バカとテストと召喚獣 ~とある男の物語~   作:カンベエ

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第一問 化学
以下の問いに答えなさい。
『調理の為に火をかける鍋を制作する際、重量が思いのでマグネシウムを材料に選んだのだが、調理を始めると問題が発生した。この時の問題点とマグネシウムの代わりに用いるべき金属合金の例を一つ挙げなさい』

姫路瑞希、三宮叶の答え
問題点 マグネシウムは炎にかけると激しく酸素と反応するため危険であるという点。
合金の例 ジュラルミン

教師のコメント
正解です。合金なので鉄ではダメだという引っ掛け問題なのですが二人とも引っかかりませんでしたね。

寿々屋義行の答え
問題点 料理が出来ません。

教師のコメント
そういう問題ではありません。

吉井明久、浦辺綾乃の答え
合金の例 未来合金(←すごく強い)

教師のコメント
すごく強いと言われても・・・・


第一話 バカとテストと全ての始まり

ここは文月学園が管理する学生寮の一つ『師走寮』、学園長とちょっとした知り合いである隼人が寮長を任されている寮でもある。

 

―午前四時

秋山隼人の朝は早い、この時間に起床し日課となりつつあるランニングに出かける。

 

「ふっ、ふっ、ふっ」

 

健康を維持するにはしっかりとした食事と適度な運動、寮長として皆の食事の世話などをする関係上部活などには所属していないのでこうやって朝、夕に一時間程ランニングをする時間を取っている。

 

「おはようなのじゃ」

「ああ、おはよう」

 

そして何時ものように、駅前へと向かう道で朝の自主練をしている友人の木下秀吉と合流しそのまま駅前まで走る。

 

―午前五時半

朝食の準備を始める。新学年初日、バランスの取れたメニューをと考えご飯に目玉焼き、お新香に野菜スープを用意する。非常に手際良く、まるでプロのそれを見ているかのように。

 

―午前六時

おおよそ朝食の準備を済ませると新聞を取りに向かう。パラパラと新聞を一通り読み終えた頃、次の行動に移る。そう、寮の連中を起こさないといけない。

 

ここに住まう寮生は自分を含め六名である、先ずはその一人である三宮叶の部屋へと向かう。トントン、とノックをしながら。

 

「叶、起きているか?」

「んゅ―――ん、大丈夫」

 

声がちゃんと聞こえてきた。

 

「ならば朝食にしよう、準備が出来ているから着替えたら食堂に」

「ん」

 

彼女は一番優良だと思う、規則正しく寝て起きて。次に少し離れた部屋、幼馴染である吉井明久と同室である須川亮、寿々屋義行の部屋へと向かう。

 

「おい、起きろ」

 

男子部屋であるからノックもせずに入れば、全員が漏れなく寝穢い格好をしながら夢の中である。

 

「んー後5分・・・・」

「あと一時間・・・・」

「あと二日・・・・」

 

亮、義行、明久の順に寝言のように言われれば、黒い笑みを浮かべながら近寄っていく。そして・・・・

 

「そうか、それ程までに起きたく無いのならば・・・・」

 

「西村教諭にモーニングコールを頼むとしようか、これから毎朝」

 

その言葉と同時に跳ね上がり、三人が綺麗に土下座の体勢を取る、そして・・・・

 

『さーせんっしたー!!』

 

ここまで僅かコンマ3秒。

 

「宜しい、朝食の準備が出来ている、叶が待っているだろうから着替えて直ぐに向かえ」

『イエス、マム!!』

 

さて面倒なのが三人片付いた、後は最後の一人を起こすだけだ。

 

最後は浦辺綾乃、先ずは通例通りノックをしてみる。

 

「起きているか、綾乃」

「起きてまグー・・・・zz」

 

矢張り、と思えば女子に対して失礼と思わないでも無いが扉を開ける。とヨダレを垂らしながら魚河岸のマグロの如く眠っている女子の腹部めがけて迷い無くフライングエルボーを繰り出す。

 

「おぶふっ!?」

「目覚めたか」

 

お腹をさすりながら体を起こす綾乃。

 

「ちょっと女子にフライングエルボーってどういう事!?しかも勝手に入ってきて!!デリカシーとか無いの!?女子の部屋だよ?ちょっとドキっとしたりとか無いわけ?!」

「何を言っているかは知らないが十年来の付き合いの幼馴染がヨダレ垂らして魚河岸のマグロのように寝ていたところでドキっとする要素は何一つ無いと思わないか?」

「むぐっ!?」

「まぁ良い、飯の時間だ、さっさと起きろ、起きなければ・・・・」

「起きなければ?」

「西村教諭のモーニングコールを」

「起きます!」

 

うむ、と頷いてダイニングキッチン・・・・通称食堂へと向かう、既に所定の位置に座って待っている他四名。

 

