Infinite possibility world ~ ver Servant of zero 作:花極四季
本当は昨日投稿したかったんだけど、区切る場所がなかったせいでめっさ長くなった。また12000文字か……。
学院に戻る頃には、すっかり日も落ちていた。
それもこれも、いちいちキュルケがヴァルディに絡むせいだ。
そのせいで私がそれを諫めるという流れを繰り返してしまい、無駄に時間を食ってしまった。
迷惑なことに、シルフィードで来たキュルケ達まで馬と同じ速度で移動するものだから、折角のヴァルディとの二人きりの時間を悉く邪魔される帰り道となったのもいただけない。
……更に嫌なことは加速するもので、その後タバサが剣舞を見たいという話をしていたんだけど、その時にまさか土くれのフーケが学院を襲ってくるなんて、思いもよらなかった。
私はゴーレムに対して攻撃を仕掛けようと試みたが、キュルケに止められてしまう。
あの時はあまり冷静じゃなかったからあんな行動に出てしまっていたが、今思えばなんて馬鹿な真似をしたと思う。
ヴァルディが一切の行動を取らなかったのも、私を護ることを優先していたからだと思う。
彼一人なら、フーケを討伐できていたかもしれないのに、私が莫迦をやらかしたせいで……。
責任と後悔が重くのし掛かる。
その重圧は一夜明けてより一層増していた。
これから、昨日フーケを目撃した証人としてオールド・オスマンに呼ばれている為、学院長室に向かわなければならない。
その事実が、昨日の醜態を嫌でも思い出させる要因となり、溜息しか吐けない。
そうして思考が纏まらない内に、私達は学院長室に訪れる。
中にはオールド・オスマンを含めた先生一同が集っており、皆神妙な顔つきをしている。
さて、どんな深刻な会談になるのかと思ったら……蓋を開けたら先生達による責任の押し付け合い。
やれ宿直は誰だの、貴方のせいでだの、聞くに堪えない言葉の応酬。
それを見ていたら、先程までの後悔の重圧はすっと失せていった。
ああ、こんな大人達に比べたら、立ち向かおうとした気概を持つ自分はまだマシなんだって、強く思えたせいだろう。
こんな人達がトリステインの未来を担うメイジの育成に携わっているだなんて、失望もいいところだ。
それから、討伐隊が組まれることになったのだが……ここでも大人達は誰も志願しない。
予想していたことだ。今更何の感慨も浮かばない。
ヴァルディを横目で一瞥した限り、彼も渋い顔をしていた。彼も眼前の光景に呆れているに違いない。
誰も上げないなら、私が杖を掲げる。
そもそも、こうなってしまったのは私の責任でもあるのだ。それをここの教師陣のように他人のに責任転嫁して、問題が解決するのを待つなんて、そんなの私の理想とする貴族像じゃない。
だから、掲げた。
キュルケとタバサもついてくる結果となってしまったが、別にそこは気にするところではない。いや、キュルケはヴァルディにちょっかい出すから嫌だけど、戦力は大いに超したことはないのは事実。
それに……このチームで一番役に立たないであろう自分が、何かを口にする権利はない。
理想は高く持てど、力なくば勝ち取ることは叶わず。
それが情けなくて情けなくて、涙さえ出てこない。
本当に――救いようがない。
討伐隊は、私達の他にもミス・ロングビルの付き添いの下結成された。
彼女が参加しているのは、フーケの新たな目撃情報を得たという理由で、その責任を全うすべく志願したらしい。オールド・オスマンに言われてという部分もあるだろうけど、それでも他の教師と比べたら断然に貴族らしい。
……と思っていたが、どうやら彼女は貴族の地位を剥奪された身分らしい。
やはり貴族のような特別な地位を持つ人に期待をすべきではないのだろうか。
あまりそういう決めつけはしたくないが、ここまで貴族が腑抜けている様子を見せつけられては、気持ちも揺らぐものだ。
道中は予想通り、キュルケがヴァルディにちょっかいを掛け、私がそれを阻止しようと動き、タバサは読書に勤しみ、ロングビルは苦笑しながらその光景を見守るという混沌としたものだった。
そして、ロングビルの情報通りの地点まで辿り着いた。
「……いやに目立つ場所にあったわね」
目撃情報のあった小屋周囲は、小規模な土地と呼べる程開けた場所にぽつんとひとつだけ建てられており、その構図が不自然さを煽り立てる。
こんな少し意識すれば目立ってしまうような場所に、フーケが隠れている?
