小麦粉使いの魔法使い   作:蛙顏の何か

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前回のサブタイトルを変更いたしました。タイトルがなかなか定まらず申し訳ありません。


激闘の学園祭 中編①

「いやぁ、ほんまにたすかったわ、ウチも一人で探したんやけど、この学校広過ぎてなかなか見つからへんから困ってたんよ」

 

「そうだよね、初めて来た人は絶対に迷うよね」

 

裕奈は広場で出会った和服美少女の近衛 このかさんと雑談をしながら学園長室を目指していた。

 

近衛と言う苗字に何処か聞き覚えがある様な気がしていると和美が「学園長のお孫さん?」と尋ねたら本人の近衛さんは肯定した。

あの妖怪の様な学園長とは似てもに付かない程の整った容姿、きっとお婆さんの方の血を引いたのであろう。

 

「でもなんで世界樹前広場に居たの?」

 

「ウチ、今年の秋からこの学園に入学するんよ、今日はそのした見で来たんや、おじーちゃんが駅前に迎えの人を送るって言うてたんやけど、一時間経っても来んのよ

電話しても出へんから人に聞いて自分で探しても、なかなか見つからんかったんや

だから、ほんまに助かったわー」

 

のほほんとした口調なのであまり困っている様には見えないが、自分で探しに出るとはなかなか行動力のあるお嬢さんの様だ。

 

 

「(学園長のお孫さんならこの子も魔法使いかな?でも裕奈みたいに秘密にしてる所もあるから迂闊には聞けないよねぇ)」

 

それに魔法使いなら電話じゃなくても念話で直接語りかければいいから態々探しに出る必要もない。

でも学園長ってこの学園では最強クラスらしいから近衛さんももしかしたらかなり凄い魔法の素養を秘めているかも知れない。

 

「それにしてもこの学校はほんまに凄いなぁ、地域のお祭りよりも賑わっとる」

 

「私も去年は麻帆良祭の盛大さに圧倒されたねぇ、金のかけ方も尋常じゃないし」

 

「ほんまやなぁ、学校のお祭りでここまで凄いのは見たことあらへん、お空にあんなの飛んどるなんて初めてや」

 

近衛さんが指差す先には『麻帆良祭実行委員会』とプリントされた飛行船が浮遊しており、学園周辺を飛行し続けている。

 

確かに僕も去年はこの学園の規模には驚かされたものだ。

昔、麻帆良を『禁書目録』の『学園都市』と比喩したこともあったがあの様に飛行船が飛んでいると、ますますその様に見えてくる。

 

それから四人で雑談をしながらも漸く女子中等部エリアに到着し、子供の脚では流石にここまでの距離を歩くのでも一苦労であり、和美と近衛さんは体力が消耗しておりもうヘロヘロ。

二人をベンチに座らせ、僕と裕奈と二人で飲み物を買いに行く事にした。

 

「裕奈も近衛さんと大分話してたのによく疲れないね、和美なんてダウンしてたのに」

 

「元気が一番だからね!まだまだ喋っていられるよ

あと三時間は余裕だよ!」

 

元より裕奈が体育会系と言うのもあるが、やはり夕子さんの子供だ、基礎能力は他の人達よりもずば抜けている。

 

女の子が二人揃えば女々しい、三人揃えは姦しいと言うがこの三人は正にそれだ。

普段は近衛さんの位置にはアキラが居るのだが、彼女は寡黙でありどちらかと言えば、このメンバーのストッパー的存在なので、実質裕奈と和美だけで姦しい空間を作り上げて居る。

 

「(やっぱり女の子が集まると凄いパワーだなぁ

小学生でこれだったら中学生になったら本当にどうなるんだろう

手がつけられそうにないなぁ……)」

 

アニメや僅かに残った高校時代からの記憶を頼りにしても、今の裕奈達の騒がしさは凄まじい。

未来に100%近い確率で起こるであろう可能性を考え、とりあえず屋台で買ったジュースを飲み現実逃避する。

『シナモンサイダー』か……新しい……

 

麻帆良特有の奇妙なジュースを購入して、和美達の居るベンチに戻る途中、直ぐ近くの広場では戦隊物の劇が行われており『まほレンジャー』なるものが達の決めポーズと同時に舞台用のカラー煙幕が爆発する。

そんななんちゃって戦隊を流す様に見てベンチに戻ると、和美が居らず近衛さんだけがベンチに背を預け足をブラブラと揺らしていた。

 

「あれ?和美は?」

 

「え?おかしいなぁ?さっきまでそのに居ったんやけど……トイレかなぁ」

 

「まぁ、直ぐに帰ってくるよ

それよりどれがいい?『銀杏ミルク』に『抹茶キャロット』があるよ」

 

「どれも変なのばっかりやっ!!普通にお茶とかなかったん!?」

 

