世界樹には色々な噂がある。
人類が生まれる前から存在したとか、大樹の中には魔王が封印されてるとか、あの葉っぱを使えば死者蘇生が出来るなどあるが、麻帆良祭の時になると、こんな噂がある。
あの木の下で告白した物は末長く結ばれる。
そんな学校の七不思議なら何処でもある様な噂だが、ここは魔法使いの街『麻帆良学園』そんな噂程度の話でも、知っている人が聞けばそれが誠の様に聞こえてしまう。
「(でも世界樹って何だか魔力を帯びてるんだよねー
それに学園祭の時だけその量が増えてるっぽいし
やっぱり何かあるのかなこの木、葉っぱ一枚くらい持って帰ろうかな
まぁ、死者蘇生は無いだろうけど、それでも何かありそうだから今度こっそり頂戴しよう)」
そんな悪巧みを考えていると、直ぐ近くから男性の雄叫びが響いてきた。
今僕は世界樹前広場の階段に座っており、和美は広場に居る人達に取材、裕奈はお花を摘みに(トイレ)行っていた。
ここ、世界樹前広場は告白の名所であり、先程の男性の雄叫びは告白に成功したのだろう。リア充め。
雄叫びを上げた彼だけではない、他にも多数の男女が集まっており、ねるとんパーティーなんてやってる人達もいる。リア充共め。
そんなピンク色の雰囲気に包まれた空間に一人で居続けるのは苦痛である、早く二人のどちらかが帰ってこないかと空を見上げていると、裕奈が大声で僕の名前を呼び走ってくる。
その声に周りのカップルも気付き、僕達が小さなカップルだと思ったのか微笑ましい笑顔をしていた。
「お帰り、和美はまだ取材してるからもう暫くはーーーー!!」
言葉を続けようと思ったが、走ってきた裕奈の姿を見て驚いた。
いつもの様に動き易い服装をしているのだが、彼女の頭に付けたある物に目を奪われる。
「どお?ゆかり、似合ってる?」
それは猫耳だった。裕奈の黒髪と同じく黒い毛並みの猫耳を頭に付けており、ズボンからは尻尾が見えている。
「か…可愛い!可愛いよぉ裕奈!」
「え!?本当!!本当に可愛い!?」
「うん、可愛い!超可愛いよ裕奈!」
「エヘヘ、可愛いかぁ」
頬を赤く染め照れ臭そうに頬をかく裕奈は、今度は思い出したかの様に手に持っているもう一つの猫耳グッズを僕に渡す。
この猫耳は学園祭にいる生徒の大半が付けており、大掛かりな仮装をしているとは違い、こういったお手軽な仮装が人気でもある。
多分裕奈もお花を摘みに行った時に何処かの屋台で買ったのであろう。
裕奈から貰った猫耳装備を遠慮なく貰い、何の躊躇もなく付ける。
僕の黒髪に合わせた猫耳は長年の相棒の様に頭にフィットしており、近くの噴水で自分の姿を確認すると我ながら似合っており、裕奈と並べは二人が兄妹の様に見えるかもしれない。
やっぱりニャンコ最高だね!!コスプレに興味はなかったけどなかなかいい物だ、漫画やアニメのコスプレキャラ達の気持ちが何だかわかったような気がする。
気分が高まり、テンション上げ上げで裕奈と戯れていると和美が取材から帰ってきた。
変に盛り上がっている僕達を見て若干顔を引きつらせているが、僕達はそんな事は気にせずに和美の分の猫耳を渡すと丁重にお断りされた。残念。
「取材の成果はどうだったの?」
テンションが戻ってきたところで、和美に今日の収穫を聞いてみるとメモ帳にびっしりと成果の数々が書かれていた。
メモ帳には、どの様な台詞で告白したのかや、知り合ってどれくらいなどと、かなり込み入った事も書かれており、相手の方もよく話してくれたと思うし、こんな事まで聞き出した和美のパパラッチ根性もたいしたものだ。
「ここに居るみんな世界樹のパワーに肖って、告白を成功させてるみたいだね
フラれた人は今のところ一人も居ないみたいだし、この噂は本当かもしれないね」
「(そんなに凄いのか……やっぱり世界樹が魔力を帯びているのと関係あるのかな?
それともただ単に噂のお陰で成功してるだけ?
でも麻帆良って、顔がいい人や性格がいい人が多いから単に実力かも)」
やっぱり麻帆良はリア充の街なのか…末長く爆発して下さい。
「でもスクープとしてはいいと思うけど、私はどうかと思うんだよねー」
和美はメモ帳を閉じ、広場のカップル達を見た後、世界樹を見据える。
「パワースポットに肖って告白するのは良いと思うよ、それで告白する勇気を貰った人だって居ると思う
でも、もしその噂を知っていてその場の流れだけで付き合う事になってしまったら、そのカップルって続くのかな?
