あの後、高畑先生に連れられ、僕等は学園長室に行き、そこで大河内さんの記憶を弄ってもらった。
流石にドラゴンに追いかけられた、なんて隠し通せる訳がないので仕方ない事だが、それを使って大河内さんの頭がパーにならないか心配だった。
図書館での記憶を消すと矛盾が生じる恐れがあるので、僕がフォローしたようにあのドラゴンをロボットだと認識させるようにしたらしい。
学園長や高畑先生からも、僕がフォローしてくれたおかげで隠蔽がスムーズに行えたとお褒めの言葉を貰った。
なんだか照れるなぁ。
それから数日、大河内さんの言うように皆の輪に入ろうとするが、なかなか入れず、今だにクラスに友達がいない僕だった。
「(裕奈と遊んでた時は直ぐに友達になってたのになぁ
やっぱり流れなのかな?この歳なら難しい事は考えず、遊んでたら次第に友達になっていたとか?
そういえば、僕も昔はそうだったような……あぁ、童心に戻りたい……)」
心の中で葛藤が続く中、昼休みはどんどん時間が過ぎていく。
すると、僕の真後ろで何かが倒れる大きな音が聴こえて来た。
「お前ムカつくんだよ!!」
そこには尻餅を着いた大河内さんとクラスメイトの男子が居た。
大河内さんの周りには机や椅子が倒れており、多分大河内を男子が押して倒れたのだろう。
周りを見れば、クラスメイト達も何が起こっているの分からず唖然としており、当の本人も何を怒ってるのか分からずうろたえている。
考えに夢中になってた僕も解らないが、何故か僕の真後ろで、行われているこの状況に僕も唖然としている。
「デカイからって調子に乗りやがって!!女の癖に生意気なんだよ!!」
「ちょっとあんた!大河内さんになにしてるのよ!!」
「うるせえ釘宮!!お前は引っ込んでろ!!」
女子の数人が大河内さんに罵声を浴びせる男子に口論する。
その時、女子の一人が持っているドッチボールを見ておもいだしたが、
そういえば、先程の体育の時間、ドッチボールで男女別れての試合があったのだが、大河内さんが大活躍し、男子の殆どが外野送りにされていたのを思い出した。
僕も手を抜いていたが、確かに大河内さんの玉は速かったので仕方ないと思う。
元より麻帆良女子の基礎能力は高く、その中でも身体能力が高校生並に高い者は何人かいる。祐奈もその一人だが、別のクラスでは長瀬(ながせ)さんや古 菲(クー フェイ)さんが有名である。
しかし、男子側はそれでは納得がいかないようで、自分を負かした大河内さんに難癖つけているみたいだ。
お互いに口論する男子と女子に大河内さんも自分が悪いからいいと、二人を説得しようとするが、逆に更にヒートアップしている。
「(窮地を共に乗り切った大河内さんがまさかのピンチ!!
ここはどうにかお助けしなくては!)」
でもどうやって?ここ数日、大河内さんを見て解ったのだが、大河内さんはケンカや争い事が嫌いだ。
普段、皆を遠巻きに見ている僕が加わった所で無力だし、何の解決にもならない。
ならどうするか?争いを起こさず、このケンカを沈めるには?
足りない頭をフル回転させ、どうすれば解決するかを必死で考える。
脳内会議五時間、現実の時間にして5秒、
あんまり考えてねぇじゃねぇかと、僕の脳内の伊織が突っ込むが、
僕は直ぐさまランドセルに手を伸ばした。
ランドセルから出したのは袋に入ったパウンドケーキだ。
元は小麦粉の魔術の実験で、小麦粉を操れるのだから、小麦粉を使って作ったお菓子はどうなのかと、家で作ったものだが、結局は動かせなったので、伊織や明石家にプレゼントしようとしたら断られた。
なので、学校で食べようと思ったが、まさかこんな所で役に立つとは思わなかった。
「(皆きっとお腹が空いているからそんなに怒るんだよ
お腹が一杯になって、ちゃんと話しあえば、きっと分かり合えるはずなんだよ
大河内さんを押した男子もきっと和解して大河内さんに謝ってくれるはず)」
きっと給食が足りなかったんだろうなと思い、袋を持って二人の間に割ってはいる。
「まぁまぁ二人とも、争い事はよくないよ、ちょっと落ち着いて」
「うるせえ!根暗は黙ってろ!!」
「そうよ!あんたはすっこでなさい!!」
なんて酷い言われようだ!子供って残酷だよっ!!