麻帆良に常識は通用しない、お茶も売ってあったがその商品名が『ドリアン茶』では買う気が失せてしまう。

まだ買ってきたこの二つはマシな方だ。

 

「(そう言えば『学園都市』にもこんな変な飲料品があったよね『ヤシの実サイダー』とか『きな粉練乳』

まだあっちの方が良かったかも……)」

 

自分のはもう口を付けてしまってあるので、まだ開けてない裕奈のジュースと交換して貰おうと隣を見ると、先程まで居た裕奈の姿はなかった。

ここまで来たのは覚えているので、近衛さんと話してる途中で裕奈もお花を摘みに行って居るのかと思ったが、突然違和感を感じ周りを見渡した。

 

辺りには先程のカラー煙幕とは違い、本物の真っ白な霧が辺りを漂い、

隣に居た裕奈もそうだが、広場に集まった人達、先程まで盛り上がっていた舞台にも静まり返り人っ子一人誰も居ない状態だった。

 

「(おかしい、さっきまであんなに人が居たはずなのに…

舞台の演出?いや、そもそもこれだけ集まった人が一丸となって居なくなるなんてあり得ないし、人が埋め尽くされる程人が居る麻帆良祭に通行人が居ないなんておかしい

それにこの霧、肌に当たる感じや臭いが異質過ぎる、睡眠魔法の『眠りの霧』じゃないみたいだけど、何なんだこれは……)」

 

「三峰くん、どないしたん?」

 

突然の状況に思考に耽っていると近衛さんの言葉に意識が戻る。

そう言えば、なんで近衛さんは居るんだ?

僕の場合はそういった訓練も受けているし、結界の様な空間系の魔法なら首に掛けて居る指輪の様な強力な魔法具で引っかかってもおかしくはない。

だが、近衛さんは何故だ?見た所魔法具は持っていない様に見えるが、この子は学園長のお孫さんだ。もしかしたら潜在能力が高いせいで引っかかってしまったのかも知れない。

 

何が起こっているかは分からないが、この場に長居するのはマズイと思い、近衛さんの手を取り走り出そうとすると、コツコツと靴を鳴らしながから一人の女性が霧の中から現れた。

 

黒を基準としたヒラヒラのゴスロリ服に年齢は伊織や夕子さんと同じくらいだろうか、やや垂れ目な目元に丸い眼鏡を掛けた女性の両腕にはレース状の黒い長手袋がされており、その手には抜き身の短刀が一本握られ、もう片方には不釣り合いな和風の箱を脇に抱えて居た。

洋風な服と和風な持ち物でミスマッチに見えるが、何故かそれが自然に見えてしまう程妖美な雰囲気を漂わせる女性は一歩一歩、ゆっくりと此方に近づいてくる。

 

「おや、『人払い』にかからんかった子がおるみたいやなぁ

魔法教師、もしくはこのかお嬢様並の魔力を持っとらへんと術中にはまる筈なんやけどなぁ

なんや不良品かいな、高い銭出して買おたのに、これは京都に帰ったら首を跳ねんといかへんな」

 

近衛さんと同じ京都弁で、とても物騒な事を言いながら、ゴスロリ女性は懐から一枚のお札の様な漢字や模様の描かれた紙切れを捨て、妖気な笑顔で此方に会釈する。

 

「どうも、月光いいます、よろしゅう

このかお嬢様とは何度かお会いした事がありますゆえ、お久しぶりですぅ」

 

月光(げっこう)と名乗った女性は近衛さんと知り合いの様だが、近衛さん自身は戸惑いを表しており彼女の事は知らない様だ。

 

「知らないのも無理ないわ、このかお嬢様はその頃赤ん坊やったさかいなぁ

ウチは詠春はんの昔馴染みや」

 

「お父様のお友達なん?」

 

どうも詠春と言う人は近衛さんの父親らしく、近衛さんとそれを聞いて安心した様だが、僕は未だに一歩も動けず、一言も発せずにいた。

妖美な雰囲気や抜き身の短刀には然程どうでもいい、問題なのは彼女から発せられる静かでとても冷たく蛇の様に全身を締め上げる様な殺気。

今まで戦って来た者達とは比べ物にならない程の死の恐怖を覚える。

今まで死にそうになった事など何回かあった、伊織の訓練、谷底への落下、ドラゴンとの逃走、そのどれにも勝るこの威圧感に近衛さんは全く気づく事なく、二人は話を続ける。

 

「実はウチ、このかお嬢様にどうしてもお願いしたい事があり、ここに参ったんですわ」

 

「ウチにお願いしたい事?」

 

「ええ、簡単な事です」

 

可愛らしく首を傾げて復唱する近衛さんに、ニッコリと微笑み掛ける月光の姿に僕は身震いした。

まるで、悪魔が微笑み掛けている様な、そんな恐ろしい姿に、僕の目には写っていた。

そして次の瞬間、目の前から月光が消えた。

 

 

