警備員らしき人間は居らず、簡単にビルの裏口まで到着したが、当然の様に鍵がかかっていた。
「(そりゃそうだよね、都合良く開けて置くマヌケではないでしょ
仕方ない、小麦粉で開けようかな)
朝倉さん、申し訳ないけど、そのヘアピン貸してくれない?」
「もしかしてピッキング?専用の道具がなくて出来るの?」
「必要なのは、道具じゃなくて技術だよ」
などとカッコ付けているが、ピッキングなんて高等技術を不器用な僕が出来るわけがない。
ポーチから再び少量の小麦粉を掴み、ピッキングをしている振りをしてドアの隙間から小麦粉を侵入させる。
集中して、手探りならぬ小麦粉探りでドアノブを探して鍵を開けさせる。
「…本当に開けたよ」
「凄いでしょ?
ほら、誰か来る前に早く入るよ」
悟られない様自慢気に言い、朝倉さんの手を引き、一応、鍵を閉める事も忘れずに中に入る。
「うわぁ、物がいっぱい…」
思わず呻いてしまったが、それ程までにこの光景は酷かった。
目の前に映るのは大量の物、段ボールの山積みやマネキンに何故かダルマまで置いてあり、足の踏み場もない。
段ボールには様々な部活の名前がマジックで書いてあり、もしかしたらここは他の部活の倉庫として使われているのかもしれない。
「(でもこんなゴミゴミした所嫌なんだけどなぁ……あの黒いのが出て来そうだし……)」
昔の小麦粉での惨劇を思い出しそうになるのでこれ以上考えるのはやめた。
朝倉さんは、先ほどからカメラで撮影しているが、ここまで物が多いとどの様に進んでいいのか分からなくなってくる。
「(外からでも匂っていたけど、中に入ったらそこら中に動物の臭いがするなぁ
それにしてもこれどうやって進もう、上に乗ったら崩れそうだし、やっぱりこの小さな体を巧みに使って間を通り抜けた方がいいかな)
あまり物音を立てない様に、物を少し退かしながら間をくぐり抜けて行く。
朝倉さんもそれに続き、お互い埃まみれになりながらも、何とか通り抜けた。
「ケホッケホッ、うぅ、汗のせいで埃がべたつく……」
「いやぁ、本当だね…ん?
ナッパ避けろ!!」
「は?ーーーあいたっ!!」
朝倉さんが何か懐かしいセリフを叫んだ瞬間に、頭に何か落ちて来た。
「あらら、だから言ったのに」
「そんな注意じゃ分かる訳ないよ!」
頭を摩り、涙目になりながらも僕の頭に降ってた物を確認すると、そこには招き猫が転がっていた。
招き猫は、目を点滅させながら、可愛らしい声で「僕と契約して、魔法少女になってよ!」と言うふざけたセリフを繰り返しで再生されていた。
「(招き猫に魔法少女勧誘された!?もう魔法使い見習いだけど
と言うか、何だこの気色悪い招き猫は!可愛らしい声なのに招き猫の真顔でかなりミスマッチだし、未だに目が赤く点滅しながら何か言っているから煩いよ!)」
降ってきた頭上を見ればUFOキャッチャーの様なアームがあり、どうやって感知したかは分からないが、多分ここを通過したら落とす様に設定しているのであろう。
とりあえず、このままでは見つかってしまうので、招き猫を先ほど通過した裏口辺りまで放り投げる。
「警報の代わりだったのかな?あれ」
朝倉さんの疑問も分かるが、あの招き猫は未だに音を出し続けているので、この場に止まって居れば見つかってしまう。
今度はトラップに注意しながら、先に進み続け、誰かに会う事もなく階段に着いた。
すぐ近くにエレベーターもあるが、それを使うと相手と鉢合わせる確率が高いので、階段を登ろうとすると朝倉さんに肩を叩かれる。
「ちょっと待った、エレベーターが動いてる」
階の表示を見れば、どんどん此方に降りてきており、急いで階段を登り身を隠す。
エレベーターの扉が開く音がすると、白衣を着た二人の中高生くらいの男が現れた。
「はぁ、先輩、何で俺たちが積み荷を運ばなくちゃいけないんすか?」
「文句を言うな、ただで際部員が少ないんだ
他の奴らは作業で忙しいし、俺たちみたいに手のあいた奴が行くしかないだろ」
後ろ姿しか見えないが、白衣を着ているから化学部員だろう。
片方はやる気なく訪ねてきているので、あまり乗り気ではないのかもしれない。
「でも先輩、マジでこんな事やっていいんスか?やめた方がいいとおもいますよ」
「それはできん、我らの崇高なる使命の為だ
お前にも、きちんと働いてもらうぞ」
「はぁ、限定版のエロゲ買う金借りた利子がこんな重労働なんて詐欺もいいところっスよ
だいたい先輩はーーーーっ!」
「っ!」
ヤバイ!後輩っぽい人と目が合った!見つかってしまった!
