壱.イギリス ロンドン
時計塔の地下迷宮大学の外。彼女、遠坂凛はとある店、いわゆる隠れ家喫茶にて優雅に紅茶を一杯、あの見慣れた赤髪の男と共に会話しながら嗜んでいた。双方気難しい顔で、だが。
「…そういうことで日本に帰る、と。はぁ、全くどうしてこんなことばっかりなのさ? …つくづく騒動に巻き込まれていないか、俺達?」
彼の名は衞宮士郎。第五次聖杯戦争の元セイバーの主。現在遠坂凛の従者。現在彼女の下にて修行と調教……もとい、再教育を施されている。(その理由は後々に……出来れば察して欲しい。)
ロンドンのとあるお嬢様の屋敷で執事の勤務を先程終えた所を師匠である彼女に急遽呼び出しをくらい、来てみればまた日本へ帰ると聞かされ、何事かと問えば記憶の奥底に閉まっていた災厄が舞い戻ってきたという返事だったがために、一度剣呑な顔をすると同時に「なんでさ」と重そうな溜め息を吐くのだった。
「否定はしないわ。眉唾な話の類だったけど、変に広まってしまうのも時間の問題以前にまで膨れてしまっているのよ。一応、あのプロフェッサーが率先して上部の力を借りてある程度には抑えて貰っている。その間に事実かどうか調べることが出来るのは一部を除いても私達ぐらいだったのよ」
衞宮士郎の愚痴に対して遠坂凛は同意を示す。同時に飲み終えたティーカップにまた濃い橙色を再度注いだ。
「だとしても噂されている程度のことで何でそんな許可を貰えたのさ。デマかもしれないだろ?」
「その可能性もまだ否定出来ないのは確かだけど、私は事実だと思う」
見てもらった方が早いわね。と、彼女はおもむろに袖を捲って右腕の白肌を晒した、其処に
其処に、赤く刻まれた三画の槍を模した入れ墨が腕の一面を覆っていた。
「令呪⁉ そんな、まさか…」
見覚えのある紅色と、わずかながらに感じる魔力の波動。彼にとっては懐かしい悪夢の残滓だ。
「本物だと断言するわ。魔術刻印にしては根本的に違うし、たとえ恨みを持った何処ぞのイタズラだとしても上出来過ぎる代物。一応、これに呪いの類は見当たらないわ」
「本物、か……」
一瞬間、静寂が辺りを支配した。 しかし、その程度では黙り込む彼らではない。
「……後戻りは出来ないが、いいんだな?」
彼、衞宮士郎は既に覚悟した眼差しを彼女に向けていた。
「ええ、どうせこの招待状(れいじゅ)を渡された以上、否が応でも私達は聖杯戦争に赴かなければならなくなったわ。でもーー」
彼女、遠坂凛はその眼差しに自信の込もった微笑みを、だが何処か悲しそうな顔で返した。
「私達にとっては望んでいた奇跡(うそ)には違いないかもしれないかもね」
Fate/of dark night 01
急展開済みません、 又遅くなりました。 前書き更新しました。
次回も楽しみにして下さい。
誘惑に無惨に散った……