相変わらず暗い雰囲気の中、僕は俯き、明石さんはお粥をスプーンですくって僕の目の前で静止していた。
あのあと、黒髪の女性改めて明石 夕子(あかし ゆうこ)さんが自己紹介し、僕も名前だけは言った。
明石さんは僕にお粥を食べさせようとしているがとてもじゃないが食欲が出ない。
そんななんとも言えない雰囲気に明石さんが耐えかねていると、再び病室の扉が開き、三峰さんが入ってきた。
「わりぃ夕子、戻ってきて早々だがちょっと席外してくれねぇか?ちょっとこの餓鬼と二人で話がしたい」
「…うん、わかった…」
若干涙目になりながら退出する明石さん。
三峰さんは先ほどまで明石さんが座っていた椅子に腰掛ける。
「なぁ縁、おめぇ魔法って知ってるか?」
いきなり、ファンタジーな事を言ってくる三峰さん。
魔法といったら、良く漫画やアニメ、映画でも有名なものもあり、知らない人間などいないだろう。
しかし、僕が魔法で一番に思い出すのはあの三峰さんの拳から出す弾丸、そしてローブを着た魔法使いのような奴。
「ないのか?男だったら中二病だった頃があるだろ?
我こそは、伝説のダークフレイムマスターなり〜とかよぉ」
「知ってますよ、フィクションの世界の魔法ですけど」
確かに、僕にも中二病だった頃があったさ、今思えばあの頃の自分をブン殴ってやりたいくらいの黒歴史時代……今思い出しただけでも恥ずかしくなる、なぜやってしまったんだエターナルフォースブリザード。
「この世界には魔法が実現するほらこんな風に
火よ灯れ」
すると、三峰さんの手のひらにロウソクの灯りくらい火がフヨフヨと浮いおりその灯りは次第に増えていきお手玉のように手で回し始めた。
あの時の光る弾丸を見た後、この光景を見てもやはり唖然してしまう。
これが魔法、物語の中の空想をこの人は再現しているのだ。
「まぁ、あたしは魔法拳士だがそこはいい、
縁、おめぇが監禁されてたあの施設は特殊な道具や動物、そして人を集めて研究する所だ、非合法だがな」
三峰さんは灯りを握り潰し、僕の捕まってた場所の話をする。
どうも、三峰さんの所属している組織の指令でその施設の制圧と分析をしていて僕を見つけたそうだが、どうやら、僕は何か変わった子供らしく、そのせいでそこに居たそうだが、生憎僕の身体かどうかも怪しいのこの身体のことなんてわかるはずがない。
「一応、あたしの所属している組織にはまだおめぇの事を詳しく話してねぇが、どの道変わった力があるなら普通の生活なんて出来ねぇ
そこで、優しい優しい伊織さんは、おめぇに三つの道を用意してやれる」
優しいの部分を強調して言う三峰さんは、三本の指を立て話を続ける。
「一つは、このまま魔法の記憶を消してお前の家とやらに帰ること
まぁ、お前の家や家族がいるかどうかも怪しいからこれは望み薄だし、特殊な力を失う訳でもねぇからこれは問題の先延ばしにしかならねぇから、あんまりお勧めはしねぇ」
三峰さんの残酷な言葉にまた俯いてしまうが、三峰さんはそのまま話を続ける。
「二つ目は、このまま何もせず、てめぇを孤児院にブチ込む
これはあたし的には一番楽だな」
再び言われる酷い物言いに、もう話を聞きたくなくなってくる。
そんなに嫌ならもう帰って欲しかったし、正直今は一人にして欲しかった。
「まぁ最後まで聞け
三つ目は、あたしと一緒に魔法使いを集めている麻帆良学園に行くか、ここに居ればおめぇを狙ってくる奴がいても早々近づけねぇし、ここでおめぇのことをゆっくりで調べていけばいいしな
あたしならこれにするけどな」
あからさまに三つ目の選択肢を勧めてくる三峰さん。
もしかしたら、家族に会えないかもしれないという事をあのキツい言い方をして受け入れさせようとしているのかもしれない。
「以上があたしの用意した選択肢だ、必ずしもこれのどれかを選べとは言わねぇがな
そんじゃ、答えを聞こうか?」
「…今、答えなくちゃいけませんか?」
「そうだ今答えろ、高校生っつうならそれくらい自分で決められるだろ?」
「………」
「答えねぇなら選択しないとみなすぜ」
返事を急かす三峰さんに僕は黙っしまう。
この選択肢は明らかに三峰さんについて行った方がいいのは分かる、僕だって家族に会いたし、少なかったけど友達にも会いた。
だから、一つだけ、僕は三峰さんに質問した。
「…三峰さんは、なんで見ず知らずの僕に親切にしてくれるんですか?」
僕は疑問に思っていた、確かにこの人はいい人だが、この短い時間でも分かるように、この人はかなり面倒くさがりだ。
僕にここまでするこの人の行動に疑問に思わずにはいられなかった。
「あ?んなもん、自分が態々助けてやった餓鬼がその辺で野垂れ死ぬのが目覚めの悪いだけだ
だからてめぇの為じゃねぇ、自分の自己満足の為だよ」
「…それだけ…ですか?」
やっぱり口が悪いが、照れ隠しなのか少し顔を赤くしながらこちらを睨む。
この人って、もしかするとツンデレなだけなのかもしれない。
そんな三峰さんの姿を見て僕は少し笑ってしまった。
「なにてめぇ笑ってやがるんだっ!」
笑っている僕を見て、三峰さんは顔を真っ赤にして怒る。
いつまでも暗い考えをしていてはいけない、家族に会う事を諦めた訳ではないが、僕も前に進まなくてはいけない。
「あの!三峰さん!」
「たく、なんだよ?」
僕は三峰さんにまた頭を下げる、今度も感謝の気持ちを込めて、これからの意気込みも込めて、この何も分からない、不安になる心に負けないように精一杯の笑顔で前を見る。
「これから!よろしくお願い申し上げます!」