とても信じられるものでもないが、ここしかアテがないのも事実。
いなければ必要以上に深追いもできない以上、捜査も打ち切りになる。
そうなれば惜しいが、素直に引き上げる他ない。
「罠の可能性は否定できませんわね……」
「そうね。あんなでかいゴーレムを操る能力を持つなら、下手に森の中に隠れられるよりも、開けた場所での戦闘の方が狙いも定めやすくて有利だからって思って敢えてここを選んだのかもね」
「そんな余裕があったとは思えないけど」
半日近く使ってここまでしか移動できなかった、と考えると場所を選ぶ余裕があったとは思えない。
いや、たった半日とはいえ、もっと先まで進むことは可能だった筈だ。
あまりにも出来すぎた流れに、身体を強ばらせる。
十中八九罠があると見ていいだろう。なければおかしいと断言できる程に、この状況は出来て過ぎているのだ。
「……何にせよ、確認しなければなるまい。私が先行するから、君達は後からついてくるんだ」
ヴァルディが背に掛けた大剣の柄を握りながら、目にも止まらぬ速度で小屋まで接近する。
私を含めた誰もが目を見開く。
私も彼の剣技は目撃していたが、まさかあんな大剣を担いであそこまでの瞬発力を叩き出せるなんて、メイジにとって悪夢以外の何物でもない。
少なくとも一対一の状況下では魔法の一節すら唱えられないだろう。
文字通り私達は、ただのお荷物となるのではないだろうか。
シュヴァリエの称号を持つというタバサでさえ、私が分かる程度に動揺している辺り、その異常さが伺える。
小屋まで辿り着いたヴァルディが、手招きで安全を訴える。
それに全員が続き、小屋の中に入る。
「私は周囲を見回ってきます。フーケが待ち伏せしている可能性も否定できませんし」
「なら私は外で見張りをしていよう」
ロングビルとヴァルディが、各々役目を告げて小屋の外へと出て行く。
小さな小屋なので三人もいれば探索には事欠かないだろうし、承諾する。
明かりも僅かな太陽光のみでの暗がり探索は、地味に難航した。
しかし、タバサが小さな箱を見つけたことで、それは終わりを告げる。
「これ、もしかして?」
「意外とあっさり見つかったわね。それにしても、こんなにちっちゃいものが宝物庫に置かれる程の宝?」
キュルケの言葉通り、それは小さい剣の装飾でしかなく、それ以上の何物でもない。
タバサがディテクト・マジックを掛けてみる。
すると反応が出た。ということは、これはマジックアイテムか何かだということだ。
しかし、まるで用途がわからない。皆が頭を捻るも、答えは出ず。
それにしてもこの形、どこかで見たような――――
瞬間、音を立てて扉が開かれたかと思うと、私達三人は言いようのない浮遊感に襲われていた。
意識する間もない、一瞬の出来事。
そして私達がいた小屋を突き破るように突撃する影は、そのまま小屋を突き破り外への経路を繋ぐ。
私達が小屋から吹き飛ばされるように出た瞬間、小屋は轟音と共に無惨に破壊された。
「――大丈夫か」
その言葉に、顔を上げる。
ヴァルディが眉を潜めた表情で見下ろしている。
周囲を見渡すと、ヴァルディの両腕に抱かれている私とキュルケ、そして襟元を掴まれているタバサ。そして、学院で見た巨大ゴーレム。
どうやら私達はゴーレムの一撃から助けられたようだ。
「あ、ありがとうヴァルディ」
「気にするな。それよりも、問題はアレだ」
巨大ゴーレムを見上げる。
一歩一歩とこちらに振動を与えながら近づいてくるそれは、無機物ながら圧倒的威圧感を醸し出している。
「破壊の剣飾を餌に、追っ手を撃退する心算だったようね。わかっていたのに油断するなんて……」
「反省は後」
皆が戦闘態勢に入る。無論、私もだ。
正直な話、逃げるという手もある。目的のものは手に入れているのだから、あんなものを相手にする必要性は皆無なのだから。
だが、幾ら鈍重な見た目をしているとはいえ、アレを相手に逃げに徹するのは厳しい。
戦うにしろ逃げるにしろ、五体満足で済むかどうか。
