小麦粉使いの魔法使い   作:蛙顏の何か

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美しき貴女は誰?

白衣を着た男は、機材を乗せた台車を押しながら廊下を歩いていた。

台車を押し、ある鉄扉の前に止まり、白衣のポケットから鍵を取り出したが、男は気づいていなかった。自分の後ろから小さな影が忍び寄っていることを。

小さな影は音も立てず、静かに男に近づき、その手に持つギロチンを振り上げ、そのまま男の首元に振り下ろした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……生きてるの?」

 

朝倉さんは化学部員の首が繋がっているのを確認し、安堵の息を洩らす。

朝倉さんの心配する様な殺傷能力はこのギロチンにはない。小麦粉で形成しているせいなのかは分からないが、この小麦粉のギロチンは『光の処刑』で優先順位を変えなければ、服一枚切断出来ない。

つまるところ、これ単体では打撃武器なのだ。

だが、いくら打撃武器と言っても、この小麦粉は金属と同等の硬さを誇っている。それに僕の気で強化した腕力で一般人の首なんて殴りつけたら、首の骨なんて簡単に折れてしまう。

故に、内心ではかなり怒っているが手加減をして気絶くらいに済ませてある。

 

「大丈夫、峰打ちだよ」

 

「思いっきり刃の部分だった様な気がするんだけど…まぁ、オモチャだし大丈夫か」

 

どうやらギロチンをオモチャと思ってくれているみたいだ。

普通に考えれば、僕の様な子供が本物のギロチンなんて持っているはずが無いので、勘違いしてくれたならそれはそれでありがたい。

 

とりあえず化学部員が気絶している間に、先ほど手に入れたコードで縛り上げる。

ちなみに、この様に襲いかかり拘束した化学部員は三人目である。

各階を回り、虱潰しに探し回って現在は目的の八階、三階から上がったにも関わらずこれだけ広いビルなのに、一階の二人を合わせて五人しか出会っていない、あまりにも少なすぎる。

 

「(やっぱり此処って何かあるのかな?何だか大層な目的があるみたいだけど、それにロボット研究会から盗んだ物ってなんだろう

何かの装置かな?)」

 

益々謎が深まる化学部の目的が何なのか考えていると、朝倉さんは先ほど男が持っていた鍵を手に取る。

 

「う〜む、匂うなぁ、頑丈な扉に鍵までかけてこんなに大層な機材を使う部屋……

これは、スクープの匂いがプンプンするね!」

 

確かに、朝倉さんの言うとおりこれまでの扉は裏口を除いて全て開いていた。なのに、この部屋だけは鍵をかけている上に、盗んだ機材まで運び居れている。

この部屋には余程大事な何かがあるのだろう。

 

朝倉さんは鍵を開け、重たい鉄扉扉を一生懸命開ると、工具が床に散らばっており、他の部屋よりも断然に広い空間に三つの何かが椅子に鎮座していた。

 

それは人間をモデルにしたロボットだった。

三つの内、二体は素体であり真っ白なボディに所々繋ぎ目部分があり直ぐにロボットだと分かったが、もう一体を見て僕達は驚いた。

マネキンの様な何もない二体に対し、もう一体はぱっと見、人間としか思えない程の姿をしていた。

金色の腰まである長い髪に、深い深海の様な青色の凛とした目、女性らしい豊満な胸に、スラッとした長い身長、そして何故か白いワンピースを着せられていた。

手足の繋ぎ目部分が見えなければ、見間違える程の美少女が作業場に座っていた。

 

僕もその美しさに驚き、朝倉さんはシャッターも切らずに見惚れていた。

足元に散らばる工具に気をつけながら美少女に近づく、長い髪に隠れていて気づかなかったがよく見ると耳の部分はまだ造られていないのか、そこだけは何もなく中身の機械部分が見えたので、やはりこの美少女はロボットなのだと確信した。

 

「いやぁ、本当に凄いね

どっからどう見ても綺麗な女の子にしか見えないよ」

 

