お互いに背を向け、濡れた服を絞る。
流石に男の子の前で脱ぐのは恥ずかしいのか、大河内さんもそれに了承していた。
祐奈とは違いこの様な恥じらいがあるので、これはこれで可愛い。
決してロリコンではない、同年代なので大丈夫なのだ。
出来るだけ服の水分を抜き、置いておく訳にもいかずそのまま着る。
僕達が落下してきた方を見るが、下から見た時と同様に全く見えない。
小麦粉のギロチンの上に乗れば、もしかしたら上に上がれるかもしれないが、生憎と小麦粉はランドセルの中だし、大河内さんに魔法がバレるのでどっち道使えない。
「…これからどうする?」
僕が聞こうとしていた事を先に大河内さんに言われたので、とりあえずどうするか考える。
何故、落下速度が減少したかは解らないが、かなりの時間落下していたので、ここは下手すると地下50階くらいまであると推測する。
この本と自然が一帯になった場所でも、本があるなら誰かが取りに来る筈だから、何処かにエレベーターか階段があるのかもしれない。
それに、僕達の帰りが余りにも遅かったら、裕奈が誰か先生を連れて捜してくれるであろう。
「とりあえず、周りを探索よっか
多分、何処かに上に行く道があると思うから」
大河内さんは頷き、別々に行動すると後で探すのが厄介な為、二人で一緒に本の森を探索する。
しかし、見つかる物は奇妙な遺跡だったり、巨体な西洋甲冑の石像だったりと、もうここが図書館でない事だけが解った。
かなりの距離を歩き、僕は体力的に余裕もあるが、大河内さんは一般人の、しかも子供だ。
流石に休憩しないと不味いかなと思い、後ろを歩く大河内さんを見るが平然としていた。
「大河内さん疲れてない?良かったら休憩しようか?」
「大丈夫だよ、心配してくれてありがとう
私スポーツしてるから、体力には自身あるよ
三峰は大丈夫?無理してない?」
もしかしたら無理して着いて来てるのかと思って聞いたら逆に心配された。
と言うか本当にこの子一般人か?スポーツしてるからと言って、中高生ならまだしも、子供のスポーツ程度であまり疲れてないなんてこの子はなんだ、超人か?
それからお互いの体調の確認をして、再び探索を続ける。
僕達は先程から無言のまま捜索を続けているが、とても気まずい。
内気な僕に寡黙な大河内さん、そのせいでさっきから会話らしい会話をしていない。
このままでは何だかこの空気に押し潰されそうなので、何か話題はないかと探すが、生憎と僕は今の子供の流行なんて知らない。
どうすればいいかと、悩んでいるとある事を思いついた。
「ねぇ大河内さん、大河内さんはこの麻帆良学園をどう思ってる」
「どう思ってるって?」
「例えば、学園の大きな木を見てどう思ったとか、この図書館島を見ていてどう思ったとか」
そう、余りにも疑問で仕方なかった。
ここは魔法使いの街だ、なのでこの様な摩訶不思議な場所があっても仕方ないとは思うが、それは僕が魔法を知っているからであって、
魔法を知らない一般人から見て、この麻帆良学園をどう捉えているか気になっていた。
「うん、あの木は大きくて凄いよね、近くで見たら迫力が凄そうだよ
図書館島は本がこんなにあるなんてビックリし、図書館の下に遺跡とか大きな石像があったりで、ここは面白い所だね、絵本の世界に入り込んだみたいだよ」
凄いに面白い、子供の表現力ではこんなものだろうが、何故かどちらも不思議とは思ってなかったし
疑っていなかった。
感性が豊かだと言えばそれまでだが、何かがおかしい、まるでそう思わされている様なそんな気がしてならない。
帰ったら伊織に聞いてみるのもいいかもしれない。
「三峰はさ、明石と仲がいいよね
三峰って、クラスの皆とあんまり仲良くしているのを見た事がなかったから、学校が楽しくないんだと思ってた」
なんで裕奈の名前を知ってるのかと思ったら、そういえば図書館島に行く道中でお互い楽しげに話していたのを思い出した。
