壱.幾ノ瀬 ????
また今日もーーを殺した。
それだからオレの体は雨に降られたかのように真っ赤にぬれて、染まっていた。
目の前に広がる渇いた土の上には力無く倒れ、あらゆるカタチで出た傷から赤い水を垂れ流すさっきまで生きていたオレと同じだった奴ら。
やったのはオレだ。戦いを終えたときにあの大きな席に座るオウサマに殺るように言われたからだ。
カンキャク達はダレからかもらったのだろう四角い食い物を持ちながらオレのこのしでかした光景に楽しんでいるようにケモノみたいなデカい声を上げていた。
一体ダレが考えたことなのか。
何でこいつらは飽きること無くこのサマを見ていられるのか。
オレは何でこんなザマでいるのか。
……一体ダレが仕組んだ地獄なのか。
オレはこれらの何もかもが分からなかった。
だが、これがオレの知っているセカイ。
この黒く乾いたこの土の上がオレの落ち着く居場所。
オレの生きガイの一つ。
オレはこれ以上にオレをシメせるモノを知らない。
これこそがオレのユイイツ明日に生きるタメの手段だったから。
弐. 中国 北京郊外
二人の男が同じ場所、違う場面にて同時刻、別々の理由にて地に伏している頃ーー
‥‥今宵の聖杯戦争への参加者はどうやら未だに現地には着いてはいないらしい。かなり魔術に長けたサーヴァントであったために信頼性は高い。これなら多少の準備をもう少ししておいても良いだろうとすぐ戦いに走るための英気付けに羽休めをしていた。
ーーのだが……、
「……であるからにして、十字教の信仰する温和な父なる創造主というのは母体とされたユダヤの暴虐な至高神Y.H.V.H (アドナイ)の形骸だと断言出来るのだ」
ーーーー。
「そもそも、彼らの教義における天使と悪魔‥‥善と悪の対立という思想も他の教義である預言者ゾロアスターの定めた二元論によるものだ。しかも、悪魔はともかく、今現在に至るまでに確認されたという天使のにおいては主要も含めてその当時、特にギリシア神話が主流だった頃に著名な神々に一人づつ“el”の綴りを付けまくってさも自分達が信仰する主に仕える副神のように見せかけたに過ぎない。それ故に神に仕える主要な天使はミカエル、ガブリエル、ウリエル、ラファエルのたったの四人だけに定めた宗派も存在する」
ーーー眠い。
「また、さらに起源を遡ると旧約に記されている逸話の一つに “ノアの箱船” があるのだが、これは実際に起きた災厄、自然災害を元にしたことは確かに有り得ることだろう。しかし、だ。これは英雄王ギルガメシュの伝説の故郷バビロニアに本来の原型が見られている」
‥‥ああ、どうして、あだっ⁉
「おい、さっきの説明はちゃんと聞いていたのか? 寝惚けている場合ではないぞ、我が助手(マスター)よ」
私は端くれだけど魔術師なのに何故自分の召喚した使い魔に偉そうに講義されなきゃいけなくなったのだろう?
事の始まりはかれこれ数時間前のことであるーーー。
参.同地 数時間前
私の名は 西 卓恩 。(ザイ・セロン って読んでね。)
中国に住む一般的な女の子であるーー。
というのは表向き、建て前である。そう、私はいわゆる “裏の世界” の住人、無頼者なのだ。
どのような類でそう名乗っているかはご想像にお任せしよう、中々に表沙汰には出来ない仕事をしてきたものなので簡単に語るのが至難の代物なのだから。
ーーしかし、それでも尚私には彼らにすら見せたことのない第二の、本来の顔がある。
それは‥‥
(※推奨挿入曲 某絶望系魔法少女物語 開幕前奏歌 )
この世の悪を絶つために、遥か昔から戦い続けてきた白の魔女の意思を継ぎ、自らその運命の渦に飲み込まれることを覚悟した新たな英雄譚の主人公の虎耳魔法少女なのだぁ!!
