Fate/of dark night   作:茨の男

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砂漠の国の灰被り

壱.エジプト 某所

 

ーー英雄召喚より十数分前の事、近代化の進む砂漠の都の何処かのジャズエイジを匂わす古風な西洋館。その地下深く。

そこはピラミッドの内部に描かれた神の社を忠実に再現した空間で王座と思しき石のオブジェクトの前にはその空間の中心に居座るが如くあの魔術陣が刻まれていた。

その周りには寡黙に数十人の中年で構成された男達とか弱い少女が紅一点でその場に居た。

 

「さあ皆の衆、招来の儀式を始めましょうぞ」

 

そこに鼓舞する声が響いた。その主の名はトトルメス・イクナークと言う。何処ぞの著名な壁画から画竜点睛の故事の如く出でて白で統一された紳士服に身を包んだ様な出で立ちの男である。

 

「遂に機会が来るとは‥‥」

「我らの王朝が目覚めるのだ!」

「そして全てがラーの下に集い、服従する!! 」

 

彼らはこの館の主に仕えしエジプトの系譜を現在に伝える魔術師だ。トトルメスはこの集団では副リーダーにあたる人物であり、彼はある偶然から指揮を取るよう館の主と本リーダーに言い渡されたのである。それが目の前の儀式 (これ) 繋がるのだがーー、

 

「……………」

 

ただ紅一点、沈黙を守る茶肌の少女。名をライラ・アモシスと言う。齢十八にしてこの館に召使いの一人として仕える貧民出の娘である。

彼女自身魔術の知識どころか存在すら認知していなかったーーのだが、後々に語らせて頂くが‥‥様々あって彼女はこれより儀式の生贄に等しく用いられようと、まさに裁判の判決を待つ罪人の表情で自身の運命を呪っていた。

 

並の魔術師であれど例の闘争の前準備である英霊召喚の儀はそう易々と御覧になるのは到底に「夢の又夢の‥‥」と数回自乗するような賭け事に等しい話である。現在の地球上の人口を仮に七百億としよう。内正式に選定される者達は七人。簡単に計算しても選定の内に入る確率は百億分の一。+αを望んでもαが1000以上でもない限り塵の差でしかない。

その登竜門を抜けられた事は喜ぶに値するのだーー普遍的な魔術師ならば。

 

彼女は表現しきれない膨大な負の感情を押し殺しながら露出した胸元にあるエジプト特有の象形文字に似た紅く刻まれた三画の印を晒していた。

ただただ、半裸にされたことより訳の分からない魔術の人身御供にされる事に負の、特に怒りの感情を露わにしていた。

 

ーーそして、彼らの運命の夜は訪れる。

 

 

 

 

「ーー来たれ、天秤の守り手よ‥‥‼」

 

紅い印を刻まれた幼い胸元を晒した彼女が涙ぐみながら聖句を唱え終えると急速に蝋燭の心許ない灯火以上の瞬きに空間の祭壇前の魔術陣を中心から全てが溶解するかの如く包んでゆく、掻き消えてゆく。

 

(どうか、成功して。誰でもいいから来て‥‥‥お願い‼ )

 

そして、

 

「ーー問おう、君が吾 (ぼく) の臣下 (マスター) かな?」

 

白い闇が消え失せ、湿気を孕んだ白煙がやがて晴れたその先、魔術陣の中心には忽然と一人の逞しくも何処か幼なさを残す青年がそこに居た。

身体の隅々は黄金の装飾で彩られ、あの棺より出でた黄金仮面の原型の如き柔和な貌。その出で立ち、姿格好は確かにかの荘厳なる王 (ファラオ) そのものだった。

彼女、ライラ・アモシスは救済されたのだと歓喜を纏った脱力感に幸福を覚え、緊張の糸が切れたのか堪えられない涙を溢れさせてただへたり、と座り込むのだった。

 

 

 

ーーしかし。

 

「‥‥何故だ」

 

成功。それが成された光景にトトルメスは必然的な迄に失望の声色を漏らした。驚くことに既にそう言う者が現れても仕方が無いと魔術師達は顕現した王に疑惑を抱き始めていたのだ。

‥‥何かがおかしかったーー魔術師ならばこの程度は普遍的事象なのだが。強いて言うならば目の前の虚空から人が現れるという不可解な現象が起きたはずだが、まるで、TVの画面に映る仕掛け (トリック) の見え透いた三流奇術 (マジック) を威風堂々と見せ付けられているような感動の虚無感を姿の見えた時の瞬間に覚えてしまったのである。

本当にサーヴァントなのか? 否、これはただのホログラムの類ではなかろうか。何故ならばこの若き王は美しい意匠の施された黄金杖をまるで老衰してしまった故にそれを頼りに大地に立っているのだから。

 

「は‥‥はい! わ、私です。私がマスターです!」

「良いだろう、契約完了としよう」

 

神の化身たる王は実に百を超える。それも英雄、賢者、暴君と種々多様。しかも大半が実に特徴的であるーーだから故に、それ故に。

あの特徴的な貌。

青年にして片足の不自由を補う為の杖。

そして、こちらが引けてしまう程の優しさ‥‥魔術師トトルメスはある一抹の不安を抱きつつも意を決して王へ臣下の礼を持って重い口を開くのだった。

 

 

 

「失礼致します、王よ」

「うむ? おおっと、これはしまった‥‥。王は威厳を常日頃より保たなければなかった。久しく川の向こうより帰ったきたことに動転していたようだ」

 

