どうにかウイルスが拡散する前に、瀬流彦さんに空間封印してもらい、通報により駆けつけた魔法先生に後を引き継ぐ事になった。
「君も厄介事に巻き込まれる事が多いね」
「本当にすいません…」
苦笑いしながら煙草を吹かす高畑先生は、封印処理中の魔法先生に加勢せず、何故か僕の事情聴取をしていた。
高畑先生には、事の顛末を告げ、伊織の事も素直に謝っている。
「ははは、いや、いいんだよ
彼女は前からあんな風だったし、もう慣れてるよ」
「重ね重ね、申し訳ない」
伊織…本当に昔からなにがあったんだ…
高畑先生は昔を懐かしむ様に言ってるが、慣れる程こんな大騒動を起こしていたのかと思うと、伊織は昔から我が道を行く人だったのかもしれない。
ちなみに、焼け焦げた服はパクティオーカードの機能の一つである衣装変換を使って、登録ていた服に変えている。
魔法薬で傷も直したかったが、爆発の衝撃が予想以上に強く、他の物にまで纏わせていた気を咄嗟に全身の防御だけに回したお陰で、特に外傷はないが、魔法薬の瓶が割れてしまい、ポーチの中が水浸しだ。
しかも伊織から貰った、大事な魔法の杖も折れてしまって、修理しようと思っても、ガムテープで治る程、単純な物ではないので、修理不可能だろう。
長年使い続けた物で、伊織貰った数少ない物であったので、今の僕はかなり落ち込んでいた。
「それじゃ、僕はこっちの事情聴取するから、君は朝倉さんを送っていってくれないかい?」
高畑先生が指す先には縛られた化学部員達が居り、瀬流彦さんの魔法により今だに寝ている。
これ以上、先生方に迷惑をかける訳にもいかないので、それに了承し、化学部員同様、魔法で眠っている朝倉さんを背負い、その場を後にする。
「(そういえば高畑先生、なんかやつれてたなぁ
それに何だか前より老けた気がしたけど、気のせいかな?)」
高畑先生の若干の変化に違和感を覚えるが、やつれてたのは魔法先生の仕事が忙しいのかもしれないし、そのせいで老けて見えたのかもしれない。
朝倉さんを背負い、歩き続けていると、ふとある事を思い出し、足を止めた。
「あれ?朝倉さんの家って何処なんだろ?」
了承したのは良いのだが、肝心な事を忘れていた。
高畑先生は多分、僕と朝倉さんを前からの友達だと思ったのであろうが、僕達は今日知り合ったばかりで名前以外は殆ど知らない。
「(どうしよう、朝倉さんに聞くのが一番早いけど、魔法で眠っているから、しばらくは起きるのかどうかも怪しいからなぁ)」
とりあえず、保健室で起きるまで待とうと思い歩き出すと、今度は何かに遭遇し、再び足を止める。
視線の先には、ロボットの田中さんが仰向けで寝転がっていた。
僕と同じく、あの爆発で窓から叩き出されたのか、手足がその辺に転がっており、バチバチと火花を散らしながら、此方を見ていた。
「………」
田中さんが仲間になりたそうに此方を見ている。
仲間にしますか?
僕は無言で田中に近づき、気で強化した足を上げ、何の躊躇もなく田中さんの頭部を踏み潰した。
「(今まで散々苦労させやがって、お前は一生、そこでマミってな!!)」
「…ん…んん……」
漸くトドメを刺す事ができ、気分良くスキップしていると、先程の破壊音とスキップの振動で、朝倉さんが目を覚ました。
朝倉さんは寝ぼけ眼を擦り、周囲を見回すと、顔の潰れた田中さんを目にして一瞬硬直したようだが、壊れている事を確認して、安堵する。
「ところで三峰君、なんで外にいるの?確か私、化学部員に追い詰められていたんだけど…
それにあの残骸はなに?」
「あの一階にいた化学部員の人が朝倉さんを助けてくれたんだよ
化学部の人達は皆先生が連行したからもう大丈夫だよ
あの残骸は気にしなくていいよ」
朝倉さんを降ろし、魔法やその他諸々の事を隠して、史実を説明する。最後の方だけ笑顔で「これ以上聞かないで」と遠回しに伝える。
ボロボロの僕を見て大丈夫が心配してくれたが、ここは大丈夫だよ嘯く。全身かなり痛いけど。
「ごめんね朝倉さん、こんな事に巻き込んじゃって」
「え?なんで三峰君が謝ってるのさ」
「だって、僕が誘わなければ、朝倉さんに怖い思いをさせる事もなかった
それに…大事なカメラまで壊しちゃったし……」
それに、僕は嘘を付いて朝倉さんを巻き込んだ。
元は、身内の尻拭いをする為であり、朝倉さんは全く関係のないことだし、僕なら一人でも化学部を殲滅するの事も出来たはずだ。
なのに僕と言う奴は、ただ思いつきの作戦の為に朝倉さんに嘘を付いてまで利用しようとしていたのだ。
最低のクソッタレだよ、僕は……
「確かに、怖かったし、せっかくのスクープを収めたカメラも失って、散々な一日だよ」
「………」
仕方ない事だ、責められて当然の事をしたんだ。どんな罵倒も受けるし、殴るのなら抵抗はしない。
「でも、すっごい楽しかったよ!」
どんな罰も受けようと覚悟していたが、朝倉さんはとても清々しい笑顔で、僕に笑いかけてきた。
「初めての事件で、怖くて手が震えて、全力で逃げて、上手くいくか分からなくて凄く不安になったけど、好きな事の為に全力を尽くしたこの一日は本当に充実してた!