ならばせめて、戦って未来を勝ち取る。
それに、こっちにはヴァルディが、最高の戦力がいる。
少なくとも、逃げに徹するよりかは希望が見える。
「三人とも、援護を頼む。私は奴の目を惹きつける」
それだけ告げ、ヴァルディは一直線にゴーレムへと突進していく。
脚部を数度斬りつけ、あっさりと片膝をつかせる。
いける!と思った矢先に、ゴーレムの脚部は再生していく。
もう片方の足に向かって攻撃するも、ゴーレムの拳に阻まれ回避行動を取り、腕を攻撃。
その間に、壊れていた足は殆ど回復してしまっていた。
「流石に彼ひとりじゃマズイわよね……」
そう言ってキュルケがフレイム・ボールを、タバサがウィンディ・アイシクルを放つ。
ヴァルディの攻撃とは比べるべくもないが、それでもゴーレムに対しそこそこのダメージを与えていた。
そんな中私は、どこに飛ぶかも見当がつかない失敗魔法を打ち続ける。
当たったり当たらなかったり、最悪ヴァルディの近くに爆発が命中するというミスもしてしまう。
「ちょっと!何してるのよ!」
「五月蠅いわね!ちょっとミスしちゃっただけなんだから!」
役に立てないことへの焦りが、次第に苛々を募らせ声を荒げさせる。
このままじゃいけない。着実にダメージは与えているが、無尽蔵にある土から回復するゴーレムの耐久力の方が上回っている。
そんな中、タバサが口笛でシルフィードを呼ぶ。
無理矢理キュルケに腕を掴まれ、そのまま上空に飛ぶ羽目になる。
地上では、ヴァルディが孤独に戦っている。
「ちょっと、何するのよ!」
「あのまま地上に居たって、埒があかないのよ。空にいれば、シルフィードの機動力で少なくとも私達は安全よ」
「だからって、ヴァルディをあのままにしておけないわ!」
「そんなこと、わかってるわよ!だからってあのまま戦っていたところで状況が好転する訳でもないでしょう!?」
両肩を強く掴まれ、怒鳴られる。
……悔しいけど、キュルケの言うとおりだった。
トライアングルが二人、強力な前衛が一人いても現状維持が限界なのだ。
何か新しい対策を講じなければ、ジリ貧になるだけだ。
「そうだ、破壊の剣飾!あんな大層な名前なんだから、凄い力を秘めているのかも!」
「……あのねぇ、仮にそうだとしても使い方がわかんないなら意味ないのよ?それを調べる時間なんて少しだってありはしないのよ?」
キュルケの言葉を無視して、破壊の剣飾が仕舞われていた箱を開く。
銀色の剣。これが現状を打開しうる希望になるかもしれない。
自分でも無駄な行動をしていると思う。合理的な方法よりも都合の良い展開に縋るなんて、私らしくない。
だけど、何だろう。この違和感。
さっきも感じた、既視感。
どこだ。何を、どこで、どうして見た?これと似た、何かを――――
「――――そうだ!思い出した!」
「な、何よ急に」
「ヴァルディが持ってる剣!あれにこれと同じくぼみがあったのよ?」
「はぁ?見間違いじゃなくて?」
「見間違いなんかじゃない!絶対、間違いない!」
既視感の正体は、これだったのだ。
すっきりしたと同時に、確信めいたものが頭を過ぎる。
これをあの剣に嵌めたら、きっと何かが起こる。
それが恐らく、逆転の兆しとなってくれる。
「タバサ!私をヴァルディの所に連れてって!」
「駄目。危険」
「そんなもの百も承知よ!だけど、私がやらなきゃいけないの!」
「落ち着きなさい。あんな熾烈な戦いの中に入るなんて、無茶よ。私達でさえそうなのに、貴方じゃとても――」
「そんなの、分かってる!」
破壊の剣飾ごと、手を強く握りしめる。
痛みなんか気にならない。
「――ええそうよ!私は魔法が使えない。この中じゃあ役立たずもいいところ。ヴァルディを使い魔とするだけのメイジ、ただのお飾りよ!……でも、だからこそ、何もできない自分が許せない!こんなことしか出来ないけど、いえ、こんなことでもいいからヴァルディの役に立ちたいの!」
戦闘の音が、遠い。