……嘘です。 本気にした人、ごめんなさい。
本当は魔術師、と言ってもこちら三流の没落貴族が遠縁である程度の‥‥言うならば “魔術使い” である。まあ要するに魔術師特有の誇りなんてものは犬に食わせた外道とまではいかないが、異端の魔術師だ。
我らの業界の噂によると、ほんの三十年前にその道の一流さえ言いようもない恐怖で震え上がったという殺し屋、 “魔術師殺し" がその部類で派出したとされる人物だ。殺害方法は全くの謎だが、一部の話によると彼にやられたとされる者はまるで体内の魔術回路や神経を滅茶苦茶に繋がれており、原因であるはずの外傷は数発の弾痕があるのみでこれとは全くの無関係だったらしい。怖い話だ。
まあそんな私も‥‥おおっと、この話はまた今度にしよう。
さて、話を巻き戻すがそんな私に昨日運命が舞い降りたのだ。
“聖杯戦争”
魔術師ならば間違い無く頭の中に必ず存在する言葉だ。
嘗て磔にされた救世主を槍で刺した際に流れ出た血を受けた器が、持ち主の願望を叶える聖遺物、聖杯になったという伝説は誰もが知るお話だ。現物は既に失われたと言われたりするが、一説には彼らを信仰することで有名な国の一つ、バチカン市国の教会地下深くに厳重に保管されているという。
しかし、ここまではある事無い事を含んだ「世間一般」でのお話である。この語彙の後ろに「戦争」という物騒なモノが付け足された時、彼らが生き残れるなど無に等しくなる災厄に早変わりするのだ。
ーー彼らはきっと知らないままに幸せに生涯を終えるのだろう。
魔術師はカビが生えた絵画のように古臭いが科学より万能性が高く持つ天才なのだ。
なんせ我々の先人達は力を結集することにより自分達の手にてその願望機を作り上げたのだから。‥‥それが例え間違いだったとしても。
‥‥詳しい話はまた今度とさせてもらおう、実は私もよく知らないんだけどネ。
四.以下同文
まあ要するに私は何故かこの模造聖杯を奪い合う抗争 (ゲーム) に何時の間にか参加してしまっていたのだ!
(鬼ハショリ、メンゴ。)
で、張り切ってどの英雄 (ひと) 呼ぼうかと考えていたのだが‥‥
「‥‥告げる。汝の身は我が元に、我が命運は汝の剣に。 聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ」
とは言うものの、私では英雄様を好きなように召喚するなんて夢のまた夢。それこそ伝説級の代物を探す時間はあんまり無かったもので、期待せずかつての自分の父の家の書斎辺りとかを漁ってみたのだけれども‥‥いやはや、我が父は恐れ多いまでの勤勉家だった。
なんと、ほぼ初世紀頃のギリシア語訳の旧約聖書を持っていたのだ!
「誓いを此処に。我は常世総ての善と成る者、我は常世総ての悪を敷く者」
これはきっと当時の、それもかなり博学な人の持ち物らしい。かなり黄ばんでいるのだけどその当時は主流だった鉛の筆でみっちりと (私は読めないけど) 内容の注釈が書き込んでいて何だか‥‥とにかく凄い代物が出たわけで!
「汝三大の言霊を纏う七天、抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ‼」
これはきっと当時の十二使徒の誰かの物に違いない。とすればうまいこと神の子 (メシア) を呼び出すことも夢じゃない‥‥!
と、思っているのだけど果たして‥‥?
「‥‥我は幸福されたし者、聖シモン。魔術師の位格にて参上した」
ーー成功はした、ようだ。湿った白煙の晴れた先に今までに感じたことのないもの凄いオーラを感じるから間違い無い。
「問おう、君が私の助手 (マスター) か?」
目の前にいたのは時代錯誤感を醸すアンティークを思わす博学の賢者がいた。中世の魔術師のファウストと、あるいは古代の哲学者のソクラテスと名乗られたらそのまま信じてしまいそうな痩せた男がいた。
「ええ、そうです私で間違い有りません!」
言ったぁ‥‥言ってやったぜ私ぃ‥‥。ああ、ついに、ついになったんだな、ほんとに。
「‥‥ふうむ、良いだろう。此処に契約は成立した」
‥‥と、ここで終われればイイハナシだったのに私は、己の軽さに酷く後悔したのでした‥‥。
「ところでさっきシモンと名乗っていたけど、つまり貴方は十二使徒のペテロなんですよね?」
この発言の次の瞬間、私は激昂したキャスターの前におり、盛大な喝采の如く怒声を浴びせられた後、何故か愛の英才魔術教育を受けていたのであった‥‥。
お久しぶりです。リアルの厳しさが編集と相まって長いこと空いてしまいました。今度からは少しながらも定期的に上げていくつもりです。
しかし皆さんの作品のやり方がちょっと羨ましいです。自分、どうも堅苦しくなるようで、息抜きも兼ねてこんな感じをしてみたのですが……。
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