だがしかし、ここで怯む訳にはいかない!苦楽を共にした仲間をお助けしなければ、男が廃る!!
二人の気迫に負けず、どんどん攻めねば!
「まぁ、そう言わず、甘い物でも食べて、気を落ち着かせよう」
「は?あんた何言ってーーはぐっ!
tpm3333t.'a@'m/wyjhaug!!!!」
口論している女の子の口にパウンドケーキを突っ込むと、女の子は可笑しな声を上げ、崩れ落ちた。
崩れ落ちるほど美味しかったのか、何だか感激だなぁ
「くぎみぃーーーー!!」
「死んだ!?釘宮が死んだ!?」
女の子が倒れた瞬間、教室が静まり返ったと思ったら、数人の女子が叫びながら口論していた女の子、釘宮さんに駆け寄る。
「(この子、釘宮って言うのか、もしやこの子はツンデレさんなのかな?)」
そんな事は置いておいて、騒ぎ出すクラスをよそに、袋からもう一つパウンドケーキを取り出し、大河内さんに乱暴した男の子を見据える。
男の子は僕がパウンドケーキを取り出し瞬間怯え始め、後ろに数歩下がる。
「君も、いくら女の子に負けたからっても乱暴はいけないよ!メェッ!なんだよ
君も甘いもの食べて、頭を落ち着かせたら、ちゃんと大河内さんに謝るんだよ?」
「謝る!謝るから!悪かったよ大河内!俺が悪かった!もう二度と女子を押したりしないから!
だからそれだけはーーーはぐっ!」
「はい、よく出来ました
ちゃんと謝ったからご褒美あげるね」
大河内さんに謝ったので、この子にもパウンドケーキをご褒美に二つ口に入れてあげる。
すると、男の子は泡を吹き釘宮さん同様に床に倒れた。
泡を吹くほどの美味しさ……新しいな。
「これにて一件落着」
「え、えーと、ありがとう三峰」
「いえいえ、どういたしまして、ところでパウンドケーキまだ余ってるけど、大河内さん食べる?」
そう訪ねると、大河内さんは首を全力で横に振っていた、お腹一杯なのかな?
「釘宮は犠牲となったのだ」
「あ、柿崎、その…釘宮は大丈夫だった?」
「起きなかったけど、桜子が保健室に連れて行ったから大丈夫でしょ
それにしても、三峰が助けに来るとは思わなかったよ
クラスの殆どが見てるだけだったし、あの二人を止めに入ったのは、なかなかカッコ良かったよ」
薄い紫髪の女の子、柿崎さんにお褒めの言葉を頂き、照れながらパウンドケーキを勧めると、柿崎さんにも全力で断られた、この歳でダイエットかな?
「大河内さんが困ってたからね、これは助太刀せねばと思い馳せ参じたと言うわけなんだよ」
「なんか難しい言葉知ってるね、三峰って普段喋らないけど、話してみれば面白いね
ねぇねぇ、私達これからドッチボールやるけど、一緒やらない?」
「え?いいの!?」
「いいよいいよ、ドッチボールは皆でやった方が楽しいし、それにアキラを助けた王子様なら喜んで歓迎するよ!
ほら、アキラもなんか言ってやってよ」
柿崎さんの王子様と言う発言に、大河内さんは顔を赤くしながら僕の手を掴む。
「その…三峰も一緒にやろうよ
あれだけ速く走れる三峰なら、きっと大丈夫だよ」
記憶の改変では、僕は脚が速い事になってるのか。
なら、体育の時に手を抜いてたのってもしかして、バレてる?
でもそれなら、少し運動の出来る子供を演じればいい。
元から拒む理由もないし、友達を作る機会だ、これを逃す事もないだろう。
僕も大河内さんの手を握り、柿崎さんに参加する事を伝え、残り時間の少ない昼休みを目一杯遊び尽くした。
僕はこの日、小学校で初めての友達が出来た。
大河内 アキラ編は一応これで終わりですが、この話は縁がクラスの皆に歩み寄る話で、アキラそのきっかけに過ぎません。
そして前回から出てくる原作キャラがチラホラと出て来てますが、これからもチョイチョイ出る奴もいれば、原作開始まで出ない奴もいます。
くぎみーは犠牲となったのだ……ゆかりんがアキラを攻略する……その犠牲にな。