『末長く結ばれる』なんて噂を信じて、その人を運命の人だと勘違いしたら?
私はゴメンだね、私ならそんな物には頼らない、そんな物で自分の気持ちは左右されない」
確かに、和美の言っている事は正しいが、それは和美の意見だ。
皆が皆、和美の様な強い意思や思いを持っているとは限らないし、そう言った場所の方がロマンを感じる人だって多くいるだろう。
十人十色の好みがあり、百人百通りの気持ちがある。
和美が言う様に、流れだけで付き合って、別れてしまうカップルも居れば、案外そのまま続くカップルも居るだろう。
結局分からないのだ、人の好きか嫌いかなんて、世界には数多の男女が居る、誰が誰と合って誰と付き合うかなんてそれこそ星の数程あるのだから。
「それじゃあ、和美はどうしたいの?和美だったらどんな風にどんな場合でそういう事したいの?」
「私?そうだね、私だったら二人っきりの場所が良いね
ほら、よくあるじゃん、夕日の見えるホテルのスイートルームでとか
そんな感じ、私は夜の方が良いけど」
和美はさり気なく此方に視線を向け、僕の腕を絡める様に抱きついてきた。
「まぁ、これは私の意見だよ、誰かに強要したりもしないし、その人の美学を否定したりもしない、ただ、これが私の好み、私の理想。
でも、『二人っきりでホテルのスイートルーム』なんて考えた人もなかなか策士だよね、もし断られてもその場で既成事実を作ればいいんだし」
この娘なに考えてるだ!?アダルトなネタは禁止だよぉ!!せっかく真面目な雰囲気で結構格好良いと思ったのに台無しだよっ!!
でもホテルに一緒に行く人なんて、その気がある人でないと行かないのでは?などと考えていると、和美は腕から離れ、「期待してるよ」と言って僕の肩をポンポンと軽く叩く。
裕奈の方は、先程からの会話について来れていないのか、何だか間の抜けた顔で此方を見ている。やはり裕奈にはこういった話はまだ早いよね。
とりあえず和美の取材が終わったので、再び祭りを観て回ろうと思い、広場の階段を降りると目の前に和服を着た少女が立ち塞がった。
「あのぉ、すみませーん、ちょっとお尋ねしたいんですけどぉ」
何だかホンワカした口調の…大阪弁?いや、京都かな?そんな感じの訛り混じりの僕達と同じくらい年の少女は尋ねてきた。
アキラの様に長い黒髪だが、この少女はパッツン髪であり、とても和服が似合っており、黙っていれば日本人形の様な可憐な少女だった。
タカミチと別れたあたし達は、現状の確認をしていた。
あの後、入ってきた通信により侵入者の情報が提示されたが問題が発生した。
外見はあたし達と同じくらいの歳で、眼鏡を掛けた女性、服装は黒が主体のフリフリゴスロリ服、武器は小太刀が一本、傍には不釣り合いな和紙貼り箱を持っていたと言う。
服はかなり目立ちそうだが、この学園祭時期には仮装した学生が多く、ゴスロリ服は珍しくない。
それに、あの『吸血鬼の真相』もそんな服が好きだったしな、間違って攻撃したら洒落にならないので外見だけでは判断し辛い。
そして侵入者の武器や『魔法を斬った』『魔力ではなく気を使用していた』などと言う証言から基づき、相手は『神鳴流』だと判定した。
別にこの程度なら問題ではない、『神鳴流』ならタカミチを含め数人の魔法先生でも対処出来るが、傍には持っていた物に問題があった。
「『玉手箱』……ねぇ」
『玉手箱』、浦島太郎の物語で出てくる竜宮城で乙姫に貰った和紙貼りの箱。
その中には己が竜宮城で過ごした時の時間のズレが収納されており、それ浴びた浦島太郎は爺さんになったと言う箱だ。
他にも浦島太郎には色んなバリエーションの違う話もあるが、どれも『玉手箱』に入っているのはろくな物ではない。
そんなおとぎ話の物を相手さんは持っているかも知れないと言うのが麻帆良の考えだった。
正直アホ臭いと思うが、あたしも京都の『関西呪術協会』でそんな物が研究されていると言う話は聞いた事がある。
『時間の収納』それ程までの強力な呪具、そんな物を再現出来たのだとしたら核ミサイルより強力であり、『関西呪術協会』からして見れば喉から手が出る程欲しいだろう。
