
それ以外は、三峰さんから貰った三日月が先端に付いた玩具のような杖で魔法の練習をしていた。
魔法使いが魔法を使用するいは魔法媒体が必要らしく、皆杖か三峰さんのような指輪型の媒体を使用しているそうだ。
僕も三峰さんに教えてもらった『火よ灯れ』の魔法を練習しているが全く変化がないが皆最初はそうらしい。
「お世話になりました」
担当医の先生とナースの方々にお礼をいい、三峰さんの待つロビーへと足を運ぶ。
これからすぐに麻帆良学園に向かうそうで僕もどんな所なのか内心ワクワクしている。
ロビーに着くと、迷彩柄のつなぎを着た三峰さんが自動販売機の前でお茶を飲みながらこちらに手を振ってくる。
「おはよう、三峰さん」
「おう、縁も着たことだし、ちゃっちゃか麻帆良に向かいますか
向こうに車停めてあるからそれで行くぞ」
免許持ってたんだと思い、三峰さんのあとをついて行く。
駐車場に着くと、一際目立つ車の前に三峰さんが止まる。
僕の目の前に派手にペイントされた大型のトラック(たぶん10tトラック)が病院の駐車場に強引に停まっていた。
何かの間違いかと思ったが三峰さんはトラックの鍵を開け普通に乗車する。
彼女がつなぎを着ているせいなのかその光景にあまり違和感がない。
「(やっぱり三峰さんってそっち系の仕事の人なんじゃ……)」
また思考に耽っていると、三峰さんがエンジンをかけ始めたので、これは置いていかれると思い、急いで乗車しょうとしたら身上が足りず、ジタバタしていると三峰さんが引っ張り上げてくれた事によって何とか乗車する。
音楽をかけ、車が発進する。
スピーカーからは演歌のような歌が流れ、それに合わせて三峰さんは鼻歌を歌う。
「あの…なんでトラックなんですか?もしかして三峰さんの車なんですか?」
「ん?いや、違う。
これは学園に届ける荷物がどっさり乗ってるらしいがそれしかしらん、偶々免許あったし、今日来るならついでに持って来いって言われてよ、面倒いったらありゃしねぇ
それと、これは学園のトラックだ、この痛々しい落書きは、どっかの美術系の生徒が描いたんじゃね?」
鼻歌をやめて説明してくれるが、なんで三峰さんみたいな若い女性が大型トラックの免許を持っているのかツッコミたくなる。
「あぁ、そういえば、もう一度注意しとくが、いくら魔法使いが居る麻帆良だからって、魔法の事を喋ったりするんじゃねぇぞ」
「わかってるよ、一般人の前じゃ絶対に話さないよ」
この世界では、魔法は隠蔽されるものであり、魔法使いは一般社会に溶け込み活動している。
その為、魔法をバラした魔法使いは本国(何処かは分からないが)に強制送還され、オコジョにされるらしい。
「それと、おめぇは自分が元高校生だってのも誰にも話すな」
三峰さんはハンドルを操作しながら、さっきよりも真剣に注意する。
「おめぇはただで際わけの分からねぇ事が多い
特殊な力がある事はあたし含め数人が知ってるが、この事を知ってるのは私とおめぇだけだ」
僕もそれは分かっている、子供の僕がそんな事を言っても、子供の妄言にしか思われないし、周りから気味悪がられるだけだ。
「それに、子供である事を有効に活用しろ、子供の姿をしてりゃぁ大抵の奴らは舐めてかかる
麻帆良だっていい奴ばかりとは限らねぇからな、だから注意しとけよ
……特にあの狸爺とかな」
最後方が聞こえなかったが確かに誰かれ信じ過ぎるのは注意した方がいいかもしれない。
「わかった、せっかく子供に戻ってるんだし、色々と有効活用するよ」
それを聞くと三峰さんは何も言わなくなり、再び音楽に合わせて鼻歌を歌っていた。
麻帆良学園に着くと、一番に目に留まるのは巨大な大木だった。
三峰さんは世界樹と言っていたが、そんなフィクションで出るものが本当にあるなんて、やっぱり此処は魔法使いの集まる街なのだろう。
三峰さんは学園に入ってすぐの広場にトラックを停めると、何処かに電話かけてトラックから降りた。
僕もそれに続きトラックから降りると、どうやら三峰さんはトラックを此処に放置して、学園の知り合いに取りにこされるようだ、本当にこの人は面倒くさがりである。
この学園を探検したかったが三峰さんに首根っこを掴まれ連行される。
今日本当はこの学園に来る予定はなかったが、荷物を届ける為に仕方なく来たそうだ。
ならばこれから何処へ行くのか尋ねると家に帰るそうだが、その前に明石さんの家に行くそうだ。
なんでも、三峰さんのアパートと明石さんの家は近くにあり、今日は偶にしか帰ってこない明石さんの旦那さんに僕を紹介するそうだ。
「そういえば、まだ言ってなかったが、おめぇは書類上あたしの身内になってるから名前は三峰 縁で登録されてある」
「あ、それじゃあ三峰さんが保護なんだ」
「ああ、つっても、書類上だけで別に榊原って名乗りたきゃ好きにすりゃぁいい
けどよ、書類上とはいえおめぇも一応は同じ三峰だ、ややこしくなるから下の名前で呼べ」
書類上という事は三峰さんは僕の為に態々そういった準備をしてくれたのであろう。
ならば、せっかく用意して僕を身内にいれてくれたんだ、その期待に答える為に、榊原の性を捨てた訳ではないが胸を張って三峰と名乗ろうではないか。
「ありがとう伊織さん
僕もこれからは三峰で通していくよ」
「そうかい、好きにすりゃぁいいがよ
だけど、伊織さんって…おめぇよ、親しい人間は呼び捨てにするタイプだろ?ここ数日でラフな話し方にはなってるがよ」
「そうだけど、一応親しい人でも目上の人には礼儀正しくしてるよ?
まぁ、でも呼び捨ては……善処するよ」
伊織さんには確かにお世話になってるし、何だか遠回しに呼び捨てで読んでいいって言ってるけど、やっぱりいきなり呼ぶには勇気がいるから、そこはおいおい。
「ケッ、もっと親しくなってからってか?まぁいいがよ
おっ、着いたぜ、ここが夕子の家だ」
伊織さんが足を止めたそこは特に大きい訳ではないが二階建ての庭付き一軒家だった。
明石さんはエージェントだし、旦那さんは先生やっているから結構いい家なのかも知れない。
伊織さんはインターホンを押すと、電子的なチャイムが聞こえ、家の中からはドタドタと走る音が聞こえてくる。
扉が開かれ、明石さんが出てくるかと思ったが中からは僕と同じくらいの女の子が出てきた。
女の子は僕を見てキョトンとしていたが、隣にいる伊織さんを見て満点の笑顔に変わる。
「こんにちはイオリさん!!」
「よお祐奈ちゃん、今日も元気溢れてるねぇ」
伊織さんに元気よく挨拶する、明石さんにそっくりな黒髪の短いサイドテールの女の子。
明石さんのお子さんかな?と少女を見ていると、今度は少女も僕を見つめ返してくる。
「こいつは縁だ、女みてぇな名前だが、ちゃんとした男だぜぇ」
変な紹介をする伊織さん、とても失礼である。
あんまりこういった事は得意ではないが、ここはきちんと自己紹介しなくては変な覚え方をされそうだ。
「初めまして、僕は三峰 縁、よろしくね」
僕の自己紹介に明石さんのお子さんは、伊織さんに向けたような満点の笑顔で元気一杯に自己紹介をする。
「わたしは明石 裕奈!よろしくね!!」