朝倉さんが美少女ロボの肌を触りながら改めて実感する。

ロボットなんて実際にこの目で見るのは初めてだが、やはり麻帆良の技術は凄い、こんなにも人にそっくりなロボットなんて漫画やアニメの世界だけだと思っていたが、それを実際に作り出しているのだ。

 

「(やっぱり、麻帆良には色んな分野の天才を集めてきてるんだ

麻帆良技術は世界よりも数段進んでいる、まるでこの世界の『学園都市』みたいだな)」

 

思考に耽っていると、朝倉さんが触ったせいなのかロボットが椅子から倒れ落ちようとしていた。

朝倉さんは必死で抱き留めようとしたが、やはりロボットの重量を子供が支えきれる訳もなく崩れ落ちてしまった。

僕も手を貸そうとしたが、その前に、椅子の背に黒い箱の様な物が設置されている事に気づいた。

 

黒い箱には真ん中に青いランプが付いており、それが十秒程点滅し続けると赤いランプに切り替わった。

 

その瞬間、突然部屋のスピーカーからサイレンが鳴り始め、この階全体に警報を鳴らしていた。

 

「(しまった!警報器だったのか!なんでボケッとしてたんだ!早く朝倉さんを助けて隠れないと!)」

 

朝倉さんにのしかかるロボットをもう一度椅子に戻すが、やはり警報が鳴り止む事はなく、急いでこの部屋から出ようと朝倉さんの手を掴み走るが、

扉の前に銀髪のサングラスをかけた二m程の巨大な男が現れ、僕達を通せん坊した。

 

「まさかこのビルにネズミが入り込むとはな、警備は完璧だった筈だが」

 

通せん坊する男の後ろから、数人の白衣を着た男女達が前に出て、その一人の女性がそれらしい台詞を吐くが、今まで通ってきたがあの警備に自信を持っていた事に驚きだ。

絶対に悪ふざけで造ったと思っていたがこの女性はマジで言っている様だ。馬鹿なのかな?

 

「ようこそ、可愛らしい子鼠達

私の部活、第二化学研究会へ、私はこの部の部長をさせてもらってる者だよ」

 

「まさか、やっと話せる状態で会ったのがボスとはね

このビルで何してるの?お仲間と悪さしちゃって」

 

「中々強気だね、答えると思ったかい?

だけど、あえて答えよう!!」

 

「あ、答えてくれるんですね」

 

一瞬、朝倉さんの挑発に乗ったのかと思ったが相手が自慢気に言っているので、多分バカだろうと結論づける。

朝倉さんも懐からメモを用意しており、今の僕達が袋の鼠状態であるとは思えない光景だ。

 

「朝倉さん、今の状況分かってるの?僕達ピンチなんだよ」

 

「いやなに、せっかく悪の幹部が直々にコメントしてくれるんだから、ちゃんとメモしておかないとね

う〜ん、でもメモよりもボイスレコーダーがよかったなぁ、今度買ってこようかな」

 

どうも彼女の中では、ピンチよりも取材が優先らしい。

もしかしたら、何か秘策でもあるのかな?と思ったが、彼女の手が若干震えていた。

やはり子供がこんな曲面に立たされて怖くない訳がない。先ほどの強気な発言も、恐怖を紛らわせる為に言ったのかもしれない。

 

僕は少しでも安心する様にと、朝倉さんの手を優しく包み、微笑みかける。

 

「大丈夫だよ、僕達は子供だしそんなに酷い事はされないと思うよ

それに、こんなのピンチの内に入らないよ」

 

一般人が何人集まろうと、気や魔法が使える相手に適う訳がない。

いざとなったら、予定通りに魔法バレを恐れず気や小麦粉で相手を倒し、記憶操作の出来る学園長か他の魔法先生に消去して貰えばいい。

恐怖が和らいだのか、震えては治まり、僕の手を握り返してくれた。

 

よかった、やっぱり女の子を不安にさせちゃいけないよね。

 

「我々の目的は至極単純、それは美の追求だよ」

 

「もしかしてこれのこと?」

 

美の追求と聞いて一番に思い浮かべだのは、椅子に鎮座しているロボットだった。

確かにこの化学部長も美人ではあるが、このロボットほど美と言うのに当てはまってはいなかった。

 

「そうその子は私の最高傑作だよ!人間では表せない美しさを最大限にまで引き出した存在!