まるで上空と地上との間が隔絶されてしまったかのようだ。
誰も言葉を発しない中、ひとつの溜息が耳朶を打つ。
「……わかったわよ。シルフィードで出来る限り近くに寄って、私達は魔法で牽制するから、そのまま破壊の剣飾を彼に向かって投げなさい。ただし、チャンスは一度と思ってやりなさい。タバサ、いいわよね?」
「構わない」
「二人とも……」
「ほら、早くしないとマズイんだから、とっとと前向く!」
強く背中を叩かれ、改めてヴァルディへと視線を向ける。
情けない思いの丈を吐き出し、キュルケはそれを受け止めてくれた。タバサも、何も言うことこそなかったけど、多分そうだと思う。
お礼が素直に言えない自分が嫌になるが、それもまた自分らしい気がする。
ともあれ、まずはこの窮地を乗り切らないといけない。
一瞬の隙を伺う。
フーケのゴーレムはヴァルディに意識を向けてはいるが、決してこちらを無視している訳ではない。
こちらの油断を虎視眈々と狙っているのが、動きの節々から伺える。
その用心深さが、フーケの実力を如実に表している。
地上と空中からの波状攻撃で、フーケが意識を散らした瞬間を狙う。
「まだ駄目なの?ルイズ!」
「待って!もっと引きつけて!」
必死に魔法を打ち続けるキュルケの焦りを孕んだ声。
タバサも表情こそ冷静だが、額からは汗が滲んでいる。
足りない。ヴァルディとの距離も、意識の分散も、何もかも。
一度の失敗ですべてが破綻する。だからこそ、タイミングを間違える訳にはいかない。
「――今!」
そして、好機は訪れる。
私は迷わず破壊の剣飾をヴァルディに向かって全力で投げつける。
「ヴァルディ――――!!」
タイミング良く距離を取ったヴァルディが、こちらを見る。
そして、破壊の剣飾を手に取った。
「やった!」
喜ぶのも束の間、ヴァルディはこちらの意図に気付いてくれるのか?
――どうやら杞憂だったらしい。
破壊の剣飾を見て、ヴァルディの口元が笑みを形作る。
迷わず剣のくぼみに装着すると、手甲のルーンが激しく輝いた。
そして、私達は奇跡を目の当たりにする。
「剣が――変わった?」
本来の形状よりも細く小さくなり、橙色に変色する。
「あれ、どういうこと?」
「わ、私にもさっぱり……」
だけど、ひとつだけ分かったことはある。
あの剣とマジックアイテムは、二つでひとつの武器なんだ。
ヴァルディが改めて突撃していく。
振り下ろした拳を紙一重で避け、そのまま脚部に叩き込む。
瞬間、爆音が走った。
衝撃の余波が空中にいる私達さえも襲う。
「な、なにあれ!?」
「凄い威力」
「あれが、本来のあの武器の力―――」
そこからは、一方的な展開となっていく。
爆発の異常なまでの威力が、ゴーレムの再生を遙かに凌駕し、土塊を周囲にばらまきながらその巨躯を崩壊させていく。
そして遂にゴーレムは形を保てなくなり、熾烈な戦いは幕を閉じた。
私の忌み嫌っていた、爆発の力で。
夕日を連想させるような美しい色彩を放つ剣が、土くれのフーケが召還したゴーレムを圧倒する光景は、まさに物語の勇者のようであった。
偶然店で手に入れたという大剣と、今回の破壊の剣飾の騒動という、本来関連性のない出来事が絡み合い、奇跡を呼び起こした。
そう、奇跡。ご都合主義と言うべきか。
幾多にも存在する物語で使われてきた、ありふれた手法。しかし、それが現実に起きたとなれば話が違ってくる。
信じられないと思う反面、彼――ヴァルディならすべて見通した上で行動していたのではないか?と思わせる何かを持ち合わせていても不思議ではない。
……事実、私は彼に惹かれ始めている。
カリスマ、と言うべきか。彼は他人を魅了する資質がある。
それは大衆を魅了した、イーヴァルディの勇者という物語と同じ。
思えば彼の名前も、イーヴァルディとどこか似ている。いや、ほぼ同じだ。
もしかして、彼は本当に――――
胸が締め付けられる感覚が襲う。
苦しい、けど、嫌じゃない。何なんだろう、この感覚。
なんなんだい、あの剣は!?
