Fate/of dark night   作:茨の男

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閑話 砂漠の国の一時

壱.エジプト某所 西洋館

 

英霊召喚から早数日、館の主に仕える魔術師達の副頭領トトルメスは心底から悔恨し、苦悩していた。

 

王の招来に成功した。‥‥そう終わる筈だったというのに、問題が生じてしまったからだ。

本来恥をしのんで我らの王朝より過去の傑出した王 (ファラオ) を再度君臨させたのは偶然にも巡ってきた異教の儀式 “聖杯戦争” への参加の印を不本意ながらだがーー使用人、それも勤めて日の浅い生娘が手に入れたのだ。

 

‥‥そうして降臨したのは難病を患った老人同然の少年王トゥトアンクアメンだったが。

 

あの威圧を覚える膨大な魔力とは裏腹に隙を付いてしまえば針を突かれた風船の如く弾けて萎み消えてしまうのではなかろうか。

あの王に対抗するならば上級魔術師や屈強な戦士を取り揃え、儀式級の強力な魔術と現代科学による最新技術で編み出された武器や武具を完全武装して挑めば辛勝どころか完封さえ出来るだろうと考えてしまうのだ。‥‥しかし、トトルメスはやはり自分があの印を手にするべきであったのに、とただただ終わってしまった喜べぬ “成功” を恨み、悔やみ、惜しみ、憤怒し、私こそが主と共に始まる安寧の王朝の王を務めるに相応しい人間よ、何故あれでつまずかなければならないのだ、とただその妄言をぶつぶつと蟹の水泡の湧く如き執拗で繰り返した。

 

ーー考察。眼とは魔術の概念においてかなり重要視される器官である。魂や脳髄、心臓に比べればその価値は些か低いが、眼にまつわる伝承は実に多種多様である。

なかでも魔眼の伝承は印象強いだろう。ギリシアのメドゥーサ、北欧のバロルなどが良い例だ。

インパクトに欠けるがエジプトにも例が一つ、 “メジェド” という神がいる。彼は冥府の王オシリスに仕える姿無き従者。パピルスにもその姿は描かれてはいるが、好物は人間の心臓、特技は口から火を吐き両眼から放つ光オシリスに盾突く者を滅することと、容姿からは想像もつかない地獄の番犬ケルベロスに (ある意味) 勝るとも劣らぬ神だ。

まあ、ホルスの両眼は太陽と月だという話よりは相応だろう。

また、伝説と成った史実に近しい人物が各国特有の伝承を悪名功名により比喩や逸話に無理矢理結び付けられるのも多々ある話だ。

赤き竜の血を継ぐ騎士王、偉業より神の息子とされた征服王、自らを楽神をも越える芸術家と自称した赤き暴君、己を大英雄の化身と妄信した狂帝、魔王と畏れられた島国の暴君。

彼らの如く虚偽の伝承は幾多も生まれ、埋もれ、そして後世の手により洗練或いは抹消され事実と語り継がれるのだ。自らが望んで無辜の怪物達を産んでいるなど認知せずに。

 

だから、だからこそ魔術師達は恐怖した。かの王にはそれらに繋がるような伝承は何一つとして存在しない‥‥しない筈だ。いや、存在はするのだが関連性が不十分なのだ。挙げられる点としても異端の太陽神アトン、もしくは神々の王レーへと融合したアモンの化身と昇華された通例の史実のみ。何らかの特性に成り得ても王のみの力、宝具には成り得ない。あるとしてもそれは死後に民や神から与えられたものであり、王 (ファラオ) 自身を象徴する力は何一つ持ち得ていないのだ。

理解出来なかった。その推測は誤りに過ぎないと王は “呪い” と称する何かを用いて我々、それも揃いも揃って実力伯仲の魔術師達を容易く地面にのたうち回らせてみせたのだ。

 