人は時間と共に老いて行く、だが彼女は違う!彼女は永遠の存在、永遠の美なのだよ!!」

 

科学者には狂人が多いと、よく漫画やアニメであるがこの人はその本物の狂人らしい。

だが、美の追求であえて女性型のロボットを造ったのは自分の理想を表しているのだろうか。

 

「もしかして理想の女性像とかですか?」

 

「違う!初恋の人だっ!!

あぁ思い出す!あの女子中学時代の彼女を!あの長い金髪!あの凛とした瞳!小さいながらも気高かったあの愛しい人をいつも遠くから見つめていた

高校では会えなくなりずっと探しているが見つからない!

ああ!どこに行ってしまったんだマクダウェルさん!」

 

 

朝倉さんも同じ事を考えて質問したが全然違った!伊織と同好の人だったよ!

こんな狂人な人に好かれるなんて、そのマクダウェルさんも可哀想に……

 

「…私、ガールズラブな人なんて初めて見た」

 

「そう?僕はもう見慣れたよ…」

 

一度家出した事もあるが、やはりあの光景は目に焼き付いている。

もう家に連れ込まなくなったが、偶に夜帰ってこない時もある。

もう気にしなくなったけど。

 

「だが!最近ロボット研究会の奴らが急に技術力が向上したせいで、我々の部費は大幅ダウン!部員達も殆どいなくなってしまい、この物置の代わりに使われていた建物を使うことになり、

今ではこの子の美しさを崇拝する同志のみ

だから、ロボット研究会の奴らに思い知らせてやるのさ!どちらの科学が優れているかを!これを使って!」

 

化学部長は懐から赤い液体の入った試験管を取り出す。

何かなあれは?化学部だからもしかしてバイオハザードみたいなウイルスかな?でも今まで見た発明が発明だからなぁ、何だかショボそう。

 

「これは、猫ちゃん達から採取したサンプルから作り上げた猫アレルギーウイルス『ネコちゃんイヤイヤウイルス』だっ!!」

 

やっぱりバイオテロかよ!しかも名前超ダサいよ!!

いや、でもこのウイルス、僕にとっては超天敵だよ。

猫ちゃん達と戯れる事が出来なくなるなんて地獄だよ!!

 

「これはマズいかもしれないね」

 

「え?どうして?確かに猫好きには恐ろしいけど……もしかして朝倉さんも猫ちゃん好き?」

 

「別に嫌いではないけどそうじゃなくて、麻帆良は猫の生息率がかなり高いんだよ

主に中等部辺りに居るけど

だから、あればら撒かれると麻帆良中大パニックだよ」

 

この部長、馬鹿だと思っていたけど、やっぱり頭がいいのか?それとも偶々そうなっただけなのかな?

天才と馬鹿は紙一重だと言われるけど、まさにこの部長さんの事を言うのかもしれない。

 

とりあえず、ことの重大さは分かった。元々、僕は伊織の汚名返上の為にここを潰しにきたんだ。

当初の予定通りにここの人達を全員倒せば万事解決だ。

 

まずは化学部長の持つ試験管を奪う為に、足元のレンチを化学部長目掛けて蹴り飛ばと同時に走り出す。

レンチは大男が寸前の所でキャッチしたせいで命中せず、駆け出した僕に反応して、他の化学部員達が僕を捕らえ様とする。

 

僕は小麦粉のギロチンの形状を崩し、白い津波となり横一線に全てを薙ぎ払い、化学部員達を吹き飛ばす。

 

「ちょっ!なにあれ!?」

 

「マジックです!!」

 

「まさか小学生にこれ程の手品使いがいるとは…さすが麻帆良クオリティ!!」

 

もはや最近恒例となってきた嘘八百。アキラにもこれで通ったのでアホな部長さんにも、その場凌ぎ程度として言ってみたが何故か通じた!?