「そう言えばクラスとかどうなったんだろうなー」

「俺と叶以外はF確定だな」

「えー?」

「わからないぞ、意外と奇跡的な結果を残して・・・」

「・・・・ないない(ふるふる)」

『そんな!?』

 

ニッコリとそんな訳は無いと言う叶に落ち込む明久、義行、亮・・・とまあそうこうしているうちに綾乃が到着して朝食を食べ始める。

 

「そう言えば試験召喚戦争が始まるのだったな」

「ま、僕らには関係無いけどねー」

『だな(だね)』

 

最早諦めムード全開なF確定の四人組。ふと隼人が時計を見る、既に七時半を回っている。

 

「少し早いかもしれないが行くか、遅刻よりはマシだ」

 

そう言って既に通学準備を済ませていた隼人が寮の戸締りをする間に皆が準備を済ませ、六人で並んで通学路を歩き出す。

 

―午前八時

校門前に立つ相当がっちりした体格の教師、件の西村教諭だ。

 

「おはようございます、西村教諭」

「おは、よーござい、ます」

「ちーす」

「はよーっす」

「おいーっす」

「こんちゃー」

 

適当な挨拶をした後半四人に容赦無くゲンコツが振り下ろされた。

 

『痛ってぇー(たい)!?』

「朝の挨拶ぐらいしっかりせんか!全く・・・・ほら、お前らの振り分けの結果だ」

 

そう言って一人一人に封筒を手渡す中、西村教諭が隼人と叶の方を向く。

 

「秋山、三宮、お前らは周りの人間に流され易い傾向があるな」

「そうですかね?」

「・・・?」

 

封筒を開け、中を見た二人が驚きの色を顔に浮かべるまでそう時間はかからない、書かれていた文字は「F」

 

「なっなんで!?」

「・・・!?・・・!?」

 

恐慌状態の二人を、穏やかに諭すように西村教諭が語りだす。

 

「秋山、お前は全教科・・・・名前を書き忘れていた」

「んなっ!?」

 

名前名前名前、そう言えば書いた覚えが無い。

 

「三宮、お前は全ての教科で解答欄が一個ずつずれていた」

「・・・・!(がーん)」

 

判り易く驚いてうなだれる叶。

 

「まぁ試験召喚戦争があるから設備に不満があったならばそれで帳尻を合わせれば良い。もうそろそろHRだ、速く向かえ」

「善処します」

 

二人に何と声をかけたら良いか分からない他四人は、取り敢えず二人の後について、Fクラスへと向かっていく。

 

―Fクラス前

不意に、前へと出る明久と綾乃。

 

「やっぱりさ、第一印象って大事だと思うんだ」

「何を突然」

「その通りよ、初見が大事なのよ」

 

そう言って二人が扉に手をかけて・・・・

 

『すいませーん、遅れちゃいました♪』

 

妙な調子で教室へと入った。

 

「とっとと座れ蛆虫ども」

 

が、突然の罵倒で出足をくじかれた。

 

「雄二、それ以上言ってやるな。明久と綾乃の心と脳みそはガラス製なんだ、もう少し丁寧に扱ってやれ」

「そうだな・・・・って隼人!?」

「わたしも、いる・・・よ?」

「三宮まで!?」

『俺もいるぞ!!』

「どーでもいい」

「っていうかさ、今さりげに酷い事言わなかった!?」

「誰の脳みそがガラス製よ!!もうちょっといい感じの表現があるでしょう!?」

 

さりげない隼人の言葉に反論をする明久と綾乃。

 

「例えば?」

『プラスチック!!』

「・・・・雄二、話を続けてくれ」

「おう」

『無視しないで!!』

 

そんな明久と綾乃の悲痛な叫びを無視して、担任主導の下自己紹介が始まる。

 

「木下秀吉じゃ、演劇部に所属しておる」

 

木下秀吉、独特な言葉遣いに小柄な体、一部では性別『秀吉』などと言われる美・・・少年?少女?まぁどちらでも良い。とにかく一年の頃から付き合いがある一人だ。

 

「土屋康太」

 

土屋康太、通称ムッツリーニと呼ばれ保体学年一位の男。基本無口だが良い奴だ、裏では撮影した女子の写真(秀吉含む)を売りさばいているらしい。情報収集のプロ、当然一年の頃からの付き合いがある。

 

「島田美波です、海外育ちで日本語は会話できるけど読み書きが苦手です。あー、でも英語も苦手です、ドイツ育ちなので・・・・趣味は・・・・」

 

島田美波、ドイツからの帰国子女で綾乃が仲が良いと言う事もあり同じく一年の頃からの付き合いがある少女。

 

「寿々屋義行を殴る事です☆」

 

通称『義行の天敵』、義行に好意があるらしいのだが性格上素直になれず先に手が出てしまうのだとか、まぁ気長に見るしか無いだろう。義行は打たれ強いし。

 

続いて師走寮グループの番になる。

 

「須川亮だ、宜しくな」

 