「ん?どうした?」
「い、いやぁ、なんでもないっスよ
それより、八階で研究してるアレもいいんスか?確かロボット研究会から盗んだんでしょ?それ科学者としてもいいんスか?」
後輩っぽい人は、何事もなかったかの様に話を続ける。
どういう事だ?しかも態々『八階』に何かがある事まで言うんなんて……
「ふん、奴が生み出した物で滅ぶのだ、我々の受けた屈辱は今でも忘れない」
「あ〜、はいはい、屈辱ねぇ
それよりも、今日も三階の彼奴らの世話も俺がやるんスか?自分達の崇高なる使命とやらの為に集めたんでしょ」
「我々は今忙しいのだ!そんな雑用はおまえがやれ!」
「へいへい、分かりましたよ、そんじゃ、さっさと終わらせますか」
白衣を着た二人は、話を終えると何処かへ向かい、後輩っぽい人は最後に此方にウインクして去って行った。
傍から聞けば罠のようにも聞こえるが……
「なるほど、三階と八階か……
よっしゃ、それじゃあ行きますか!」
「え!?行くの!?罠とは思わないの!?」
朝倉さんの突然の行動に思わず腕を掴み静止させる。
「だって、小学生二人なら、態々罠に嵌める必要はないし、それに態と階まで教えてくれたんだから何かしてほしいんだよ」
確かに、見た目小学生の二人のなら、彼らだけでも簡単に取り押さえられると思い、その場で襲いかかるだろう。
だが、あの人はそれをしなかった、更に有力な情報くれたし、何よりあの人は化学部のやっている事が不服そうだった。
「わかったよ、じゃあ、まずは三階から行こうか」
どうせ潰す予定の組織だし、例え罠でも、その時は徹底的に暴れればいい……朝倉さんを気絶させた後だけどね。
お互い賛成しあったところで、三階を目指し慎重に階段を上がる。
あまり音を立てないのもそうだが、曲がり角で鉢合うなんて御免なので、音と匂いで相手を探る。
とは言っても、一階でもそうだったが二階も人が全く居ない上に、匂いはずっと動物の臭いが凄くて殆ど分からない。
「(人が少ないって言ってたから、他の人は多分八階に居るんだろうけど、この匂いはなんだ?凄く匂った事のある臭いなんだけど……)」
臭いの正体を考えながら、三階へ着くと、朝倉さんはカメラを構え、戦闘体制をとる。
あまりフラッシュをたかれると困るのだが、朝倉さんには証拠写真を撮ってもらいたいので、なにも言わず先に進むと、ある鳴き声が耳に届いた。
それを聴いた途端に、僕は走りだした。
朝倉さんが何か言っていたが、そんな事など、僕の耳には届いておらず、鳴き声がした方向へ走り、金属の扉を開き部屋の中に入る。
「やっぱりか」
部屋の中には、僕の思ったとおりの動物が居た。しかもたくさん。
僕が部屋で立ち尽くしていると、息を切らしながら朝倉さんも部屋に入り、大量の動物に若干顔が引きつっている。
「ちょっと…なにこれ」
「ニャー」
黒い猫が朝倉さんに気づき、小さな鳴き声をあげる。
そう部屋に居たのは猫、猫、猫、大量の猫なのだ。
ざっと見て二十匹程、色んな毛並みの猫が揃っており、人馴れしているのか、僕達を見て逃げずに逆に擦り寄ったきた。
朝倉さんは十匹程の猫に囲まれてかなり困っている。
だが僕はーーー
「カワイイ!!ニャンコカワイイよ!」
猫達と戯れていた。それも仕方ない、猫が可愛いのだから。
僕は犬猫は好きだ。特に猫は超好きだ。猫と日向ぼっこする事は、僕にとっては最高に幸せだ。
床に寝転がり、猫達と同じ高さ程になると、猫達が次々と僕の体に飛び乗り、猫まみれになっていく。
「しあわせ〜、もう此処に住もうかな〜」
「凄い程に顔が蕩けてる…とりあえず一枚」
呆れる朝倉さんが猫に埋もれる僕を撮影すると、フラッシュに驚いたのか、猫達が逃げて行く。
なんて事をしたんだ朝倉さん!僕のニャンコハーレムが!!
朝倉さんを恨めしい目で睨み続けると、謝りながら僕に手を伸ばしてきたので仕方なく立ち上がると、再び猫ちゃん達が近寄ってきた。
もう一度寝転がろうとした時に、朝倉さんが僕の襟首を掴んできた。
「何をする」
「いや、そんな恐い顔で睨まれても…
そうじゃなくて、ちょっとこれ見てくれない」
朝倉さんに連れられ仕方なく部屋の外に出ると、部屋の扉を指差した。
「これさ、『被検体管理室』って書かれてるけど、あの猫達の事だよね」
「は?被検体……」
「そう、あの猫達って人馴れしてるけど、もしかしてあの人、猫達を逃がして欲しかったんじゃないの?あの人が世話してるって言ってたし、だからーーー」
朝倉さんが、何だか色々言っているが、僕は『被検体』の辺りから聞こえていなかった。
「(被検体?あの可愛い猫ちゃん達が?被検体ってあれだよね実験したりとか研究したりするやつだよね?つまり奴らは猫ちゃん達に酷い事を?)」
僕の頭の中には猫ちゃん達の事で一杯であり、この猫ちゃん達がどんなに酷い事を受けたかと思うと、思考が悪い方へと行ってしまう。
「だからつまりーーー」
「つまり奴らをサーチアンドデストロイだね、うん分かったよ
流石朝倉さんだ、はなしが分かるね」
「いやいやいや、何勝手に結論付けしちゃってるのさ!しかも危ない方向に!あんまりバイオレンスにすると記事も書けなくなるから!!
と言うかあれ!?そんな刃物いつの間に取り出したの!?」
「大丈夫、このギロチンには殺傷能力はないから……
当たれはかなり痛いけど」
いつの間にか、手に持っていた小麦粉のギロチンに朝倉さんは驚くがそれよりも必死に僕にしがみついて止めようとするが、気で強化しているので、今の僕は止められない。
とりあえず、見た奴は片っ端からヤル。
サーチアンドデストロイだ。