小麦粉使いの魔法使い   作:蛙顏の何か

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激闘の学園祭 中編②

幽鬼のごとく殺気を纏う月光は、戦闘体制をとる僕に全く警戒せず、手元の小太刀をクルクルと手で回して遊び、ニヤニヤと薄気味悪い笑顔を浮かべながら此方の様子を伺っていた。

 

「(完全に舐めてる

いや、むしろそっちの方が好都合)」

 

彼女の様な化け物じみた人間に正面切って戦いを挑む程、僕は死に急いでいない。

近衛さんを殺すことが目的と言っていたが、月光はこの場で斬殺せず、峰打ちで気絶させるだけに止まっている。

つまり、今ここでは殺せない理由があるのだ。

それがどの様な理由かは知らないがそれを利用しない手はない。

 

「(まずは月光の足元で倒れてる近衛さんと距離をとらせて、離れた所を即座に回収

あとは使えるモノを全て使ってこの場から脱出する

近衛がいるから無闇に攻撃はしてこれない筈……

出来なくても時間を稼ぐ事さえ出来れば結界に気づいた魔法先生達が駆けつけてくれる)」

 

考えを纏めると、気を練り上げ直様行動に移す。

拳に気を集中し、五発の『遠当て』を放ち、時間差で小麦粉のギロチンを射出する。

 

月光の武器は見た目通りならあの小太刀が一本、あの様な小さい刃物ではこの弾幕を防ぐ事は出来ない。

 

「なっ!!」

 

しかしその考えは甘く、伊織の拳の様に一瞬彼女の手元が見えなくなると、遠当ては真っ二つに切り裂かれ、気の弾丸はあらぬ方向飛び地面に着弾し、小麦粉のギロチンもそれと同様に二つに切り別れ、宙で霧散した。

 

「何や?これで終わりかぇ?」

 

元よりこの攻撃で月光の様な超人級の相手を倒せるなどとは思っていない。

杖や指輪を装備してない事から魔法障壁で防ぐ事はないと踏んでおり、小太刀からして剣士タイプだと予想。

このタイプは基本、魔力もしくは気を身体強化に回しての高速戦闘を得意とする。

魔力や気の練度が高い人ならば伊織の様にそれを纏った鎧で防げるが僕もあれから気の練度も上げているし、流石の伊織でも小麦粉のギロチンは避ける、それだけ僕も成長しているのだ。

故に僕の予想では避けるか、余裕をかまして防御するかのどちらかだったのだが、月光は漫画やアニメのキャラクターの様に気弾を叩き斬るなどと言う常識に喧嘩を売ったような行動を取ったのだ、驚かない方が可笑しい。

 

「(それに……どうやって、あんな刃渡りの短い短刀で両断したんだ……

ここは魔法使いなんて仮想の様な存在が居る街だ、まだ日本刀くらいの長さがあるならこんな事をする馬鹿が居ても驚かない自信はあるけど、あのな短いのでどうやって……)」

 

「ほんまに終わりなんか?つまらんなぁ、たったこれだけの事で終いなんて、この街も廃れたもんやなぁ」

 

初めは物凄い殺気を放っていた彼女だが、今はそれも治まり落胆の表情を浮かべて此方を眺めていた。

殺気が治まった事により、身体も少し軽くなり、即座に次の手を考えポーチに手を伸ばすと、突然真横から何かに強打され、ブロックの地面を転がる。

 

「(っ!奇襲!!

他にもいたのか!!)」

 

敵が1人とは限らない、常に周囲を警戒を怠るな。

伊織からの教訓の一つだが、目の前の強大な敵に集中し過ぎた。

体制を立て直し、奇襲を行った謎の相手を目視すると、その姿を見て変な声が出てしまった。

 

「着ぐるみぃっ!?」

 

「カッパー」

 

河童、日本の妖怪・伝説上の動物、または未確認動物として知られ、『河原で泳いでいると足を引っ張る』『相撲に負ければ尻子玉を抜かれる』『皿が本体』などと河原に生息するらしい日本ではメジャーな妖怪。

それが僕の目の前で、顔の前に手を広げてジョジョ立ちしているのだが、この河童、作画にとても手抜き感が見える程の巫山戯た顔をしており、どこからツッコミをして良いか分からない状況。

 

そんなふざけた顔の河童に唖然としていると、河童は瞬動を使っているのか、一瞬で月光の隣に移動し、近衛さんを抱きかかえる。

 

「御苦労さんどす、それじゃ、予定通りの場所に運んでくれやす」

 

「カッパー!」

 

「そうはさせない!!」

 