須川亮・・・・特筆することが無い、平凡な奴だ。が、意外と中華料理などが好きらしくそちら方面の知識は凄い。

 

「寿々屋義行だ、宜しく頼むぜ」

 

寿々屋義行、観察処分者。一年の頃に明久とちょっとしたバカをやらかして二人揃って開校以来初の観察処分者を拝命した。基本良い奴だ、バカだけど。

 

「三宮、叶・・・・・です、よろしく、おねがいしま・・・・す(ペコリ)」

 

三宮叶、ちょっと舌っ足らずなしゃべり方をする小動物みたいな子。あまり大きい声を出すのが得意では無いらしくボディランゲージで対話を試みる姿が物凄い人気を呼んでいる、今も実際クラスの男子の殆どが萌えている。

 

「浦辺綾乃よ、一年間よろしくね」

 

浦辺綾乃、明久の従妹で同じぐらいバカ。思考回路が殆ど同じなのでほど同タイミングでボケを繰り出す。幼稚園ぐらいからの付き合いで明久同様、扱い方は心得ている。

 

「秋山隼人だ」

 

そして俺が自己紹介を終えると次は明久、最後に雄二だ。

 

「コホン、えっと吉井明久です。気軽に『ダーリン』って呼んでくださいね」

『ダァアーーリィーーーーン!!!』

 

野太い声の大合唱、の中に実はさり気なく叶が「だーりーん♪」とか面白がって言っていたのは内緒だ。

 

「あの、遅れて・・・・すみませ、ん」

 

ガラッ、と扉を開けて現れた女生徒に、全員の視線が向く。

 

「姫路瑞希です、えっと・・・・宜しくお願いします」

 

叶と同じぐらい行儀よく頭を下げる女生徒・・・・姫路。

 

『うぉおおおおおお!!!』

「何だ今年のFクラスは、豪華過ぎるだろう!!」

「浦辺に三宮さんだけでも十分だと言うのに姫路さんまで、ここはパラダイスだ!!」

 

狂喜乱舞する男子たちをよそに、ふと疑問を浮かべる。

 

「今の中に島田が含まれていないのは何故だ?」

 

島田とて活発で時折みせる仕草が可愛らしい、十分に魅力的な女子だと思うのだが・・・・

 

「キャメルクラッチで人の背骨を折りかける奴を女子とは呼ばん!」

「片手で人一人持ち上げる怪力を女子が持つ訳が無い!」

「あんな真っ平らな胸を女子とは認めん!!」

「アンタたち・・・・・言いたい事はそれだけかしら?」

『はっ!!?』

 

物凄いオーラを放ちながら立つ島田。

 

「覚悟ぉおお!!!」

『うっぎゃああああああ!!!』

 

島田による男子への制裁が始まる。と、それを尻目に明久、雄二、姫路、浦辺が何やら会話しているようだ。咳き込む姫路を見て何やら考える明久。

 

「雄二、隼人、ちょっといいかな?」

 

明久に誘われ廊下へと出る。

 

「この教室についてなんだけど・・・・」

「まぁ想像以上にひどいな」

「雄二もそう思うよね?」

「勿論だ」

「隼人は?」

「まぁ・・・・学問をするに劣悪な環境ではあるな」

 

ボロボロの畳、割れたガラス、ヒビの入った壁、ワタの足りない座布団、足の折れたちゃぶ台、埃っぽい空間、何をとってもお世辞にも学業をする空間では無い。

 

「そこで提案、折角二年になったんだし試験召喚戦争を仕掛けてみない?」

 

その言葉に雄二と顔を見合わせる、辿りついた結論は同じなようだ。

 

『姫路のためか?』

「ど、どうしてそれを!?」

「お前は顔に出易い」

「咳き込んでいた姫路を心配そうに見ていたからな」

「ぐっ!?」

 

何かを言い返そうとしているが詰まる明久。

 

「まぁお前に言われるまでも無く仕掛けるつもりだった」

「?なんでまた」

「・・・・世の中学力だけが全てじゃない、それを・・・・証明したいんだ」

 

そう語る雄二の顔は、どこかいつもには無い真面目さをおびている。

 

「ま、クラス代表の決定に従うさ」

 

笑いながらそう言えば、そろそろ騒ぎも収まったか、と教室に入る。

 

「さて、騒ぎも収まったところで・・・・俺がクラス代表の坂本雄二だ」

 

教壇に立ち一同を見回す雄二。

 

「さて、皆に一つ聞きたい」

 

絶妙なまの取り方、視線誘導で教室中を見舞わさせる。

 

「今の設備に不満は無いか?」

『おおありじゃああああああ!!!』

 

次々に各所から溢れ出す不満の声にニヤリ、と口角を釣り上げる雄二。

 

「皆の意見は最もだ、そこで・・・・FクラスはAクラスに・・・・」

 

「試験召喚戦争を仕掛けようと思う」

 

実に、楽しげに雄二は宣言した。


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