そして侵入者はそれを持ってきた、『時間の収納』が出来る程の呪具なのだ、いったいどんな物を居れてきているのか検討も付かない。
故に、今回はあたしに連絡がきたと言う訳だ。
「まぁ、確かにあたしは『呪いの類』が効かねぇが、どんな物が来るか解んねぇのにその対処に行かせるか普通?流石のあたしでも事象とか収納されてたらどうしようもねぇぞ」
「だから私がバックアップするのよ、学園の魔法先生達の殆どは敵を逃がさない様に学園の結界を固めてるし、タカミチ君や手練れの魔法先生達も相手の捜索に出てくれてるわ」
今のあたし達は、索敵は魔法先生共に任せ、夕子は探知魔法で裕奈ちゃん達を探している。
あたしが念話で縁と連絡を取ってもいいが、その場合だと侵入者に割り込みを掛けられる恐れがある。だから学園の連絡も電子精霊の回線から行われているのだが
、縁は魔法が苦手であり電子精霊の回線なんて持っている訳が無いので夕子が探すことになっている。
因みにあたしはいつでも出られる様に『バイク』の点検をして準備をしているが、正直気が重い。
『神鳴流』はそこらの剣士とは訳が違う、鉄を斬り、大岩を斬り、終いにはこの世の者でないものまで斬り伏せる。
しかも奴らには飛び道具が効かない、自分の射程距離に入る物は全て真っ二つにするなどと、漫画から出て来たようなデタラメな奴らばかりだ。
そして夕子のガンナータイプ、『神鳴流』とは相性が悪過ぎるのだ。
「(いくらあたしが最強クラスでも、今回は不確定要素が多すぎる
『玉手箱』なんて信じるつもりはねぇが、戦場ではあらゆる可能性を視野に置かなくちゃならねぇ
一瞬の油断が命取りだ)」
故に手札は多い方がいい、放っておいた不確定要素で逆転されたなんて、戦争の時代にはよくある事。
まぁ、昔はそんな不確定要素も潰すバグ野郎共が大勢居たがな。
如何にか夕子の攻撃を通す様にしたいが、夕子の魔法拳銃では火力が足りない。
今回は緊急事態なので、仕方ないと思い、自分の影の中に手を突っ込み、少し探ると水道管の様なデカイ筒状の銃を取り出す。
「なに…それ…」
いきなりこんな物を取り出し、空いた口が塞がらない夕子にあたしは自慢気に銃の説明をする。
「砲身長2メートル口径30ミリ対化物用魔導砲『ハルコンネン・改』
因みに弾頭は魔導式爆裂徹鋼焼夷弾を使用、これでおめぇでも神鳴流の剣士に届くはずだ」
「いやいやいや!届く以前にこんなので撃ったら粉々になるわっ!!だいたいこんなの人間に撃っていい物じゃないでしょ!!
って言うか私が使うのそれ!!?」
「主力戦車を除く全ての地上・航空兵器を撃破可能らしいからな
それに『神鳴流』相手に人間だとは思わねぇ方がいいぜ、あいつら化け物みてぇに強いから
まっ、あたしにとっちゃ屁でもねぇがな」
あたしに陰陽術を教えた師もアホみたいに強い神鳴流剣士だったので奴らの化け物性は嫌と言うほど知っている。
夕子に『ハルコンネン・改』を渡すとよろめきながらも銃(砲)を受け取り、身体強化魔法を使い構えるとそれなりに様になっていた。
流石は夕子、婦警ドラキュリーナ顔負けの銃さばきだな。
「…こんな物何処で手にいれたのよ」
「旧世界魔法通販サイト『アマゾネス』で買った」
「嘘おっしゃい」と呆れながら夕子はあたしに銃を渡す。
本当何だけどなぁ、アニメの影響で買ったのはいいが使い道がなく倉庫行きになっていて困っていたのだが、まさかこんな所で役に立つとは思わなかった。
『ハルコンネン・改』を影の倉庫に直していると、夕子の探知魔法に反応があったのか真剣な顔つきになる。
「二人を見つけたわ、女子中等部エリアに居るみたい」
「了解、そんじゃかっ飛ばして行くぜ!!」
『バイク』に跨り、夕子が後ろにしがみ付いて居る事を確認すると、すぐに発進する。
物凄い早さで通行人を避けながら、あたし達は縁達の居る女子中等部エリアへと向かった。
さり気なく縁に告白のシチュエーションを暴露する和美、やっぱり主人はゆかりんだった、君こそ爆発しろ。
好きなアニメのグッズを買っても、使い道がなく押入れ行きって良くありますよね。
そしてやはり三話で纏まる訳がなかったので次回は中編です。本当にすみません(ーー;)