零.????
"さあさあ主演がやってきた!
阿呆な悲喜劇と知らずにだ!
主は無色博識無知の青年。剣は白痴無想の鉄心臓。
主の願いは何も無く、
剣の願いもーーいや、これは‥‥ほぅ。
さてさて、幸運の女神は微笑むのか?
旅路は波瀾万丈。帆船は無事に済むことを。”
壱.幾ノ瀬の屋敷 ????
「…………ぅう、?」
ーーふと、目の前の光景が、自分の現在地が何時の間にか歪んでいってしまうかのような酩酊が頭を抑え付ける感覚の中で俺ははっと意識を取り戻した。
「ーーーー夢、だったのか?」
辺りを見渡せばそこは自分がお客さんに差し出す予定の和室だった。更に確認しているとあの黒表紙の本に触れたことにより分離させられた左腕が何事も無かったかの如く健在だったが、深い鈍痛が響いていた。
“ーー誓いを此処に 我は常世総ての善と成る者 我は常世総ての悪を敷く者 ”
“ーー済まない、聞きたいことがある。”
“ーーオレがお前のサーヴァントか? ”
「‥‥嫌に鮮明な悪夢だ」
まるでおぼろげな古写真の如くあの非常識な地獄の記録が印象を増して何度もリフレインする。
ーー気持ちが悪い。数日前の怪奇 (ゴシック) やら幻想 (ファンタジー) の読み過ぎが原因だろうか、だとしたらひどく痛々しい話だ。現実味溢れた喜劇の方が余程笑い話になる。
‥‥寝ていても仕方ないと考え、弱々しいが未だに訴える痛覚が止まないのにやや苛立ちながら敷布団から起き上がろうと上半身をーー
「マスター‥‥お前、寝るのが好きなのか?」
「ーーはい?」
床に垂直にした時、聞き覚えのある声が忽然と響いたのだ。それ故声のした方向に反射的に身体を向けーー驚愕した。
「主従契約中に倒れるなんてのは笑える伝説になるなもな」
目に映った人物に俺は悲鳴をーー上げなかったが、驚愕は隠せず反動で俺は唖然し、停止し、沈黙してしまった。
何せ夢として片付けたはずの幻想が、あの図書室 (仮) に現れた女剣士が目の前に健在しているのだから。既にここは俺の場所だと言わんばかりに女性に似つかわしくない豪快に胡座をしている様などが些細なことに見える。
こんな状況下で落ち着け、驚くなと言われても小一時間取り乱している方がある意味自然だ。これは一体何の冗談だ? ‥‥もう地球の裏側にでも置き去りにされてしまった気分だ、本当に疲れる。頼む、誰か説明を。もしくは頭を整理する時間の猶予を。そうでないなら一人にさせてくれ‥‥。
「大丈夫だ。すぐに説明してくれる」
俺の心中を察しているのか分からないが彼女は気休めに言い渡した。
「一体さっきから何のことを言っているのかさっぱり‥‥て、待てよ説明たって誰がしてくれるんだよ?」
「それならもうすぐに帰ってくるはずだが‥‥」
「来るってたって‥‥じゃない違うんだよ、俺の聞きたいのはーー」
‥‥何だろう、この随分と男勝りな口調の方と会話をしていると出所が謎な安心感に包まれる。だと言うのにあの動揺を止められず発狂しかけている俺は落ち着け、待っていろと絆す彼女に……言い聞かせるのも恥ずかしい訳の分からない説得を訳分からずに続けていると、
「セイバー、いる? ごめんなさいね、遅くなってしまったわ。」
「ーーえ?」
和室の入り口の引戸を裏側から誰か三度軽く叩く音と共に聞き覚えのある声が耳に入ったのだ。
その声に反応したセイバー‥‥どうも本名らしくない。偽名か、大穴でコードネームなどと言われる代物かーーと呼ばれた彼女は立ち上がり戸口に近付くと返事をした。
「‥‥ああ、リンか。マスターならさっき起きた所だ」
「そう‥‥残念だけど、言わなければならないようね。とにかく入るわよ」
言い終わると同時に引戸が開かれ、誰かが中に入ってくると
「 」
俺は本日二度目の驚愕を覚えざるを得なかった。何せ目の前に現れたのは……
「御早う宿主……いえ、幾ノ瀬くんが良いかしら」
今回宿泊客として訪れた遠坂さんだったからだ。ーーしかも
「何だかあの頃の俺にソックリだ。 “一体何に巻き込まれたんだ?” って顔をしてたな、うん」
その後ろから夫の士郎さんが同じく。
おまけに俺は知らないーーこれまた随分と古風でかなり目に毒な色気を無自覚に漂わす白銀の女戦士が本物か贋作か分からないが青銅色の槍を一振り持っている。攻撃の意思は素人目にも皆無だと分かったが、此方から仕掛けたら返り討ちされてしまうかもしれないと考える程威圧の意思を感じ取れた。
既に思考回路の熱で発狂寸前の俺は一呼吸して目の前に優雅に正座し、どうしてか憂鬱そうな遠坂さんから唐突に