‥‥危険だ、途轍もなく不安だ。原因はなんだ、どうすればいい? 我々の懇願に手を差し伸べた病に蝕まれたあの少年王は、まさか史実とは程遠い魔人だったというのか? こうなると解っていたならば、彼の王に仕えた将軍ホレムヘブでも呼び出した方が得策だっただろうにーー。

トトルメスは再度有り得ぬと忌々しげに誘惑させる頭から過ったあの風評を切り捨てた。彼は元師匠でもある今は亡き祖父の過去語りに思考を沈めて、審議した上での判断だった。

あれは都市伝説などではない、デマだ。第一その “呪い” とやらで死に至った愚者は誰一人として存在すらしてないのだ。民衆や意地汚い下級貴族が己が無知と興味本位で盛り立てただけに過ぎんのだ、と。

 

 

 

 

 

“こうして彼は今日もまた出口の見当たらない謎解きに苦悶して時間を浪費するばかりで何一つ収穫を得られずに悶々と過ごすのみ。

呆然と正しく目前に在る真実に “ it (ソレ)” に関連付けさえすれば良いというのに、彼は己が誇り故にまずそれをしようとも思考出来ないとはーー愚かを通り越して、憐れだ。”

 

 

 

弐.同所 ライラ・アモシス

 

あの‥‥どうも、初めまして。私はライラ・アモシスと言います。現在ある館ーーあまり情報公開が出来ないことをお許し下さいーーの主に仕える家政婦 (メイド) をして暮らす、多分見た目では何処にでもいるような女子です。

趣味はーー珍しい方でしょうか、チェスなどのボードゲームで遊ぶことです。貧しい家庭を両親の為遠出して独学を積む日々を送っています。

 

ーーと、ここまでは普通の話になるのでしょうか。

人生を語るにはまだまだ未熟者ですが‥‥あえて、人生とは本当に何が待ち受け、立ちはだかっているか分からないものです。

皆さんは魔法と聞いてまず何を思い浮かべますか?

アラディンのランプの物語でしょうか、それとも直球に魔女のお話か、もしかして少女オズの冒険でしょうか。

私は同じ質問をされたらこれらのような答え方をします‥‥していました。

私はあの日、あの古めかしい扉から聞こえた謎の声に惹かれて興味本位で中を覗いた時に私の知らない魔法の世界を、非常識の規則を知りました。

 

魔術とは真に何たるかーーを。

 

‥‥その日から私が恐怖の魔術訓練生活を過ごす日々の始まりでもあったのですが。正確な名称をお教えしてくれませんでしたが、魔術師達の副長トトルメス様改め師匠曰く「二流魔術師辺りなら喉から手が出る程の魔術回路」なりものが私の身体にあるらしく、修行と鍛練を積めばを言い訳に毎度毎度様々な魔術に耐えられるようにとのことで最悪生け贄同然で質の良い魔力源として酷使されるのです。過労死してしまいそうでした。

 

そうして日々を過ごしていたあの出遭いの日からちょうど一年の前日、私は今度こそ死を覚悟しました。

 

「失敗の暁にはお前をただの魔力炉にさせて貰う」

 

そう冷たい眼差しでより冷酷にあの魔術師達から告げられたのです。

 

 

 

「ーー来たれ、天秤の守り手よ‥‥‼」

 

只々必死に今まで生きてきた中で間違いなく一番強く祈りました。どう始まり、どう終わるのかも知らず、解らず、考えず。ただひたすらに、ひたすらに彼らの言った “成功” の為私は誓文を唱えました。

失敗したらお前を我ら魔術師の聖域を覗き込んだ不届き者として跡形も無く抹消すると脅されて、一体何をしでかされるのかとても怖くて‥‥私にはこれらを打破出来るだけの術も力もないので嫌々従うしかありません。‥‥こんな知らない場所でなんか、死にたくない。

 

(どうか、成功して。誰でもいいから来て‥‥‥お願い‼ )

 