霧散した小麦粉を再びギロチンの形に再形成させる。

この小麦粉の魔術の良い所は、何度破壊されても再構築が可能な事、元の小説でも『幻想殺し』で消されたとしても、元が小麦粉なので、基礎となる小麦粉を消し去らなければ何度でも元に戻せる。

それに、伊織が調べた事によると、この小麦粉の魔術には魔力や気の類が使われていないらしい、僕も一日中使用し続けた事があるが、これが全く尽きる事がなく継続していた。

何故かは分からないが、今はそれでいい、エネルギー切れの心配なく使い続けられる。

 

今度はギロチンを小型にして三枚展開し、河童に向けて飛ばすが、月光の手元がブレ、すべてのギロチンは再び両断され霧散する。

河童も今の攻撃に警戒して距離を取り、先程まで劇を行っていたステージまで跳ぶ。

 

近衛さんとの距離は離れたがそれならそれはそれで好都合、これで本気が出せる。

現状、最も脅威的な対象は月光1人、あの河童も素早く厄介だが、あの奇襲から考えるに攻撃力はあまり無い。

ならば、月光さえどうにかすれば、まだチャンスはある。

 

ポーチの中を探り、一枚のカードを抜き取り、呪文を叫ぶ。

 

「『アデアット』!!」

 

伊織からの魔力供給のラインを繋げ、自分のサイズに合わせた『左方のテッラ』の礼服を生成し、錨の形を催した氷のイヤリング『アドリア海の指揮権』が装備される。

 

この礼服の魔法服には防御系の加護が付与されており、いくら相手が魔法剣士でもそう簡単には通せない筈だ。

 

月光はパクティオーカードを見て再度興味を持ったのか、あの恐ろしく幽鬼の様な殺気をユラユラと出し始めていた。

これ以上何かされる前に、直様伊織から魔力を供給し、アレを召喚する。

 

「こいっ!『女王艦隊』!!」

 

その言葉に従う様に錨のイヤリングは鈍く光り、ブロックの地面には巨大な魔法陣が現れ、まるで沈んだ船が浮き上がってくるかのごとく、マストの方からゆっくりとその姿を現した。

 

「おぉ!おお!おぉおっ!!

たまげたわっ!こいつはたまげたわっ!!何やこれはぁっ!!」

 

『女王艦隊』を見ても恐れる事はなく、逆に歓声を上げる月光、子供がプレゼント開ける時の様に無邪気なその表情は彼女が人間として外れたモノである事を更に強調していた。

 

『女王艦隊』の甲板に立ち、僕の目視した情報を読み取った船は倒すべき敵へとその砲身を向ける。

 

「放て」

 

その言葉と同時に、一斉に大砲は鳴り響いた。

 

『女王艦隊』は全てが氷で出来ており、搭載されている大砲も例外では無い。

氷の砲身からは、その素材と同じく氷の砲弾が射出され、止む事の無い砲撃の嵐が月光を襲う。

 

月光はニッタリと狂気的な歪んだ笑みを浮かべ、砲撃の嵐をその体全体で受けるかの様に両手を広げる。

 

「神鳴流奥義『百花繚乱』」

 

月光が何かを呟くと、小太刀を持つ右腕が再びブレた。

その瞬間、彼女に命中するコースの砲弾が次々と切り別れ、あらぬ方向に飛びブロックの地面に着弾し爆裂させる。

 

「(また両断された!

月光と距離がある砲弾まで斬ってる所を見ると、やっぱり直接切断してる訳じゃなくて、斬撃みたいなのを飛ばしてる

これじゃあ距離をあけても逃げ切れない、どうする……)」

 

砲弾だけでなく、今度は射出された船の錨までも両断する月光の対策を必死で考えていると、ステージが目に入る、砲撃は届いていないにも関わらず、何故か近衛さんを抱えたまま河童は静止していた。

 

「(何で止まってるのだ、いや、迷っているのか?

月光が攻撃されているせいなのか、砲撃が激しいせいかは分からないけど、月光が砲撃で釘付けになっている内に近衛さんを奪還して、この場から脱出すればーーー)」

 

「神鳴流奥義『斬岩剣 弍の太刀』!!」

 

河童の方に気を取られていると、月光は砲弾を捌きながら、小太刀を振り下ろし、離れた距離にいる筈の『女王艦隊』を真っ二つに叩き斬った。

 

デタラメだ、デタラメにも程がある。

飛んでくる無数の砲弾を両断するのもそうだが、ここまで大きさの違うモノを両断するなど常識を無視するにも程がある。

切り別れた船はそのまま倒れ、乗船していた僕は突然の事に対処出来ず、船から転げ落ち地面に投げたされる。

魔法服のお陰で、落下した時のダメージはなかったが、転げ落ち場所は運悪く悪魔の目の前だった。

 