「本当に御免なさい」
と、謝られたのだ。何故だ。そう疑問を推理しようとするもーー
「幾ノ瀬くん、貴方は全ての真実を知ってもらうわ。
「いや、だから、一体何を言ってーー」
「少ないけれど、頭で整理する時間は用意してあげるわ。だから今から言うことを良く聴いて」
その言葉を皮切りに遠坂さんは先程とは真逆の真剣な表情になって見守るとも、睨んでいるとも捉えられる冗談抜きの眼差しを向けた。
「ーー覚悟して。残念だけど貴方はね、 “儀式” に巻き込まれたのよ」
そう彼女は焦燥を露わにしているのと対照的に俺に冷たく非常識に足を踏み入れたことを告知したのである。
弐.幾ノ瀬 光一
ここまで辛くも耐え忍んだが受け入れ難い非現実の恐怖と狂気の続け様の脅迫に遂に白旗を掲げた俺は意を決して三猿全てを投げ捨てた。
炎の魔女は語った。
真実。
“魔術師” ソレが人類史の始まり、古の法則に縛られた世界に在ることを。
“聖杯” ソレの模造にて奇跡を呼ぶ血塗れの大いなる儀式が在ることを。
“英雄” ソレを深淵から現に蘇らせ使役させる禁断の方式が在ることを。
現状。
“選定" 俺はその聖杯の模造に選ばれたのだと。
“従者” 俺はその橙色髪の戦士を召喚したのだと。
“過去” 俺は傑物な魔術師の末裔なのだと。
現実。
忠告。曰く、俺はこのままでは死に至る運命に在ると。
警告。曰く、もしこのまま立ち去るならば容赦なく沈めると。
宣告。曰く、俺はこれ以上の全てを知らなければならないと。
知らず知らずの内に後回しとしたツケの重さの如くその真実は俺が受け入れるには膨大な日数を必要としなければならないのであった。
参.???? 更新情報
【クラス】剣士
【真名】????
<ステータス>
・筋力:C (?)・耐久:C・敏捷:C (?)
・魔力:E・幸運:A (?) 宝具:ー
<クラス別能力>
・対魔力:C−
……元々魔術的才能、及び知識は一時的に所有している聖杯からの情報を除くと一切持っていないので、セイバーとして有るまじき低さを誇る。
・騎乗:B
……騎乗の才能。大抵の乗り物なら人並み以上に乗りこなせるが、魔獣・聖獣ランクの獣は乗りこなせない。
<保有スキル>
・武器奪取:A
……相手の武装、もしくは宝具を奪い取って自身の所有物とする能力。ただし宝具の場合、概念武装の類は例え武器や防具として扱う物でも奪うことは出来ない。更に、そのような類では無いとしても本来の担い手では無いので、例えば真名解放や常時発動能力は基本的に使い捨て、持続させるも本来の持ち主以上に魔力を消費する。
<武装>
・剣:無銘
・盾:無銘
【クラス】槍兵
【真名】ペンテシレイア
<ステータス>
・筋力:B・耐久:C・敏捷:A
・魔力:D・幸運:D・宝具:C
<クラス別能力>
・対魔力:A (B+)
……ランクA以下の魔術は全てキャンセル。
事実上、現代の魔術師では彼女に傷を付けられない。
<保有スキル>
・魅了:A+
……女神の援軍とまでトロイアの民に称された程の美しき戦場の華。戦闘時に最も発揮される。
一定確率で彼女の味方には鼓舞によって成功率を、敵対する相手には畏怖によって失敗率を上昇させる。
・神性:A
……神霊適性を持つかどうか。高いほどより物質的な神霊の混血とされる。
父方は戦神アレス、母方はアマゾネスであり精霊とされるオートレラである。
・騎乗:A
……幻獣、神獣を除く全ての獣、乗り物を自在に操れる。
<武装>
・盾、短剣二本、槍二本
・大剣:無銘
……背に担ぐ程の大きさで、銀と象牙で美しくこしらえられた鞘に納められている。
現在のクラスはランサーの為所持していない。
<宝具>
・????
<詳細>
・出典:叙事詩イリアス、ギリシア神話
・地域:ギリシア
・属性:秩序・善
・性別:女
<経歴>
1.アマゾン
……ギリシア語で“乳無し”という意味である。後に弓や槍を扱いやすいようにするため女児の頃に右の乳房を切り取っていたという……が、これが正しく行われたかは不明である。
ギリシア神話では戦神アレスと女神ハルモニアの子孫とされ、小アジア北東部に住む好戦的女人族であり、男子は隣国に送るか皆殺しにしたという。
ようやくまた準備が整いました。前途多難で済みません‥‥。戦闘までもう少しなんですが、もう一話後になりそうです。断りを入れた上でのこの少なさ‥‥ううむ。
感想批評誤字報告お待ちしております。