全てをあっと言う間に飲み込んでいく眩い光すらもう新たな形の悪魔か、世界崩壊の起点にも見えてしまい、私はもう終わりだと思ったーー瞬間でした。

 

「ーー問おう、君が吾 (ぼく) の臣下 (マスター) かな?」

 

王様は、トゥトアンクアメン様は応えられたのです。

ーー救われた。そう、本気で信じ込みました。

瞬間、恐怖心が弾けて消え去った感覚を覚えました。反動で何処かが決壊したかのように涙が溢れ、止めることがで来なくなっていました。嬉しくて、嬉しくて、本当に嬉しくてーーただ歓喜することなど思い付かずに嗚咽を漏らしていました。

 

「は‥‥はい! わ、私です。私がマスターです!」

「良いだろう、契約完了としよう」

 

私はきっと神様がこの方に姿を変えて救ってくれたのだと、そう思ったのですーー。

 

 

 

参.更新情報

 

【クラス】????

【真名】ツタンカーメン

<ステータス>

・筋力:D・耐久:E・敏捷:E

・魔力:C・幸運:D (C) ・宝具:A

<クラス別能力>

・対魔力:A

……ランクA以下の魔術は全てキャンセル。

事実上、現代の魔術師では彼に傷を付けられない。

 

・単独行動:D

……マスターからの魔力供給を断ってもしばらくは自立出来る能力。

ランクDであれば、半日は現界が可能。

 

<保有スキル>

・虚弱体質:B

……最新の研究結果より、彼は近親結婚による遺伝的病質持ちだったという。その為彼の遺体にはかなりの骨疾患の跡があり、右足は欠指症、左足は内反足であり、更に骨壊死症を患っていたという。それ故か、彼の財宝には多くの杖が奉納されている。

 

これにより戦闘開始の度に幸運に失敗した場合本来の筋力、耐久、敏捷等が一定の確率で一時的に低下する。戦闘終了、中断した時に無効とする。

 

 

 

<武装>

・弓:無銘

<宝具>

・臣下の誓(ウシャブティ)

……古代エジプトで死者に代わり労働を行うと信じられた副葬品の小人形。石、木、陶器、まれに象牙で作られたものもある。

これらは魔力を通すと劣化したサーヴァント、簡易的な使い魔となり、病弱な王に代わって戦闘を行なわせる。

因みに本来一日一体と定められているようで、彼には一年分、つまり356体分のウシャブティを所持しているようである。

 

<詳細>

・出典:史実

・地域:エジプト

・属性:秩序・中庸

・性別:男

 

<経歴>

1.太陽神アトン

……古代エジプト神話の神。アトンとは「太陽の円盤」という意味。エジプトの光、万物の創造と育成、四季の交替等を与える存在と言われ、その姿は常に赤い巨大日輪でのみ表された。

世界最古の宗教改革者イクナートンにより公式の信仰とされたが、彼の死後は急速に衰退し、この信仰によって足蹴にされていたアモン信仰が蘇ることとなった。

 

 

 

零.????

 

‥‥一度確認しよう。

今宵聖杯の導きの元、選定者たる魔術師とその従者たる英霊はーー、

 

迷走の青年と橙色の女剣士

炎の魔女と銀の女槍兵

黒い灰被りと傀儡王子

優しい弟者と褐色の弓使い

表裏の少女と妄執の哲学者

自殺志願者と無辜の怪物

醜い兄者と悩熱の暗殺者

彷徨の民の娘と怪力の闘士

初殺の養女と英雄の息子

 

後は‥‥いないようだ、今は。

 

ーーでは物語を続けよう。

 

 

 




どうも、茨の男です。少々短めで済みません。時系列も何だかバラバラになりそうな‥‥後、前回はハジけ過ぎました。どうもバカをやらかしたくて仕方ない時期だったようで、申し訳ありません。もう少しで戦闘の続きが出来るのでお待ち下さい。
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