土くれのフーケとして活動し、学院ではロングビルという名で宝物庫の中身を虎視眈々と狙って、ようやく目的を完遂できたと思ったのに、こんなの予定外だ。
ヴァリエールの使い魔、ヴァルディだったか。
アイツの凄さはある程度知っている。だが、何倍もの体積をゴーレムを打倒するのは剣一本じゃ無理だと思い、あまり気には留めていなかった。
それなのに、破壊の剣飾とあのデカイ剣を合体させた瞬間、あんな力を目覚めさせやがった!
爆発の力。ヴァリエールの失敗魔法なんかとは比べものにならない衝撃を以て、ゴーレムを破壊していく。
くそ、どうする?今なら破壊の剣飾を見捨てれば逃げることぐらいは出来る。
アイツの手から取り返すなんて無理だ。そうだ、よし、逃げ――
決意した瞬間、頭部に物凄い衝撃が襲う。
それは、ゴーレムの破壊の余波で飛んできた土塊が命中したという、不幸によるもの。
しかしそれを認識するよりも早く、私の意識は闇に沈んでいった。
ヤバイ、緊張してきた。
取り敢えず見張りを志願して外で待機しているが、絶対これってあれと戦うフラグだよね?
あんな攻撃を繰り出す相手と戦うとか、無茶言うなってレベルじゃねーぞ!
某悪魔も泣き出すアクションゲームの3でも、序盤から大ボスと戦う羽目になって、無理ゲーすぎるって思った時と全く同じ心境だ。
しかも、今回はコントローラーではなくこの身体そのものを使った戦いだ。恐怖度も比べものにならない。
討伐隊、なんて名前で結成されたチームだけど、ぶっちゃけ目的のものさえ見つかれば帰っていいと思うんだ。
チキンだって?おいおい、同じ立場になってみろ。そんな気もなくなるから。
思考に没頭していると、突如影が差す。
見上げると、ゴーレムが悠然とこちらを見下ろしていた。
……ドーモ。ゴーレム=サン。ヴァルディです。
――じゃない!なんかゴーレム拳振り上げてるし!明らかに小屋ごと狙ってるし!
慌てて小屋に入り、なりふり構わず三人を担ぎ上げ、小屋を突き破る形で脱出する。
タバサ先生は襟首掴んで持ち運ぶ形になってしまったが、両腕はもう満員だったんです。ごめんなさい。
「あ、ありがとうヴァルディ」
「気にするな。それよりも、問題はアレだ」
ルイズさんの感謝の言葉も、今は聞いている余裕はない。
目の前のゴーレムを何とかしないことには、僕達に未来はないのだ。
「三人とも、援護を頼む。俺は奴の目を惹きつける」
前衛は後衛を護らなければならない。
危険から遠ざかることは出来ないが、それが僕の役割なんだ。
そうだよ、そういう覚悟でゲームを始めたんじゃなかったのか、自分。
勇気を振り絞り、ゴーレムに向かって突貫する。
そうだよ、この自律型ヴァルディは何か身体能力高いから、ゴーレムの攻撃なんてちょちょいと躱せるって!
……そう思っていた時期が僕にありました。
ゴーレムの繰り出すパンチは、鈍重ながらもその圧倒的質量から来る風圧で僕の精神を着実に蝕んでいく。
無理!死ぬ死ぬ!あんなんくらったら即ピチュる!絶対レベル足りてないって!
ていうかレベルって上がったのか上がってないとかわかんないんだけど、どういうことなの――!!