朝倉さんも何か納得してるし、やっぱりここまでくると、この麻帆良何かあるよ!

 

とりあえず、それは後で調べるとして。

残るは部長さんと大男だけ、小麦粉を再びギロチンの形状に戻し、まずはレンチを止めた大男を排除する為に駆け出し、蹴り飛ばそうとするが、大男は僕が跳んだ瞬間を狙い、丸太の様な腕で僕の体を押してきた。

 

「なっ!」

 

空中でバランスを崩され、蹴りは空振り、そのままコンクリートの地面に受け身をとって着地すると、その状態から大男の足にギロチンを飛ばす。

しかし大男はギロチンのタイミングに合わせジャンプし、ギロチンを躱した。

 

「はっはっは!!いくらマジック少年とて、相手が悪かったな!

奴はロボット研究会から盗んだ試作型のロボット、愛称『田中さん』だ!」

 

「(ロボット?いくら麻帆良の科学が進歩してるからといっても、こんなに精巧に造られたロボットなんてあり得るの?

確かに気を使ってはいなかったけど、身体能力だけでも中学生くらいはあるはずなのに

今の攻撃を瞬時に理解するなんて処理速度が半端じゃないでしょ!?)」

 

大男ロボット田中さんの性能に困惑するが、今一番の問題は化学部長の持つバイオ兵器だ。

あれを持ち逃げされても困るが、もしも戦闘中に巻き込まれてあの試験管を落としたら一大事だ。

幸い、先ほどの攻撃で化学部長と田中さんの距離は離れている。

 

ここは瞬動で一気に近づいて奪い取ろうと、化学部長の方を向くと、朝倉さんがデジカメを化学部長の顔面に投げつけた。

 

「とりゃあっ!!」

 

「へぶしっ!!」

 

これまで大事に持っていたデジカメを投擲し、化学部長が怯んだ瞬時に朝倉さんは試験管を奪い取った。

それに気づいた化学部長は朝倉さんから試験管を奪い返そうとするが、僕の方に突っ込んできた田中さんを背負い投げの用量で化学部長に投げつける。

 

「あっぷろぱーー!!」

 

「朝倉さん!今の内に逃げて!」

 

女性らしからぬ叫び声を上げて田中さんと共に凄い勢いで床を転がる化学部長。

朝倉さんは試験管を持ち部屋の外に走るが、田中さんがすぐに体制を立て直し、朝倉さんを追いかけようとする。

 

「させないよ!!」

 

小麦粉のギロチンを掴み、田中さんに向かって殴りつける。

田中さんは咄嗟に腕で防ぐが、朝倉さんは既に部屋の外に出ていた。

 

これで目撃者は居なくなる。確かにこの田中さんと言うロボットは手強いが、それは一般人のいる前で力をセーブしてでの話だ。

朝倉さんが居なくなった今、僕は全力で戦える。

 

「さて、スクラップの時間だよ、クソ野郎」

 




変態に好かれる事の多いエヴァンジェリンですが、私は原作では彼女が一番好きなキャラクターです。
強く、気高く、美しくて、可愛くて、ロリ。
もはやいい事尽くめの彼女を嫌いな人なんて少ない筈!エヴァ可愛いよエヴァ!

最初はエヴァがヒロインの二次創作を書こうと思っていたのですが、エヴァの素晴らしさが私の文章力で表せなかったと言う理由で断念しました。誠に悔しくてなりません!

故に作者は決してエヴァンジェリンが嫌いは訳ではありません。彼女は弄られたり、頭を抱え苦悩する姿が可愛いのです。

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