それに僕は学校が楽しくない訳ではないが、皆の話題やあのテンションに着いていけてないだけだ。
「学校は一応楽しいよ、ただ皆のハマってる物が全然解らないから、話に着いて行けないだけ
裕奈とは親同士が仲がいいから、小学校に入る前からの友達」
伊織は保護者だが、一応親だと言っておく。
態々、自分は親が居ないなんて言って空気を重くする必要もないだろう。
「そうだったんだ、二人はすごく仲良しだったから気になっちゃって
でも、別に話題に着いて行けなくても、三峰は自分から周りの皆と混ざろうとしてないのがいけないと思うよ
話に着いていけなくても、皆三峰のこと仲間外れになんてしないと思うよ」
寡黙な大河内さんが、まさか熱く熱弁してくれるとは思わなかったので少し驚いている。
大河内は、友達でもないクラスメイトの僕にこんなにお節介を焼いてくれるなんで、この子はとても優しい子のようだ。
「そうだね……うん、僕頑張ってみるよ!」
二度目の小学生生活、せっかく子供に戻ったんだ、内気な僕じゃなく、なりたい自分になるんだ。
大河内さんも応援してくれてるんだ、ここでやらねば漢が廃る、伊織ならこう言った筈だ。
何だか勇気を貰い、「ありがとう」と御礼を言うと、大河内さんは嬉しそうに頷いてくれた。
やばい、ニコポされそう。
顔が赤くなっているのを見られたくないので顔を背けると、歩いている足が止まった。
「どうしたの?」
大河内さんも、突然止まった事に心配しているが、それどころでは無い。
何か聴こえるのだ。
いや、聴こえるだけではない、何か凄く強い匂いもする。
人間の出せる匂いではないし、かと言って動物だとしても、先程から聴こえて来る何か巨体の物が羽ばたく音はどの動物にも説明がつかない。
すると、ボトッと、何か粘ついた液体が数滴落ちて来た。
そして、何か大きな影に覆われている事に気づいた。
巨体な翼に太長い尻尾、そして地獄から聴こえて来るような荒げる息。
僕の頭の中で最悪な生物の姿が浮かび上がり、解ってはいたし見たくはなかったが、液体が降ってきた真上を見上げる。
そこにはドラゴンがいた、比喩ではない、ファンタジーや有名な狩りのゲームなどで出てくるドラゴンが本当に目の前にいるのだ。
強固な固殻に身を包み、巨体な翼を羽ばたかせ、百獣の王おも威圧出来そうなその鋭い目が此方を捉えていた。
それを見た瞬間、僕は迷わなかった。
気を一瞬で練り上げ、いつもの様に全身に気を纏わせ全身を強化し、大河内さんを抱え全力で逃走した。
如何なる場合でも瞬時に判断し行動に移す、伊織の訓練の賜物だ。
大河内さんは今だ何が起こっているのか分からず戸惑っているが僕にも解らない、本能と経験のままに行動し逃走。
普通だったら戦うのだろうが、僕程度の実力であんなボスキャラに勝てるなど自惚れていない。
なので走る!追ってこなくても全力で走る!!
「え!?な、なにあれ!?」
「あれはきっと、昔科学部が造った学園祭用のロボットだよ
だけど、生徒では扱いきれなかったから此処に放置されていた物だね、うん」
嘘八百を並べ、テンパる頭で適当に返す。
本当に嘘だらけだが仕方ない、僕だって何が何だか解らない、それにかなり強引だが何とか言いくるめようとしているのだ、逆に褒めて欲しいくらいだよ。
「(なんで図書館の地下にドラゴンいるんだよ!!と言うより実在してたのかよ!!レウスか!?リオレウスなのかこいつは!!?
つか、学園の魔法使い達、本当は魔法隠す気ないだろ!!)」
麻帆良の魔法使いに悪態をつくが、今はそんな事言っている場合ではない、音や気配からしてあのドラゴン、確実に此方に向かって来てる。
「え?あれロボット!初めて見たけどすごいね!
ところでなんでそんな事知ってるの!?」
「僕の親が高畑先生や学園長と知り合いだから、そんな話があるって聞いたんだよ、そんなんだよ!!