「ーーー死んでくれますやろか?」

 

 

冷徹な刃の様な無感情な言葉が背後から聞こえると、隣に居る近衛さんの首元に一閃瞬く。

それは先程から持っていた抜き身の短刀、その目にも止まらぬ一太刀は一瞬にして瞬く光を錯覚させる程の神速の一閃、近衛さんはその場に倒れ伏せる。

首が繋がっている所を確認するに、今の一太刀は峰打ちだったと推測する。

 

そして、金縛りにあっていた僕の体は咄嗟に動き、近衛さんの真後ろに居る月光に蹴りを放つが、彼女は一歩後ろに下がるだけの動作で此方の攻撃を難なく回避した。

 

「(瞬動!?いや、予備動作もなく、尚且つここまで無音で移動したと言う事は、これは最早『縮地』の領域!!)」

 

『瞬動』は気や魔力を使用して行う瞬間跳躍術だが、その目指す所は『縮地』

読んで字の如く地を縮めたかの様な完全瞬間移動、『瞬動』はエネルギーを足元で爆発させて飛ぶ。飛ぶ瞬間を『入り』、着地を『抜き』と言われている。

目にも止まらぬ速さがいるのは当たり前だが、『縮地』には静かで、尚且つ予備動作が全くない状態が理想だ。

つまりこの月光と言う女性は、その『縮地』レベルの瞬動の使い手なのだ。

 

瞬動の使い方でその人間の強さはだいたい分かる。僕の記憶では、これ程までのレベルの瞬動が出来る人間は伊織しか知らない。

つまりこの人は伊織レベルの戦闘力があると考えた方がいい。正直最悪だ。

 

「おや、足がすくんで動けへんと思うてたんやけど、なかなか元気そうやないか」

 

月光は漸く此方に興味を持った様だが、今だに伊織に一撃入れられない僕が逆立ちしたってこんな相手に勝てる訳がない。

 

地面に倒れている近衛さんを見る。

死んではいないようで首元を殴られ気絶している様だ。

相手の目的はどうやら近衛さんのようであり、彼女を見捨てれば、自分は逃げ仰せる自信はある。

今日知り合ったばかりの娘で、ただ道を案内しただけの関係、命を張って助ける義理なんてない。ないのだがーーーー

 

 

「(だからと言って見捨てられない、見捨てていい道理にはならない!!

僕の知ってるヒーロー達は、こんな事で見捨てはしない!!!)」

 

誰にも教えられなくても、自身の内から湧く感情に従い真っ直ぐ進もうとするヒーロー。

 

過去に大きな過ちを犯しそれに苦悩しながらも進むヒーロー

 

誰にも選ばれず、何の資質がなくても、たった1人の大事な者の為になったヒーロー

 

そのどれにも僕は当てはまらない、なる事もできない。

でも、伊織は言ってくれた、なりたい自分になってみろ、目指してみろと。

 

記憶を失い続けている僕はもう、どんな人間だったかも思い出せなくなって来ている。

『榊原 縁』は死に、『三峰 縁』になり始めている。

いつしか、何もかも失ってしまうかも知れない、記憶のない抜け殻になってしまうかもしれない。

 

それなら、悔いのない人生を。

 

心残りのない人生を。

 

己の気持ち(正義)に正直にいる事こそ僕の目指す理想、『なりたい自分』だ。

 

ヒーロー気取りの餓鬼だと言われてもいい、押し売りの偽善者だと言われてもいい。

 

たとえどんなに相手が強くても関係ない。

己の弱き幻想(心)を打ち砕け。

相反する幻想(思想)を打ち砕け。

 

 

足の震えは止まらない、体にかかる重圧は柔がない。

それでも、己の信念の為に拳を握り、ポーチから小麦粉を取り出しギロチンの形に形成する。

 

「その幻想を、ぶち殺す」

 

 

 

 

 

 

 




《禁書未読者の為の参考》
誰にも教えられなくても、自身の内から湧く感情に従い真っ直ぐ進もうとするヒーロー『上条 当麻』

過去に大きな過ちを犯しそれに苦悩しながらも進むヒーロー『一方通行』

誰にも選ばれず、何の資質がなくても、たった1人の大事な者の為になったヒーロー『浜面 仕上』

アニメしか観てない人は浜面の事を鼻血の人としか覚えてないかも知れませんが、まぁ、だいたいそうです。
彼はバニー好きのリア充ですが男の中の男です。


今回最後の方は禁書目録の話や縁の記憶の話になっています。
伊織のお陰で如何にか立ち直れましたが、それでも彼の中では簡単に解決する様な話ではありません。いったい何が原因なのであろうか……。
まぁ、禁書が混じってしまうのは仕方ありません。元よりそういう二次創作ですから……

そして遂に姿を表した神鳴流剣士『月光』
彼女の服装や流派で分かる人にはこの人の正体が分かる筈です。


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