「さぁ坊や、次は何や?何をしてくれるんや?」

 

「あ………ぁ……」

 

ニッタリと不気味に微笑む月光は、僕の次のアクションを期待ている様だが、僕は蛇に睨まれたカエルの様に動けずにいた。

次なんてない、あれが最後にして切り札、『女王艦隊』が効かないのなら本当になす術が無い。

喉が干上がり、体が震え、足か竦む。

まだ応援は来ないのか、そう一心に願うが、月光は小太刀を振り上げる。

 

ーーーー殺される

 

 

「じゃぁ、こぉ言うのはどぉだ?」

 

ピチャンと水の跳ねる様な音が耳にはいると、振り下ろさんとする月光の腕を何者かが後ろから掴む。

月光も突然の事に後ろを振り向こうとするが今度は頭を掴まれ、そのまま地面の叩き突きつける。

月光の頭はブロックの地面に沈む程埋まり、周りの地面も盛大に地割れを起こしていた。

襲撃者は倒れ伏せる月光を踏み、僕の方に歩み寄ると手を差し伸べてくる。

 

「たくよぉ、おめぇは行く先々で事件に巻き込まれやがって

何なんだその無駄な主人公体質はよ」

 

「伊織!」

 

謎の襲撃者、伊織の手を取り起き上がる。

せっかくの麻帆良祭にも関わらず、何時もの様にお洒落する気ゼロのつなぎ姿の家族を見て、安堵の息を漏らす。

 

「痛たた……

ほんまに酷いわぁ、いきなり地面にキッスさせるなんて、相も変わらず鬼畜やわぁ」

 

しかしそれもつかの間、地面にめり込んでいた月光は起き上がり、服に付いた砂をはたき落としていた。

見れば、顔面が潰れてもおかしく無い攻撃にも関わらず、砂を被っているだけで目立った外傷はなく、その姿は健全だった。

 

化け物か、こいつは……

 

「ちっ、対物理用の護符を持ってやがったか、本当しつこいことで……」

 

「いやいや、大量に持ってきとったんやけど、今ので三分の一近くオシャカやわぁ

ほんま、やってくれたわ」

 

月光が小太刀を構えると、伊織は僕を守る様に前に出て相手を見据える。

ここにきて漸く月光は構えをとった、つまり、彼女も本気と言うことだ。

 

「よぉ、何年ぶりだ?あんたと顔を会わせんのは」

 

「せやなぁ、ずいぶんとご無沙汰やったなぁ

あの頃が懐かしいわ」

 

何だ、どういう事だ?この二人は知り合いなのか?

突然の事に困惑していると、伊織と月光は話を続ける。

 

「京都で何があった、何で人斬りに戻った、それともこれは京都の意思なのか?」

 

「質問が多いなぁ、久しぶりに会って聞く台詞がそれかいな」

 

 

「答えろ」

 

 

月光のやる気の無い返しに、伊織は相手を威圧する。

 

「そう粋がってもウチには効かへんで

それに、京都がなんやら、目的がどうやら、そんなもんは関係あらへんやろ」

 

「詠春さんとの誓いはどうした、あんたを慕ってた教え子達は」

 

「それも関係あらへんことや、ウチにはもう、何も響かへん

 

ーーーウチはただ、人を斬りたいだけや」

 

小太刀を自分の舌に這わせ、明らかに異常な眼つきに背筋が再度凍った。

人が斬りたい、ただそれだけの冷たくも鋭い言霊は、今まで彼女から受けたどの恐怖感にも勝るものであった。

 

「……縁、下がってろ」

 

伊織はそう言うと、自分の影を伸ばし、自分の両手に集めると手袋の形に形成する。

 

「こいつは、あたしが倒す」

 

 

 




宿題は、何故あるのだろう………なんて不毛な事を考える私です( ̄▽ ̄)


おはようの人はおはよう、こんばんはの人はこんばんは、最近更新の速度が落ち始めた作者です。

自分では、一週間に一回くらいと心がけているのですが、なかなか更新出来ません。
それはきっと、最近買った『Fate/EXTRA』のせいでは無いと弁明したい私です。
これからもなるべく早く更新していきたいと思いますので、読者の皆様も、どうか生温かい目で見守ってくださいませ。


まぁ、それは話はおいて置いて、主人公は遅れてやってくる。やっぱり伊織さん、貴方が主人公ですか……違いますけど。
今回は月光の化け物っぷりと、縁のビビりっぷりが皆様に伝わっていれば幸いです。
そして伊織と月光、何だか知り合いの様ですが、それは次の話に。





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