やっぱりスクープを求める事はやめられないよ!」
今まで貯めていた物が全部爆発した様に、朝倉さんは目をキラキラさせながら語り続ける。
僕は困惑し、朝倉さんの気迫に圧倒され、何も発する事が出来なかった。
「それに、ついて行ったのは私の意思で、スクープの為だったし、逆に巻き込んで申し訳ないくらいだよ」
「でも…だって僕は…」
「何か隠してたのは、何と無く分かってたけど、それでもいいんじゃないかな?
人は誰にでも本当の事が言えるわけないし、初めて会った私なら尚更だよ
それでもまだ後ろめたく思っているならーーー」
朝倉さんは右手を差し出し、二カッと笑いかける。
「これから仲良くなって、いつか話してくれればいいよ」
僕は馬鹿だ。彼女は優しく手を差し出して来ているのに、僕は自分が後ろめたいと言う理由で、罰を受けて楽になりたいと言う理由で彼女にそれを強要したのだ。
彼女は僕を友達と認めてくれている。
そして僕も、彼女と友達になりたかった。
スクープの為なら何処までも突っ込んで行き、どんなに怖い事があっても、どんな障害があっても。好きな事の為に全力で挑む彼女をもっと知りたいと思った。
偽りのない、僕の正直な心で、これからの友達の差し出しされる手を握り、彼女の様な笑顔で、しっかりと彼女を見つめる。
「改めまして、私は一年A組の朝倉 和美
将来は報道記者になるのが夢だよ」
「僕は一年D組の三峰 縁
将来は何になるかはまだ模索中だけど、よろしくね」
深夜、第二化学部のビルに一人の少女が八階の縁が戦っていた部屋に入る。
爆発の影響で窓は吹き飛び、壁も所々穴が空いており、外からの風が流れ込んで来る。
「全く、本当にやってくれたネ」
月明かりに照らされた少女はお団子の様に髪を二つに纏め、そこからそれぞれ三つ編みの髪が垂れている。
日本語を覚えたてのエセ中国人の様な喋り方をする少女、超 鈴音(チャオ リンシェン)は八階から微かに見えるロボット、田中さんの残骸が落下した位置を見て、そう呟く。
「しかし、化学部も化学部ヨ
せっかく貴重な試作品を盗ませて上げたのに、こんな劣等品しか作れなんて、やはりロボット研究会を選んで正解だったネ」
超は部屋の隅に転がっている素体のロボットの残骸の品質を確かめ、落胆する。
田中さんは試作品である為、ロボット研究会のビルに厳重に管理されていた。
それこそ、この学園の魔法先生にも簡単には突破出来ない程の厳重な警備だ、一般の生徒が見つからずに侵入出来る訳も無いし、ビルに入った瞬間捕まるだろう。
それなのに何故、盗めたのかと言うと、態とそうしたのだ、彼女の大事な目的の為に。
「(ロボット研究会以外に優秀な所がないか探してみたが、どれもダメダメネ
あの細菌兵器も範囲は精々一メートルで霧散して消えるし、やっぱり弱小クラブネ
でも、まさか彼が来るとは思わなかったヨ
私が操作したにも関わらず、有効打も受けずに倒すとは、恐れ入ったネ)」
超は、田中さんを通して、第二化学部の技術力を見ていたが、あまり目立ったこともなく、そろそろ回収しようと思っていた時に縁が現れた。
彼女にとって、要注意人物の一人でもある縁を見つけられるとは思っておらず、戦闘データの収集の為に、彼女自ら操作していたのだ。
「(早目に計画を実行するのも有りだったが、これは慎重に行かなくてはいけないヨ
まだ時間はあるネ、当初の予定通り、着実に地盤をしっかり固めて、来たる日に備えるネ)」
計画を次の段階に進めようと、彼女は段取りを考えていると、素体ロボットの近くに、別のロボットがある事に気づいた。
そのロボットは、縁達が見惚れていた、金髪のロボットであり、爆発の影響で所々焼け焦げているが、それでもこのロボットの美しさは変わらなかった。
「ふむ、技術力はたいした事なかったけど、美術的センスは悪くないネ」
超は懐から携帯電話を出し、このロボットを回収する様にと、ロボット研究会に連絡して、部屋を去った。
そしてこのロボットが、後に絡繰 茶々丸(からくり ちゃちゃまる)と言うガイノイドになる事を、未来人である彼女も知る事はなかった。
今作での超は、原作よりもかなり早目に来ていると言う設定です。
何故その様な事をしたかと言うと、茶々丸さんに早く会いたいからさψ(`∇´)ψ悔いはない。
これで漸くヒロインが出ろ揃いました、これから原作開始前に縁達がどれだけ成長するのか。縁と関係はどうなるのか。
原作開始までまだまだありますがこれからもよろしくお願いします。
俺たちの戦いはこれからだ!!
続きます。