 

 

見当違いか、或いは最悪の解答か、それともーー。

 

「ーー王よ、貴方は太陽神アモンの化身トゥトアンクアメン殿であられますね?」

「その通りだ、我が末裔達よ。ーー我 (わたし) の名は “アモンの生ける似姿” に相違無い」

 

ーー瞬間、その言葉を火種に周りにいる魔術師達の大半はまるで今まで以上に敵意を露わにし、或いは落胆の息を吐き、蔑みや嘲笑の眼差しでマスターとなったライラを睨みつけるのだった。

トゥトアンクアメンーー否、ツタンカーメンと称した方が適当か。古代、何者かの手により一時史実より抹消された悲劇の少年王。

 

ーーが、彼らが本来座より君臨させるべき王は “病人” ではなく “英雄” 、良くて “賢者” 、最悪でも崇拝された “暴君” であってほしかったのだ。

人類最初の宗教改革者などと記されるあの狂信者や王朝を傾けた淫売の魔女を誤って呼び出すよりはましだろう。この方は正しく英雄だ。馬を用いた戦車 (chariot) で砂漠を駆け、敵対する者共をその卓越した弓の技にて駆逐してきた。

‥‥だろうがだとしてもそれだけだ。未だに研究が続いているとはいえ神格化に値する逸話があまりにも乏しいのだ。更に厄介なことに王には夭折した史実がある。死因は殺害、事故、病死、etc‥‥と主張は様々にあるがその主因はどうしようも無く決定的に彼と生涯を共にした病にある。遡れば遠因は血筋を濃くする為の産み親の近親婚にあるらしい。

人外の身となれどこれでは虚弱者だ。戦場にて勝ち残る見込みなどまるで皆無。落胆する方が自然だろう。

 

「ーー成る程、この闘争に参るのは我では不服と申すか?」

 

異変に気付いた王は事態を理解するとその魔術師達を救いようもない汚物を見るような殺意を込めた両眼で彼らを見渡したーー、

 

 

「ーーぐふっ、ごぼっ‥‥⁉」

 

 

次の瞬間、偶然にも王に視線を向けてしまった者は知らぬ間に毒の盛られた杯をあおったかの如く顔から脂汗を浮かし始めるとやがて、目鼻口から鮮血をちろちろと垂れ流し遂には地に伏すのだった。‥‥唐突に、何の前触れも無く。

 

「があ、あぁ⁈‥‥ぁ」

「な、何が‥‥ごぶふ⁉」

「痛い、痛い、痛い、痛い‥‥」

「き、気をお確かに!傷は浅いですよ!」

 

「‥‥え? え、ええ?」

「戒めだと思え、今回は咎めはしない。だが次の時刃を持ってして我や臣下たる我のマスターに害成したならーー命は捨てたものと知れ」

 

阿鼻叫喚、死屍累々の惨状に素人のライラは事態の把握に頭の追いつかないでいた。

人が血を吹いて倒れ悶え苦しんでいる‥‥理解したのはそれだけである。

 

「いっ、一体何がーー」

「何、少々罰を与えただけさ。吾を呼んだ君の大儀に彼らが不服だと言いたげだったから少し力を見せただけさ。‥‥あまり吾はこの力は好きではないのだがね」

「力って‥‥何もしたようには」

 

彼女、マスターのライラが理解出来ていないと察した王はやや返答に困った苦笑をして沈黙し、‥‥ああこれはだな、と再び話を始めた。

 

「吾を正しく理解していなかった盲信的な民の者達が創り上げた “呪い” だ。いやはや、さすがにこの扱いはかなり堪えたものだったなぁ‥‥」

「民の、呪い? 作られたって、まさか‥‥」

 

(呪いーーだと? ーーいや、そんなはずは)

 

偶然にも無事だったトトルメスはその言葉に違和感を覚えーー気のせいだとその思考を片付け、事態の収集に勤しむのだった。

 

 

 

その “呪い” こそが王を意味する伝承に繋がる重要な鍵とも知らず。

 

 

 

弐.????

 

“こうして新たな役者が又二人。

 

主は茶肌の灰被り。剣は虚弱の王子様。

 

主の知らぬ間の願いは己と家族の安息。更にーー、

 

剣の渇望の願いは妻との再会。そして再度のーー、

 

さてその願い、全て成就するのかしないのか。

 

見物、実に見物だ。”

 

 

 

 

参.???? 更新情報

 

 

 

【真名】トゥトアンクアメン (ツタンカーメン)

 

<保有スキル>

・虚弱体質:B

……最新の研究結果より、彼は近親結婚による遺伝的病質持ちだったという。その証拠に彼の遺体にはかなりの骨疾患の跡があり、右足は欠指症、左足は内反足であり、更に骨壊死症を患っていたという。それ故か、彼の財宝には多くの杖が奉納されている。

 

これにより戦闘開始の度に幸運に失敗した場合本来の筋力、耐久、敏捷等が一定の確率で一時的に低下する。戦闘終了、中断した時に無効とする。

 

 

 

 




遅れてしまい済みませんでした‥‥! 忘れた訳ではないのですが、書く時間が見つからず疲れて眠ってしまったり、遊びに没頭したり、勉強が膨大だったりと忙しい状況でしかなかったもので‥‥。今回からある程度見えたらサーヴァント情報を載せることにしました。まあ今回はいきなり真名バレですからこのくらいは‥‥
感想批評誤字報告、お待ちしております。再度、遅れてしまい済みませんでした!

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