Fate/of dark night   作:茨の男

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日常崩壊前

壱.東北 某県 ⁇⁇市

 

今現在、日本の季節は春から夏へと移り変わるちょうど境目の時期、"この町”の優しい自然の緑がより一層輝き始める光景は未だ多く残っている日本屋敷が独特の文化を何処か漂わせている。…そこに少しばかり背伸びをする建築物(ビルディング)達がなければより良いのだが。

この町”の風景を絵にするには現実なのだが、あまりにも戯画的に好ましくないが、それはそれで見る価値のある光景だと思える。

そのような風景を一望することが可能な場所、…この町で一番高いビルの屋上に無断で立ちいる二人の男女がいた。

 

「……何というか、現実なのに現実(リアル)だと思えないわね。だだっ広い草原にビル群が建てられた感じが嫌と言うほど臭うし、何よりここは本当にド田舎過ぎるわ」

「…そうか? だとしたら冬木の辺りと似たようなもんじゃないか」

 

それは違うわ。と、女は言葉を返した。

 

「似ていることは否定しないけど、それでもここはここ、冬木は冬木よ。ただ田舎を漂わせているかどうかの違いだけど」

「それはさすがに差別じゃないのか?」

 

余りにも辛く断言する彼女に男はやや反論地味た言葉を返した。

 

「……まあ、言い過ぎたかしら。けど、これだけの自然を見せつけられたら地元と比べてしまうわ。冬木(あっち)は自然があると言えば情け程度にはあるけど、都会成分が強すぎるから」

 

それでも便利に越したことはないけど。と、彼女は付け足した。

 

「さてと…それで、どうだった? この町で拠点に出来そうな宿かホテルはある?」

 

女の問いに対し、男は少し困り顔になりながら答えた。

 

「……一応は。中々の条件だよ。けどなぁ」

 

言い籠る男に女は少しばかり疑問を覚えた。

 

「先客がいる。一人だけ、みたいだが…」

 

「その程度ならいいじゃない。別に魔術を知らない団体は欺くぐらい簡単よ。封印指定級の魔術師じゃない限りはいけるでしょ?」

 

「……だといいんだけどな」

 

 

 

 

 

 

 

弐.同時刻 同所 幾ノ瀬の家

 

「色白ならぬ色黒の童顔イケメンっ……アジア系イケメンよろしく東南系イケメンとかマジでいいじゃない……‼」

「やめてくれ、頼むから。何も心配したくないから、何もするな」

 

先ほどから不審に、どこぞの有名人(アイドル)を直近で見てきたような妹の興奮ぶりにドン引きながらも、放っておけば間違いなく何かしでかしかねないため大いに釘を刺す俺だった。

 

だって人には言えないほどの赤っ恥の前例があるもので、もう。

 

久しぶりに来た今回のお客様は妹の報告通りの二人ではなく、予約をしていない急用のインド人だった。(一人で観光旅行に来たのだとか。) 一応成人男性だとは言っていたが、どうにも怪しい。この島国の人の肌色もそれはそれで目に行く違いだったが、それよりも彼が何処からどう見ても中学生ほどの身長しかないことの方が目に行った。更に付け足すならば、彼はあの狂った妹の供述通り、童顔だ。もし年齢詐称(十才未満〜十代前半)をされたら俺は絶対に見抜けない自信がむしろある。

しかし、それでも何とか話をしながら気付いたことがあった。

 

彼は生粋のヒンドゥー教信者だということだ。

 

「僕が信仰しているのは主に秩序神(ビシュヌ)なんですけどね」

 

華奢な彼が優しい顔で語ってくれたことを鮮明に覚えている。

 

ヒンドゥー教、通称インド神話とは我が国日本の信仰の一つ、仏教の源流だ。

開祖は言うまでもなくかの生き仏釈尊。その波乱の生涯に関しては割愛させてもらうが、なんでも彼は秩序神ビシュヌの転生の一人なのだという。

しかし、伝説は伝説。その故郷(インド)では彼の教えは実は無神論に当たるため、転生(アバターラ)の一人として数えない人もいるらしい。

存在は認めるが、かの秩序神の転生ではない。…という感じだ。

何ということか……と、しまった。回想にふけっていたようだ。が、まあいい(良くない)か。とにかく、今回最初のお客様、名前は……

 

「ああ〜、アシェカ・ビシュバーさあん♡ もうインドったら素晴らすぃ〜逸材を見逃してぇ〜もお〜」

 

……そろそろ鉄拳制裁にてお前を制するが良いかね? いい加減言葉で止めることに面倒臭さを感じ始めたのでね。

 

「おねがいだからそんなことしないでお兄ちゃん! でも駆け落ちぐらいは許してね!」

 

だから何をする気だお前は。やめろ、絶対に何もするな。とにかく……おや、誰か来たようだ。何だか今日はやけに泊まりに来るお客さんが多いな。よし、妹者よ迎えにいくぞ。

 

「はいはいりょーかいりょーかい。あとそのネタやめて」

 

この時俺は気付いていなかった。何処か遠く高い樹の上から俺達兄妹を嫉妬にも似た眼差しを男の存在があったことを。

 

更にこの数時間後、俺はこの未来永劫不変のまま時を過ごすであろう日常の世界から瞬く間に異形達が踊り狂う世界へと転落し、理由も分からないまま逃げ惑い、長いこと彷徨うことになるなど知る由も無かったのだ。

 

 

 

Fate/of dark night03

 

 

 


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