頭の中はパニック状態ながらも、ヴァルディは効率的にゴーレムに攻撃し、回避行動もスタイリッシュに行っている。
もう全部自律型ヴァルディだけでいいんじゃないか?
しかし、アイゼンメテオール形態のテンコマンドメンツでは、この巨大ゴーレムを打倒するに相応しくない。
ゴーレムは剣で削っても炎や氷の魔法で傷つけても、直ぐさま再生してしまう。
あんな派手な魔法を当ててもそれしか効かないなんて、詐欺だ詐欺!
だけど、ルイズちゃんの魔法だけは、明らかにゴーレムにダメージを与えていた。
爆発する魔法。これが失敗魔法なんて、信じられない。
少なくとも、あの抉るようにゴーレムの肌を破壊する様子を見せられては、とてもそうは思えない。
だが、それでも足りない。爆発の規模はそこまで大きくはない為、ゴーレムの再生を圧倒するには足りない。
……気が付いたら、魔法の援護が止んでいる。
もしかしてMP切れ?と思った矢先、上空から落ちてくる魔法。
見上げると、青い竜の背に乗った後衛組の姿が。
恐らく、タバサ先生の使い魔だろう。青いし、それっぽいし。
成る程、確かにあそこなら安全だ。
そんなことを考えていると、ルイズちゃんの張り裂けんばかりの声が降りてくる。
「ヴァルディ――――!!」
声がした方へ振り向くと、何か小さなものが飛んでくる。
それを咄嗟にキャッチし、掌の上に拡げる。
こ、これは、まさか――――!
イヤッホオオオオゥ!これってどう見てもレイヴじゃないか!
これさえあれば、勝てる!
テンション上がってきたぜええええ!
装着。そして、イメージするんだ。この状況に相応しい、あの剣を!
「……よし、これなら」
かくして、アイゼンメテオールは新たな姿を現す。
これの本来の持ち主が最も愛用した、爆発の剣。エクスプロージョン。
斬撃ではなく、打撃のインパクトから発生する爆発の力によってダメージを与える剣。
その性質上、主人公が未熟な頃は対人での不殺・気絶という恩恵を得ていた。
だが、こんな土の塊相手なら、元より遠慮する必要なし。
「全力で、行く!」
先程と同じ流れで、脚部に攻撃を仕掛ける。
インパクトの瞬間、周囲を圧倒する衝撃が走る。
使う方にも強い衝撃が走るということは知っていたが。これは中々に堪える。
気のせいかさっきよりも身体が軽い。ハイテンションなせいだろうか。
兎に角、これを好機とし、ひたすらに攻め続ける。
足、腹、腕、最後には頭に向かって怒濤の連続攻撃を叩き込むと、遂にゴーレムは沈んでいった。
……本当に勝っちゃったよ、オイ。
エクスプロージョン形態になってからは、出来レースが如く戦闘が簡単に終わってしまった。
多分、仮にエクスプロージョンにならなくてももう少しで勝てたんだろう。そう考えると、あのハイテンションが今更ながら恥ずかしい。
後衛組が空から降りてくる。
すると、あろうことかルイズちゃんが僕に飛びついてきた。
「ヴァルディ!」
笑顔の端に涙を浮かべ、僕の無事を心から喜んでくれている。その事実が、僕に充足感を与えてくれる。
うーん、男冥利に尽きると言えばいいのだろうか。しかし恥ずかしい。
「さっきの剣、なんだったの?いつの間にか元に戻っちゃってるし」
キュルケがじろじろとアイゼンメテオールを観察している。
まぁ、知らない人からすれば気になるわね。
「これは、テンコマンドメンツ。そしてルイズが渡してくれたあの剣、それはレイヴと言う。二つでひとつの武器であり、十の顔を持つ剣だ。そして、先程の剣は第二の剣。爆発の剣・エクスプロージョンだ」
説明して思ったけど、これって第十の剣も原作主人公仕様なのかな。あるいは無いか。
まぁ、なくても充分強いからいいけどさ。
「ヴァルディ、貴方これを知っていたの?」
「ああ」
「こんなものがあるなんて、聞いたこともないわよ。もしかして、エルフの武器なの?」
「いや、違う、が――君達はおろか本来誰も知らないような特別な知識だ。知らないのも無理はない」