本当かどうかはあの二人に聞いて!!!」
とりあえず、あの学園の魔法使いで唯一知っている二人になすりつける。
こんなふざけた生物を置いるんだ、それぐらいの責任はとってほしい。
大河内さんをお姫様抱っこしながら後ろを見るが、ドラゴンやっぱり翼を羽ばたかせ僕達を追ってきていた。
すると、ドラゴンが大きな口を開けた。
この後、僕は何が来るか、何と無く解った、これは不味い。
咄嗟に道を曲がると、さっきまで走っていた通路は火の海になっていた。
「火吐いたよ!!」
「火炎放射器だっ!!!」
本当に苦し紛れではあるが、今だにフォローしている僕は凄いと思う、普通だったらもう諦めてもいい頃だと思うよ。
ドラゴンのブレスを道を替える事でどうにか回避しながら走っていると、大きな広場に出てきた。
行き止まりかと思って周りを見ると、階段があり、こんフロア全体が大きな螺旋階段になっていた。
上を見るとかなりの距離があり、もしかしたら地上に通じているかもしれない。
「っ!まだ追って来るよ!!」
「あいつしつこいよっ!!」
後ろからドラゴンの咆哮が響き、急いで螺旋階段を登る。
此処がそこまで広くなければ、ドラゴンも螺旋階段を使って上がってくるだろうが、この広場はあのドラゴンが翼を羽ばたかせる為の広さは十分にある。
順って、ドラゴンは階段を使わず飛んで僕等を追ってくる。
螺旋階段を駆け上がる僕と、真上に飛ぶドラゴンでは上に上がる速度はドラゴンの方が断然に速く、追いつかれるのは時間の問題だ。
流石に人を抱えて、あれだけの距離を走っている為、体力が底を尽きてきた。
大河内さんも降ろすように言っていているが、それでもまだ僕が抱えて走った方が速いので無視して駆け上がり続ける。
足がつりそうになっていると、ついにドラゴンが僕達と同じ高さまで上がって来た。
ドラゴンは口を開き、ブレスを放つ体勢になっている。
咄嗟に、気で全体を包み防御するが、多分、あのブレスを浴びれば気の鎧など一瞬で燃やされ僕等を消炭にするだろう。
身体が強張り、大河内さんを守るように抱きしめる。
「えっ!?」
しかし、ドラゴンはブレスを吐く事なく、自分の大きさ程ある黒ずんだ球体に押し潰され、落下していった。
下を見ると、ドラゴンが巨大なクレーターを作り広場に落下していた。
「これが、科学の力だ」
「科学ってすごいんだね……」
んなわきゃねぇよ、僕だって何が起こっているのか検討もつかない。
すると、コツコツと靴の音を立て、誰かが階段から降りて来た。
「ゆかりーーーー!!そこにいるのーーー!!!」
「縁君!!大丈夫かい!?今そっちに行くよ!!」
上の階段から、裕奈と高畑先生の声が聞こえ、安心して階段にへたり込んだ。
今日は何回死の危機に直面したか数え切れない、特にさっきのブレスはやばかった。
多分、さっきのドラゴンを黒ずんだ球体で押し潰したのは高畑先生の仕業だろうが、そもそもこんな凶暴生物を放し飼いしている学園が悪いのだから感謝はしない。
「大丈夫か三峰!何処か怪我したの!?」
「いや大丈夫だよ大河内さん、ちょっと安心したら腰が抜けて…」
本当、最後までカッコつかない、腰抜かして動けないなんて情けなさすぎである……まぁ、チビらなかっただけマシだけど。
「……ありがとう…三峰…」
「ゆかりーーーーっっ!!!!」
大河内さんが何か小さく御礼をいっていたが、裕奈の突撃により僕は階段から数段程転げ落ちた。
「(酷いっ!疲労困憊なのに更にダメージを受けたよっ!)」
「ゆかりどこに行ってたの!心配したんだよ!」
「いやぁ、裕奈ちゃんに呼ばれた時はビックリしたよ、まさか、図書館島で迷子になってるだなんて」
「迷子じゃすまないよコンチクショウめ!!」
その後、高畑先生に負んぶして貰い、ようやく図書館地下帝国から脱出した。
「もう図書館になんてこねぇよ!!」高畑先生の背中でそう叫びながら僕達は図書館を後にした。
図書館を出るとき、誰かの笑い声が聞こえたが、頭の中では何故か、あの騙した受付の司書を思い出し、今度会ったら奴を必ず張り倒すと誓い、図書館島を睨みつけた。
縁が図書館の変態を張り倒すのは、いったい何時になる事やら。
大河内 アキラ編はもう少し続きます。