なんて説明すべきか迷ったが、取り敢えず仕様上絶対君達は知らないんですよー、的な内容で納得してもらおう。
実際、こういうのって説明困るよ。マジで。
みんな渋い顔をしていたが、そうとしか説明できない以上もやもやしてもらうしかない。
「そういえば、ミス・ロングビルは?」
「偵察からは帰ってきてないぞ」
そういえば、いたねそんな人。
あまりにも出番がなかったから忘れてたよ。
と言うわけで、探すことになった。けど、あっさり見つかった。……気絶した状態で。
「ミス・ロングビル!これって……」
「恐らく、偵察の際にフーケに不意を突かれたんでしょうね。頭に拳ぐらいの大きさのものがぶつかった形跡があるわ」
「多分、フーケの魔法でしょうね。土の硬度を変えればそれぐらい容易いでしょうし」
ルイズちゃんとキュルケが考察しているが、真実は闇の中だ。
幸いにも生きているようだし、僕が抱えて学院に帰ることとなった。因みに馬車も自分です。
適当に見よう見まねな動きをしたら動いた。それでいいのか、馬よ。
学院に戻った私達は、フーケから破壊の剣飾を奪還した功績を認められ、シュヴァリエの称号を賜った。
既に称号を得ているタバサには、精霊勲章が受領されることになった。これも軍功に応じて得られる報奨で、そこそこの価値があるとされている。
今は保健室で休んでいるミス・ロングビルに関しては、貴族ではないがそれ相応の報奨金を送るとのこと。
そして――ヴァルディ。彼は破壊の剣飾を貰っていた。
あの武器との関連性を理解していた彼にしか使いこなせない、と判断した上でのことらしい。
貴重なものではあるが、宝物庫に埋まってるよりは断然マシだろうし、学院長のご厚意は有り難く受け取っておく。
……ヴァルディは、あの剣を十の顔を持つ剣だと言っていた。
エクスプロージョンが第二の剣であるということは、恐らく最初の大剣状態が第一扱いなんだろう。
つまり、残り八つ。あんなゴーレムを容易く打倒できる力が、あと八つ。
本当に、彼が使い魔で良かったとつくづく思う。
でも、彼に頼ってばかりはいられない。
これから、もっと精進しなければならない。彼の主として相応しくなれるように。
その夜、フーケから宝を取り戻し帰還した私達を主役とした舞踏会は、アルヴィーズの食堂の上の階に位置するホールにて行われた。
入場するが否や、普段私をゼロと中傷する男達からダンスの申し出を何度も受ける。
……本当、気持ち悪い。地位を持つ者にあやかろうとすること自体は否定しないが、その厚顔無恥な掌返しに関しては許容できない。
謝罪の言葉ひとつなく、嘘で塗り固められた笑顔で、腹の底では私を見下しながら擦り寄ろうとする。
救いようがない、と心から思う。
私はそんな男達を振り切り、ヴァルディを探す。私が全幅の信頼を寄せられるパートナーを。
「あ……」
バルコニーに佇む姿。それは紛れもなくヴァルディの背格好だった。
手すりに身体を預け、空を見上げている姿は思わず見惚れてしまう美しさを秘めており、無意識に足を止めてしまう。
絵画のような光景に、私という一滴を落とし汚したくないという思いがそうさせる。
しかし、その思いは第三者の介入によって潰される。
「あれは、タバサ」
フーケ討伐に関わった内の一人の少女が、皿に盛りつけられた食べ物をヴァルディに手渡している。
完全に出遅れてしまった私は、慌てて二人に近づく。
「ヴァルディ、何してるの?」
「月を見ていた」
「タバサこそ、ヴァルディに用事?」
「今日のお礼を。あの時、彼がいなければ私達はこの場にいなかった」
「そう、ね。そうなのよね」
私、キュルケ、タバサの三人が欠けていても支障はなかっただろうが、彼がいなければフーケを倒すことはできなかっただろう。
メイジが技術、軍事力のすべてを担っていると言っても過言ではないこの世界で、剣一本でスクウェアクラスの敵を圧倒した事実。
もしそれが外部に漏れるようなことがあったら、どうなるだろうか。
トリステイン国民である私の使い魔ということだから、上層部からの圧力で軍事力として利用されるか。
他国に知られた場合も同様の扱いを受けるだろう。結局、八方塞がりだ。
自国のことを、アンリエッタのことを信用していない訳ではない。
だけど、国家が一枚岩で成り立つ訳もない。退官した前女王の代わりに、若くして即位することとなった彼女には、実質的な権力は無い。いわばお飾りの女王。
私と似たようなものだ。副次的要素で地位を得た者同士、虚しい繋がり。
……これからずっと、彼の正体を秘匿できるとは、到底思えない。
寧ろ、近いうちにバレてしまうだろう。彼という器は、ちっぽけな殻に収まるほど小さくはない。
だからこそ、今の内に何とかしなければならない。
今回のフーケ討伐を皮切りに、嫌でも噂は拡大していくのは目に見えている。
噂とは、尾ヒレがつくものだ。しかも大抵が誇張されて。
ただでさえ目立つ彼のこと。しかもドットとはいえメイジを瞬殺した事実に加え、今回のフーケからの破壊の剣飾奪還の成功という功績。
尾ヒレがつかなくとも充分な功績が、更に噂のせいで世界に拡大していく。
私の使い魔になったばかりに、彼の存在は知れ渡る事となる。
少しずつ、しかし確実に彼の肩身は狭くなっていくことだろう。
……私が何とかしなければならない。
彼と共に戦えないのであれば、せめて居場所だけでも護れる力だけでもつけたい。
ヴァルディの傍らで、一人決意を新たにする。
結局、舞踏会の主役の私達四人の内三人は、踊ることもせずバルコニーの端で談笑するだけに終わった。
ダンスなんかより、彼はこうして静かに過ごす方が似合っている。
それに、彼を社交場の中心にしたくない、という嫉妬もあった。
どうせ嫌でも彼は世間の目に晒されることになるだろう。だったら、今だけでも独占したってバチはあたらない筈。
タバサも一緒というのが少し不服だったが、彼女はキュルケのような喧しい人種じゃないので、次第に気にならなくなった。
そっと身体同士が触れるぐらいの距離まで彼に近づく。
今はこの時間を満喫しよう。
ホールから漏れる煌びやかな光と音楽を背景に、夜は更けていった。
……余談だが、ヴァルディ本人はというと、バルコニーにいたのは周りがドレスで着飾ってるのに自分はいつもの服装のままで場に馴染めず気後れしてしまい、そそくさと逃げた結果である。
当然、ダンスなんてしたこともない中の人だからこそ、余計に疎外感を感じていたりする。
だからタバサとルイズがバルコニーに来たときは、内心超感動していた。
月を見ていた、というのも何もすることがないなーとボケッとしていただけという。舞踏会を見えるのは気が引けるという理由もあり、そっちを見ることはなかった。
そんなこんなで、ヴァルデイの中の人は相変わらず、外面からは想像もできないヘタレた思考と共にハルケギニアを生きていく。
ゲームの世界だと勘違いしたまま、彼はどこまで行くことができるのか?
ひとまず、第一部終了、なのかな?
ルイズが着実にデレ始めているね。タバサも色々と気になる感じに。
キュルケに関しては、ルイズがヴァルディに対して抱いている感情を本質的に見抜いているため、原作サイトに対してやった行動が控えめになります。呼び方もダーリンじゃなくてヴァルディです。
あと、今回半ばダイジェストっぽくなりましたが、それでもこの文字数です。察して下さい。
この小説見てる人の9割は原作知ってるか、別の二次作品見てるかって人だろうし、多少不親切かもしれませんがある程度のテンポを重視させていただきました。
多視点にすると、こういう弊害があるんや……仕方ないんや……。
ルイズの他人に対する評価が辛辣になってきていますが、ヴァルディという優れた見本が近くにいるせいです。周囲には原作以上にツンツンしてるけど、ヴァルディには微デレ状態ってことです。
あと、さりげなくロングビルが助かってますね。それがどう物語に影響していくのやら。